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文献番号 2026WLJCC012
明治大学 教授
清水 宏
Ⅰ はじめに
本件は、あるイベントが天候の状況により開催中止となったことに関して、参加チケットの購入をした消費者が、主位的には履行不能による損害賠償を、そして、予備的には、原状回復としてのチケット代金相当額の支払義務を負うことの確認を求める共通義務確認訴訟※2であり、結論としては、予備的請求が認容されている。本件においては、実体法的には、履行不能の認定、被告の帰責性が、また、手続法的には、訴訟要件である確認の訴えの利益の判断要素※3としての共通性および支配性の有無等も争点となっているが、本稿では、後者の確認の訴えの利益の判断要素としての「多数性」に焦点を当てて論じることとする。
Ⅱ 多数性の要件
消費者団体訴訟における共通義務確認の訴えに関する訴えの利益に係る多数性とは、消費者契約に関して相当多数の消費者に財産的被害が生じていることを指すものとされる※4。この要件が必要とされるのは、団体訴訟制度の趣旨に鑑み、個別訴訟よりもこの制度を利用する方が当該紛争の全体的解決にとって特に有用である場合に限り、この制度の利用を認める趣旨のものとされる※5。
多数性の判断基準として、一般的なものは存在しないが、共同訴訟※6の「数人」と比較すると、相当多数とは、社会通念上、不特定かつ多数の消費者の利益保護を活動目的とする特定的各消費者団体の訴権の行使を正当化する程度に対象被害者の範囲が広がっていることを意味するものと解されている※7。
対象となる被害者、すなわち、対象消費者の範囲については、手続の当初の段階では被告の防御に支障のない範囲で特定されていると解することが可能であれば適法として扱われるべきであり、その後訴訟手続の進行に応じて、被告から提出された資料等により厳密な特定を図り、最終的には個々の消費者や裁判所からみて紛れを生じさせない程度に特定することが必要と解される※8。
実際にどの程度の人数が必要であるかについて、具体的な人数は定められていないものの、個々の事案においてこの要件が定められた趣旨に照らし、裁判所によって判断されることになるとされる※9。
そして、その判断基準時は、通常の訴訟要件の判断と同様に口頭弁論終結時※10であり、訴訟手続中に被告事業者の自主的対応によって被害回復が図られ、口頭弁論終結時には相当多数の被害消費者がいなくなった場合には、訴えは却下されると解されている※11。
Ⅲ 判旨
本件では「多数性」の要件に関して、「・・・・・・本件各対象消費者は、5773名の多数に上るところ・・・・・・振替対象とされた別イベントに参加した者は約4542名であり、また、チケット代金の返還申込みをした者は約844名で、うち実際に返金を了した者は348名にとどまるというのであるから、本件口頭弁論の終結時点では、本件各対象消費者のうち、なお数百名という規模の者が本件訴えの対象となる消費者として残ることになる(下線筆者。以下同じ。)。・・・・・・消費者団体訴訟制度の趣旨・目的を考慮すれば、特例法(筆者注:消費者の財産的被害等の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律のこと。以下同じ。)2条4号が定める『消費者契約に関して相当多数の消費者に生じた財産的被害等』というためには、消費者個々が訴訟を提起する場合よりも消費者団体訴訟制度を利用した方が審理の効率化が図られる程度の人数規模である必要があり、消費者数名という規模であれば不十分というべきであるが、数十名程度の消費者に被害が生じた場合であれば、先の趣旨・目的に十分適うところといって良く、本件訴えは、『相当多数の消費者』に生じた財産的被害等に関するものといえるから、特例法2条4号の多数性の要件を満たすと認められる」と判示している。
Ⅳ 多数といえるには、どこまで必要なのか
上記判旨によれば、本件を担当した大阪地裁は、口頭弁論終結時における対象消費者数を概算し、「数十名程度」の消費者に財産的被害が生じていれば、多数性の要件を満たすものと判断している。多数性の判断は対象消費者の範囲との関係で行われることを鑑みれば、口頭弁論終結時における対象消費者の概数※12を基準に照らして判断していること、および多数性の要件を満たすとしたその結論自体については、妥当であると評価できる。
しかしながら、「多数性」の具体的判断基準について、「消費者数名という規模であれば不十分というべきであるが、数十名程度の消費者に被害が生じた場合であれば」要件を満たすとしている点については、疑問がある。
この「数十名」という点については、立法担当者が挙げた例であり※13、その文脈からは立法者意思に沿った解釈であると解することができよう。また、この訴訟が消費者契約に関して「相当」多数の消費者に生じた財産的被害等を対象とすること※14からも、ある程度の数の存在が前提とされていることについては、異論のないところである。
もっとも、この「数十名」という数が独り歩きして、ある意味絶対的な基準であるかのように用いられるべきではないものと解する。すなわち、多数性の解釈に際しては、確かに、審理の効率性の向上や費用の節減といった訴訟経済が考慮されるべきではある。しかしながら、そもそも、この制度が創設されたのは、少数低額な消費者被害について、個別訴訟を提起することが事実上困難なことに鑑み、その実効的な救済を図るためである※15。集団的な消費者被害の救済という場合に、力点が置かれるべきはあくまでも「消費者」被害の救済、消費者利益の擁護※16なのであるから、この多数性の要件は、個別訴訟が期待できるかどうかということと、相関的にとらえるべきであると解する※17。したがって、絶対的な人数基準を立てて限定的に解釈するべきではなく、個別訴訟と比較して本制度を活用した方が審理の効率化が期待できる程度の人数がある案件であれば、本要件を満たすものと解される※18。そこで、たとえば、消費者の個別訴訟の提起が特に困難と認められるような事案であれば10人程度であっても認めてよい場合があると解される※19。
なお、本件では問題とならなかったものの、上記のように、訴え提起の段階では相当多数の対象消費者が存在したものの、口頭弁論終結時において訴訟上の和解や訴えの取下げ等を行い、対象消費者が少数となってしまった場合、多数性の要件を満たさないものとする見解がある※20。確かに、訴訟を続行している対象消費者が残り僅か数名となってしまった場合、この制度を利用するメリットが大きく減殺されたものとみて、確認の訴えの利益を欠いているものとし、訴えを却下すべきと考えるのは、理論的には正当であろう。しかしながら、上記のように、多数性の要件を含む確認の訴えの利益の有無の判断は口頭弁論終結時に行われるとされ、審理はほぼ終結していることを鑑みれば、そこで本案判決をするべきか否かは柔軟に考えるべきである※21。そして、訴え提起の段階に比べれば、大幅に減少したとはいえ、対象消費者が残存する限りにおいては、本案判決をすることは、当該消費者の紛争解決にとって決して無駄ではないといえよう。また、被告が対象消費者の集団の中心人物に報復する目的で、当該人物以外の者とは積極的に和解をするのに対して、当該人物とは一切の交渉等を拒絶して、対象消費者を少数にし、訴えが却下されるように仕向けるといった濫用的な対応も考えられないではない※22。したがって、口頭弁論終結時における多数性の要件の判断に当たっては、人数だけで単純に判断するべきではないものと解する。
Ⅴ むすびにかえて
日本の消費者団体訴訟制度も、消費者保護の促進という世界的な潮流の下にあるものである以上、訴訟制度の効率的運営も重要ではあるが、まずは、消費者の利益の擁護という点を重視して、訴えの利益、特に、多数性要件についての判断がなされるべきである。そうすると、対象消費者が少数となる場合、制度の運用、特に、原告となる適格消費者団体の負担に影響を及ぼす可能性がある。この点、共通義務確認訴訟に関する費用は、勝訴した場合には、被告に転嫁することができるが、それ以外の場合を含めて、団体の財政的基盤を合理的に確保するため、なお、制度のさらなる補強※23が必要であると解する※24。
(掲載日 2026年5月26日)
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