判例コラム

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第372号 死者の情報の開示請求に関する一考察  

~最高裁第三小法廷令和8年2月20日判決※1


文献番号 2026WLJCC010
大阪経済大学 教授
小林 直三


Ⅰ はじめに
 本稿は、上告人が、刑務所で死亡した母の受けたいじめに関する調査記録(以下「本件調査記録」という。)等の開示を求めたところ、全部不開示決定を受けたため、その取消しを求めた事案に関する最高裁判決を考察し、死者の情報の開示請求に関して検討するものである。
 本件事案は、すでに廃止された行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「行政機関個人情報保護法」、又は単に「法」という。)に関するもので、同法は、その2条2項で「この法律において『個人情報』とは、生存する個人に関する情報」としているため、個人情報の本人が死亡した場合の情報の取扱いが問題となる。ただし、現行法である個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。)でも、その2条1項で「この法律において『個人情報』とは、生存する個人に関する情報」としていることから、同様の問題を生じることになる。
 したがって、本稿で扱う事案は、直接的にはすでに廃止された法に関するものではあるが、現行の個人情報保護法の解釈にも当てはまるものであり、本判決を考察することは、なお今日的意義があるものと考えられる。


Ⅱ 判例要旨
1.法廷意見

 まず、「原審は・・・・・・亡母が、同室者から受けたいじめに関し、同室者又は被上告人に対する損害賠償請求権を有していた場合には上告人がこれを相続するところ、本件調査記録は上記請求権の存否を判断するための最も重要な証拠の一つであるから・・・・・・上告人を本人とする保有個人情報に当たる」けれども、本件調査記録に記録されている情報(以下「本件情報」という。)は、刑の執行に係る保有個人情報を個人情報の開示請求等を定める法第4章の規定の適用除外とする「本件情報は法45条1項所定の保有個人情報に当たるとして、本件決定のうち本件情報を開示しないものとした部分に係る上告人の請求を棄却した」が、それに対して、本判決は、「亡母は生存する個人ではなく、本件情報が亡母に関するものとして法45条1項所定の保有個人情報に当たるものということはできず、また、上告人は刑の執行を受けた者ではなく、本件情報が上告人に係るものとして同項所定の保有個人情報に当たるとみる余地もない。したがって、本件情報が同項所定の保有個人情報に当たるとした原審の判断には、同項の解釈適用を誤った違法がある」とした。
 そのうえで、上告人の亡くなった母に関する「本件情報が開示請求者である上告人を本人とする保有個人情報に当たるか否かを判断するに当たっては、本件情報が、上告人に関する情報であって、これに含まれる記述等により上告人を識別することができるものであるか否かを検討する必要がある」とした。
 そして、「亡母の同室者又は被上告人に対する損害賠償請求権は、上告人がその発生の可能性を主張しているにとどまるものであって、上告人がこれを有しているとはいえ」ず、「そうである以上、本件調査記録に記録された亡母に関する情報は、上告人が有する損害賠償請求権に関する情報であるということはできず、上告人に関する情報であるとはいえないし、本件調査記録に記録された亡母に関する情報をもって上告人を識別することができるということもでき」ず、「他に、本件調査記録に、上告人に関する情報であって、氏名、生年月日その他の記述等により上告人を識別することができるものが記録されていることをうかがわせる事情も見当たらない」ため、「本件情報は、上告人を本人とする保有個人情報に当たらない」とした。
 以上のことから、上告人の請求を認めなかった。


2.林道晴裁判官、石兼公博裁判官の補足意見
 なお、本判決には、林道晴裁判官と石兼公博裁判官による補足意見が付されている。
 林道晴裁判官と石兼公博裁判官による補足意見の概要は、以下の通りである。
 すなわち、「これまでの下級審裁判例には、開示請求の対象とされた情報が、開示請求者が主張する死者の損害賠償請求権の存否に密接に関連する情報である場合には、開示請求者を本人とする保有個人情報に当たる旨をいうものが見られた」としつつも、しかしながら、「開示請求者が上記請求権の発生を主張しているにとどまり、開示請求者が上記請求権を有していると認められない場合には・・・・・・当該情報は開示請求者が有する損害賠償請求権に関する情報であるということはできず、また、上記請求権の存否に密接に関連する情報をもって直ちに開示請求者を識別することができるということもできない」とした。
 また、「同時に、法廷意見は、飽くまでこの問題に関する事例の一つについての判断を示したものであることには留意を要する」として、「例えば、情報公開・個人情報保護審査会の答申は、業務災害に関する保険給付を請求した労働者が死亡した場合において、その遺族である開示請求者が未支給の保険給付の支給を請求し、支給決定を受けているときは、当該労働者がした保険給付の請求に関して作成された調査結果復命書に開示請求者の氏名等が記載されていなくても、当該調査結果復命書に記載された情報が開示請求者を本人とする保有個人情報に当たるとの判断を示してきた」し、「同様に、答申は、開示請求者が相続税に係る更正処分を受けた場合において、相続財産に関する調査関係書類に開示請求者の氏名等が記載されていなくても、当該調査関係書類に記載された情報が開示請求者を本人とする保有個人情報に当たるとの判断を示してきた」が、「死者に関する情報が生存する個人を本人とする保有個人情報にも当たるか否かが、開示請求の対象とされた情報の内容等、個々の事実関係に応じて判断されるべきことは当然であり、法廷意見は上記各答申が対象とするような事案について論ずるものではない」とした。
 さらに、「医療や介護の分野では、死者に関する情報が遺族を本人とする個人情報に当たるか否かにかかわらず、『医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス』(平成29年4月14日個人情報保護委員会・厚生労働省)等において、遺族に対して遅滞なく診療情報を提供するものとされている。他にも、個人情報保護法制とは別に、個別の法律において、遺族に対する死者に関する情報の提供について規定する例が見られるほか(警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律10条1項、医療法6条の11第5項等)、地方公共団体の個人情報制度について全国的な共通ルールを規定するなどした令和3年法律第37号の施行後、地方公共団体が、個人情報保護とは異なる観点から、条例等において死者に関する情報の取扱いを定める例も見られる」が、しかし「死者に関する情報に係る以上のような取扱いは、個人情報保護法制の枠組みの外の問題であり、法廷意見はその当否について論ずるものでないことも付言しておきたい」とした。


Ⅲ 検討
 本判決は、原審※2が本件調査記録を上告人に関する保有個人情報であるとしたのに対し、「亡母の同室者又は被上告人に対する損害賠償請求権は、上告人がその発生の可能性を主張しているにとどまるものであって、上告人がこれを有しているとはいえ」ず、「そうである以上、本件調査記録に記録された亡母に関する情報は、上告人が有する損害賠償請求権に関する情報であるということはできず、上告人に関する情報であるとはいえない」とした。
 このことは、補足意見が述べるように、「開示請求の対象とされた情報が、開示請求者が主張する死者の損害賠償請求権の存否に密接に関連する情報である場合には、開示請求者を本人とする保有個人情報に当たる」としてきた下級審裁判所の判断を否定するものではない。あくまで、本判決は、「開示請求者が上記請求権の発生を主張しているにとどまり、開示請求者が上記請求権を有していると認められない場合には・・・・・・当該情報は開示請求者が有する損害賠償請求権に関する情報であるということはでき」ないため、「上告人に関する情報であるとはいえない」としたものである。
 したがって、本判決と原審との違いは、開示請求者を本人とする保有個人情報であると認められるために立証しなければならない損害賠償請求権成立の蓋然性の程度にあると考えられる。言い換えれば、本判決の特徴は、立証しなければならない損害賠償請求権成立の蓋然性の程度を高く設定したことにあるものと思われる。
 しかしながら、損害賠償請求権成立の蓋然性の程度を高く設定することは、いくつかの問題を生じることになる。
 まず、損害賠償を請求するために必要となる情報収集に関してである。補足意見は、「開示請求者が・・・・・・請求権の行使を目的とする訴えを提起するに当たって証拠を収集する必要があるのであれば、訴えの提起前における証拠収集の処分や証拠保全の申立て等によってその必要性が満たされることもあり得る」としている。しかしながら、個人情報の開示請求や損害賠償請求は、必ずしも訴訟に至るものばかりではない。そのため、訴訟を前提とする場合であれば、訴えの提起前における証拠収集の処分や証拠保全の申立ての手続は、一定程度、開示請求権の代替的なものとして機能するかもしれないが、訴訟を前提としない場合には、補足意見が言及する代替的な手続は有効に機能しないことになる。そして、そうであるからこそ、法廷意見は、本判決の判断が「本件調査記録が上記請求権の存否に関する重要な証拠であるか否かや、本件情報が上記請求権の存否に密接に関連する情報であるか否かによって、左右されるものではない」と断らざるを得なかったのではないだろうか。しかし、逆にいえば、そのことは、情報が損害賠償等の請求権の存否に関する重要な証拠、あるいは存否に密接に関連する場合であっても、その情報の開示を受けられず、結果として、損害賠償等の請求権者の権利行使を実質的に困難にする可能性があることを示唆するものだともいえるだろう。
 また、損害賠償まで求める意思がなくとも、一般論として、近親者がいじめにあっていたかもしれない場合に、その調査記録を知りたいと考えることは当然のことであり、本人が死亡しているために近親者がそれを知り得ないというのは、社会通念から著しく乖離するものと思われる。
 さらに、本判決のように、立証しなければならない損害賠償請求権成立の蓋然性の程度を高く設定することは、結果として、死者の情報に関する権利者を制限することになってしまう。そして、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)における不開示情報である個人に関する情報は、個人情報保護法のように生存する個人に関する情報に限定されていないため、個人情報の本人が死亡した場合の情報は、原則として、情報公開法に基づく開示請求の対象にもならない。そのため、行政機関の保有する個人情報の本人が死亡した場合の情報の扱われ方は、著しく不透明なものになりかねない※3
 このように本判決には、いくつかの問題を指摘できる。そして、そうした問題を自覚しているからこそ、わざわざ、「死者に関する情報が生存する個人を本人とする保有個人情報に当たるか否かについては、法廷意見が判示するとおり、法の規定に従って検討することが肝要であり、法の規定を離れて・・・・・・判断するのは相当でない」といった補足意見を付さなければならなかったのではないだろうか。


Ⅳ おわりに
 ところで、Society 5.0を構築するに当たっては、個人情報の利活用が重要になるものと考えられる。個人情報保護法も、「デジタル社会の進展に伴い個人情報の利用が著しく拡大していることに鑑み」たものであり、「個人情報の適正かつ効果的な活用が新たな産業の創出並びに活力ある経済社会及び豊かな国民生活の実現に資するものであることその他の個人情報の有用性に配慮」するものである(同法1条)。
 しかし、大塚智見は、「社会のデジタル化が進展し、個人は電子メールやSNSなどにおいて多くの情報を蓄積している。その結果、個人が死亡すると、それら多くの個人情報が事業者や行政機関などに残されることになる。このような個人情報が自らの死後は適切に扱われないとすると、それを懸念して、生存中においても個人情報を利活用することを躊躇う可能性がある」。そのため、「社会のデジタル化を推し進めつつ、個人情報に関する個人の不安を取り除くことを目指すのであれば、死後の個人情報の保護について、改めて検討する必要がある」と指摘している※4
 本判決の補足意見も、「医療や介護の分野では、死者に関する情報が遺族を本人とする個人情報に当たるか否かにかかわらず・・・・・・遺族に対して遅滞なく診療情報を提供するものとされ・・・・・・他にも、個人情報保護法制とは別に、個別の法律において、遺族に対する死者に関する情報の提供について規定する例が見られるほか・・・・・・地方公共団体が、個人情報保護とは異なる観点から、条例等において死者に関する情報の取扱いを定める例も見られる」ことを指摘している。さらに、補足意見は、「死者に関する情報に係る以上のような取扱いは、個人情報保護法制の枠組みの外の問題であり、法廷意見はその当否について論ずるものでない」とするのであるが、しかし、このことは、最高裁判所も死者に関する情報の保護のあり方に関する問題意識を持っており、暗に死者に関する情報の取扱いに関する立法政策を促しているものと理解することもできるのではないだろうか。そうであれば、国会においては、本判決を踏まえて、死者に関する情報の保護の問題を十分に受け止め、立法の検討を進めることが求められているものといえるだろう。
 しかしながら、もちろん、立法にはある程度の時間を要するものと考えられる。
 したがって、司法においても、損害賠償の「請求権の存否に関する重要な証拠であるか否かや・・・・・・請求権の存否に密接に関連する情報であるか否かによって、左右されるものではない」と逃げるのではなく、そうした問題に向き合い、可能な限り、死者に関する情報の保護の問題を軽減する法律解釈に努める責任があるのではないだろうか※5
 いくつもの問題を生じ、社会通念からも著しく乖離する法律解釈に拘泥することは、司法として、あまりに無責任であるように思われる。



*本研究は、JSPS科研費JP22K01139の助成を受けたものです。
This work was supported by JSPS KAKENHI Grant Number JP22K01139.



(掲載日 2026年4月28日)

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  • 詳細は、最三小判令和8年2月20日裁時1882号38頁WestlawJapan文献番号2026WLJPCA02209001を参照のこと。
  • 大阪高判令和6年7月4日公刊物未搭載。
  • もちろん、ここでいいたいことは、個人情報の本人が死亡した場合の情報を情報公開法の不開示情報から外すべきであるというものではない。
  • 大塚智見「死後の個人情報の保護:名誉・著作者人格権との比較を通じて」情報通信政策研究8巻1号(2024年)59-60頁。なお、大塚は、死後の個人情報の保護に関する立法論として、「著作権法116条と同様の規律を求めることが望ましい」とし、開示請求を含む「請求権者は、遺言による指定を受けた者、あるいは、遺言による指定がない場合、遺族であるとすべきである」としている(同・77頁)。
  • そもそも、最高裁は、個人情報保護「法2条1項にいう『個人に関する情報』に当たるか否かは、当該情報の内容と当該個人との関係を個別に検討して判断すべきものである」としている(最一小判平成31年3月18日裁判集民261号195頁WestlawJapan文献番号2019WLJPCA03189001)。そうであるならば、亡母の情報を本人の保有個人情報と認めるかどうかの判断も、個別に検討することで柔軟に考えても良かったのではないだろうか。




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