便利なオンライン契約
人気オプションを集めたオンライン・ショップ専用商品満載 ECサイトはこちら
文献番号 2026WLJCC019
弁護士法人苗村法律事務所※2
弁護士、ニューヨーク州弁護士
苗村 博子
Ⅰ 本件発明の内容
本件は、スマートフォンに文字入力をする際に、画面上に表示される液晶キーボードの背景を着せ替える方法に関する特許についてのものである。私のような不精な者は、わざわざキーボードの文字、数字や記号が見えにくくなるような背景画像を取り込みたいとは思わないが、聞いた話では、結構な人がこのような着せ替えを行っているとのことである。本件発明は2つあり、請求項2の本件発明1は「液晶画面におけるローマ字入力のキーボード部または日本語入力のテンキーによるキーボード部に表示されている1個または複数個のキーを選択し、模様を含む画像または図柄である画素材を取り込み、該選択された各キー毎に同一の該取り込まれた画素材を背景画として貼付けることを特徴とするキーボードの背景の画像を着せ替える方法」、請求項3の本件発明2は、「該画素材は、貼付け前に拡大縮小、移動、または変形による編集がなされる請求項1または請求項2に記載の液晶キーボードの背景の画像を着せ替える方法」とされている。本件発明1の構成要件では、1Bでまず、1個または複数個のキーを選択し、1Cで模様を含む画像または図柄である画素材を取り込むとされていた。
Ⅱ 被告製品と本件発明の構成要件の違いと間接侵害主張
被告製品(スマホアプリ)では、まず、画像を選択し、必要に応じて画像を編集したうえで、キーとの紐づけを行うこととされている。つまり被告製品の方法は、本件発明の1Bと1Cの順番が逆であるものである。
そこで、原告も請求項全部を満たす直接侵害を主張せず、被告製品は、間接侵害だとして特許法101条4号及び5号の侵害を行っていると主張した。
Ⅲ 裁判所の判断
これに対する裁判所の判断は、平成17年9月30日のいわゆる一太郎控訴審の大合議判決※3を引用して、「被告製品の利用者(ユーザー)は、被告製品をスマートフォン等にインストールし、当該スマートフォン等でアプリケーションを起動して、別紙被告製品操作・動作説明書記載のとおり動作させて」、つまりまず画像を表示してそれを編集するなどして、その後その画像をキーに紐づけするという動作をさせて「いたのであるから、その物自体を利用して本件各発明に係る方法を実施することが可能である物は被告製品をインストールしたスマートフォン等であって、被告製品は、そのようなスマートフォン等の生産に用いられる物である。そうすると、被告製品の製造販売が同条(筆者注:特許法101条)4号及び5号の間接侵害に当たるということはできない。」として、原告の請求を棄却した。一刀両断である。
本判決は、続けて、物の特許であれば間接侵害が認められ得るのに方法の特許で認められないのは均衡を失するとの原告の主張に対しては、「プログラムが『用いる物』に当たるか否かは、実施行為との関係で決まるのであるから、物の発明と方法の発明で間接侵害の成立範囲が異なることがあるのは当然である。そして、プログラムは物の発明として特許法における保護対象となり得る(同法(筆者注:特許法)2条3項1号、4項)のであるから、原告会社において、物の発明としてではなく、あえて方法の発明として本件各発明に係る特許を取得した以上、被告製品の製造販売について間接侵害が成立しないと解したからといって、同法による保護に欠けるものとはいえない。」とした。
Ⅳ 間接侵害の整理
知財を専門にされている読者には、よくお分かりのことであろうが、間接侵害というのは、初心者にはその理解は容易ではない。請求項の全構成要件を満たさなくても、①その発明に係る物(A)を生産すること「にのみ」用いられる物(B)の生産等(特許法101条1号)や②その発明に係る方法(a)を使用すること「にのみ」用いられる物(b)の生産等(同条4号)や、③発明に係る物(A’)を生産することに用いられ(生産用途要件)、その発明の課題解決に不可欠な物(B’)〈一般的な普及品を除く〉(非汎用性要件)の生産等(不可欠性要件)(同条2号、以下、③の侵害を「2号侵害」という。)、④その発明に係る方法の使用に用いられる物(a’)(使用用途要件)であってその発明の課題解決に不可欠な物(b’)〈一般的な普及品を除く〉(非汎用性要件)の生産等(不可欠性要件)(同条5号、後に述べる一太郎控訴審判決当時は4号)は、特許保護の拡大の観点から必要とのことで特許侵害が認められるようになったものである。③と④はいわゆる多機能型不可欠間接侵害等ともいわれ、①及び②より広く認められる可能性があるため、広範になりすぎないよう、知りながらという故意が必要とされている(主観的要件)。①と②はいわゆる「にのみ」侵害等といわれるが、この「のみ」は、特許発明を実施する用途以外に、経済的・商業的・実用的な用途が存在しない物だとされている。③と④は、それまでにあった①と②のいわゆる特許侵害品「にのみ」用いられる物や方法の発明だけでは、間接侵害の範囲が他国に比較しても狭すぎるということから、新たに規定されたものであった。
本件では、②④が問題となったわけであるが、本判決は、そもそも被告製品は(b)や(b’)に当たらず、被告製品をインストールして、アプリケーションとして使用するスマートフォン等がいわば(b)や(b’)に当たるが、同スマートフォン等は被告が製造販売しているものではないとしたのである。
Ⅴ 一太郎控訴審大合議判決の方法の特許に関する間接侵害の認定
というわけで、本件について述べるには、一太郎控訴審大合議判決について検討する必要がある。この判決は、多数の論点について述べているが、このコラムではおおよそ間接侵害についてのみ述べさせていただく。
一太郎事件は、本件の被告製品がスマートフォン等にインストールされなければ使えないのと同様、一太郎という、パソコンにインストールされて初めてその機能を発揮できるアプリケーションソフトウェアに関する事件である。この事件で問題となった発明は、ソフトウェアプログラムそれ自体を発明の対象とすることが可能となった平成14年9月1日の特許法改正前の発明であったので、プログラムそれ自体ではなく、それを稼働させる情報処理装置(請求項1、2)及び情報処理方法(請求項3)であった。したがって、一太郎のソフトウェアそれ自体が、原告(被控訴人)の発明を直接に侵害することはないので、一太郎控訴審判決自体が述べるように、間接侵害だけが問題となったものである。一太郎は専用品ではないので、同事件では、上述の①や②ではなく、平成15年1月1日に施行された同法で、新たに間接侵害に加えられた、③及び④の2号と4号(4号は現在の5号)のいわゆる上述の多機能型不可欠間接侵害が問題とされていた。
まず、若干この特許発明について説明させていただく。この発明は、ソフトウェアをインストールして作動させることができるようになるソフトウェアの機能を表示させる第1のアイコンをクリックして表示される画面に並ぶ様々なボタンのうち、第2のアイコンと呼べるものをクリックするとその機能の説明を表示させることができる制御手段を有することを特徴とする情報処理装置が請求項1、2の特許及びその情報処理方法が請求項3であった。アイコンとは何かも争点となっていたが、第1のアイコンをクリックすると出てくる画面にさらに絵文字表記のあるボタンは、第2のアイコンだとされ、一太郎では、ヘルプのボタンにマウスとみられる絵があり、印刷のボタンに印刷機の絵が表示されていたため、これらが第2アイコンだと認定されていた。そしてこの第2アイコンをクリックすると次にできる動作が表示されるようになっており、原判決と同様、一太郎控訴審判決でも、一太郎が、発明の請求項の構成要件を満たしていると判断したため、この間接侵害が成立するかが問題とされたのである。
一太郎控訴審判決は、原判決と同様に「控訴人製品(筆者注:一太郎のこと。以下同じ。)をインストールしたパソコン」においては、このような構成は、「控訴人製品をインストールする」ことによって初めて、実現可能であるとして、一太郎のソフトウェアを原告特許の請求項1、2の発明の実施に不可欠なものと判断した。そして、一般に広く普及しているというのは、ねじ、釘、電球、トランジスターのようなもので、一太郎製品は、広く普及している物でないとした。また原告(被控訴人)が仮処分の申立てをした段階で、原告発明のことを知ったのであるから、主観的要件も満たすとして一太郎原判決同様請求項1、2について、物の多機能型不可欠間接侵害である上述③の2号侵害を認めた。一太郎原判決※4は、方法の発明である請求項3の発明について、2号侵害と同様だとして④の多機能型不可欠間接侵害を認めていたが、一太郎控訴審判決は、一太郎製品をインストールしたパソコンは、利用者(ユーザー)が一太郎を起動して、その機能を発揮できるようにした場合には、方法の発明であるこの請求項3の発明の構成要件を充足し、この一太郎をインストールしたパソコンは、そのような方法による使用以外にも用途を有するものではあっても、「その方法の使用に用いる物…であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当し、4号(筆者注:現特許法101条5号)の間接侵害に該当し得ると認めた。そして、そのようなパソコンについて生産、譲渡等の申出をする行為は、同号の間接侵害に該当し得るものというべきであるとしたうえで、「しかしながら、同号は、その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物についてこれを生産、譲渡等する行為を特許権侵害とみなすものであって、そのような物の生産に用いられる物を製造、譲渡等する行為を特許権侵害とみなしているものではない」として、被告(控訴人)の行っている行為は、そのようなパソコンの生産や譲渡等を行っているものではなく、一太郎をインストールしたパソコンに用いられる一太郎製品の製造、譲渡等を行っているに過ぎないから、同号の間接侵害に該当するということはできないとしたのである。そしてこのように限定的に解しても、平成14年の特許法改正で「記録媒体に記録されないプログラム等がそれ自体として同法における保護対象となり得ることが明示的に規定されている」などとして、特許権の保護に欠けることはないとした。
Ⅵ 一太郎控訴審判決と方法の特許に係る方法を実施する物の限定
一太郎控訴審判決は、物の発明に関しては、一太郎製品そのものが間接侵害(2号侵害)の対象となるとしながら、方法の発明に関しては、その物自体を利用して、方法の特許に係る方法を実施することが可能である物を生産、譲渡等を行う行為を間接侵害とし、これを利用して特許発明の方法を実施する物の生産や譲渡等は、間接侵害にならないとしたものである。方法の特許に関しては、この方法を直接使用する物だけに間接侵害の範囲を限定したものとされている。学説は賛否両論であるが、この判決が大合議判決であることを考えると、なかなか方法の特許に関して、「物を利用して特許発明を実施する物」まで範囲が拡大することは考え難い。本判決も一太郎控訴審判決を引用して、原告の請求を棄却している。物の特許として出願することもできたのに、方法の特許として出願申請したのだから、間接侵害を認めなくても保護に欠けるものとはいえないと述べている。
Ⅶ 最後に
原告としては、本件特許が方法の特許であったというだけで、手順を少し変えただけで、侵害にならないと木で鼻をくくった判断をされるのは、納得がいかないと思う。しかし、一太郎控訴審判決がある以上、特許権者は甘受しなければならないのかとも思われる。物の特許とし得るものは、物の特許として特許権を取得すべきということになろう。
(掲載日 2026年9月1日)
Westlaw Japan製品の関連文献・法令リンクについてはページ上部からダウンロードいただけるPDF内でご確認いただけます。