判例コラム

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第377号 内部統制を機能不全にした責任の追及は、これでいいのか?  

~静岡地裁令和7年10月31日判決※1


文献番号 2026WLJCC015
青山学院大学 教授※2
弁護士法人 早稲田大学リーガル・クリニック 弁護士※3
浜辺 陽一郎


Ⅰ はじめに
 今回取り上げる裁判例は、静岡地方裁判所のスルガ銀行不正融資事件・旧経営陣責任判決(以下「本判決」という。)である。スルガ銀行がシェアハウス投資向け融資において不正な融資慣行(収益資料の改ざん等)を伴う過剰融資を行い、多額の不良債権を発生させた問題に関し、同行が原告となって旧経営陣(被告ら)に対して損害賠償責任を追及し、旧経営陣6名について合計約13億3500万円の損害賠償責任を認めたというものである(以下、スルガ銀行を「原告」という。)。
 当時、原告のビジネスモデルは、「全国有数規模の地方銀行と営業地域が隣接していることもあり、早くから、個人市場に特化すべく個人向けローンを重視するリテール戦略を採用し、(中略)他の金融機関では取り扱わないような一定のリスクのある融資案件について、他の金融機関よりも高金利で融資を実行し、その金利を回収することで当該リスクを吸収するという融資方針を採用し(中略)金利は他の銀行よりも高いが、融資上限金額が高く、担保評価が厳しくなく、返済期間が長期間であり、融資実行までのスピードが速い点では、チャネル、不動産所有者及び投資を希望する者のニーズに合致していた」というものであった※4
 しかし、2017年頃から、シェアハウスローン(特に「かぼちゃの馬車」に関連する融資)の延滞が目立ち始め、リスクが表面化して巨額の不良債権が発生した。この事件について、原告では取締役等責任調査委員会と監査役責任調査委員会の2つの第三者委員会が設けられた※5。いずれも2018年11月14日付で報告書(公表版)が出され、シェアハウスローンに関し、相当数の社員が融資審査等の書類改ざんや偽造に関与したこと等が明らかにされた(以下、取締役等責任調査委員会の報告書(公表版)※6を「取締役等責任報告書」といい、監査役責任調査委員会の報告書(公表版)※7を「監査役責任報告書」という。)。
 本件に関する事実経過の概要は、それぞれの報告書で見ることができ、メディアでも数多くの報道がされたので、本稿では事案を詳細に紹介することは割愛し、直ちに本判決の問題点を議論することにしたい。


Ⅱ 本判決は積極的に評価できるか
 従来、金融機関における不祥事では、内部統制の不備が問題とされても、個々の経営者の善管注意義務違反との結び付けは必ずしも明確ではなかった。本判決は、事業の撤退判断義務を認め、シェアハウスローン類型の債権保全措置にかかる監視監督義務に違反という形で注意義務を具体化し、億単位の賠償を命じた点で、経営者に厳しい判決を下したものと評価する向きもあるだろう。
 本件では責任を免れた被告もいたが、その明暗を分けたのは、担当業務と会議体への出席状況にあった。例えば、責任を免れた亡Mは象徴的な存在として、個別の営業推進やリスク管理等の会議には出席せず、取締役会に異常な事態の報告が上がってこない限り、現場における偽造等の個別の不正まで察知して融資を停止させる義務までは負わないと判断された。
 一方、責任を認められた被告らは、営業部門の担当であるとか、リスク管理に関する具体的な報告が行われる重要な意思決定会議に出席していたこと等を踏まえ、シェアハウスの入居率低下や業者の破綻リスク等の具体的な兆候を直接認識できた、又は認識し得たと判断された。
 しかし、同じ銀行内にいた取締役であれば、問題を共有し得たのではないのか、取締役会で情報が提供されなければ良いのかなどの点については疑問が残る。そして、全体として見た場合には、本判決と取締役等責任報告書の結論には大きな乖離がある※8。訴訟費用の負担割合を見れば、実質的には原告敗訴のような形となっている※9


Ⅲ 任務懈怠の認定について
 金融機関としての公共性を踏まえれば、融資をする場合には、その回収の見通しについて正確な情報を基礎とした合理的な裏付けを求めるべきであり、本判決も一般論としては、「融資業務に関しては、元利金の回収不能という事態が生じないよう、債権保全のため、高い水準の注意義務をもって、相当の措置をとるべき義務がある」という。しかし、北海道拓殖銀行(拓銀)の事案(以下「拓銀事件」という。)と今回のスルガ銀行の事案を比較した場合、各取締役における任務懈怠の認定が、本件では狭きに失しているように思われる。
 拓銀カブトデコム事件上告審判決(以下「拓銀判決」という。)※10は、「銀行が融資先の関連企業の業績及び株価のみに依存する形で195億7000万円もの巨額の融資を行うことは、そのリスクの高さにかんがみ、特に慎重な検討を要する」とした上で、追加融資に際し新たに担保を設定した不動産等の担保価値が到底追加融資相当額に見合うものではなく、追加融資の大部分は当初から回収の見込みや採算性が疑わしかったなどの事情の下で追加融資を決定した取締役について、「銀行の取締役に一般的に期待される水準に照らし、著しく不合理なものといわざるを得ず、被上告人らには銀行の取締役としての忠実義務、善管注意義務違反があった」と判断した(同日の拓銀栄木不動産事件上告審判決※11も同趣旨)。この拓銀判決は、銀行の取締役に一般的に期待される水準を求め、任務懈怠責任を認めた。本判決も拓銀判決と同趣旨の一般論を述べており※12、回収可能性において大きな問題があった点に変わりはない。しかし、的確な市場調査を無視して、より高額に積みあがる融資を継続させた銀行の取締役が「一般的に期待される水準」の職務を行っていたか否かの個別の取締役の評価において、主観的な認識を控えめに認定し、結果としてかなり甘い認識で対応することを許容してしまっている。
 本件が起きたのは、拓銀事件の時代にはまだ未整備だった内部統制システムの構築運用義務が、既に会社法により制度化されていた頃であった。本来、内部統制は、不祥事を早期に発見し、不合理な融資を防止するために整備されたはずのものである。しかし、本件で原告にあったコンプライアンス体制ないしリスク管理体制は、対外的なアリバイ作り(隠れみの)でしかなかったようである。審査資料は虚偽・誇張が多く、入居率の虚偽、家賃保証の非現実性、建築費の不当な高騰、事業計画の杜撰さ等に鑑みれば、それらを見抜けなかった点に問題があり、様々な過ちを現場の暴走と割り切り、内部統制の運用のあり方に踏み込まなかった点には不満が残る。
 例えば、本判決は「コンプライアンス体制及びリスク管理体制に加え、(中略)原本確認の履行体制が構築されていた原告において、行員が原本確認を懈怠し、(中略)シェアハウスローンに関する不正行為の可能性を認識しつつこれを黙認するような行為が組織的に横行することは、たとえ営業担当者に対する過大な営業ノルマやパワハラ等があったとしても、容易には想定し難い事態である」※13という。しかし、一部が腐っていれば、他も腐っている可能性があると考えるべきで、過大な営業ノルマやパワハラ等があるような組織では、似たような不正が組織的に横行することは想定すべきことであろう。
 また、本判決は、「被告取締役らは、各種会議などにおいて、チャネルによる団信診断書の偽造やその他の融資関係書類等の偽装、原告の行員による原本確認の懈怠に関する報告を受けていた」が、「それらはあくまで個別の事案に関する報告にすぎず、組織的な不正行為の兆候を示すものとはいえない」※14とか、「当該事案に係る調査結果においても、原告の行員が偽造に直接関与している可能性は極めて低く、偽造書類の受入れの認識及び黙認等による不適切なローンの取扱いの事実は認められないなどと報告されていることに加え、業務手続の改定や対象チャネルとの取引停止などの再発防止策が講じられたことも踏まえれば、被告取締役らにおいて(中略)不正行為等が組織的にまん延していることを認識し又は認識し得たとはいえない。」※15などと述べる。しかし、不正の原因を十分に探究しないまま「認識し得たとはいえない」というのは、個々の事象を余りにも矮小化して捉え、形式的な論理で組織不正の実態からかけ離れた浅薄な判断ではなかろうか。
 監査役責任報告書が、監査役は情報から阻害されていたこと等から責任がないという結論を導いていることからしても、数々の不正にかかる情報の伝達が悉く阻害されていたのは何故なのか、まさに内部統制の機能不全をもたらした原因が追及されなければならないはずだろう。
 本判決は、代表取締役について、「対内的にはその業務執行権に基づき会社の運営にあたる役割に照らし、一般の取締役より一段と高度なものであり、(中略)管掌取締役の職務が明確でなかった状況に即して高度の注意を払って監視監督を行うことが要求される」※16という。しかし、本判決は、どのように高度の注意を払っていたかが明らかではなく、むしろ数多くの不正の兆候への対応には多分に疑問がある。その後の当て嵌めを見ると、「厳しい営業ノルマのために、処分を受けるリスクを背負ってまで、営業ノルマのためにあえて偽装を黙認・看過することは通常想定し難」い※17とか、「営業店の営業担当者や所属長において、厳しい営業ノルマが設定されているとしても(中略)、処分を受けるリスクを背負ってまで、あえて融資関係書類等の偽装を黙認・看過することは通常想定し難い」※18などといった過去の企業不正の現実に疎い判断をしている。本件では過大な営業ノルマやパワハラ等のために、内部通報制度も機能せず※19、リスク情報の伝達が行われない組織となっていた環境が作られた原因を探究する視点が不可欠である。
 被告らを免責する根拠となる信頼の原則は、他の取締役・使用人等からの情報を信頼すれば、特に疑うべき事情がない限り、善管注意義務違反にならないという形で、取締役の信頼を保護する考え方である※20。本件では、かなり早い段階から数多くの異常が報告されていたことから、疑うべき事情があったといえ、信頼の原則を適用することには適さない事案である。


Ⅳ 損害概念の矮小化と「回収可能性」
 原告は主位的に、融資実行額相当額の損害を主張していた。しかし、本判決は、将来の回収可能性が否定できないとして「現時点での損害」を否定し、一律に全期間の責任を問うのではなく、「平成29年7月5日時点で、監視監督義務を果たしていれば、原告の内部組織における事務手続等にかかる時間を考慮しても、遅くとも同年8月1日時点では、新規のシェアハウスローンの実行を停止することが可能であった」という線引きをした※21。本判決は、その後の債権保全措置を怠った結果、回収不能額が拡大したと判断し、その拡大部分のうちシェアハウスローン債権の譲渡や債務者の破産等により回収不能が確定した合計13億3521万1789円に限って賠償すべき損害として認定した。
 しかし、この枠組みには疑問がある。第1に、その論理は、同年8月に適切な措置を取っていれば損害は防げたことを前提とするが、実際には既存のシェアハウス案件は既に劣化し、サブリース会社の財務は悪化して改善は不可能な状況に陥っていたから、同年8月に融資を止めても、相当部分の損害は避けられず、それでは結果回避可能性もなかったことになる。
 第2に、若年単身者人口が減少している状況で、都心から離れた立地で女性専用という狭いターゲットでは、賃料を保証するサブリース会社が逆ザヤ構造となることは容易に予想でき、合理的な市場調査をすれば、融資判断時点で不合理性は明白であったはずである。本件は巨額な融資額に積みあがる過程を見ても、シェアハウスにかかる立地、賃貸需要、人口動態等を厳格に調査するプロセスが当初から不十分であった点について、本判決も、「シェアハウスローン類型としてのリスク分析はされていないから、個別の融資として合理性を有していた案件があったことを否定する証拠もない」と認めつつ、「事後的・客観的にみれば、シェアハウスローン類型は、賃料相場及び入居率の予測や把握、サブリース業者の集中等、通常の資産形成ローンと異なるリスク判断を要するものであった」などという※22。しかし、事前に考えても、金融のプロである銀行であれば、それらのリスク判断が求められるはずで、本判決も一般論の部分ではそう指摘している。本判決でも言及されている大和銀行事件大阪地裁判決※23から指摘されてきたリスク管理システムの構築義務※24の観点からしても、きちんとしたリスク分析がされていなかった落ち度は否定すべくもない。
 もっと早い平成27年2月時点で、原告のお客さま相談センターには運営会社の実質的経営者の犯罪歴や計画的倒産、サブリース賃料設定の不合理性に関する具体的な情報が提供されていた※25。ところが、本判決は、一定の表面的な弥縫策が取られたことをもって良しとしてしまった。さらに、「シェアハウスローンの取扱件数が増え、それにもかかわらず、関係する業者が固定化していくという状況の中で、少なくとも平成28年5月1日の時点においては、客観的にみて、相当数の案件が、個別にも事業計画の合理性や担保評価の適正についての分析が不十分なまま融資が実行されていたことは否定できず、(中略)債権保全措置が講じられていないことを推認させる事情であるといえる。(中略)したがって、これらの事情を認識し得た場合には、調査をし、状況に応じた措置をとるべき義務がある」※26と述べながら、リスク管理・債権回収のための特命会議である第1回サクト会議※27が開かれたのは、その1年後である平成29年4月13日であった。その会議で示された全件調査の結果で、「総件数942件、総残高1086億1900万円のうち、現地訪問による目視調査において外観上全て空室と思われる物件は191件であり、外観上は全て空室と思われる物件に対し、取扱店からは70ないし80%程度入居している旨」※28が報告されたが、そのような調査は遅きに失している。
 融資金の回収不能に陥る結果回避可能性の議論を避けるには、違法行為の開始時点から損害を認定する方が合理的であり、第4回サクト会議後の2017年8月以降だけを切り取るのでは、因果関係が不安定となってしまう。これを率直に融資判断時点から違法とすれば、因果関係は明確となり、拓銀判決の枠組みにも適合する。シェアハウスローンの審査が当初から不合理であったとすれば、内部統制の運用義務の一環である的確な審査をする義務の違反は、それらの融資が開始された、もっと早い時点から存在しており、その後の損害は全て、その違法行為の延長であって、融資金全額、又はその相当部分を損害と認定できたのではなかっただろうか。


Ⅴ シェアハウス事業のリスク
 本判決は、シェアハウスは個別の案件により異なり、「現在もシェアハウスは増加しており、また、それを事業として行っている業者も存在する」などと指摘する※29。しかし、本件シェアハウスローンは、健全なシェアハウス事業とは別物の破綻前提のモデルであった疑念がある。裁判所の認定した前提事実や取締役等責任報告書等からしても、本件シェアハウスローンは、その収支構造に重大な問題を孕んでいることが当初から予見可能であったように窺われる。
 一般に、健全なシェアハウス事業は、エリアの賃貸相場に基づき、近隣のワンルームマンションより少し安い、あるいは付加価値に見合った個室としての価値で適正賃料が設定されていたという。ところが、本件シェアハウスローンでは、物件の建築コストや、投資家への利回りを逆算して先に賃料を決める手法で、実際の需要を無視し、銀行の融資審査を通すための架空の数字を前提にしており、事業として相当に杜撰であったことを伺わせる。
 また、本件シェアハウスローンでは、利回りから逆算した架空賃料を前提として、入居者から取る家賃よりもオーナーに保証する家賃の方が高い「逆ザヤ」状態が常態化し※30、その不足分を新規融資のキックバックで補填するような構造があり※31、担保評価のやり方も迅速性を追求する余りその妥当性には問題があったようである。


Ⅵ 2%の新規融資という論理と破綻を免れた結果論
 本判決は、「平成29年3月時点で、シェアハウスローンの融資残高は1757億52万円(建物完成済みの融資残高は約1086億円であり、そのうちスマートライフのブランドが表示されている物件は約618億円)であったところ(中略)、平成29年8月1日以降新規融資が実行されたシェアハウスローンに係る融資金は合計約36億円であり、上記のシェアハウスローンの融資残高に占める割合としては2%程度にすぎない」と指摘する※32。この論理だけからすると、残りの98%(約1700億円)は回収可能性があり、その時点では致命的な損失と評価できないという前提を置くように見える。その前提は、シェアハウスローンには、対象となる土地と建物に抵当権が設定されているから、全額が即座に損失とはならず、債務者が利息を払い続けている限り、その債権は有効に存在しているという考えによるかのようである。
 しかし、この1757億円には当初から甚大な回収不能リスクが内包されており、巨額な融資額が積みあがる過程で、物件の実地調査や収支シミュレーションが十分に行われなかったこと自体が異常であり、新規融資の継続は原告の審査・リスク管理機能の完全な機能不全を象徴する事情でしかない。この点においては、当該1757億円にかかる客観的な回収不能リスクがどの程度あったかの的確な検討をせずに、結果として見逃し続けた原因が検討されるべきであろう。
 もっとも、本判決が「回収可能」という前提に立てたのは、原告が破綻を免れた結果論に基づいているのかもしれない。しかし、原告が存続し得たのは過去の業績の蓄積により1000億円単位の貸倒引当金を飲み込む体力が残っていたからにすぎない。その後の不良債権処理は、実質的な債権放棄による損失の確定処理であったと考えられるが、融資残高と時価の差額を貸倒損失として計上した時点で、その回収不能は確定している。その後の市況の改善によって、たまたま一時的な穴を埋めたことをもって、行為時の任務懈怠を正当化することはできないはずだろう。
 原告の場合、2023年以降の株価急回復※33をもって、損失が軽微であったという見方もあるかもしれない。しかし、近時の株価上昇はPBR是正策や金利上昇期待等の外部要因によるもの※34で、損失処理によって失われた機会利益(他の有効な投資等への転用可能性)を考慮すれば、潜在的損害は依然として甚大であり、当時の役員等の任務懈怠責任を免責する根拠にはなるべくもない。
 本判決は、「一連の過程において、原告に対する社会一般からの信用は大きく失われた。そして、このことにより原告から顧客が離れ、本来であれば確保できたはずの融資実行の機会を失ったこと等を観念することができるから、その損害額は別として、シェアハウスローン問題の発生を契機とする信用毀損により、原告が損害を被ったものと認めることができる」とも指摘している※35
 ところが、本判決は、仮に被告らが「監視監督義務を果たしても、(中略)シェアハウスローン問題の発生を契機とする原告の信用毀損が生じることは不可避であ」るなどとして、「シェアハウスローン問題の発生を契機とする原告の信用毀損による損害が生じたとしても、当該損害は、」被告らの「監視監督義務違反による任務懈怠と相当因果関係を有するものとは認められない」とした※36。しかし、信用毀損をもたらすような異常なリスクを取った任務懈怠との相当因果関係が問われるべきものであろう。


Ⅶ おわりに
 それでは、銀行経営における「健全なリスクテイク」と「任務懈怠」を分ける境界線は、どこに引かれるべきであろうか。第1に、リスクの質として、統計的な予測誤差(経営判断)か、虚偽情報を前提とした管理放棄(任務懈怠)かが問われるべきである。第2に、業績が回復する可能性に関する根拠が、当該事業の将来性による合理的裏付けによるものかは十分に検討されるべきである。第3に、予兆の把握として、損害の多寡ではなく、異例な情報提供や書類の不自然さに接した際の不作為の有無が問われるべきである。本件のように、ビジネスモデルの根幹に虚偽と構造的破綻を含んでいた場合、それは合理的なリスクテイクとはいい難い。
 なお、本件の事案は、銀行という公共的・社会的な存在が惹起した貸し手責任(Lender Liability)が問われるべき事案でもあった。原告のシェアハウス融資は、単なる審査の甘さではなく、原告が積極的に営業に動いた点において、借り手の人生を破綻させ、市場を歪めるような融資を組織的に作り出した点で、貸し手責任も問われるべきケースであり、その損害についても取締役の会社に対する責任の一部として論じる余地があったのではなかろうか。



(掲載日 2026年6月23日)

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  • 静岡地判令和7年10月31日WestlawJapan文献番号2025WLJPCA10319004。
  • 青山学院大学 教員情報(aoyama.ac.jp)
  • 弁護士法人 早稲田大学リーガル・クリニック
  • 本判決の事実認定、本判決・前掲注1・第3 1(3)参照。
  • 「お知らせ『取締役等責任調査委員会』及び『監査役責任調査委員会』の設置について」(スルガ銀行ウェブサイト、2018年9月14日)。
  • スルガ銀行株式会社 取締役等責任調査委員会「調査報告書(公表版)2018年11月14日」(スルガ銀行ウェブサイト)。
  • スルガ銀行株式会社 監査役責任調査委員会「調査報告書(公表版)2018年11月14日」(スルガ銀行ウェブサイト)。
  • 取締役等責任調査委員会は、被告らに高額の損害賠償責任を認め、それに基づいて原告は本訴請求をしたが、監査役責任調査委員会は、調査・検討の対象とした現旧監査役6名については、いずれも、監査役としての善管注意義務違反に基づく損害賠償責任は認められないとの結論を導いている。
  • 訴訟費用は、原告及び原告共同訴訟参加人らと請求を棄却された被告らとの間においては全部を原告及び原告共同訴訟参加人らの連帯負担とし、原告及び原告共同訴訟参加人らと被告Gとの間においては、これを25分し、その24を原告及び原告共同訴訟参加人らの連帯負担とし、その1を被告Gの負担とし、原告及び原告共同訴訟参加人らと、それ以外の被告らとの間においては、これを10分し、その9を原告及び原告共同訴訟参加人らの連帯負担とし、その1を当該被告らの連帯負担とした。
  • 北海道拓殖銀行カブトデコム事件上告審判決(最二小判平成20年1月28日)判時1997号148頁、判タ1262号69頁、WestlawJapan文献番号2008WLJPCA01289003。
  • 北海道拓殖銀行栄木不動産事件上告審判決(最二小判平成20年1月28日)判時1997号143頁、判タ1262号63頁、WestlawJapan文献番号2008WLJPCA01289002。
  • 本判決・前掲注1は、第3 3辺りまでは、概ね正当な一般論を展開しているが、内部統制システムの形式的な認定をした後、第3 5以下における個別の取締役における認識の認定においては、かなり甘い認定に転じている。
  • 本判決・前掲注1・第3 10(1)ア参照。
  • 本判決・前掲注1・第3 10(1)イ参照。
  • 同上。
  • 本判決・前掲注1・第3 2(1)ウ参照。
  • 本判決・前掲注1・第3 6(2)エ、第3 7(2)エ参照。
  • 本判決・前掲注1・第3 5(2)ウ参照。
  • 内部通報制度の機能不全については、取締役等責任調査委員会報告書・前掲注6・54頁で言及されているのに対して、本判決は内部通報制度が整備されていたことを認定するにとどまり、形骸化した内部通報制度を容認するような形となっている。
  • 江頭憲治郎『株式会社法〔第9版〕』(有斐閣、2024年)499頁参照。拙稿「疑惑の通報を軽視しては、重い責任を免れず~『知らなかった』ではすまされない、『信頼』についての基本的な考え方(最高裁令和2年12月22日判決)~」WLJ判例コラム第226号(文献番号2021WLJCC005)(2021年)。
  • 本判決・前掲注1・第3 11(1)ア参照。
  • 本判決・前掲注1・第3 3(3)エ参照。
  • 大阪地判平成12年9月20日判時1721号3頁、判タ1047号86頁、WestlawJapan文献番号2000WLJPCA09200001。
  • 本判決・前掲注1・第3 2(3)の説示は、大和銀行事件大阪地裁判決・前掲注23に依拠するものである。
  • 本判決では、平成27年2月3日の「お取引先に関するご報告」に、「スマートライフの実質的経営者が傷害事件を起こし起訴された旨とともに、①同人に関し、住専に関連した詐欺で8年にわたり身柄を拘束されており、出所後は不動産業を含む数社の実質的オーナーとして経営していたが、全ての会社を債務不履行の上、計画的に倒産させている旨、②元妻名義で法人を設立後、スマートライフに出資して株主となっており、会社の決定権をすべて握り、不動産投資家に自身で説明を行い、原告の担当者とも直接やり取りを行っている旨、③スマートライフの30年サブリース保証は、家賃相場価格より倍以上の設定で収益シミュレーションを行い、高額のシェアハウスを販売しており、サブリースの支払は現行家賃では回収できず、到底まかないきれない状態である旨」等が記載されていた。本判決の事実認定、本判決・前掲注1・第3 1(5)ウ(ウ)参照。
  • 本判決・前掲注1・第3 3(3)ウ参照。
  • 「サクト会議」とは、融資を継続するか、停止するかの経営判断の分岐点となった会議で、サクト(SAKTO)という名前は「早期(S)・アクション(AK)・徹底(TO)」の頭文字を取ったものであった。
  • 本判決・前掲注1・第3 1(6)コ(エ)参照。
  • 本判決・前掲注1・第3 3(3)エ参照。
  • 取締役等責任報告書・前掲注6・28頁の2017年4月12日部分参照。
  • 本判決も認定している通り、危機管理委員会の調査結果では「顧客に販売する不動産価格が転売により吊り上げられ、どの時点からそうであったかは不明であるが、その利ザヤを他のシェアハウスの空室による保証賃料の逆ザヤに補てんしていたと推測される。顧客がこのような高値を妥当と判断した大きな要因として、原告において行われる不動産評価の結果とこれに基づく不動産売買代金額に原告が9割までは融資を付けることを聞かされ、その評価にお墨付きが与えられていると理解したことがあったと推測できるところ、原告としては、当該評価がそのように利用されることは想像可能であったはずで、関知しないことであったという弁解は容易に成り立つものとはいえない。」とされていた。本判決・前掲注1・第3 1(7)エ(ア)参照。
  • 本判決・前掲注1・第3 11(2)イ参照。
  • 「国内株式 スルガ銀行(8358)」(SBI証券ウェブサイト)過去20年の株価推移参照。
  • 近時の日本株の上昇の背景については、拙著『米国株神話の崩壊 日本株の逆襲』(ビジネス社、2026年)参照。
  • 本判決・前掲注1・第3 11(2)ア参照。
  • 本判決・前掲注1・第3 11(2)イ及びウ参照。




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