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文献番号 2026WLJCC013
大阪経済大学 教授
小林 直三
Ⅰ はじめに
本稿は、被保佐人であることを警備員の欠格事由としていた令和元年法律37号改正前の警備業法の規定を違憲とした2026年2月18日の最高裁大法廷判決に関して考察するものである。
令和元年法律37号改正前までの警備業法3条は、「次の各号のいずれかに該当する者は、警備業を営んではならない」とし、その1号で「成年被後見人若しくは被保佐人又は破産者で復権を得ないもの」を規定し、また、同法14条1項は、「18歳未満の者又は第3条第1号から第7号までのいずれかに該当する者は、警備員となつてはならない」とし、2項は、「警備業者は、前項に規定する者を警備業務に従事させてはならない」としていた(以下、被保佐人を警備業法上の警備員の欠格事由とする部分を「本件規定」という。)。つまり、警備業法上の警備員の絶対的欠格事由として、被保佐人であることを挙げていたのである。そのため、被保佐人となると、必然的に警備業法の警備員になれないことになっていた。
平成14年改正で同法3条に7号として、「心身の障害により警備業務を適正に行うことができない者として国家公安委員会規則で定めるもの」(いわゆる「相対的欠格事由条項」)が追加され、心身の状態を個別に判断することになったものの、本件規定はそのまま残ることになったため、被保佐人となると警備業法上の警備員となることができない状態は続くことになった。
そして、令和元年の改正によって、漸く本件規定は削除されるに至ったのである。
さて、本件事案は、以下のものである。すなわち、もともと警備業を営む会社で警備員として警備業務に従事していた被上告人(一審原告)に関して、平成29年に保佐開始審判が確定したところ、警備員の欠格事由に該当することから雇用契約が終了し、被上告人は退職(以下「本件退職」という。)せざるを得なくなった。そのため、被上告人が、本件規定は憲法22条1項および憲法14条1項に違反するにもかかわらず、国会が本件規定を改廃しなかったとして、国家賠償請求を求めた事案である。
前述のように本件規定は、令和元年の改正で削除されており、また、一審※2および控訴審※3で違憲であるとされ、後述のように、本件最高裁においても全員一致で違憲であるとされている。
しかしながら、一審は、違憲である規定を改廃しなかったことに伴う国家賠償請求を認め、さらに控訴審は、その賠償額を増額した一方で、同じく国家賠償請求を認めるべきとする複数の反対意見が付されながらも、本件最高裁判決の多数意見は、国家賠償請求を否定するに至っている。つまり、立法不作為に伴う国家賠償請求の判断に関しては、意見の対立がみられるのである。立法不作為に伴う国家賠償請求は、他の事案でも問題となるものであり、その意味で本判決を考察することは、本件事案に留まらない重要な意味をもつものと思われる。
Ⅱ 判例要旨
1.憲法22条1項および憲法14条1項違反について
まず、憲法判断の枠組みに関して、「本件規定は・・・・・・狭義における職業選択の自由そのものに制約を課すものであって、職業の自由に対する強力な制限となるものであ」り、かつ、「本件規定は、障害者である被保佐人を被保佐人でない者と区別して一律に規制の対象とし、精神上の障害を理由として狭義における職業選択の自由そのものを制約するものである」ことから、「本件規定の憲法22条1項適合性の判断と憲法14条1項適合性の判断は、相互に密接に関連し、検討に当たって考慮すべき事項が共通するものであるということができるのであって、上記の各条項との関係で本件規定の合憲性を肯定し得るためには、本件規定による規制が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する」とした。
そのうえで、「本件規定の目的は、警備業務が他人の生命、身体、財産等の安全を守ることを内容とする業務であることに鑑み、警備業務の実施の適正を図るとともに、依頼者及び第三者から警備員としての信頼を確保し得る者が警備業務に従事することを担保することにあるということができ・・・・・・このような立法目的自体は、重要な公共の利益に合致する」が、しかし、「この目的のために本件規定のような規制措置を設ける必要があるかどうかや、具体的にどのような規制措置が適切妥当であるかを立法府が判断するに当たっては、・・・・・・本件規定が精神上の障害を有することを理由として被保佐人を被保佐人でない者と区別して一律に規制の対象とするとともに、被保佐人の狭義の職業選択の自由を制約するものであることを踏まえると、立法府に広い裁量が認められるものではな」く、「立法府の上記判断がその合理的裁量の範囲を逸脱したと認められる場合には、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反することとなる」とした。
そして、本件規定の前身規定は昭和57年改正によるが、「準禁治産宣告において審査される判断能力は・・・・・・警備業務を適正に実施するに当たって必要な能力と完全に一致するものではないものの、準禁治産宣告を受けた心神耗弱者については、精神障害による判断能力の低下が公的機関である家庭裁判所によって確認されているのであるから、当時の知見の下では、警備業務の適正な実施を期待することができないとみることには相応の合理性があったということができ・・・・・・しかも、家庭裁判所は、準禁治産宣告をするには、本人の心神の状況について、必ず、医師その他適当な者に鑑定をさせなければならないものとされていたのであるから・・・・・・準禁治産宣告は、精神医学上の検査や診断に基づく、専門的で信頼性の高い判断であったというべきである」一方で、「警備業者については、中小零細の企業が圧倒的多数を占めており」、当時の「警備業者による法令違反等の問題が多発していた状況の下では、警備員の資質につき警備業者による自発的な維持管理を期待することは困難であった」ことから、「昭和57年改正の当時、本件前身規定について、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であるとした立法府の判断が、その合理的裁量の範囲を逸脱するものであったということはできない」とした。
また、「その後、平成11年民法改正により新たに成年後見制度が導入され、これに伴って本件前身規定は本件規定に改められることになった。また、平成14年改正により7号規定が設けられた」が、「7号規定は・・・・・・精神機能の障害により判断能力が低下した者を対象とする規定であるということはできるものの、保佐開始の審判のように公的機関による判断がされるものではなく、判断の基礎となる資料の収集、分析、評価を含め、警備業者の自発的判断に委ねられているものであるため、本件規定がなくともその立法目的を達成するのに十分なものであるかどうかを直ちに見極めることは困難であったというべきである」として、「平成14年改正の当時においても、・・・・・・立法府の判断が、その合理的裁量の範囲を逸脱するものであったということはできない」とした。
しかし、「その後、本件退職時点に至るまでに、本件規定を取り巻く諸事情は、変化した」として、「成年後見制度は、主として財産の処分等に関する判断能力に着目したものとして理解されるようになり、成年被後見人等に係る欠格条項については、成年後見制度の利用を阻害するものとして、その見直しが求められることとな」り、「平成22年には、成年後見制度の運用上の改善策に関する研究報告において、成年後見等が開始したとしても、その余の能力が直ちに欠如しているとはいえないなどと評価されるようにな」り、「平成23年から平成25年にかけて障害者権利条約の批准に向けた国内法の整備が進められ、平成26年には同批准がされ、その後、平成28年には障害者差別解消法等が施行され」、「障害者権利条約の批准に伴い整備された国内法は、障害者の定義を新たなものとした上で、障害者が人権を保障され、尊厳を尊重されるべき旨を明示するなどしており、社会における障害の捉え方の変化等を受けて、福祉や保護を中心とした障害者施策を法的な権利の保障を中心とするものへと転換していく流れを反映させたものであった」とした。そして、「これら障害者権利条約の批准やこれに伴う国内法の整備等の一連の動きとあいまって、徐々に障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化が進み、障害者の権利の保障の在り方が大きく変容」し、「障害者の労働、雇用との関係でも、障害者差別解消法等の成立から施行までに約3年の準備期間が設けられ、その施行に向けた準備の過程で障害を理由とする差別の禁止等に関する考え方が行政機関等や事業者に周知されるなどしたことにより、労働者について障害を理由とする差別が禁止されるべきであるとする考え方が確立するに至った」とした。「また、平成28年に制定された利用促進法においても、障害者権利条約や、その批准に伴い整備された国内法の理念が反映され、成年後見制度の利用の促進に当たって、成年被後見人等が基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられるべきこと等が定められるに至っている」が、「その一方で、・・・・・・7号規定は、上記のとおり、本件規定の立法目的を達成するのに十分なものであるかどうかを直ちに見極めることは困難なものであったが、その後、特にその実効性を疑問視させるような事象をうかがうことはできないし、警察庁が平成30年に行った政策評価においては、7号規定が既に設けられているため、本件規定を削除することによる特段の影響は想定されない旨の評価がされている」とした。
そして、「以上を総合すると、遅くとも本件退職時点までには、被保佐人のうち警備業務を適正に実施するに当たって必要な能力を備えた者が本件規定により一律に警備業務から排除されることによる不利益は、もはや看過し難いものとなっており、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断は、その合理的裁量の範囲を逸脱するに至っていたというべきであ」り「本件退職時点において、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていたというべきである」とした。
2.国家賠償請求について
次に、国家賠償請求に関して、「前記のように、昭和57年改正の当時、本件前身規定は、憲法22条1項及び14条1項のいずれにも違反するものではなかったが、その後、・・・・・・労働者について障害を理由とする差別が禁止されるべきであるとする考え方が確立したこと等により、本件退職時点において、本件規定は、違憲となるに至っていたものである」が、しかし、「こうした変化等は、その性質上、外形的事実として観察することができるものではなく、容易に看取し得るものではな」く、「障害者権利条約の批准に伴う国内法整備のうち最終段階に当たる障害者差別解消法等の施行、更には利用促進法の施行が平成28年のことであったことからみても、上記のような考え方が確立したのは、本件退職時点とは相当に近接した時期であったことがうかがわれ」、「本件退職時点までに、成年被後見人等に係る欠格条項の見直しの必要性自体は指摘されていたものの、その指摘は、主として成年後見制度の利用を阻害する要因の除去ないし利用の促進の観点によるものであって、成年被後見人等に係る欠格条項に憲法上の問題があることを理由とするものではな」く、「本件前身規定が設けられてから本件退職時点に至るまでに、本件規定や本件前身規定の憲法適合性について論じた学説が発表されていたことはうかがわれず、裁判所においてこの点について判断がされたこともな」く、「そもそも、その余の成年被後見人等に係る欠格条項についても、本件退職時点までに、憲法上の問題があるとした学説はほとんど存在せず、平成25年東京地裁判決※4(脚注筆者)において、成年被後見人が公職の選挙権を有しないとする規定が憲法15条1項等に違反する旨の判断が示されていたものの、同規定と立法目的を異にする職業に関する成年被後見人等に係る欠格条項については、裁判所において違憲である旨の判断がされたことはな」く、「さらに、平成28年5月に利用促進法が施行された後、成年被後見人等に係る欠格条項の見直しに向けた検討が継続され、170余の法律に設けられた成年被後見人等に係る欠格条項の全てについて統一的な見直しの方針が策定された上で、一括整備法等により、令和元年中にいずれも削除されるに至って」おり、「その見直しを行うに当たっては、欠格条項を設けている各種制度の間の整合性にも配慮しながら検討を進める必要があり、このような検討には相応の期間を要するものであ」り、「成年被後見人等に係る欠格条項が設けられた法律が多数ある中で、上記整合性について検討を行うことのないまま、本件規定についてのみ先行して見直しを行うことを要するような事情が存在したことはうかがわれない」とした。
そして、「以上によれば、本件退職時点において、本件規定が憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったということはでき」ず、「したがって、本件立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない」として、被上告人の請求を認めなかった。
なお、本判決には、林道晴裁判官の補足意見※5、岡正晶裁判官の補足意見※6、石兼公博裁判官の補足意見※7、安浪亮介裁判官の意見※8、三浦守裁判官の反対意見※9、尾島明裁判官の反対意見※10、宮川美津子裁判官の反対意見※11、高須順一裁判官の反対意見※12、沖野眞已裁判官の反対意見※13がある。反対意見は、いずれも被上告人の国家賠償請求を認めるものである。
このように多くの補足意見、意見、反対意見が付されているため、レイアウトの関係で、それぞれの概要は文末脚注で記載しておきたい。
Ⅲ 検討
はじめに述べたように、本件規定は、すでに改正されており、本件最高裁においても全員一致で違憲とされた。そのことに関しては、学説で反対するものは、ほとんどないだろう。また、本判決は、憲法判断の枠組みとして、「本件規定の憲法22条1項適合性の判断と憲法14条1項適合性の判断は、相互に密接に関連し、検討に当たって考慮すべき事項が共通するものであるということができる」として、憲法22条1項と憲法14条1項とを別個に評価するのではなく、合わせて評価する方法を用いている。そのこと自体は、反対意見も含めて裁判官の全員一致であり、適切なものと考えられる。
ただし、本件規定が違憲となった時期、違憲性が明白となった時期、そして、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったかどうか、に関しては、裁判官の間で意見が対立している。
そこで、ここでは、本件規定が違憲となった時期、違憲性が明白となった時期等に関する各裁判官の理解を纏めたうえで、それらの違いが生じた理由を検討することを通じて、本判決を評価することにしたい。
1.違憲となった時期と違憲性が明白になった時期
まず、本件規定が違憲となった時期、違憲性が明白となった時期等に関する各裁判官の理解を纏めておきたい。
まず、多数意見は、平成14年改正時点では違憲とはいえないが、遅くとも本件退職時点では違憲になっていたとしているものの、「本件退職時点において、本件規定が憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったということはできない」としている。この多数意見の表現は、かなり不明確なものであり、安浪裁判官が指摘するように「本件規定の違憲性が国会において明白であったと評価するものであるか否かは必ずしも明確でない」。したがって、多数意見では、本件退職時点で国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったわけではないとしていることは明らかであるが、違憲性が明白になった時期は明示されていない。補足意見も同様の認識であるといえよう。
安浪裁判官の意見では、「平成28年頃の時点では、・・・・・・本件規定は・・・・・・憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていた」とし、さらに、「平成28年頃の時点では、国会において、・・・・・・本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反するものとしてその改廃等を行うべきことが明白になっていた」としている。つまり、違憲となった時期と違憲性が明白となった時期とをほぼ同じとしているわけである。このことに関して、安浪裁判官は、「国会自らが法整備を進展させ、これに伴って違憲性が確かなものになったという特別な事情の下にあっては、自然なこと」であるとしている。ただし、本件退職時点では、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったものとはいえないとしている。
反対意見は、いずれも、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったものとして、国家賠償法上の違法性を認めるものであるが、本件規定が違憲となった時期や違憲性が明白となった時期に関しては、意見が分かれている。
三浦裁判官は、平成14年改正の時点で違憲となったとしており、さらに、「平成14年改正時において、本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反することは、国会にとって明白であった」としている。三浦裁判官も、(安浪裁判官と時期は異なるものの)違憲となった時期と違憲性が明白となった時期とを同じとしているが、それは、基本的には安浪裁判官と同じ発想によるものといえる。
尾島裁判官は、違憲となった時期に関しては明確にしていないものの、違憲性が明白となった時期は、三浦裁判官と同様に平成14年改正の時点としている。
宮川裁判官も、遅くとも平成14年改正の時点で違憲となったとしているが、その時点では違憲性は明白ではなかったとしたうえで、「遅くとも平成23年7月の障害者基本法改正当時には本件規定の違憲性が国会において明白となっていた」としている。
高須裁判官は、多数意見と同様に平成14年改正の時点では違憲ではなかったとしたうえで、「遅くとも平成22年には立法事実の変遷が認められ、この時期に本件規定は・・・・・・違憲な規定となった」とし、さらに、「遅くとも改正障害者基本法が成立した平成23年7月には、本件規定が憲法に反する違憲なものであることが国会にとって明白となっていた」としている。
沖野裁判官は、平成14年改正の時点で違憲となったが、違憲性が明白になった時期は、「遅くとも障害者差別解消法の制定及び障害者雇用促進法の改正がされた平成25年6月」として、反対意見のなかでは、違憲性が明白になった時期をもっとも遅く考えている。
以上の各裁判官における違憲となった時期について、早い時期から纏めれば、次のようになる。
三浦裁判官は平成14年改正の時点で違憲となり違憲性が明白となったとし、尾島裁判官は違憲となった時期は明確でないものの、同じく平成14年改正の時点で違憲性が明白となったとしている。
宮川裁判官は、平成14年改正の時点で違憲となったとしながらも、違憲性が明白となったのは平成23年7月としている。沖野裁判官も、平成14年改正の時点で違憲となったとしながらも、違憲性が明白となった時期を反対意見のなかではもっとも遅い平成25年6月としている。
高須裁判官は、違憲となった時期を平成22年と反対意見のなかではもっとも遅い時期としたうえで、違憲性が明白となった時期を平成23年7月としている。
安浪裁判官は、平成28年頃に違憲となり違憲性が明白となったとしている。
多数意見(と補足意見)は、平成14年改正時点では違憲とはいえないが、遅くとも本件退職時点では違憲になっていたとしており、違憲性が明白になった時期は、必ずしも明示されていない。
2.憲法判断の枠組みの意味付け
では、なぜ、これらの違いが生じたのだろうか。
その理由の1つには、その前提となる憲法判断の枠組みの意味付けの違いがあるものと思われる。
すなわち、たとえば、林裁判官の補足意見では、「本件規定の合憲性判断において、憲法14条1項適合性の観点からアプローチしたとして・・・・・・大枠において同様な審査をした上で同じ結論に至ることになる」とし、「多数意見のとおり憲法22条1項適合性を重視したアプローチをとるか、憲法14条1項適合性を重視したアプローチをとるかは、理論的にはいずれもあり得ると考えるが、問題となっている事柄の本質により近いものを採用した方が関係者の理解を得られやすいものになろう」としており、憲法判断の枠組みは、結論を左右する重要なものとは考えられていない。そして、この考え方は、多数意見や他の補足意見も共通するものと思われる。
それに対して、尾島裁判官の反対意見では、「近代憲法が達成した大きな成果の一つが、身分等によって固定されていた職業をその制約から解放したことにあり、これが社会を豊かにすることに貢献したことは、歴史の教えるところであ」り、「このように職業選択の自由と結び付いた平等保護原則は、最も重要な憲法原則の一つである」ことを前提に、「職業選択の自由という個人の自由権の保障及び平等保護原則という憲法が体現している基本的価値に照らして当該法令をみていくことによって、そこには二つの基本的価値の統合による相乗効果(シナジー効果)が生まれるといってよく、その結果、多数意見のいう『規制が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する』という要件についても・・・・・・具体的な事情を踏まえて厳しく審査することが要求される」とする。そして、尾島裁判官は、「平成14年改正法の施行により違憲が明白になったと十分いい得る」とするわけであるが、そのことに関して、「私の・・・・・・判断は・・・・・・厳しすぎるとみる向きがあるかもしれないが、・・・・・・平等保護原則と職業選択の自由の相互の結び付きによる相乗効果(シナジー効果)をみることにより、これまで余り疑問に思われていなかった制度の中にも不合理な差別が潜むことが分かるということがあるからであ」り、「違憲性の程度が高ければ違憲の明白性を肯定できることもあり得る」として、「違憲性の程度を高めることにつながる相乗効果(シナジー効果)は、違憲の明白性を審査する段階でも関連性がある」とするのである。このように尾島裁判官の反対意見においては、憲法22条1項と憲法14条1項とを合わせて評価することは、シナジー効果を生むものであり、結論を左右する重要な問題ということになる。
この点に関して、私見を述べれば、「職業選択の自由と結び付いた平等保護原則は、最も重要な憲法原則の一つである」ことを踏まえれば、尾島裁判官が述べるように、具体的事情を踏まえて厳しく審査すべきことになり、その結果、本件規定の違憲性の程度が高まり、また、国会における違憲性の明白性を実際の国会議員の主観ではなく、規範的に客観的状況を捉えるとすれば、尾島裁判官の述べるように、違憲性の程度は違憲性の明白性に影響し得るものと考えられるため、前述のアプローチから本件規定の違憲性の程度を高く捉えた結果、本件規定の違憲性が明白となった時期を早い段階とすることは、非常に説得力のあるものと思われる※14。
3.立法事実論で考慮する事情
また、立法事実論において考慮すべき事情の違いも、重要な点であると考えられる。
多数意見は、いわゆる立法事実論を展開し、「平成14年改正の当時においても、・・・・・・立法府の判断が、その合理的裁量の範囲を逸脱するものであったということはできない」が、「その後、本件退職時点に至るまでに、本件規定を取り巻く諸事情は、変化した」とし、「遅くとも本件退職時点までには、・・・・・・本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断は、その合理的裁量の範囲を逸脱するに至っていた」としている。
しかしながら、平成14年改正から本件退職時点に至るまでの多数意見が立法事実論として重視する諸事情に関して、三浦裁判官の反対意見は、次のように疑義を唱えている。すなわち、「障害者権利条約を批准するため国内法が整備され、それとともに、社会における障害の捉え方の変化、福祉や保護を中心とした障害者施策から法的な権利の保障を中心とするものへの転換、障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化等が進んだといえるとしても、こうした諸事情の変化は、様々な社会的障壁を除去する過程であり、もとより、7号規定が本件立法目的を達成し得る実効性についての評価を具体的に左右するものではな」く、「そして、本件規定の必要性及び合理性の判断に具体的に関連しない社会的障壁の除去が進むまでの間、障害者が上記権利の制約による不利益を甘受しなければならず、立法府がこれを看過してよいというのは、いかにも不合理であ」り、「全ての障害者のあらゆる人権及び平等等の保障に関する包括的、総合的な法制度が整備・施行されるまでの間、あるいは障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化が進み、労働者について障害を理由とする差別が禁止されるべきであるとする考え方が確立するまでの間、本件規定を維持することが立法府の合理的裁量として許されるものと解することはできない」としている。
新しい技術の開発や普及等の客観的な社会事情の変化に伴って、立法当時に想定されていない事情が生じた場合にそれらを考慮するのであれば、立法事実論は非常に説得力をもつものと思われる。しかし、人権侵害を訴える少数者の立場からすれば、多数者の人権意識の変化やそれと相互作用をもつ人権施策の実施等を、それらがあって初めて違憲となる事情と評価するべきではないだろう。三浦裁判官の指摘するように、「障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化が進み、労働者について障害を理由とする差別が禁止されるべきであるとする考え方が確立するまでの間、本件規定を維持することが立法府の合理的裁量として許されるものと解することはできない」はずである。
このように本件における立法事実論として考慮すべき事情を限定するならば、多数意見のように、違憲性が明白になった時期を遅くすることはできないものと思われる。
ただし、私見では、人権の普遍性に鑑みれば、平成14年改正で相対的欠格規定が追加されるまでは人権侵害がなかったと評価することも、不合理なものであると考えている。なぜなら、平成14年改正以前でも、職業選択の自由と結び付いた平等保護原則による権利が本件規定により制限されていたことには変わりはないのであり、また、三浦裁判官の指摘するように、「被保佐人に係る成年後見制度と本件規定とは趣旨・目的を異にしており、保佐開始の審判において審査される能力は、警備業務を適正に行うに当たって必要な能力とは必ずしも一致するものではなく、被保佐人の中に、警備業務を適正に行うことができる者が一定程度いる」が、しかし、そのことは、平成14年改正前でも変わらないからである。したがって、平成14年改正前でも、本件規定は、職業選択の自由と結び付いた平等保護原則による権利を過剰に制限する違憲の規定であったと評価すべきではないだろうか。ただ、そのことが明白になった時期が、平成14年改正の時点であったということではないだろうか※15。
4.違憲判決の位置付け
次に、違憲性が明白になったかどうかの判断の考慮事項として、違憲判決がなかったことを重視すべきかどうかである。
まず、多数意見は、違憲判決がなかったことを重視した判断を示している。
しかしながら、たとえば、尾島裁判官は、「当該規定や類似の規定を違憲とする裁判例や学説・・・・・・の存在は違憲の明白性を基礎付ける必須の要素であるとはいえず、これらの意見がまだ表明されていなかったからといってそのことが違憲の明白性を否定する積極的な理由にはならない」とし、「裁判例に関しては、本件のような事案に即していうと、被保佐人が警備員の職に就くことを希望したり、既に警備員の職に就いている者が保佐開始の審判を受けることを希望したりした場合に、あらかじめ国を被告として本件規定の違憲確認を求める訴訟を提起して目的を達することには事実上も法律上も困難が伴うから、裁判実務上本件規定の違憲をいう裁判例が現れる可能性はおのずと少なくなろう」としている。また、宮川裁判官は、「訴えが提起されなければ、裁判所は判断もできないが、事案によっては、裁判という手段をとるのが困難な者もいる。警備員に就きたいと希望する知的・精神障害者は、本件規定が存在する以上、保佐制度の利用を断念するか警備員という職業を断念するかの二者択一を迫られることになる。本件のように、職を失うことになるにもかかわらず保佐制度を利用し、本件規定の違憲判断を得るために裁判に訴えるという選択肢は、個人の経済的・精神的負担の重さを考えると、容易にとり得るものではない。本件は、その意味で稀有の事例であって、先例となる裁判例がないのは事案に鑑みて当然のことである。それゆえに、本件の判断において、裁判例がないことを国会にとって本件規定の違憲性が明白にならなかったことの理由の一つとして挙げるのには躊躇を覚える」としている。
尾島裁判官たちが指摘するように、日本の裁判所による違憲審査制度が付随的違憲審査制度を採用している以上、たとえ法令が違憲であったとしても、必ずしも裁判所による違憲審査が行われるとは限らない。まして、本件事案に即して考えれば、尚更、本件規定に関する違憲審査は行われ難いものと思われる。こうしたことは、他ならない裁判官であれば、当然、熟知している(あるいは、熟知してなければならない)ものと考えられる。そうであるとすれば、たとえ違憲判決がなかったとしても、尾島裁判官たちが指摘するように、そのことを重視するべきではないものと考えられる※16。
5.長期にわたる懈怠
ところで、国家賠償法上の違法性を認めるためには、国会が正当な理由なく長期にわたって立法措置を怠ることが求められるが、それは、どの程度の期間なのであろうか。この点に関して、本判決の反対意見として述べられた沖野裁判官の指摘は重要なものだと思われる。
すなわち、沖野裁判官は、単なる客観的な期間の長短だけで決まるのではなく、「その懈怠が『長期』にわたるかどうかは、事柄の性質、経緯等に応じて決まる」とするのである。そして、「本件規定については、それが、狭義の職業選択の自由及び平等という憲法上の権利を侵害するものであること、また、その是正措置は当該規定の削除をもって行うことができるものであることから、速やかな対応が要請され、またその実現も容易であって、それが期待されるものであ」り、「成年被後見人等に係る欠格条項全般に対する見直しは、ほかならぬ国会が平成11年から要請していたのであり、そもそもその問題意識が素地にあったこと、また、障害者権利条約の批准のための国内法整備を平成25年末までに完成させ、平成26年に同条約を批准するという政府及び国会のタイムスケジュールからすれば、明白に違憲である本件規定の削除は、それまでに完成させるべきもので」、「さらに、本件規定は平成14年改正によって違憲となっていたこと、その違憲性が、平成14年改正段階において見過ごされていたという事情も考慮され」るとして、沖野裁判官の考える違憲性が明白となった時期である平成25年6月から「本件退職時点(平成29年3月)までは、4年弱という期間」であり、「絶対的な期間としては短期といわざるを得ない」けれども、「本件退職時点において、本件規定が憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったということができ」るとするのである。
懈怠が長期にわたるとされる期間は、もともと、判例上、必ずしも明確なものではなく、少なくとも多数意見は、その期間を明示していない。その意味では、沖野裁判官のように、客観的な期間の長短だけで決めるのではなく、事柄の性質や経緯等に応じて総合的に判断する手法は、従来の判例と矛盾するものではなく、妥当なものだと考えられる※17。そして、尾島裁判官が述べるように「職業選択の自由と結び付いた平等保護原則は、最も重要な憲法原則の一つであ」り、そのことを前提に憲法22条1項と憲法14条1項とを合わせて評価する判断枠組みを用いるとすれば、客観的な期間は短かったとしても、やはり長期にわたって立法措置を怠ったものとして、国家賠償法上の違法性が認められるべきであろう。
6.小括
このようにしてみると、多数意見(と補足意見)は、憲法22条1項と憲法14条1項とを合わせて評価する判断枠組みを用いながらも、「職業選択の自由と結び付いた平等保護原則は、最も重要な憲法原則の一つである」ことを十分に考慮せずに違憲性の程度やそれに関連する違憲性の明白性の程度を過少に評価しており、社会的障壁を除去するプロセス、社会や国民の意識の変化、あるいは違憲判決がないこと等、立法事実論において考慮すべきではない事情まで考慮することで、本件規定が違憲となった時期、あるいは違憲性が明白になった時期を不当に遅らせてしまったといえるのではないだろうか。
本判決に限らず、近年、司法において、しばしば立法事実論が展開されているが、そこで考慮する事情を不当に拡大すれば、過去の人権侵害や違憲性を隠蔽することになりかねない。多数意見は、まさに、そうした懸念を顕在化したものと思われる。
Ⅳ おわりに
三浦裁判官は反対意見において、「成年被後見人等に係る欠格条項の見直しについては、平成28年制定の利用促進法の定める基本方針に基づき、政府の検討を経て、令和元年、本件規定の削除を含む一括整備法が成立したが、平成11年附帯決議は、上記基本方針と同じ趣旨であるから、その内容が約20年をかけて実現したことになる。障害者に係る欠格条項の見直しが平成5年計画に基づいて行われたことに照らしても、あまりにも遅きに失したといわざるを得ない」としたうえで、「この問題には、昭和23年の優生保護法の制定及びその後の経緯等にみられるとおり、国会及び政府が、更に長い歳月にわたり、精神上の障害を有する者等に関する誤った認識に基づく違法な政策や不当な対応を続けてきたという歴史が重なっている」とし、「これらに伴う我が国の社会的障壁を除去するには、国及び地方公共団体をはじめとして、なお格段の努力が必要と考えられる。裁判官及び裁判所も例外ではない」と指摘する。この指摘は、非常に重いものである。
そして、三浦裁判官は、「一括整備法による成年被後見人等に係る欠格条項の見直しに当たっては、同欠格条項の多くについて、その代替措置として、7号規定と同様に、法律において『心身の故障により、業務を適切に行うことができない者として省令で定めるもの』といった個別審査規定が設けられた上で、省令等において『精神の機能の障害により業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者』といった規定が設けられ」、「現在、個別審査を前提としながらも、精神機能の障害を理由とする欠格条項が数多く存在する」が、「障害は、機能障害を有する者と社会の障壁との間の相互作用であり・・・・・・社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならないこと・・・・・・や、障害者の雇用の分野においても、事業者において障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならないこと・・・・・・等を前提にすると、上記欠格条項は、合理的な配慮の提供との関係が明らかではなく、障害者の機能障害に偏ったものとなっている」とし、「この問題に関する長い歴史に鑑み、適切な対応が望まれる」としている。
また、愛知県弁護士会では、本判決を受けて、2026年2月27日に「旧警備業法欠格条項違憲判決(令和8年2月18日最高裁大法廷)に関する会長声明」を出している。そこでは、「当会は、国に対し、残された課題として、現在も残置されている相対的欠格条項が障害を理由とする新たな差別として働くことのないよう必要な措置を講じること、さらに、間近に迫った成年後見制度の改正においても、本判決の理念・内容を踏まえ、適切な立法がなされることを強く求める」としている※18。
本件規定が違憲であることは当然のことであり、すでに改正されてはいるものの、それですべてが解決したわけではない。本件規定が違憲とされたことは、むしろ、相対的欠格事由規定の運用や関連する他の領域も含めて、今後の適切な対応を促進するための一歩であると考えるべきであろう。
(掲載日 2026年6月9日)
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