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文献番号 2026WLJCC014
桃尾・松尾・難波法律事務所 パートナー弁護士
松尾 剛行※2
Ⅰ はじめに
これまで、多数の「棋譜と著作権」や「著作権が認められない場合の不法行為の保護」についてのWLJ判例コラムを執筆させて頂いた。そして、2026年5月30日には、WLJ判例コラムにおける活動等も踏まえて著作権法学会でこのテーマで発表をさせて頂いた※3。また、WLJ判例コラムの内容を踏まえ、拙著『棋譜に著作権はあるのかー著作権・不法行為から棋譜の保護を考える』(弘文堂、2026年。以下「本書」という。)が2026年6月3日に刊行された※4。
そして、本書でも、判例コラム第362号(以下「第一審コラム」という。)※5でも、既に述べた竜王戦の棋譜を対局の当日中に再現した動画の配信が不法行為に当たるとして、主催者である新聞社に対する損害賠償が命じられた事案(本書での呼称は【棋譜当日再現動画損害賠償命令事件】、以下「第一審」という。)※6の控訴審判決が本件である。以下本書補章と重複する部分はあるが紹介していく。
Ⅱ 事案の概要と判決の要旨
1.本件では、竜王戦主催者である読売新聞社(以下「読売新聞」という。)と、日本将棋連盟(以下、「将棋連盟」といい読売新聞と合わせて「読売新聞ら」と総称する。)が、竜王戦の棋譜を利用した動画を公開したYouTuber(以下「配信者」という。)に対し、営業上の利益を侵害する不法行為を理由に第一審では約1700万円の損害賠償を求め、控訴審ではそこに約300万円の損害賠償請求を追加したものである。
詳細は、第一審コラム並びに本書第7章及び補章を参照されたいが、いわゆる「個人勢」の配信者が、竜王戦の棋譜を、当日対局後に無許諾で利用して配信したため、読売新聞と将棋連盟(読売新聞ら)が、配信者の行為は不法行為だとして配信者を訴えたものである。読売新聞らは棋譜に関する営業上の利益があるところ、これは保護に値し、棋譜の価値が高い対局当日にこれを無断で利用した配信者による配信は、読売新聞らの営業上の利益を侵害するので、それが不法行為を構成する、と主張したのである。
第一審は、読売新聞一部勝訴、将棋連盟敗訴の判決を下した。つまり、配信者に対し、読売新聞(のみ)に対する841万5000円の損害賠償を命じた。そこで、本判決、即ち、控訴審の判断が問題となった。なお、控訴審段階で読売新聞は請求を拡張している。つまり、読売新聞は、第一審では令和4年と令和5年の竜王戦の棋譜の利用のみを問題としたところ、控訴審では令和6年の棋譜の利用に関する損害賠償を追加した。
2.控訴審判決の要旨
結論としては、控訴審は、配信者が読売新聞に対して(のみ)325万円を支払うべきとした。金額としては第一審の半額以下になっており、かつ、第一審の金額は令和4年と令和5年に関する金額であったところ、控訴審の賠償額は令和6年分も合わせたものである。その意味では、配信者は控訴することで賠償額を減らすことができている。もっとも、配信者による棋譜の無断利用行為が読売新聞との関係で不法行為となり、その損害を賠償しなければならない、という判断は維持されている※7。
Ⅲ 評釈
1.はじめに
著作権法学会においても、本判決については熱い議論が行われた。特に、著作権法学会においては、【リアルタイム配信逆転不法行為事件】控訴審判決(大阪高判令和7年1月30日)※8の判断は肯定できる登壇者も少なくなかったものの、リアルタイムではない本件で不法行為を認めたことは行き過ぎだという見解も表明された。以下本判決について説明していこう。
2.棋譜の著作権による保護論争に決着をつけた?
本判決の重要な言及の1つが、棋譜について著作権で保護されない旨を述べたことである。つまり、「棋譜は著作物ではないため、著作権法による保護の対象となるものではない」としたのである。これは、【リアルタイム配信逆転不法行為事件】一審判決(大阪地判令和6年1月16日)※9が「棋譜等の情報は、被告(筆者注:囲碁将棋チャンネル)が実況中継した対局における対局者の指し手及び挙動(考慮中かどうか)であって、有償で配信されたものとはいえ、公表された客観的事実であり、原則として自由利用の範疇に属する情報であると解される」としたことと類似している。
もっとも、より重要なのは、以下の2点である。つまり、【リアルタイム配信逆転不法行為事件】一審判決は、①単に棋譜情報を「自由利用の範疇」とするだけで著作権について明言しておらず、かつ、②それは一審の判断に過ぎず、控訴審においては引き継がれていなかった。
それに対し、本判決は、①明確に「棋譜は著作物ではない」「著作権法による保護の対象となるものではない」としている上、②控訴審段階の判断である。その意味では、本判決をもって「棋譜の著作権による保護論争に決着がついた」と受け止める見方もあり得る。しかし、筆者は、そうではないと考える。
つまり、裁判所は当事者間に争いがない事項については判断をせず、それを前提として判断しなければならない。そして、本件においても、読売新聞は配信者が著作権を侵害したとは主張していない。そこで、もし著作権による保護が争点となっていれば、双方がより充実した主張をしていただろう。しかし、そのような主張がされない中で著作権についての言及がされている。その意味で、この言及は、当事者双方が棋譜の著作権による保護について争っていないことの確認に近いと理解すべきではなかろうか。
このようにまだ決着はついていないとはいえ、少なくとも【リアルタイム配信逆転不法行為事件】一審判決に続き本判決もまた棋譜の著作権を否定している以上、仮に裁判上棋譜の著作権を主張するのであれば相当以上説得的な議論をしなければならないだろう※10。とはいえ、本判決や【リアルタイム配信逆転不法行為事件】控訴審判決等、一定範囲で裁判所が棋譜を利用したビジネスに関する営業上の利益を保護している。そこで、将棋連盟や新聞社等のスポンサーとしては、棋譜を利用したビジネスを守るため、棋譜の著作権を裁判上主張しなければならない、という状況にはないと評することができる。そうであれば、今後棋譜の著作権が裁判で正面から争われる可能性は低いかもしれない。
3.棋譜の保護の一般論について
(1)棋譜は知的財産?
裁判所は、棋譜の不法行為による保護に関する判断については、まず、第一審判決を(誤記修正※11はしているものの)そのまま引用している。その上で、控訴審における配信者の主張に応える形で、棋譜の保護に関する控訴審の考えを展開している。つまり、棋譜の「著作権」による保護を否定する言及をした上で、棋譜の価値が高いことを踏まえた保護の必要性を論じている。
まず、北朝鮮映画事件といわれる、著作権による保護が否定される場合には「特段の事情」がない限り、当該著作権のない情報の利用は営業上の利益を侵害しない/不法行為にはならないとする最高裁の判決※12を引用した。
次に、他人が取得した情報を許可なく無断で当該他人の営業と競合関係にある自己の営業に利用した場合に、そのことをもって直ちに不法行為を構成すると評価するのは相当でなく、当該他人の営業上の利益を保護する必要性、当該利用行為により被利用者が受ける不利益の内容及び程度、利用行為の目的・態様等に鑑みて、当該利用行為が許される自由競争の範囲を逸脱するといえる場合に限り、当該利用行為は当該他人の営業上の利益を侵害するものであり、上記「特段の事情」があるものとして、不法行為を構成すると解するのが相当であるという、第一審判決の判断を繰り返した。
そして、「棋譜は著作物ではないため、著作権法による保護の対象となるものではない」という言及を行った。この言及の評価については上記2で述べたとおりである。
その上で、「棋士は、優れた棋譜を残し、対局に勝利するために、日夜研究に励んでおり、また、棋戦における対局により生まれた棋譜は、後世に引き継がれ、将棋の歴史を形作ることとなるため」、「棋譜は、知的財産としての性質を有し、財産的保護に値するものであると認められる」として、棋譜の保護の重要性を強調したものである。
(2)裁判所の判断に対する評価
① 棋譜創作のインセンティブ
この裁判所の判断のうちの、「棋士は、優れた棋譜を残し、対局に勝利するために、日夜研究に励んでおり、また、棋戦における対局により生まれた棋譜は、後世に引き継がれ、将棋の歴史を形作る」というのは、裁判所が棋譜の重要性や棋士の努力の価値を正しく理解したものである。なお、その判断の際、判決は、佐藤康光九段の陳述書を引用している。
前田は、(知財法で保護されない)成果物を用いた営業を現に排他的に行う利益※13は不法行為で保護し得るとした上で、それは、成果物創作のインセンティブを確保するために必要であれば何らかの独占的地位を与えるべきことは、(民法709条という形で)既に立法府によって承認されている価値判断だからである※14が、但し、排他権創設となることを避ける観点から、成果物創作者が現に行っている営業のみを保護すべきとする※15。
結局のところ、棋譜の創作のインセンティブ確保のため、独占的地位を与えることが必要か、という観点から裁判所が本件を検討した上で、棋譜を創作させるインセンティブ確保に大きな価値がある、ということを将棋連盟の提出した証拠等を踏まえて認定した、ということであろう。
② 棋譜は「知的財産」?
その上で、本判決が「棋譜は、知的財産としての性質を有し、財産的保護に値するものであると認められる」としている部分は、特にその直前の棋譜は著作物ではないといった判断との関係が問題となるところである。
この点は、結局のところ、裁判所として、棋譜に著作権やそれ類似の知的財産権を認めて(ある意味では新たな知的財産権を創設して)、読売新聞らが棋譜を独占できるとしているのではないことに留意が必要である。(もしそうであれば、配信者による当該知的財産権侵害を端的に認定しているはずである。)
そうではなく、あくまでも棋譜を利用したビジネスに関する営業上の利益を配信者の一定範囲の行為から保護するという文脈で、棋譜に価値があると述べることで、それを用いたビジネスの保護に繋げているに過ぎない。その意味では、この「知的財産」という言及を、著作権やそれに準じる権利と関連づけて理解すべきではないだろう。
4.本件における棋譜の保護について
(1)裁判所の判断
その上で、結論として本件において、配信者による棋譜の利用が読売新聞らの営業上の利益を侵害するとした。
つまり、将棋連盟は棋戦棋士に対局料や賞金の支払を行っているところ、その収入の約50%※16が新聞社等からの契約金であり、新聞社は当該契約に基づき棋譜を独占利用して収益をあげている。そして、棋譜の利益保護は棋士の保護や将棋の普及発展に寄与するものであり、営業上の利益を保護する必要性は高いといえるところ、そのために読売新聞らは多額の費用と多大な労力を投下している。このような形で読売新聞らの営業上の利益を保護する必要性を肯定した。
そして、配信者は、読売新聞らと競合関係にあり、配信者が棋譜を無断で利用して行った配信行為はこの収益モデルを成り立たなくするおそれのある行為である。このようにして、当該利用行為により読売新聞らが受ける不利益の内容及び程度は大きいとした。
読売新聞らは、当日に初手から終局までの棋譜を利用する許可を与えていないところ、配信者はこれを認識しながら無断で利用しており、このような読売新聞らの労力にフリーライドして棋譜を利用したので態様は悪質だとした。このように、利用行為の目的・態様等も悪質と認定した。
以上により、本件の配信者の行為は、読売新聞らの営業上の利益を侵害するとした。
(2)裁判所の判断に対する評価
第一審判決に対しては批判的見解も強い。例えば、(本判決は出ていないものの、第一審判決が既に下されていた段階における)2025年11月の、日本知財学会におけるこのテーマを題材としたシンポジウムにおいて友利は、【リアルタイム配信逆転不法行為事件】控訴審判決について、「投資により取得/生成した「情報」の保護の在り方に一石を投じたことは確か。『公式中継とほぼ同時のリアルタイム配信』を(それに限って)不法行為とした結論のバランス感覚自体は、百歩譲って肯定できないこともない。」として、リアルタイム配信こそが保護の限界だとする※17。実際に、著作権法学会で、司会が参加者に本判決に関する見解を尋ねたところ、これに直ちに賛同しない参加者も多かった※18。
もっとも、前田は、成果物を用いた排他的な営業をする利益の侵害が認められる場合について、「成果創作のインセンティブ確保のため成果を利用した独占的収益が必要である」「成果創作者は、成果を利用した独占的収益を得るための手段(営業)を現に講じており、被疑侵害者の行為が、成果創作者の前記手段の継続を困難にしている」、そして、故意がある場合だと述べている※19。
このような前田の見解を踏まえると、以下述べるように考えられるのではないか。
即ち、本判決に否定的な論者の中には、本判決を「成果(棋譜)そのものの独占/排他的権利」を認めたものと理解し、事実やアイディアについて著作権法が保護しないとしたことと矛盾している、として批判している者も含まれるのではないかと理解される。しかし、前田の指摘するような要件を満たす限り、保護されているのは「成果(棋譜)そのものの独占/排他的権利」ではない。保護されているのは「成果物を利用した営業」に過ぎない。その意味で、本判決は著作権法の趣旨に反するものではない。
そして、本判決の規範に基づき不法行為が認められるような状況が存在する、即ち、配信者と読売新聞らの競合関係を前提に、配信者によって読売新聞らのビジネスモデルが成り立たなくなるおそれがあるような悪質な行為が現になされたのだとすれば、これは、「被疑侵害者の行為が、成果創作者の前記手段の継続を困難にしている」として、まさに上記の前田の理解するところの、成果物を用いた排他的な営業をする利益の侵害が認められる場合である※20。
よって、より正当な可能性の高い批判は、この規範ではなく、事実認定の方であろう。リアルタイムならともかく、非リアルタイム配信についてそのような規範に当てはまるような事実があったのか(つまり、「リアルタイムではないなら、そのような配信によって将棋のビジネスモデルは破壊されないのではないか」という点)について疑問が呈されたということではないか。
しかし、民事訴訟は、証拠に基づき裁判所が事実認定をするのであって、事実認定においては、証拠関係が最も重要である。筆者が記録を閲覧した限りでは、佐藤陳述書等がこのような認定の重要な根拠の一つとなっており、配信者としてその根拠を突き崩すような証拠を提出できていなかったように思われる※21。そこで、確かに微妙な事案ではあるものの、規範も事実認定も、少なくとも日本の民事訴訟法の原則を前提とすれば、控訴審の判断は妥当だ、というのが現時点の筆者の考えである※22。(よって、著作権学会においても、筆者は本判決に対して「確かに微妙だが、肯定か否定かといえば肯定」とのスタンスを表明した。)
5.棋譜の無断利用による損害賠償について
(1)大幅な賠償額の減額
本判決が第一審判決と一番大きく異なるのは、命じられた損害賠償の金額が半額以下(第一審が800万円以上のところ、本判決は325万円)になったところである。
第一審と控訴審の損害に関する判断を整理すると、以下のとおりとなる。
| 第一審 | 控訴審 | |
|---|---|---|
| 令和4年度6局・42番組 | 210万円 | 125万円 |
| 令和5年度4局・111番組 | 555万円 | 80万円 |
| 令和6年度6局・26番組 | - | 120万円 |
| 弁護士費用 | 10%(765万円の損害の1割の76万5000円)も併せて損害と認めた。 | 0 |
| 総額 | 841万5000円 | 325万円 |
(2)民事訴訟法248条
ここで、控訴審判決は民事訴訟法248条を利用している。
そもそも、訴訟においては、当事者それぞれが主張を行い、証拠を提出する。そして、原告(今回は読売新聞ら)としては、損害を被ったことについて主張をし、求められる証明度に達するだけの証拠を提出しなければならない。
そして、その証拠が足りないのであれば、そもそも原告としての義務を果たしていないとして敗訴判決となる。本件では、将棋連盟の方は、まさに損害の証拠を示せなかったとして敗訴している(下記(5)参照)。
しかし、損害の発生については証明できた(求められる証明度に達した)が、具体的な額については十分な証明ができない(求められる証明度に達しない)ということもある。このような場合にも上記の原則を貫けば、裁判所は「原告が何らかの損害を被っていることは確実だが、その額がわからないから原告敗訴」という判決を下すことになる。ただ、そのような判断は原告にとってあまりにも不利で、公平の要請に反し、社会の納得も得にくい※23。
そこで、民事訴訟法248条は、このような損害は発生しているものの、損害賠償額が立証できない場合に「損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。」として、裁判所が「相当な損害額」を認定することができるとしている。
(3)裁判所の読売新聞の損害に関する判断
配信者の上記のような読売新聞の営業上の利益を侵害する行為によって、第三者としては読売新聞に許諾料を支払うインセンティブが低下する。本判決は、そのことによる損害は確かに読売新聞に発生しているとした。しかし、損害の性質上、その額の立証が極めて困難であるとした。だからこそ、民事訴訟法248条を利用するとしたのである。この点は、第一審が端的に(つまり民事訴訟法248条を利用せず、)読売新聞に1局当たり5万円、合計765万円の相当因果関係の範囲内の損害があると認めたこととは大きく異なっている。
そして、本件で裁判所が認定すべき損害額は、当日の配信を許諾すると仮定した場合の金額であるところ、実際には当日全部の利用は許諾しておらず、また、抽象的には当日配信は翌日以降の配信よりも価値が高いものの、当日配信許諾に関する客観的価値を認めるに足りる証拠がないとした上で、特定の数式を示した。その数式は閲覧制限によって閲覧できない(裁判所HPで公開された判決でも黒塗りとされていた)ものの、1局当たり15万円から25万円である。そして、「棋譜の利用権を問題とする以上、動画の本数ではなく、利用した棋譜の指し手数に基づいて算出するのが相当である。」ともされている。
ここで、上記の16局の指し手数と賠償額は以下のとおりとなっている。
| 年度 | 対局 | 指し手数 | 損害額 |
|---|---|---|---|
| 令和4年度 | 第1局 | 107 | 20万円 |
| 第2局 | 105 | 20万円 | |
| 第3局 | 112 | 20万円 | |
| 第4局 | 95 | 20万円 | |
| 第5局 | 133 | 25万円 | |
| 第6局 | 113 | 20万円 | |
| 合計 | 125万円 | ||
| 令和5年度 | 第1局 | 82 | 15万円 |
| 第2局 | 107 | 20万円 | |
| 第3局 | 96 | 20万円 | |
| 第4局 | 129 | 25万円 | |
| 合計 | 80万円 | ||
| 令和6年度 | 第1局 | 117 | 20万円 |
| 第2局 | 103 | 20万円 | |
| 第3局 | 99 | 20万円 | |
| 第4局 | 97 | 20万円 | |
| 第5局 | 91 | 20万円 | |
| 第6局 | 106 | 20万円 | |
| 合計 | 120万円 |
(4)評価
そもそも第一審は、民事訴訟法248条を利用せず、ある意味では1動画5万円の損害について立証がされたと判断した。これが控訴審では、民事訴訟法248条を利用している。これは、控訴審が本件の不法行為(営業上の利益侵害)の本質を、配信者の行為によって、第三者(例えば他の配信者)として、読売新聞から許諾を得ようというインセンティブが減ったことにあると捉え、そのようなインセンティブの減少は何らかの損害を招くだろうが、その額は明確ではない、と考えたからであろう。このような不法行為の本質に関する控訴審の認定からすれば、民事訴訟法248条を利用することはむしろその論理的帰結と評することが可能である。
ここで、筆者が(判決だけではなく)一件記録を閲覧したものの、閲覧制限部分が含まれ、不明確な部分が残る中、過去の許諾事例や読売新聞責任者の陳述書、支払記録に関する証拠説明書の書き方等を踏まえると、どうもこれまで局数ベースの許諾、例えば、2局でX万円といった許諾がされたようである。そして、裁判所は、「棋譜の利用権を問題とする以上、動画の本数ではなく、利用した棋譜の指し手数に基づいて算出するのが相当である。」として、指し手数ベースで1局15万円から25万円としている。
この点についてはさまざまな評価があり得るだろう。1局当たり1動画が配信されるだけであれば、賠償額計算のベースが(指し手の数に応じて増減する)対局の数かそれとも動画数かで、賠償額に差はない。これに対し、1局につき多数の動画が配信される場合は、賠償額計算のベースが対局数であれば賠償額が安くなり、動画数であれば賠償額が高くなる傾向にある。本件は、まさに1局につき多数の動画が配信された場合であって、例えば令和5年であれば4局のみであったが、動画数は111本であり、これが控訴審と第一審で損害額が異なる大きな理由であった。
この点は、棋譜の情報を得たいという将棋ファンのニーズを満たしてしまうため、課金をして公式の配信等を見ようとする人が減るという観点からは、何人の将棋ファンがその動画を見たか、という動画「視聴数」が一番しっくりくる基準と思われる※24。
しかし、実際には、事前に許諾料を支払ってもらい許諾をするという現行の許諾方式を前提とすると、視聴数ベースのライセンスは容易ではなく、その意味では、対局数ベースや動画数ベースというのは、事前にライセンスをするという意味では十分にあり得るライセンス料算定基準であろう。そして、控訴審はその2つの選択肢から、(指し手の数に応じた)対局数ベースの方が合理的だという判断をしたと思われる。
とはいえ、本判決で問題となっている段階においては、既に配信が行われていて、具体的な視聴数も明らかになっている。そうであれば、視聴数ベースで、何人の将棋ファンが公式番組ではなく配信者の無料配信を視聴したか、という観点で計算することも考えられたのではないか。
加えて、仮に対局数ベースが合理的だとしても、問題は1局当たりの損害額の算定の合理性である。15~25万円という金額の合理性は、今後引き続き論じられるべきと考える。例えばこの金額であれば公式の許諾を得るよりも無断配信をして提訴を待った方が有利ではないかなどともいわれており、果たしてこの賠償額を前提に、どこまで棋譜の無断での(リアルタイム配信及び)当日配信が減るかなどを踏まえて合理性をさらに論じるべきである。
なお、細かい話になるが、第一審では10%の弁護士費用を損害として認めているが、控訴審では弁護士費用を損害として認めていない。バンドスコア事件(東京高判令和6年6月19日)※25は民事訴訟法248条の趣旨を踏まえるとともに、損害額が過大になることのないよう控えめに算定し、その上で弁護士費用を加算している。他の事案においても、民事訴訟法248条を使ったからといって、必ずしも弁護士費用を否定しているものではない。とはいえ、控訴審は、(弁護士費用相当額等を含め)本件において合理的な賠償額の総額は指し手数ベースで1局15万円から25万円だと判断したと理解され、それが当該金額に別途弁護士費用を加えなかった理由であろう。
(5)日本将棋連盟の損害について
なお、本判決は、以下のとおり第一審同様に将棋連盟の損害はないとした。つまり、将棋連盟が提供する将棋連盟Liveアプリの有料会員数減少等に関する損害については、将棋連盟Liveアプリは、竜王戦に限られないさまざまな棋戦の棋譜データ等を提供するものであり、令和4年度から6年度までの竜王戦については、将棋連盟Liveアプリ以外にもAbemaや読売新聞社のオンライン動画等において無料でリアルタイムで棋譜情報を入手することができた。このような状況を踏まえ、配信者の配信と将棋連盟liveアプリの利用者層は必ずしも一致するものではなく、顧客を奪い合う競合関係にあるとは認められないとされた。
この点は、【リアルタイム配信逆転不法行為事件】控訴審とは異なった判断とも評し得るが、【リアルタイム配信逆転不法行為事件】の原告である囲碁将棋チャンネルは、まさに有償で銀河戦や王将戦に関する番組を放送・配信していたのに対し、竜王戦は一定の方法で無料でリアルタイムで棋譜情報を入手することができたという相違があり、かかる相違が損害を認めるか否かの判断の相違にも影響していたと思われる。
*本稿作成に当たっては、著作権法学会関係者、とりわけ、会長の田村善之教授、シンポジウム司会の山根崇邦教授、シンポジウム登壇者の皆様、そして当日参加されたすべての方に感謝の意を表する。
(掲載日 2026年6月16日)
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