判例コラム

便利なオンライン契約
人気オプションを集めたオンライン・ショップ専用商品満載 ECサイトはこちら


2026 | 2025 | 2024 | 2023 | 2022 | 2021 | 2020 | 2019 | 2018 | 2017 | 2016 | 2015 | 2014 | 2013

 

第380号 学習塾のフランチャイズを展開するマスターフランチャイザー(原告)が九州地方の地区本部として展開する権利(エリアフランチャイズ権)を他社に付与していたところ、当該エリアフランチャイザーとその運営加盟店並びに親会社ら(被告ら)が、エリアフランチャイズ契約の終了後も、原告の商標権を用いて学習塾を経営していたため、被告らに対する商標権の使用の差止め、商標権侵害に係る3億4800万円余の損害賠償の請求が認容された地裁判決及びその控訴審判決  

~東京地裁令和7年3月14日判決※1、知財高裁令和8年5月14日判決※2


文献番号 2026WLJCC018
弁護士法人心斎橋パートナーズ 弁護士
神田 孝


Ⅰ 事案の概要
1.
本件は、学習塾「明光義塾」を展開する本部(株式会社明光ネットワークジャパン。以下「原告」という。)が、九州地区のエリア統括会社(株式会社明光ネットワーク九州)及びその加盟塾と親会社(株式会社明光義塾九州、株式会社アネムホールディングス。以下、株式会社明光ネットワーク九州と併せて「被告ら」という。)に対し、原告と被告らとの間のエリアフランチャイズ契約(以下「本FC契約」という。)解除後も商標(ロゴ等)や商号、ドメイン、顧客情報を不正に使用し続けているとして、使用差止めや損害賠償等を請求した(本訴)。これに対し被告らは、本部による契約解除は無効でありFC権を有する地位にあるなどと主張して反訴を提起した事案である。


2. 第一審である東京地裁は被告側による「映像授業・自習型講座の売上の意図的な除外によるロイヤルティの過少申告・未払」、及び「在籍実績のない生徒の登録による生徒数の虚偽報告(水増し)」等の重大な義務違反を認定した。30年以上の長期契約かつ無催告解除であることを考慮しても、「当事者間の信頼関係は既に破壊されており、契約を継続し難いものとなっている」として原告の解除を有効と認めた。そして、商標権侵害等に基づく共同不法行為責任を認め、被告らに対し連帯して3億4806万5219円の損害賠償支払いを命じた。また、商標・商号・特定ドメイン(「di」の文字を含むもの等)の使用差止め、及び顧客情報の使用差止めを認めた。


3. 控訴審である知財高裁は、第一審判決(東京地裁)の判断を全面的に支持し、被告ら(控訴人ら)の控訴をすべて棄却した。その際、会社法8条を適用して商号使用差止めの法的根拠を明確化した。


Ⅱ 本部による契約解除の可否
 本件は解除事由も多岐にわたるが、特に重要な争点について解説する。


1. フランチャイズ事業も長期間にわたると、その商品やサービス内容も時代に応じて変化することがある。学習塾においてもオンラインやデジタルコンテンツによる新たなサービス提供方法が開発されてきたため、本件においても、新しいサービス形態(オンラインやデジタルコンテンツ)によって生じた「売上」がロイヤルティ算出の基礎となる「売上」に含まれるかが争点となった。
 この点、被告らは「ロイヤルティは本部からのノウハウ提供・経営指導に対する対価であるが、本件の映像授業や自習型講座は、加盟者が独自に開発・導入したものであって本部からの指導は受けていないから、映像授業や自習型講座による売上はロイヤルティの対象外である」と主張した。
 しかし、裁判所は、本件契約上、ロイヤルティは商標等を使用して学習塾を経営する権利(フランチャイズ権)の対価であり、映像授業等も「明光義塾」の名称を掲げた教室内で生徒に提供されているのだから、それについて本部から経営指導を受けていたか否かにかかわらず、ロイヤルティ計算の基礎となる「売上」に含まれると判断した。
 経営指導の面からみても、本部による経営指導の対象は、生徒に対する教育方法に限られるものではなく求人活動や販促活動等、教室運営全体に及ぶのだから、教室での売上全体がロイヤルティの対象になるのは当然といえよう。


2. 本件では、エリアフランチャイザー(株式会社明光ネットワーク九州)の親会社(株式会社アネムホールディングス)の子会社が学習塾(Vスタ)を営んでいた。このことが競業避止義務違反にあたるかが争点となった。
 この点、被告らは、本FC契約の競業避止義務条項では、「被告明光らの代表者の親族、知人、被告明光らと資本関係にある法人が個別指導の学習塾を開設又は経営する行為」が禁止されているにとどまるので、親会社の子会社が学習塾を営むことは競業避止義務に反しないと主張した。
 しかし、本FC契約の競業避止義務条項では、直接又は間接を問わず本件契約継続中は個別指導の学習塾を開設及び運営してはならない旨定められているので、同条項において、加盟店代表者の親族や加盟者自身が出資している法人が競業行為を行うことが禁止されているのは、限定列挙ではなく、「間接経営とみなす代表例」を例示したにすぎなかった。むしろ、Vスタを運営する会社は、被告らと親会社を同じくし、代表取締役も同一であることから、実質的に「間接的に個別指導塾を開設・運営している」と同視できたので、裁判所は被告側の主張を排斥した。
 過去の裁判例でも、加盟店と第三者が近しい関係(親族等)にあったり、競業避止義務の規制を免れるために意図的に別法人を利用するなど、加盟店と当該第三者とが信義則上同視できる場合は、第三者を介した競業行為が競業避止義務違反にあたるとしている※3。その意味で、本裁判例も過去の裁判例の流れに沿ったものといえよう。


3. 継続的な契約であるFC契約においては、信頼関係が破壊されて契約の継続が著しく困難な場合でなければ無催告解除は認められない傾向にある。
 本件では30年以上という極めて長期の契約関係があり、被告ら(加盟者側)への不利益(教室の経営権喪失等)も甚大であることから、裁判所は慎重な姿勢を示しつつも、ロイヤルティの意図的な過少申告や組織的な生徒数の水増し等というFCシステムの根幹を揺るがす背信行為が認められたことから、信頼関係が完全に破綻したと判断し、本部による無催告解除を有効としている。


Ⅲ 商標権侵害について
1.
被告らは契約終了後も「明光義塾」の名称を用いて学習塾を運営していた。被告らは株式会社アネムホールディングスを親会社とし、代表者も共通であったため、裁判所は商標権侵害等につき被告らによる共同不法行為責任を認め、被告らに対し連帯して3億4806万5219円の損害賠償支払いを命じた。また、商標・商号・特定ドメイン(「di」の文字を含むもの等)の使用差止め、及び顧客情報の使用差止めを命じた。


2. 本件では商標権侵害に基づく損害について商標法38条2項の推定規定が用いられている。商標法38条2項は「商標権者又は専用使用権者が故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、商標権者又は専用使用権者が受けた損害の額と推定する。」と定めており、本件では「利益」の算定方法が問題となった。
 この点につき、裁判所は、同条項の「利益」は「限界利益」を指すものとし、被告らが商標を不正使用して得た売上高から、営業のために「直接関連して追加的に必要となった経費」のみを差し引いた金額を損害額とすべきであるとした。被告側は、役員報酬、法定福利費、グループ内でのシステム利用料の控除を主張したが、裁判所はその控除を認めなかった。


3. 知的財産権侵害における損害賠償の本質は、不法行為(民法709条)に基づき、「仮に侵害行為がなければ、権利者が得られたであろう財産状態」へと回復させることにある。侵害者が侵害行為によって得た利益を計算する際、もし固定費(人件費や家賃、光熱費等)の控除を広く認めると、侵害者は「自らの不法行為の売上によって、自社の固定費を賄うことができた」という、不当な利益(二重の利得)を得ることになる。その意味で、侵害行為のために「直接関連して追加的に必要となった経費(変動費)」のみを控除し、固定費を控除しない「限界利益」こそが、権利者の逸失利益の推定値として相応しいといえる。近年の裁判例も限界利益説に立つものが多い※4


4. 他方で商標法38条3項は、商標権者のライセンス料相当額を損害として推定している。本件で原告(マスターフランチャイザー)が得られたロイヤルティは商標法38条2項に基づく限界利益よりも少ないので、商標法38条2項で認められた損害額(限界利益)がロイヤルティにより制限されないかが問題となる。
 しかし、もし商標権者が請求できる賠償額が「本来のライセンス料(ロイヤルティ)」に制限されてしまうと、元加盟店としては、FC契約を解除して無断で商標を使い続けても、見つかったらライセンス料同等の賠償金を支払えばいいことになり、知的財産権の十分な保護が図れない。
 この点、商標法38条2項と3項は、権利者が立証の難易度や損害の大きさに応じて選択して主張できるものだから、権利者が立証困難な同条2項を用いて損害の立証に成功したならば、3項により制限すべきではない。同条3項は最低限保障される損害額を定めたにすぎないと解すべきである。


5. なお、商号使用差止めの法的根拠として、第一審の東京地裁は、契約解除後も「明光」の文字が入った商号(株式会社明光義塾九州等)を登記・使用し続けていることが商標権侵害にあたるとして、差止め等を認めた。しかし、控訴審の知財高裁は、被告らは契約が終了して権原を失ったことを認識しながら商号を使い続けていることが、「不正の目的」をもって他の会社と誤認されるおそれのある商号を使用したと認定し、会社法8条(誤認させる商号の使用禁止)に基づき商号使用差止め及び登記抹消を認めた。
 商標法26条1項1号は「自己の・・・・・・名称・・・・・・を普通に用いられる方法で表示する商標」には商標権の効力が及ばないとされているが、他人の知名度に便乗して不当な利益を得る目的等、「不正競争の目的」で商号を使用する場合は同号が適用されない(商標法26条2項)。会社法8条も同旨に基づく規定である。


Ⅳ 本件からの教訓
 エリアフランチャイズ契約は、FC契約としての側面とともに、企業間の共同事業契約としての側面を強く持つ。企業間で長期にわたる共同事業が営まれた場合、事業を進めるにつれて契約当事者の関係や経済環境が変化することも少なくないが、さらに近年ではIT技術の進歩に伴って消費者に提供するサービスの内容やチェーンの仕組みまで変化している。その意味で、エリアフランチャイズ契約を締結する際には、当事者の基本的な役割分担を十分確認したうえで契約条項を整備する必要があるといえよう。



(掲載日 2026年8月18日)

Westlaw Japan製品の関連文献・法令リンクについてはページ上部からダウンロードいただけるPDF内でご確認いただけます。

  • WestlawJapan文献番号2025WLJPCA03149006。
  • WestlawJapan文献番号2026WLJPCA05149001。
  • 東京地判平成7年2月27日判時1542号68頁、WestlawJapan文献番号1995WLJPCA02270006、東京地判平成6年1月12日判タ860号198頁、WestlawJapan文献番号1994WLJPCA01120001、東京高判平成8年3月28日判時1573号29頁、WestlawJapan文献番号1996WLJPCA03280012、大阪地判平成26年12月26日WestlawJapan文献番号2014WLJPCA12266001。
  • 大阪地判平成11年9月16日判タ1044号246頁、WestlawJapan文献番号1999WLJPCA09160007、大阪地判平成12年2月8日WestlawJapan文献番号2000WLJPCA02089003、東京地判令和6年4月26日WestlawJapan文献番号2024WLJPCA04269006。




» 判例コラムアーカイブ一覧