判例コラム

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第375号 被保佐人であることを警備員の欠格事由としていた令和元年法律37号改正前の警備業法の規定を違憲とした最高裁判決に関する一考察  

~最高裁大法廷令和8年2月18日判決※1


文献番号 2026WLJCC013
大阪経済大学 教授
小林 直三


Ⅰ はじめに
 本稿は、被保佐人であることを警備員の欠格事由としていた令和元年法律37号改正前の警備業法の規定を違憲とした2026年2月18日の最高裁大法廷判決に関して考察するものである。
 令和元年法律37号改正前までの警備業法3条は、「次の各号のいずれかに該当する者は、警備業を営んではならない」とし、その1号で「成年被後見人若しくは被保佐人又は破産者で復権を得ないもの」を規定し、また、同法14条1項は、「18歳未満の者又は第3条第1号から第7号までのいずれかに該当する者は、警備員となつてはならない」とし、2項は、「警備業者は、前項に規定する者を警備業務に従事させてはならない」としていた(以下、被保佐人を警備業法上の警備員の欠格事由とする部分を「本件規定」という。)。つまり、警備業法上の警備員の絶対的欠格事由として、被保佐人であることを挙げていたのである。そのため、被保佐人となると、必然的に警備業法の警備員になれないことになっていた。
 平成14年改正で同法3条に7号として、「心身の障害により警備業務を適正に行うことができない者として国家公安委員会規則で定めるもの」(いわゆる「相対的欠格事由条項」)が追加され、心身の状態を個別に判断することになったものの、本件規定はそのまま残ることになったため、被保佐人となると警備業法上の警備員となることができない状態は続くことになった。
 そして、令和元年の改正によって、漸く本件規定は削除されるに至ったのである。
 さて、本件事案は、以下のものである。すなわち、もともと警備業を営む会社で警備員として警備業務に従事していた被上告人(一審原告)に関して、平成29年に保佐開始審判が確定したところ、警備員の欠格事由に該当することから雇用契約が終了し、被上告人は退職(以下「本件退職」という。)せざるを得なくなった。そのため、被上告人が、本件規定は憲法22条1項および憲法14条1項に違反するにもかかわらず、国会が本件規定を改廃しなかったとして、国家賠償請求を求めた事案である。
 前述のように本件規定は、令和元年の改正で削除されており、また、一審※2および控訴審※3で違憲であるとされ、後述のように、本件最高裁においても全員一致で違憲であるとされている。
 しかしながら、一審は、違憲である規定を改廃しなかったことに伴う国家賠償請求を認め、さらに控訴審は、その賠償額を増額した一方で、同じく国家賠償請求を認めるべきとする複数の反対意見が付されながらも、本件最高裁判決の多数意見は、国家賠償請求を否定するに至っている。つまり、立法不作為に伴う国家賠償請求の判断に関しては、意見の対立がみられるのである。立法不作為に伴う国家賠償請求は、他の事案でも問題となるものであり、その意味で本判決を考察することは、本件事案に留まらない重要な意味をもつものと思われる。


Ⅱ 判例要旨
1.憲法22条1項および憲法14条1項違反について

 まず、憲法判断の枠組みに関して、「本件規定は・・・・・・狭義における職業選択の自由そのものに制約を課すものであって、職業の自由に対する強力な制限となるものであ」り、かつ、「本件規定は、障害者である被保佐人を被保佐人でない者と区別して一律に規制の対象とし、精神上の障害を理由として狭義における職業選択の自由そのものを制約するものである」ことから、「本件規定の憲法22条1項適合性の判断と憲法14条1項適合性の判断は、相互に密接に関連し、検討に当たって考慮すべき事項が共通するものであるということができるのであって、上記の各条項との関係で本件規定の合憲性を肯定し得るためには、本件規定による規制が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する」とした。
 そのうえで、「本件規定の目的は、警備業務が他人の生命、身体、財産等の安全を守ることを内容とする業務であることに鑑み、警備業務の実施の適正を図るとともに、依頼者及び第三者から警備員としての信頼を確保し得る者が警備業務に従事することを担保することにあるということができ・・・・・・このような立法目的自体は、重要な公共の利益に合致する」が、しかし、「この目的のために本件規定のような規制措置を設ける必要があるかどうかや、具体的にどのような規制措置が適切妥当であるかを立法府が判断するに当たっては、・・・・・・本件規定が精神上の障害を有することを理由として被保佐人を被保佐人でない者と区別して一律に規制の対象とするとともに、被保佐人の狭義の職業選択の自由を制約するものであることを踏まえると、立法府に広い裁量が認められるものではな」く、「立法府の上記判断がその合理的裁量の範囲を逸脱したと認められる場合には、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反することとなる」とした。
 そして、本件規定の前身規定は昭和57年改正によるが、「準禁治産宣告において審査される判断能力は・・・・・・警備業務を適正に実施するに当たって必要な能力と完全に一致するものではないものの、準禁治産宣告を受けた心神耗弱者については、精神障害による判断能力の低下が公的機関である家庭裁判所によって確認されているのであるから、当時の知見の下では、警備業務の適正な実施を期待することができないとみることには相応の合理性があったということができ・・・・・・しかも、家庭裁判所は、準禁治産宣告をするには、本人の心神の状況について、必ず、医師その他適当な者に鑑定をさせなければならないものとされていたのであるから・・・・・・準禁治産宣告は、精神医学上の検査や診断に基づく、専門的で信頼性の高い判断であったというべきである」一方で、「警備業者については、中小零細の企業が圧倒的多数を占めており」、当時の「警備業者による法令違反等の問題が多発していた状況の下では、警備員の資質につき警備業者による自発的な維持管理を期待することは困難であった」ことから、「昭和57年改正の当時、本件前身規定について、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であるとした立法府の判断が、その合理的裁量の範囲を逸脱するものであったということはできない」とした。
 また、「その後、平成11年民法改正により新たに成年後見制度が導入され、これに伴って本件前身規定は本件規定に改められることになった。また、平成14年改正により7号規定が設けられた」が、「7号規定は・・・・・・精神機能の障害により判断能力が低下した者を対象とする規定であるということはできるものの、保佐開始の審判のように公的機関による判断がされるものではなく、判断の基礎となる資料の収集、分析、評価を含め、警備業者の自発的判断に委ねられているものであるため、本件規定がなくともその立法目的を達成するのに十分なものであるかどうかを直ちに見極めることは困難であったというべきである」として、「平成14年改正の当時においても、・・・・・・立法府の判断が、その合理的裁量の範囲を逸脱するものであったということはできない」とした。
 しかし、「その後、本件退職時点に至るまでに、本件規定を取り巻く諸事情は、変化した」として、「成年後見制度は、主として財産の処分等に関する判断能力に着目したものとして理解されるようになり、成年被後見人等に係る欠格条項については、成年後見制度の利用を阻害するものとして、その見直しが求められることとな」り、「平成22年には、成年後見制度の運用上の改善策に関する研究報告において、成年後見等が開始したとしても、その余の能力が直ちに欠如しているとはいえないなどと評価されるようにな」り、「平成23年から平成25年にかけて障害者権利条約の批准に向けた国内法の整備が進められ、平成26年には同批准がされ、その後、平成28年には障害者差別解消法等が施行され」、「障害者権利条約の批准に伴い整備された国内法は、障害者の定義を新たなものとした上で、障害者が人権を保障され、尊厳を尊重されるべき旨を明示するなどしており、社会における障害の捉え方の変化等を受けて、福祉や保護を中心とした障害者施策を法的な権利の保障を中心とするものへと転換していく流れを反映させたものであった」とした。そして、「これら障害者権利条約の批准やこれに伴う国内法の整備等の一連の動きとあいまって、徐々に障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化が進み、障害者の権利の保障の在り方が大きく変容」し、「障害者の労働、雇用との関係でも、障害者差別解消法等の成立から施行までに約3年の準備期間が設けられ、その施行に向けた準備の過程で障害を理由とする差別の禁止等に関する考え方が行政機関等や事業者に周知されるなどしたことにより、労働者について障害を理由とする差別が禁止されるべきであるとする考え方が確立するに至った」とした。「また、平成28年に制定された利用促進法においても、障害者権利条約や、その批准に伴い整備された国内法の理念が反映され、成年後見制度の利用の促進に当たって、成年被後見人等が基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられるべきこと等が定められるに至っている」が、「その一方で、・・・・・・7号規定は、上記のとおり、本件規定の立法目的を達成するのに十分なものであるかどうかを直ちに見極めることは困難なものであったが、その後、特にその実効性を疑問視させるような事象をうかがうことはできないし、警察庁が平成30年に行った政策評価においては、7号規定が既に設けられているため、本件規定を削除することによる特段の影響は想定されない旨の評価がされている」とした。
 そして、「以上を総合すると、遅くとも本件退職時点までには、被保佐人のうち警備業務を適正に実施するに当たって必要な能力を備えた者が本件規定により一律に警備業務から排除されることによる不利益は、もはや看過し難いものとなっており、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断は、その合理的裁量の範囲を逸脱するに至っていたというべきであ」り「本件退職時点において、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていたというべきである」とした。


2.国家賠償請求について
 次に、国家賠償請求に関して、「前記のように、昭和57年改正の当時、本件前身規定は、憲法22条1項及び14条1項のいずれにも違反するものではなかったが、その後、・・・・・・労働者について障害を理由とする差別が禁止されるべきであるとする考え方が確立したこと等により、本件退職時点において、本件規定は、違憲となるに至っていたものである」が、しかし、「こうした変化等は、その性質上、外形的事実として観察することができるものではなく、容易に看取し得るものではな」く、「障害者権利条約の批准に伴う国内法整備のうち最終段階に当たる障害者差別解消法等の施行、更には利用促進法の施行が平成28年のことであったことからみても、上記のような考え方が確立したのは、本件退職時点とは相当に近接した時期であったことがうかがわれ」、「本件退職時点までに、成年被後見人等に係る欠格条項の見直しの必要性自体は指摘されていたものの、その指摘は、主として成年後見制度の利用を阻害する要因の除去ないし利用の促進の観点によるものであって、成年被後見人等に係る欠格条項に憲法上の問題があることを理由とするものではな」く、「本件前身規定が設けられてから本件退職時点に至るまでに、本件規定や本件前身規定の憲法適合性について論じた学説が発表されていたことはうかがわれず、裁判所においてこの点について判断がされたこともな」く、「そもそも、その余の成年被後見人等に係る欠格条項についても、本件退職時点までに、憲法上の問題があるとした学説はほとんど存在せず、平成25年東京地裁判決※4(脚注筆者)において、成年被後見人が公職の選挙権を有しないとする規定が憲法15条1項等に違反する旨の判断が示されていたものの、同規定と立法目的を異にする職業に関する成年被後見人等に係る欠格条項については、裁判所において違憲である旨の判断がされたことはな」く、「さらに、平成28年5月に利用促進法が施行された後、成年被後見人等に係る欠格条項の見直しに向けた検討が継続され、170余の法律に設けられた成年被後見人等に係る欠格条項の全てについて統一的な見直しの方針が策定された上で、一括整備法等により、令和元年中にいずれも削除されるに至って」おり、「その見直しを行うに当たっては、欠格条項を設けている各種制度の間の整合性にも配慮しながら検討を進める必要があり、このような検討には相応の期間を要するものであ」り、「成年被後見人等に係る欠格条項が設けられた法律が多数ある中で、上記整合性について検討を行うことのないまま、本件規定についてのみ先行して見直しを行うことを要するような事情が存在したことはうかがわれない」とした。
 そして、「以上によれば、本件退職時点において、本件規定が憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったということはでき」ず、「したがって、本件立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない」として、被上告人の請求を認めなかった。
 なお、本判決には、林道晴裁判官の補足意見※5、岡正晶裁判官の補足意見※6、石兼公博裁判官の補足意見※7、安浪亮介裁判官の意見※8、三浦守裁判官の反対意見※9、尾島明裁判官の反対意見※10、宮川美津子裁判官の反対意見※11、高須順一裁判官の反対意見※12、沖野眞已裁判官の反対意見※13がある。反対意見は、いずれも被上告人の国家賠償請求を認めるものである。
 このように多くの補足意見、意見、反対意見が付されているため、レイアウトの関係で、それぞれの概要は文末脚注で記載しておきたい。


Ⅲ 検討
 はじめに述べたように、本件規定は、すでに改正されており、本件最高裁においても全員一致で違憲とされた。そのことに関しては、学説で反対するものは、ほとんどないだろう。また、本判決は、憲法判断の枠組みとして、「本件規定の憲法22条1項適合性の判断と憲法14条1項適合性の判断は、相互に密接に関連し、検討に当たって考慮すべき事項が共通するものであるということができる」として、憲法22条1項と憲法14条1項とを別個に評価するのではなく、合わせて評価する方法を用いている。そのこと自体は、反対意見も含めて裁判官の全員一致であり、適切なものと考えられる。
 ただし、本件規定が違憲となった時期、違憲性が明白となった時期、そして、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったかどうか、に関しては、裁判官の間で意見が対立している。
 そこで、ここでは、本件規定が違憲となった時期、違憲性が明白となった時期等に関する各裁判官の理解を纏めたうえで、それらの違いが生じた理由を検討することを通じて、本判決を評価することにしたい。


1.違憲となった時期と違憲性が明白になった時期
 まず、本件規定が違憲となった時期、違憲性が明白となった時期等に関する各裁判官の理解を纏めておきたい。
 まず、多数意見は、平成14年改正時点では違憲とはいえないが、遅くとも本件退職時点では違憲になっていたとしているものの、「本件退職時点において、本件規定が憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったということはできない」としている。この多数意見の表現は、かなり不明確なものであり、安浪裁判官が指摘するように「本件規定の違憲性が国会において明白であったと評価するものであるか否かは必ずしも明確でない」。したがって、多数意見では、本件退職時点で国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったわけではないとしていることは明らかであるが、違憲性が明白になった時期は明示されていない。補足意見も同様の認識であるといえよう。
 安浪裁判官の意見では、「平成28年頃の時点では、・・・・・・本件規定は・・・・・・憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていた」とし、さらに、「平成28年頃の時点では、国会において、・・・・・・本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反するものとしてその改廃等を行うべきことが明白になっていた」としている。つまり、違憲となった時期と違憲性が明白となった時期とをほぼ同じとしているわけである。このことに関して、安浪裁判官は、「国会自らが法整備を進展させ、これに伴って違憲性が確かなものになったという特別な事情の下にあっては、自然なこと」であるとしている。ただし、本件退職時点では、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったものとはいえないとしている。
 反対意見は、いずれも、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったものとして、国家賠償法上の違法性を認めるものであるが、本件規定が違憲となった時期や違憲性が明白となった時期に関しては、意見が分かれている。
 三浦裁判官は、平成14年改正の時点で違憲となったとしており、さらに、「平成14年改正時において、本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反することは、国会にとって明白であった」としている。三浦裁判官も、(安浪裁判官と時期は異なるものの)違憲となった時期と違憲性が明白となった時期とを同じとしているが、それは、基本的には安浪裁判官と同じ発想によるものといえる。
 尾島裁判官は、違憲となった時期に関しては明確にしていないものの、違憲性が明白となった時期は、三浦裁判官と同様に平成14年改正の時点としている。
 宮川裁判官も、遅くとも平成14年改正の時点で違憲となったとしているが、その時点では違憲性は明白ではなかったとしたうえで、「遅くとも平成23年7月の障害者基本法改正当時には本件規定の違憲性が国会において明白となっていた」としている。
 高須裁判官は、多数意見と同様に平成14年改正の時点では違憲ではなかったとしたうえで、「遅くとも平成22年には立法事実の変遷が認められ、この時期に本件規定は・・・・・・違憲な規定となった」とし、さらに、「遅くとも改正障害者基本法が成立した平成23年7月には、本件規定が憲法に反する違憲なものであることが国会にとって明白となっていた」としている。
 沖野裁判官は、平成14年改正の時点で違憲となったが、違憲性が明白になった時期は、「遅くとも障害者差別解消法の制定及び障害者雇用促進法の改正がされた平成25年6月」として、反対意見のなかでは、違憲性が明白になった時期をもっとも遅く考えている。
 以上の各裁判官における違憲となった時期について、早い時期から纏めれば、次のようになる。
 三浦裁判官は平成14年改正の時点で違憲となり違憲性が明白となったとし、尾島裁判官は違憲となった時期は明確でないものの、同じく平成14年改正の時点で違憲性が明白となったとしている。
 宮川裁判官は、平成14年改正の時点で違憲となったとしながらも、違憲性が明白となったのは平成23年7月としている。沖野裁判官も、平成14年改正の時点で違憲となったとしながらも、違憲性が明白となった時期を反対意見のなかではもっとも遅い平成25年6月としている。
 高須裁判官は、違憲となった時期を平成22年と反対意見のなかではもっとも遅い時期としたうえで、違憲性が明白となった時期を平成23年7月としている。
 安浪裁判官は、平成28年頃に違憲となり違憲性が明白となったとしている。
 多数意見(と補足意見)は、平成14年改正時点では違憲とはいえないが、遅くとも本件退職時点では違憲になっていたとしており、違憲性が明白になった時期は、必ずしも明示されていない。


2.憲法判断の枠組みの意味付け
 では、なぜ、これらの違いが生じたのだろうか。
 その理由の1つには、その前提となる憲法判断の枠組みの意味付けの違いがあるものと思われる。
 すなわち、たとえば、林裁判官の補足意見では、「本件規定の合憲性判断において、憲法14条1項適合性の観点からアプローチしたとして・・・・・・大枠において同様な審査をした上で同じ結論に至ることになる」とし、「多数意見のとおり憲法22条1項適合性を重視したアプローチをとるか、憲法14条1項適合性を重視したアプローチをとるかは、理論的にはいずれもあり得ると考えるが、問題となっている事柄の本質により近いものを採用した方が関係者の理解を得られやすいものになろう」としており、憲法判断の枠組みは、結論を左右する重要なものとは考えられていない。そして、この考え方は、多数意見や他の補足意見も共通するものと思われる。
 それに対して、尾島裁判官の反対意見では、「近代憲法が達成した大きな成果の一つが、身分等によって固定されていた職業をその制約から解放したことにあり、これが社会を豊かにすることに貢献したことは、歴史の教えるところであ」り、「このように職業選択の自由と結び付いた平等保護原則は、最も重要な憲法原則の一つである」ことを前提に、「職業選択の自由という個人の自由権の保障及び平等保護原則という憲法が体現している基本的価値に照らして当該法令をみていくことによって、そこには二つの基本的価値の統合による相乗効果(シナジー効果)が生まれるといってよく、その結果、多数意見のいう『規制が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する』という要件についても・・・・・・具体的な事情を踏まえて厳しく審査することが要求される」とする。そして、尾島裁判官は、「平成14年改正法の施行により違憲が明白になったと十分いい得る」とするわけであるが、そのことに関して、「私の・・・・・・判断は・・・・・・厳しすぎるとみる向きがあるかもしれないが、・・・・・・平等保護原則と職業選択の自由の相互の結び付きによる相乗効果(シナジー効果)をみることにより、これまで余り疑問に思われていなかった制度の中にも不合理な差別が潜むことが分かるということがあるからであ」り、「違憲性の程度が高ければ違憲の明白性を肯定できることもあり得る」として、「違憲性の程度を高めることにつながる相乗効果(シナジー効果)は、違憲の明白性を審査する段階でも関連性がある」とするのである。このように尾島裁判官の反対意見においては、憲法22条1項と憲法14条1項とを合わせて評価することは、シナジー効果を生むものであり、結論を左右する重要な問題ということになる。
 この点に関して、私見を述べれば、「職業選択の自由と結び付いた平等保護原則は、最も重要な憲法原則の一つである」ことを踏まえれば、尾島裁判官が述べるように、具体的事情を踏まえて厳しく審査すべきことになり、その結果、本件規定の違憲性の程度が高まり、また、国会における違憲性の明白性を実際の国会議員の主観ではなく、規範的に客観的状況を捉えるとすれば、尾島裁判官の述べるように、違憲性の程度は違憲性の明白性に影響し得るものと考えられるため、前述のアプローチから本件規定の違憲性の程度を高く捉えた結果、本件規定の違憲性が明白となった時期を早い段階とすることは、非常に説得力のあるものと思われる※14


3.立法事実論で考慮する事情
 また、立法事実論において考慮すべき事情の違いも、重要な点であると考えられる。
 多数意見は、いわゆる立法事実論を展開し、「平成14年改正の当時においても、・・・・・・立法府の判断が、その合理的裁量の範囲を逸脱するものであったということはできない」が、「その後、本件退職時点に至るまでに、本件規定を取り巻く諸事情は、変化した」とし、「遅くとも本件退職時点までには、・・・・・・本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断は、その合理的裁量の範囲を逸脱するに至っていた」としている。
 しかしながら、平成14年改正から本件退職時点に至るまでの多数意見が立法事実論として重視する諸事情に関して、三浦裁判官の反対意見は、次のように疑義を唱えている。すなわち、「障害者権利条約を批准するため国内法が整備され、それとともに、社会における障害の捉え方の変化、福祉や保護を中心とした障害者施策から法的な権利の保障を中心とするものへの転換、障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化等が進んだといえるとしても、こうした諸事情の変化は、様々な社会的障壁を除去する過程であり、もとより、7号規定が本件立法目的を達成し得る実効性についての評価を具体的に左右するものではな」く、「そして、本件規定の必要性及び合理性の判断に具体的に関連しない社会的障壁の除去が進むまでの間、障害者が上記権利の制約による不利益を甘受しなければならず、立法府がこれを看過してよいというのは、いかにも不合理であ」り、「全ての障害者のあらゆる人権及び平等等の保障に関する包括的、総合的な法制度が整備・施行されるまでの間、あるいは障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化が進み、労働者について障害を理由とする差別が禁止されるべきであるとする考え方が確立するまでの間、本件規定を維持することが立法府の合理的裁量として許されるものと解することはできない」としている。
 新しい技術の開発や普及等の客観的な社会事情の変化に伴って、立法当時に想定されていない事情が生じた場合にそれらを考慮するのであれば、立法事実論は非常に説得力をもつものと思われる。しかし、人権侵害を訴える少数者の立場からすれば、多数者の人権意識の変化やそれと相互作用をもつ人権施策の実施等を、それらがあって初めて違憲となる事情と評価するべきではないだろう。三浦裁判官の指摘するように、「障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化が進み、労働者について障害を理由とする差別が禁止されるべきであるとする考え方が確立するまでの間、本件規定を維持することが立法府の合理的裁量として許されるものと解することはできない」はずである。
 このように本件における立法事実論として考慮すべき事情を限定するならば、多数意見のように、違憲性が明白になった時期を遅くすることはできないものと思われる。
 ただし、私見では、人権の普遍性に鑑みれば、平成14年改正で相対的欠格規定が追加されるまでは人権侵害がなかったと評価することも、不合理なものであると考えている。なぜなら、平成14年改正以前でも、職業選択の自由と結び付いた平等保護原則による権利が本件規定により制限されていたことには変わりはないのであり、また、三浦裁判官の指摘するように、「被保佐人に係る成年後見制度と本件規定とは趣旨・目的を異にしており、保佐開始の審判において審査される能力は、警備業務を適正に行うに当たって必要な能力とは必ずしも一致するものではなく、被保佐人の中に、警備業務を適正に行うことができる者が一定程度いる」が、しかし、そのことは、平成14年改正前でも変わらないからである。したがって、平成14年改正前でも、本件規定は、職業選択の自由と結び付いた平等保護原則による権利を過剰に制限する違憲の規定であったと評価すべきではないだろうか。ただ、そのことが明白になった時期が、平成14年改正の時点であったということではないだろうか※15


4.違憲判決の位置付け
 次に、違憲性が明白になったかどうかの判断の考慮事項として、違憲判決がなかったことを重視すべきかどうかである。
 まず、多数意見は、違憲判決がなかったことを重視した判断を示している。
 しかしながら、たとえば、尾島裁判官は、「当該規定や類似の規定を違憲とする裁判例や学説・・・・・・の存在は違憲の明白性を基礎付ける必須の要素であるとはいえず、これらの意見がまだ表明されていなかったからといってそのことが違憲の明白性を否定する積極的な理由にはならない」とし、「裁判例に関しては、本件のような事案に即していうと、被保佐人が警備員の職に就くことを希望したり、既に警備員の職に就いている者が保佐開始の審判を受けることを希望したりした場合に、あらかじめ国を被告として本件規定の違憲確認を求める訴訟を提起して目的を達することには事実上も法律上も困難が伴うから、裁判実務上本件規定の違憲をいう裁判例が現れる可能性はおのずと少なくなろう」としている。また、宮川裁判官は、「訴えが提起されなければ、裁判所は判断もできないが、事案によっては、裁判という手段をとるのが困難な者もいる。警備員に就きたいと希望する知的・精神障害者は、本件規定が存在する以上、保佐制度の利用を断念するか警備員という職業を断念するかの二者択一を迫られることになる。本件のように、職を失うことになるにもかかわらず保佐制度を利用し、本件規定の違憲判断を得るために裁判に訴えるという選択肢は、個人の経済的・精神的負担の重さを考えると、容易にとり得るものではない。本件は、その意味で稀有の事例であって、先例となる裁判例がないのは事案に鑑みて当然のことである。それゆえに、本件の判断において、裁判例がないことを国会にとって本件規定の違憲性が明白にならなかったことの理由の一つとして挙げるのには躊躇を覚える」としている。
 尾島裁判官たちが指摘するように、日本の裁判所による違憲審査制度が付随的違憲審査制度を採用している以上、たとえ法令が違憲であったとしても、必ずしも裁判所による違憲審査が行われるとは限らない。まして、本件事案に即して考えれば、尚更、本件規定に関する違憲審査は行われ難いものと思われる。こうしたことは、他ならない裁判官であれば、当然、熟知している(あるいは、熟知してなければならない)ものと考えられる。そうであるとすれば、たとえ違憲判決がなかったとしても、尾島裁判官たちが指摘するように、そのことを重視するべきではないものと考えられる※16


5.長期にわたる懈怠
 ところで、国家賠償法上の違法性を認めるためには、国会が正当な理由なく長期にわたって立法措置を怠ることが求められるが、それは、どの程度の期間なのであろうか。この点に関して、本判決の反対意見として述べられた沖野裁判官の指摘は重要なものだと思われる。
 すなわち、沖野裁判官は、単なる客観的な期間の長短だけで決まるのではなく、「その懈怠が『長期』にわたるかどうかは、事柄の性質、経緯等に応じて決まる」とするのである。そして、「本件規定については、それが、狭義の職業選択の自由及び平等という憲法上の権利を侵害するものであること、また、その是正措置は当該規定の削除をもって行うことができるものであることから、速やかな対応が要請され、またその実現も容易であって、それが期待されるものであ」り、「成年被後見人等に係る欠格条項全般に対する見直しは、ほかならぬ国会が平成11年から要請していたのであり、そもそもその問題意識が素地にあったこと、また、障害者権利条約の批准のための国内法整備を平成25年末までに完成させ、平成26年に同条約を批准するという政府及び国会のタイムスケジュールからすれば、明白に違憲である本件規定の削除は、それまでに完成させるべきもので」、「さらに、本件規定は平成14年改正によって違憲となっていたこと、その違憲性が、平成14年改正段階において見過ごされていたという事情も考慮され」るとして、沖野裁判官の考える違憲性が明白となった時期である平成25年6月から「本件退職時点(平成29年3月)までは、4年弱という期間」であり、「絶対的な期間としては短期といわざるを得ない」けれども、「本件退職時点において、本件規定が憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったということができ」るとするのである。
 懈怠が長期にわたるとされる期間は、もともと、判例上、必ずしも明確なものではなく、少なくとも多数意見は、その期間を明示していない。その意味では、沖野裁判官のように、客観的な期間の長短だけで決めるのではなく、事柄の性質や経緯等に応じて総合的に判断する手法は、従来の判例と矛盾するものではなく、妥当なものだと考えられる※17。そして、尾島裁判官が述べるように「職業選択の自由と結び付いた平等保護原則は、最も重要な憲法原則の一つであ」り、そのことを前提に憲法22条1項と憲法14条1項とを合わせて評価する判断枠組みを用いるとすれば、客観的な期間は短かったとしても、やはり長期にわたって立法措置を怠ったものとして、国家賠償法上の違法性が認められるべきであろう。


6.小括
 このようにしてみると、多数意見(と補足意見)は、憲法22条1項と憲法14条1項とを合わせて評価する判断枠組みを用いながらも、「職業選択の自由と結び付いた平等保護原則は、最も重要な憲法原則の一つである」ことを十分に考慮せずに違憲性の程度やそれに関連する違憲性の明白性の程度を過少に評価しており、社会的障壁を除去するプロセス、社会や国民の意識の変化、あるいは違憲判決がないこと等、立法事実論において考慮すべきではない事情まで考慮することで、本件規定が違憲となった時期、あるいは違憲性が明白になった時期を不当に遅らせてしまったといえるのではないだろうか。
 本判決に限らず、近年、司法において、しばしば立法事実論が展開されているが、そこで考慮する事情を不当に拡大すれば、過去の人権侵害や違憲性を隠蔽することになりかねない。多数意見は、まさに、そうした懸念を顕在化したものと思われる。


Ⅳ おわりに
 三浦裁判官は反対意見において、「成年被後見人等に係る欠格条項の見直しについては、平成28年制定の利用促進法の定める基本方針に基づき、政府の検討を経て、令和元年、本件規定の削除を含む一括整備法が成立したが、平成11年附帯決議は、上記基本方針と同じ趣旨であるから、その内容が約20年をかけて実現したことになる。障害者に係る欠格条項の見直しが平成5年計画に基づいて行われたことに照らしても、あまりにも遅きに失したといわざるを得ない」としたうえで、「この問題には、昭和23年の優生保護法の制定及びその後の経緯等にみられるとおり、国会及び政府が、更に長い歳月にわたり、精神上の障害を有する者等に関する誤った認識に基づく違法な政策や不当な対応を続けてきたという歴史が重なっている」とし、「これらに伴う我が国の社会的障壁を除去するには、国及び地方公共団体をはじめとして、なお格段の努力が必要と考えられる。裁判官及び裁判所も例外ではない」と指摘する。この指摘は、非常に重いものである。
 そして、三浦裁判官は、「一括整備法による成年被後見人等に係る欠格条項の見直しに当たっては、同欠格条項の多くについて、その代替措置として、7号規定と同様に、法律において『心身の故障により、業務を適切に行うことができない者として省令で定めるもの』といった個別審査規定が設けられた上で、省令等において『精神の機能の障害により業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者』といった規定が設けられ」、「現在、個別審査を前提としながらも、精神機能の障害を理由とする欠格条項が数多く存在する」が、「障害は、機能障害を有する者と社会の障壁との間の相互作用であり・・・・・・社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならないこと・・・・・・や、障害者の雇用の分野においても、事業者において障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならないこと・・・・・・等を前提にすると、上記欠格条項は、合理的な配慮の提供との関係が明らかではなく、障害者の機能障害に偏ったものとなっている」とし、「この問題に関する長い歴史に鑑み、適切な対応が望まれる」としている。
 また、愛知県弁護士会では、本判決を受けて、2026年2月27日に「旧警備業法欠格条項違憲判決(令和8年2月18日最高裁大法廷)に関する会長声明」を出している。そこでは、「当会は、国に対し、残された課題として、現在も残置されている相対的欠格条項が障害を理由とする新たな差別として働くことのないよう必要な措置を講じること、さらに、間近に迫った成年後見制度の改正においても、本判決の理念・内容を踏まえ、適切な立法がなされることを強く求める」としている※18
 本件規定が違憲であることは当然のことであり、すでに改正されてはいるものの、それですべてが解決したわけではない。本件規定が違憲とされたことは、むしろ、相対的欠格事由規定の運用や関連する他の領域も含めて、今後の適切な対応を促進するための一歩であると考えるべきであろう。



(掲載日 2026年6月9日)

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  • 詳細は、最大判令和8年2月18日WestlawJapan文献番号2026WLJPCA02189001を参照のこと。
  • 詳細は、岐阜地判令和3年10月1日WestlawJapan文献番号2021WLJPCA10016003を参照のこと。
  • 詳細は、名古屋高判令和4年11月15日WestlawJapan文献番号2022WLJPCA11159002を参照のこと。
  • 東京地判平成25年3月14日WestlawJapan文献番号2013WLJPCA03146001を参照のこと。
  • 林道晴裁判官の補足意見。林裁判官は、「多数意見に賛同するものであるが、その憲法適合性判断の趣旨等について補足して意見を述べる」として、次のように述べている。すなわち、「多数意見のとおり憲法22条1項適合性を重視したアプローチをとるか、憲法14条1項適合性を重視したアプローチをとるかは、理論的にはいずれもあり得ると考えるが、問題となっている事柄の本質により近いものを採用した方が関係者の理解を得られやすいものになろう」とした。また、国会の合理的裁量の範囲を逸脱するに至る過程に関して、「障害者を保護の『客体』とし、福祉や保護を中心としたものであった障害者施策から、むしろ障害者を権利行使の『主体』とし、その法的な権利の保障を充実させる障害者施策を中心としたものへ転換させていった・・・・・・ことに注目すべきであろう」として、「こうしたパラダイム転換の明示的な契機となり推進力となったのは、障害者権利条約の批准やその批准に向けてされた国内法の整備等の一連の動きであるが、その動きが進むことと並行して、社会や国民の意識もこうしたパラダイム転換が当然のことであると認識し、転換を踏まえた障害者施策が今後も推進されていく・・・・・・べきであるとの意識が時間をかけて浸透し深まっていったものと考えられ」、「この一連の法的な整備等の動き、それとあいまって進んだ社会・国民の認識・意識の深化によって、本件規定により一律に被保佐人が警備業務から排除されることの不利益が看過し難いと評価されるものとなり、本件規定の規制措置の必要性・合理性についての立法府の判断が合理的裁量の範囲を逸脱すると確定的に判断できる状態となっていった」とし、「本件規定の違憲性は、このような時間の経過をたどって高まり確定的なレベルに達したと評価できるものであることから、憲法違反となった時期を一義的に捉えることは困難である」とした。そして、多数意見が、「本件規定が違憲となるに至った具体的な時期を明示していないのは、以上のような理由によるものである」とした。
  • 岡正晶裁判官の補足意見。岡裁判官は、立法不作為に伴う国家賠償法上の違法性に関して補足意見を述べている。すなわち、「多数意見・・・・・・の判断枠組みのうち『法律の規定が憲法の規定に違反することが明白であること』について・・・・・・次のような事情をも考慮の上、慎重に判断することが相当と考える」として、以下の点を挙げている。「まず第1に、違法か否かが問題となる行為の主体は、立法府(国会議員)であ」り、「立法不作為が国家賠償法上違法と評価されるのは、立法府が一定の立法義務を負うことを前提に、これを怠ったと評価される例外的な場合である」こと、「第2に、法律の規定が憲法の規定に違反する場合、本来は、立法府自らが当該法律の規定の改正ないし廃止を行うことによってその是正を図るべきであり、・・・・・・国が個々の国民に対して国家賠償法に基づく損害賠償責任を負うのは、上記対応だけでは不十分な場合の例外的な救済措置というべきである」こと、「第3に、国会議員の立法不作為につき国家賠償法に基づく損害賠償責任を認めるということは・・・・・・国庫から損害賠償金(金銭)を支払うことを意味」し、「この場合に支払請求をすることができる者は、法律の規制が通常一定の広がりを持つことから、通常、一人ではなく、複数又は多数になる場合が多いと思われ」ることである。そして、「『明白である』か否かの判断においては、基準となる時点において、国会議員の多数が『法律の規定が憲法の規定に違反する』と判断・認識すべきであったといえるか否かが問題とされるべきであって、・・・・・・現実の判断・認識がない場合でも、仮に、当時、国会議員が意識的かつ合理的に検討したならば、容易に、上記の判断・認識に到達していたであろうといえる場合等が含まれる」としつつも、「上記・・・・・・の各事情を踏まえると、この点の判断は慎重に行う必要がある」とした。そのうえで、「成年被後見人等に係る欠格条項に関する立法の経緯からすると、国会議員の多くは、『憲法に示された価値・理念をより充実させるために望ましい法改正をする』という判断・認識から、利用促進法を制定し、欠格条項の見直しを行ったものであり、成年被後見人等に係る欠格条項が『憲法の規定に違反する』ので直ちに削除等しなければならないという判断・認識には立っていなかったことがうかがわれ」、「前者の判断・認識に至っていたことから、直ちに、後者の『憲法の規定に違反する』との判断・認識に至ることが容易であったという評価をすることはできない」とし、「『憲法の規定に違反する』という判断・認識が複雑な判断を伴うものであること、明白性の判断は慎重に行う必要があることを踏まえると、利用促進法制定時又は本件退職時点において、仮に国会議員が意識的かつ合理的に検討したならば、容易に上記の判断・認識に到達していたであろうというためには、そのような複雑な判断に到達することを可能にするような客観的な契機、事情等が必要である」とした。しかしながら、「本件退職時点において、国会議員の多数が『本件規定は憲法の規定に違反している』と現実に判断・認識していたとは認められないのはもとより、本件退職時点において、仮に、国会議員が本件規定の憲法適合性につき意識的かつ合理的に検討したならば、容易に、上記の判断・認識に到達していたであろうといえるだけの客観的な契機、事情等があったことはうかがわれない」ことから、「本件退職時点において、『本件規定が憲法の規定(22条1項及び14条1項)に違反することが明白であった』とはいえない」とした。
  • 石兼公博裁判官の補足意見。石兼裁判官は、「障害者権利条約(以下、本意見において「条約」ともいう。)との関連で若干の補足意見を述べる」とし、次のように述べている。すなわち、本件事案に関わる「一連の法整備、法改正は・・・・・・我が国と障害者の権利に関わる国際社会の様々なプレイヤーとの間の一連の相互作用を経た結果でもあり、そうした相互作用を捨象して考えることは適当でない」としたうえで、「障害者権利条約が採択され、国内法の整備を経て条約が批准に至ったという一連の動きとあいまって、障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化が進み、障害者の権利の保障の在り方が大きく変容しており、これにより、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反するに至ったものであるが、そこに至るまでに、我が国と国際社会との間には・・・・・・相互作用が生じ、障害者の権利保障の在り方に関する国内の議論に反映されてきたということができる。そして、・・・・・・一連の動きが生じた時期との関係を踏まえると、障害者の権利の保障の在り方が大きく変容し、本件規定が違憲となるに至ったのは、本件退職時点に相当近接した時点であった」とし、「また、このような我が国と国際社会の相互作用といった一連のプロセスを考えれば、上記時点において、本件規定は、障害者権利条約とも整合的でないものとなるに至っていたということができよう」とした。
  • 安浪亮介裁判官の意見。安浪裁判官は、「多数意見の結論については賛同するが、国家賠償法上の違法性をめぐる点において多数意見と一部見解を異にする」として、次のように述べている。すなわち、「国会は、主に平成23年以降、障害者の権利保障と成年被後見人等に対する権利制限の縮減等を推進するための法整備を着実に積み重ね、障害者差別解消法及び利用促進法が施行された平成28年には、成年被後見人等をはじめ精神上の障害を有する者につき、法律の規定上、正面から『基本的人権の尊重』、『個人の尊厳』、『不当な差別的取扱いの禁止』等といった憲法の人権理念に関わる文言を揃って用いて、その人権が侵害されないように必要な施策を講ずるべきことを国の基本方針として明らかにするに至った。そして、・・・・・・利用促進法が基本方針の一つとして既存の権利制限条項について検討を加えて必要な見直しを早期に行うべきことを定めたこと・・・・・・の根底には、必要な立法措置が講じられないままでは人権侵害が生ずる場合があるとの認識があったものと捉えるべきであ」り、「令和元年の一括整備法の制定等によって本件規定を含む多数の権利制限条項が一斉に削除されるに至ったのは、それまでの障害者の権利保障と成年被後見人等に対する権利制限の縮減等の推進に関する法整備の積み重ね等を踏まえた国会の合理的判断の下に、利用促進法9条の規定に従い、憲法の人権理念を速やかに実現しようとして行われたものと位置付けて理解すべきであ」るとし、「以上の事情を踏まえて考えると、国会によって上記一連の法整備が進められた平成28年頃の時点では、既存の権利制限条項の中には、憲法の人権理念に反するものが相当数存在する状況になっていた」とした。そのうえで、「本件規定についてみると、平成14年改正によって既に7号規定が設けられ、・・・・・・平成23年以降の法整備の進展状況等を併せて考えれば、平成28年頃の時点では、・・・・・・本件規定は・・・・・・憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていた」とし、前述の「法整備は、いずれも国会が自ら進めたものであり、平成28年頃の時点では、国会において、成年被後見人等を含む障害者の権利問題等に関する立法行為を積み重ねてきたことにより、憲法の人権理念を更に推し進めて合理的な検討を適切に行えば、本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反するものとしてその改廃等を行うべきことが明白になっていたと評価するのが相当である」とした。したがって、「多数意見は、平成29年3月(本件退職時点)において、本件規定が憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったということはできないと判示する」が、「本件規定の違憲性が国会において明白であったと評価するものであるか否かは必ずしも明確でな」く、これが「国会においてその違憲性が明白であったとは認められないとするものであるならば、私はこれに賛同することができない」とした。そして、前述のように、「本件規定の違憲性が確定した時期と国会においてその違憲性が明白になった時期が同じ頃と考えるものであるが、これは、上記のように国会自らが法整備を進展させ、これに伴って違憲性が確かなものになったという特別な事情の下にあっては、自然なことと考える」とした。しかしながら、「被上告人の本件退職時点との関係では、平成28年頃から平成29年3月までの間には約1年の期間しかないため、国会において正当な理由なく長期間にわたって本件規定の改廃等の立法措置を怠っていたと評価することはできない」ことから、「多数意見の結論について賛同するものである」とした。
  • 三浦守裁判官の反対意見。三浦裁判官は、反対意見を次のように述べている。まず、「被保佐人に係る成年後見制度と本件規定とは趣旨・目的を異にしており、保佐開始の審判において審査される能力は、警備業務を適正に行うに当たって必要な能力とは必ずしも一致するものではなく、被保佐人の中に、警備業務を適正に行うことができる者が一定程度いる」ところ、平成14年改正による「7号規定は、・・・・・・個別の審査により、警備業務を適正に行うことができないと認められる者を警備業務から排除しようとするもので・・・・・・必要な資料の収集等を通じて、警備業務を適正に行うに当たって必要な能力の有無を個別的、実質的に審査することを前提にするものと解され」、「立法府は・・・・・・本件立法目的のために必要かつ相当な規制措置として7号規定を定めた」とした。しかし、「多数意見は、7号規定について、・・・・・・本件規定がなくとも本件立法目的を達成するのに十分であるかどうかを直ちに見極めることは困難であったとしている」が、「7号規定に関し、警備業者による資料の収集、分析及び評価を通じた判断に委ねることの妥当性についても、中小零細企業が多数を占める点を含め、警備業に関する様々な実情を踏まえた検討が行われたものと考えられ」、「警備業者としては、診断書や誓約書の提出、面接調査、教育・指導等により、必要な資料を収集して、相応の根拠に基づく分析及び評価を行い、自らの事業の内容や状況等に応じ、その指揮監督の下で特定の警備業務を適正に行うに当たって必要な能力を有するか否かを実質的、具体的に判断することができるものと考えられる。そして、この個別審査は、警備業者にとっても、自らの警備業務の実施の適正を図るとともに、依頼者等からの信頼を確保し得る警備員の能力を担保するものであるから、これを適切に行うことは、自らの事業の継続及び発展のために極めて重要であり、それを期待することができ」、「行政府としても、7号規定の適正な実施が確保されるよう、公安委員会が警備業者を適切に監督するとともに、必要に応じ内閣府令又は通達・通知等により具体的な措置や指針等を示すなど、適切な措置を講ずべき責務を有する」ことからすれば、「上記個別審査が、公的機関による判断ではなく警備業者の自発的判断に委ねられるといっても、適切な監督等の下において、上記実効性に関する問題が現実に生ずる具体的な懸念があるとはいえ」ず、「平成14年改正時の国会の審議においても、本件立法目的の達成を懸念する議論はうかがわれ」ず、「立法府は、以上の経緯等を前提として、本件立法目的のため必要かつ相当な規制措置として7号規定を定めたものということができる」とした。また、「本件規定がないとしても、7号規定は、本件規定に当たる者を除外していないから、・・・・・・保佐開始の審判を受けている場合も、それを受けていない場合も、同様に、個別審査を行うことになる。この個別審査において、・・・・・・上記審判を受けている事実を一つの事情として適切に考慮した判断が、・・・・・・本件立法目的を達成するのに不十分というべき理由はない。むしろ、現に、警備業者の指揮監督の下で特定の警備業務を適正に行っている警備員が、財産上の法律行為についての支援を受けるため保佐開始の審判を受けるに至ったとしても、警備業務を適正に行うことができることは明らかであり、本件立法目的のためにその警備業務の継続を禁止することは著しく不合理である」とした。そして、「平成14年改正時の国会の審議において」、7号規定と本件規定の「両規定の関係についての議論が行われたものとはうかがわれないこと等に鑑みると、立法府として、上記重複を認識して放置することを意図しながら、本件規定を維持したものと解することはできない。むしろ、・・・・・・7号規定と本件規定の重複を看過し、両規定の関係についての基本的な検討を怠り、漫然と、本件規定を維持したものといわざるを得」ず、「このような立法府の判断は、その合理的裁量によるものという実体を欠いている」とした。したがって、「平成14年改正時において、7号規定という個別審査規定を前提にして、本件規定により、警備業務を適正に行うに当たって必要な能力を備えた被保佐人を一律に警備業務から排除することは、本件立法目的のために過剰な規制であって必要かつ合理的な措置とはいえないことが明らかであり、上記被保佐人が自由かつ平等な職業選択を制約されることによる不利益は看過し難いものというべきであ」り、「平成14年改正時において、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断は、その合理的裁量を逸脱するに至っていたものである」とした。また、「平成14年改正時において、本件規定がなくとも本件立法目的を達成するのに十分であるかどうかを直ちに見極めることは困難であったとする多数意見に賛同することはできないが、仮に、この多数意見の立場に立つとしても」、7号規定の施行後、「特にその実効性を疑問視させるような事象もうかがわれないことや、7号規定及びそれに基づく規則3条1項がそのまま維持されていること等をも踏まえると、上記個別審査については、警備業務を適正に行うことができない者が適切に排除されないという問題もなく、適正に実施されていたものと考えられ」、「7号規定については、その施行後、さほど遅くない時期において、その実効性の問題は解消していたというべきであ」り、また、「障害者権利条約を批准するため国内法が整備され、それとともに、社会における障害の捉え方の変化、福祉や保護を中心とした障害者施策から法的な権利の保障を中心とするものへの転換、障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化等が進んだといえるとしても、こうした諸事情の変化は、様々な社会的障壁を除去する過程であり、もとより、7号規定が本件立法目的を達成し得る実効性についての評価を具体的に左右するものではな」く、「そして、本件規定の必要性及び合理性の判断に具体的に関連しない社会的障壁の除去が進むまでの間、障害者が上記権利の制約による不利益を甘受しなければならず、立法府がこれを看過してよいというのは、いかにも不合理であ」り、「全ての障害者のあらゆる人権及び平等等の保障に関する包括的、総合的な法制度が整備・施行されるまでの間、あるいは障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化が進み、労働者について障害を理由とする差別が禁止されるべきであるとする考え方が確立するまでの間、本件規定を維持することが立法府の合理的裁量として許されるものと解することはできない」とした。そして、「その間、警備業務を適正に行うことのできる被保佐人が、本件規定により一律に警備業務から排除され、憲法が保障する権利を制約されることによる不利益を甘受すべき理由はな」く、「取り分け、本件規定が違憲となるに至っていたことやその時期についての判断において、労働者について障害を理由とする差別が禁止されるべきであるとする考え方が確立したという事情を理由とすることは、少数者の権利の保障が多数者の承認を条件とすることにつながりかねない。そのような条件が、基本的人権の保障及び個人の尊重という憲法の基本理念に反することは明らかである」とした。したがって、「仮に、多数意見の上記立場に立つとしても、7号規定の施行後、さほど遅くない時期において、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断は、その合理的裁量を逸脱するに至っていたものであって、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反していたというべきである」とした。そして、「国会は、本件立法目的のために必要かつ相当な規制措置として7号規定を定めたものであり、平成14年改正時において、7号規定という個別審査規定を前提にして、本件規定により、警備業務を適正に行うに当たって必要な能力を備えた被保佐人を一律に警備業務から排除することは、本件立法目的のために過剰な規制であって必要かつ合理的な措置とはいえないことは明らかであ」り、「平成14年改正時において、本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反することは、国会にとって明白であったというべきである」とした。「したがって、本件規定は平成14年改正時において憲法22条1項及び14条1項に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく本件退職時点まで長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったものということができるから、本件立法不作為は国家賠償法1条1項の適用上違法である」とし、「本件立法不作為の違法を理由とする慰謝料請求を認めた原審の判断は結論において是認することができるから、本件上告を棄却するのが相当である」とした。
  • 尾島明裁判官の反対意見。尾島裁判官は、反対意見を次のように述べている。まず、「近代憲法が達成した大きな成果の一つが、身分等によって固定されていた職業をその制約から解放したことにあり、これが社会を豊かにすることに貢献したことは、歴史の教えるところである。このように職業選択の自由と結び付いた平等保護原則は、最も重要な憲法原則の一つであるから、これを制限する法令の憲法適合性を審査するに当たっては、憲法22条1項及び14条1項に適合するか否かの検討・判断を別個に設定したそれぞれの審査基準等に照らして行うのではなく、それらを併せ一まとめにして行うべきである。また、職業選択の自由という個人の自由権の保障及び平等保護原則という憲法が体現している基本的価値に照らして当該法令をみていくことによって、そこには二つの基本的価値の統合による相乗効果(シナジー効果)が生まれるといってよく、その結果、多数意見のいう『規制が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する』という要件についてもこれを満たすか否かは、抽象的、観念的に行われる想定からだけでなく、具体的な事情を踏まえて厳しく審査することが要求される」とした。そのうえで、「違憲の明白性の有無を判断するに当たって最も重要な要素は、立法機関の構成員である国会議員が制定した又は制定しようとする法律の規定内容自体(過去からの立法状況も含めて)のありようであ」り、「また、問題となった規定内容以外の関連する他の法令(条約を含む。)の制定や改正等に向けてされた取組、議論等の客観的状況も、立法行為を支えるものとして、当然に合理的立法者であれば考慮すべきであるといえる」とした。そして、「当該規定や類似の規定を違憲とする裁判例や学説・・・・・・の存在は違憲の明白性を基礎付ける必須の要素であるとはいえず、これらの意見がまだ表明されていなかったからといってそのことが違憲の明白性を否定する積極的な理由にはならない」とし、「裁判例に関しては、本件のような事案に即していうと、被保佐人が警備員の職に就くことを希望したり、既に警備員の職に就いている者が保佐開始の審判を受けることを希望したりした場合に、あらかじめ国を被告として本件規定の違憲確認を求める訴訟を提起して目的を達することには事実上も法律上も困難が伴うから、裁判実務上本件規定の違憲をいう裁判例が現れる可能性はおのずと少なくなろう」とし、「学説に関しては、ある法令の規定の憲法適合性に関心や疑問を示す学説が存在しなかったことが、現に当該規定により権利を侵害されている者の権利行使の範囲を狭めることになると考えることもできない」とした。また、「違憲の明白性は・・・・・・遅くとも違憲判断の基準時(本件では本件退職時点である平成29年3月)から違憲の法令を改廃するために必要な合理的期間を遡った時点では明白であったということで足りることになる」とし、「平成14年改正に係る法律(以下「平成14年改正法」という。)の施行後に7号規定だけの運用では警備業者の実務運用に支障があるのでやはり被保佐人の一律排除も必要であるなどと指摘された形跡もないこと(むしろ、一括整備法により被保佐人の欠格事由を削る際に、警察庁は、その時点までの具体的な事情を踏まえるというより、7号規定が既に設けられているから特段の影響が想定されないとの評価をしている。)にも鑑み、平成14年改正法の施行により違憲が明白になったと十分いい得る」とした。そして、「私の・・・・・・判断は、立法府の制度設計に係る裁量を考慮し、結局は一括整備法によって本件規定を削っていることに鑑みると、厳しすぎるとみる向きがあるかもしれないが、本件の国家賠償法上の違法性に係る状況を厳格にみる必要があるのは、前記のように近代社会の歴史を振り返ると、平等保護原則が職業選択の自由がなかった過去の制度を変革し、社会を豊かなものにする原動力になったという事実があるからであって、こういうように平等保護原則と職業選択の自由の相互の結び付きによる相乗効果(シナジー効果)をみることにより、これまで余り疑問に思われていなかった制度の中にも不合理な差別が潜むことが分かるということがあるからである。憲法適合性の問題(違憲か否かの問題)と違憲の明白性の問題(国家賠償法上違法か否かの問題)をはっきり分けてしまうと、相乗効果(シナジー効果)は、憲法適合性の問題において論ずべきものであって、違憲の明白性との関連性は一見希薄なようにみえる。しかし、私は、憲法適合性の問題と違憲の明白性の問題は一つながりの相互に影響し合うものと考えている。つまり、ある規定が違憲とされても、その違憲性の程度には強弱があり(当審判例で違憲とされた旧優生保護法の規定と本件規定を比べてみれば明らかである。)、違憲の明白性を判断する客観的状況(問題となった規定や他の関連規定のありようなど)にも濃淡があるから、事案によっては、上記客観的状況からは一義的断定をするのに躊躇されるようなところがある場合であっても、違憲性の程度が高ければ違憲の明白性を肯定できることもあり得ると考えている。そうすると、違憲性の程度を高めることにつながる相乗効果(シナジー効果)は、違憲の明白性を審査する段階でも関連性があるということになるはずである」とした。そのうえで、「違憲であることが明白になっている法律がある以上、国会がこれを直ちに是正しなければならないことは当然の義務であるところ、本件規定の違憲を是正するには、既に平成14年改正法で7号規定として相対的欠格事由(個別審査規定)が導入されているのであるから、警備業法3条1号から『被保佐人』の部分を削ることで足り、これに伴う他の規定の整備も不要であって、立法技術的には容易であるといえ」、「そうすると、平成14年改正法の施行により違憲が明白になった以上、その後更なる障害者の権利擁護と障害者に対する配慮の高まりの中で、警備員について被保佐人をその精神上の障害を理由に一律に排除すべき必要性を基礎付ける事情も生じていないことから、一括整備法の施行まで15年余りもの期間にわたって国会が本件規定の改廃を怠ったことは不合理であったというべきである」とした。
  • 宮川美津子裁判官の反対意見。宮川裁判官は、反対意見を次のように述べている。すなわち、「平成14年改正によって7号規定が設けられた後は、保佐の制度の対象となる『精神上の障害』(民法11条)を持つ者は、7号規定の対象となる『精神機能の障害』を持つ者に含まれるということができるのであるから、警備業者が警備員を採用する際には、被保佐人についても、保佐の制度を利用していない障害者と同様に7号規定により個別審査を行って、警備業務を適正に行う能力があるかどうかを判断することが可能となった。したがって、平成14年改正で7号規定を追加したことにより、・・・・・・本件規定の必要性や合理性は失われたと考えられる」としたうえで、「成年後見制度の下で要求される財産管理能力と事実行為である警備業務を適切に遂行する能力とは質的に異なるものである。したがって、保佐開始の審判において、警備業務を適切に遂行する能力を的確に判定し得るものではな」く、「警備業務には多様な業務が含まれており(警備業法2条1項各号)、被保佐人であるからといって全ての警備業務が適切に遂行できないというわけではな」く、「本件規定については、警備業務を行う能力のある被保佐人を警備員から排除する可能性を含み、過剰な規制になっていた」とし、「また、平成14年改正の国会審議において、多数意見が挙げるような7号規定の実効性への懸念が示されていた形跡はうかがわれ」ず、「本件規定があることでどれだけの不適格者をスクリーニングできていたのかは明らかではなく、仮に平成14年改正の時点で本件規定が削除されたとした場合に、それまで排除されてきた不適格者がどの程度排除できなくなっていたのかも明らかではない」とした。そして、「国会が7号規定による警備業者の自発的審査の実効性に対する懸念から本件規定を残置したのであれば、それは、警備業者の審査能力を不当に過小評価するものであ」り、「多数意見が指摘するように、警備員の適格性を警備業者の自発的判断に委ねると、不適格な警備員が採用され、利用者の安全や財産を害するおそれがあるとしても、それがどの程度のものであったか明らかではなく、平成14年改正当時において、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることに関する立法府の判断の合理性を肯定し得るような事情や立法事実は認められない」とした。「したがって、本件規定は、遅くとも平成14年改正当時には、憲法22条1項及び14条1項に違反するに至り、本件退職時点においても違憲であった」とした。次に、「平成14年改正の当時、本件規定は違憲となっていたものの、国会においてその違憲性が明白になっていたとはいい難い」としつつも、「成年後見制度研究会の研究報告や成年後見法世界会議の横浜宣言により、成年被後見人等に係る欠格条項が、国会が検討すべき事項として再認識される機会を得たと考える。そして、我が国の障害者対策の基本法である障害者基本法が改正され、全ての国民が障害の有無にかかわらず等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念を掲げ、障害を理由とする障害者に対する差別その他の権利利益の侵害行為を禁止するとともに、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならないことを国民に明示した平成23年7月頃までには、国会において、本件規定が障害者の職業選択の自由を過度に制限し、保佐の制度を利用した障害者に不合理な差別を行うものとして、その違憲性が明白となっていたというべきである」とした。また、「多数意見は、本件前身規定が設けられてから本件退職時点に至るまでに、裁判所において本件規定や本件前身規定の憲法適合性について判断がされたことがなかったこと、・・・・・・職業に関する成年被後見人等に係る欠格条項については、裁判所において違憲である旨の判断がされたことはなかったことを、国会にとって本件規定の違憲性が明白にならなかった事情の一つとして挙げている」が、「訴えが提起されなければ、裁判所は判断もできないが、事案によっては、裁判という手段をとるのが困難な者もいる。警備員に就きたいと希望する知的・精神障害者は、本件規定が存在する以上、保佐制度の利用を断念するか警備員という職業を断念するかの二者択一を迫られることになる。本件のように、職を失うことになるにもかかわらず保佐制度を利用し、本件規定の違憲判断を得るために裁判に訴えるという選択肢は、個人の経済的・精神的負担の重さを考えると、容易にとり得るものではない。本件は、その意味で稀有の事例であって、先例となる裁判例がないのは事案に鑑みて当然のことである。それゆえに、本件の判断において、裁判例がないことを国会にとって本件規定の違憲性が明白にならなかったことの理由の一つとして挙げるのには躊躇を覚える」とした。そのうえで、「平成26年1月の障害者権利条約の批准、同年2月の同条約の発効により、我が国は、障害者に対する差別となる既存の法律等を修正し、廃止するための全ての適当な措置(立法を含む。)をとること、障害者が他の者との平等を基礎として労働についての権利を有することを認め、あらゆる形態の雇用に係る全ての事項(募集、採用及び雇用の条件、雇用の継続等)に関し、障害に基づく差別を禁止するための適当な措置(立法を含む。)をとること等が責務となっていた。したがって、同条約批准・発効後は、国会はより速やかな本件規定の改廃措置をとるべき状況だったといえ」、「遅くとも平成23年7月の障害者基本法改正当時には本件規定の違憲性が国会において明白となっていたにもかかわらず、国会が本件退職時点まで本件規定の改廃を怠ったことは、国家賠償法1条1項の適用上違法と評価されるものと考える」とした。
  • 高須順一裁判官の反対意見。高須裁判官は、反対意見を次のように述べている。まず、「平成14年当時までの社会的、経済的、あるいは政治的な諸状況に鑑みれば、この当時の段階で本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反すると判断することは困難であったといわざるを得」ないが、しかしながら、その後、「平成21年12月に内閣に、『障がい者制度改革推進本部』が発足し、さらに、同本部の下で、・・・・・・『障がい者制度改革推進会議』が平成22年1月から開催され」、平成22年6月に「障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)」が公表され、また、「平成21年5月に、成年後見制度に造詣の深い学者、同制度に携わる関係団体、関係機関が一堂に会して成年後見制度研究会が組織され」、「同研究会は平成22年7月に研究報告(以下「報告書」という。)を公表し」、「さらには、平成22年10月に第1回成年後見法世界会議が横浜で開催され、『横浜宣言』が発出されて」おり、「これら三つの事実はいずれも平成21年から22年当時のものであ」り、「政府、成年後見実務に関わる関係者、研究者の認識や国際的な動向という様々な社会領域において、同時期に、障害者の人権の保護、そして、多くの法令に存在する成年被後見人等の資格制限に関する規定の見直しの必要性が指摘された事実は極めて重要な立法事実というべきであ」り、「これらの一連の活動を一体的に俯瞰することにより、障害者に対する一般社会の意識の変化、すなわち、第一次意見が明示するところの、市民との実質的な平等を基礎とした人権法に向けたパラダイムの転換の動きが我が国社会の多方面において生じるに至ったということができる」とした。そして、「このような社会状況の変化を注意深く検討するならば、平成21年から22年に生じたこれらの一連の出来事を一体的に捉え、立法事実の変遷をこの時点で認めることが可能というべきである」とし、「遅くとも平成22年には立法事実の変遷が認められ、この時期に本件規定は憲法22条1項及び14条1項に違反する違憲な規定となった」とした。次に、「障害者基本法は文字通り障害者に関する法規の基本たる法律であり、かつ、改正障害者基本法は・・・・・・法律の性格を要保護者に対する対策法的な性格から人権の主体たる地位の確保のための法律へと抜本的に変えたものであるから、このような改正を国会が自ら行ったことは、違憲であることが国会において明白となった旨を根拠付けるというべきである」ことから、「遅くとも改正障害者基本法が成立した平成23年7月には、本件規定が憲法に反する違憲なものであることが国会にとって明白となっていた」とした。そして、「実際に本件規定が一括整備法により削除されたのは令和元年6月のことであり、改正障害者基本法の公布・施行から約8年の期間を要し」、「被上告人が警備員退職を余儀なくされた本件退職時点まででも5年半余の期間を経過している。この間多数の立法がされながら本件規定に関する何らの改正もなされなかった以上、国会が正当な理由なく長期にわたって立法措置を怠っていたと判断されてもやむを得」ず、「令和元年には一括整備法により本件規定が削除されたわけであるが、それによって本件立法不作為の違法性が遡って否定されると考えることもできない」とした。したがって、「本件規定は憲法22条1項及び14条1項に違反するものであり、国会が本件退職時点までに本件規定を改廃する立法措置をとらなかったことは国賠法上違法であり、上告人は損害賠償義務を免れることができない」とした。
  • 沖野眞已裁判官の反対意見。沖野裁判官は、反対意見を次のように述べている。すなわち、「昭和57年改正による本件前身規定の合憲性を支え得た諸事情は、それぞれ、平成14年改正によって、あるいは、それ以前に失われることになった」として、次の点を指摘する。第1に、「平成11年整備法による欠格条項の見直しに関する事情は・・・・・・家庭裁判所による心神耗弱者該当性の判断が対象者の一般的な判断能力についての判断を示すものではないこと、本件前身規定が借用にすぎないことが、国会を含め共通理解となっていたことを示して」おり、「第2に、平成14年には、平成11年決定を受けた『精神病者』規定の見直しによって7号規定が設けられ」たが、「この改正を支えたのは、障害者の社会参加の確保という意味でのノーマライゼーションの理念の実現という考え方であり、また、医学の発達(治療技術、医薬品、医療体制)により『精神病者』であっても警備業務に必要な判断能力を備えた者が相当に存在するという実態の認識、症状を問わず精神病者を一律に扱うことの問題点の認識であったことが、国会審議や立案担当者解説によって明らかになって」おり、「平成14年改正により、・・・・・・被保佐人のうち警備業務に必要な判断能力を備えない者は、7号規定に完全に包含されることになった。これにより、本件規定は、改正前にはあった『精神病者』規定に対する実体的な基準の点での補完性を失うことになった」とした。また、「昭和57年改正により、警備業者は認定制となり、その要件が整備され、行政庁の指導・監督が拡充されて、その適正化のための制度整備が図られ、その施行以来20年を経て、・・・・・・昭和57年改正の『立法事実』となった不適正事案の多発の社会問題化は、平成14年改正の段階では鎮静化し」、「仮に平成14年改正の際に、判断者となる警備業者の判断に対する懸念があったとしても、・・・・・・本件規定によって十分に補完がされるとは到底いえず、判断者である警備業者による適切な判断への懸念については、各種の監督措置をもって対応できるものであり、何よりノーマライゼーションの理念の具体的な実現の方が重視されるという判断があったものと考えられる」とした。「さらに、本件規定の過少性は相変わらず存在しており、被保佐人であることを警備員の欠格事由とすることが実効的なものといえるかは疑問があった。また、医学の発達によって・・・・・・警備員としての能力面での就労可能性の拡大は、被保佐人を欠格事由とする過剰性を拡大した可能性がある」とした。「したがって、平成14年改正の施行をもって、本件規定は・・・・・・立法府の合理的裁量の範囲を逸脱するものとなっており、違憲となっていたと考える」とした。しかしながら、「本件規定の違憲性がその段階で国会に明白となっていたということには躊躇を感じる」とし、「成年被後見人等に係る欠格条項の問題と憲法問題との接合は、その後の展開を待つことになる」とした。そして、「その点から重視されるのは、第1に、障害者制度の視点の、保護及び福祉という社会政策・医療政策から人権への転換である」として、障害者権利条約批准までの経緯を挙げ、「第2に、成年後見制度の側でも、平成22年の成年後見制度研究会による報告書において、・・・・・・成年後見等が開始してもその余の能力が直ちに欠如しているとはいえないことが指摘され、・・・・・・欠格条項についての慎重な検討が説かれた」ことを挙げ、「第3に、平成22年の横浜宣言は、成年後見制度の欠格事由と障害者の制度・施策とを接合させ、また、人権の保護の観点、憲法上の基本的人権の侵害という観点から欠格条項の問題を指摘し、その全廃を説いた。すなわち、成年後見制度が、・・・・・・精神疾患、学習障害・学習能力障害、後天的脳障害を有する若年者にも関わること、成年後見制度が人権に関わるものであり、人権の保護の観点からその法制度整備が行われるべきことを打ち出し、障害者権利条約の指導原理と内容への賛意を表明し、日本の課題として、現行の成年後見制度の欠格事由を撤廃すべきであり、特に、成年被後見人の選挙権の剥奪に合理的根拠がなく、憲法上の基本的人権を著しく損なうものであって廃止すべきであると説いた」ことを挙げ、「第4に、平成25年東京地裁判決(同年3月)において成年被後見人が選挙権を有しない旨を定めた公職選挙法の規定が違憲であるとされ、その後間もなく、同年5月に当該規定が削除された」ことを挙げ、「遅くとも障害者差別解消法の制定及び障害者雇用促進法の改正がされた平成25年6月には、本件規定の違憲性は、国会にとって明白になっていた」とした。そして、「本件規定の違憲性が国会にとって明白となった時期を平成25年6月頃とするならば、本件退職時点(平成29年3月)までは、4年弱という期間とな」り、「この期間をもって、『国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠った』と評価できるのかという点については、確かに、絶対的な期間としては短期といわざるを得ない」としながらも、「しかし、その懈怠が『長期』にわたるかどうかは、事柄の性質、経緯等に応じて決まるものである。本件規定については、それが、狭義の職業選択の自由及び平等という憲法上の権利を侵害するものであること、また、その是正措置は当該規定の削除をもって行うことができるものであることから、速やかな対応が要請され、またその実現も容易であって、それが期待されるものである。しかも、成年被後見人等に係る欠格条項全般に対する見直しは、ほかならぬ国会が平成11年から要請していたのであり、そもそもその問題意識が素地にあったこと、また、障害者権利条約の批准のための国内法整備を平成25年末までに完成させ、平成26年に同条約を批准するという政府及び国会のタイムスケジュールからすれば、明白に違憲である本件規定の削除は、それまでに完成させるべきものであり、加速的に対応が要請され、期待されるものであったといえる。さらに、本件規定は平成14年改正によって違憲となっていたこと、その違憲性が、平成14年改正段階において見過ごされていたという事情も考慮され」るとして、「本件退職時点において、本件規定が憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったということができ、本件立法不作為は国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものであって、原判決は、その結論において相当であり、上告人の上告は棄却されるべきことになる」とした。
  • ただし、こうした考え方は、必ずしも「シナジー効果」という新しい概念に基づく必要はなく、「近代憲法が達成した大きな成果の一つが、身分等によって固定されていた職業をその制約から解放したことにあり、これが社会を豊かにすることに貢献したことは、歴史の教えるところであ」り、「このように職業選択の自由と結び付いた平等保護原則は、最も重要な憲法原則の一つである」ことを前提として、そうしたことが問題となる場合には、厳しく審査すると構成するだけで良いのではないだろうか。
  • したがって、筆者は、基本的には、本件規定が違憲となった時期を明示しないまま、平成14年改正の時点で違憲性が明白となったとする尾島裁判官の立場を支持するものである。
  • このように付随的違憲審査制度を採用している以上、違憲性の明白性を示すものとして、裁判所の判決は十分に機能しないものと思われる。この点に関しては、もちろん、本来は、立法府としての責任として、国会が主体的に違憲かどうかの調査を継続的に行うべきであり、そのための国会の機能強化が求められるものと思われる。さらに、筆者は、司法の限界を補完するものとして、いわゆる国内人権擁護機関を設置することも求められるものと考えている。
  • 長期にわたって立法措置を怠ったかどうかに関するこうした考え方は、たとえば同性婚訴訟においても重要な示唆を与えるものだと思われる。
  • https://www.aiben.jp/opinion-statement/news/2026/02/post-143.html(最終閲覧日2026年5月19日)。




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