判例コラム

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第371号 危険運転致死罪における「進行を制御することが困難な高速度」  

~福岡高裁令和8年1月22判決※1


文献番号 2026WLJCC009
東京都立大学 名誉教授
前田 雅英


Ⅰ 本判例のポイント
 本件は、特定少年(行為時)であるXが、午後11時頃、BMW「M235i」という高性能を有する乗用車(以下「被告人車両」という。)で、O市付近の最高速度が法定により時速60kmと定められている片側2車線道路(以下「本件道路」という。)の第2車両通行帯を時速約194.1kmの高速度で走行して、交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)を直進するに当たり、折から対向右折進行してきたA運転の普通乗用自動車の左前部に被告人車両の前部を衝突させ、その衝撃によりAを車外に放出させて路上に転倒させて骨盤骨折の傷害を負わせ、出血性ショックにより死亡させた事案につき、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下「自動車運転処罰法」という。)2条2号の「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」に該当するかが争われた事案である。
 原審※2は、自動車運転処罰法2条2号の危険運転致死罪の成立を認め、懲役8年を言い渡したが、福岡高裁判決は、その成立を否定し、自動車運転処罰法5条の過失運転致死罪により懲役4年6月に処した。


Ⅱ 事実の概要と原審の判断
1. 本件公訴事実は、「被告人は、令和3年2月9日午後10時57分頃、普通乗用自動車(被告人車両)を運転し、O市(筆者仮名)〈以下省略〉付近の最高速度が法定により60km毎時と定められている片側2車線道路(本件道路)の第2車両通行帯を走行して同所先の信号機により交通整理の行われている交差点(本件交差点)をa方面からb方面に向かい直進するに当たり、その進行を制御することが困難な時速約194.1kmの高速度で被告人車両を走行させるとともに、本件交差点内において対向右折する自動車の通行を妨害する目的で、重大な交通の危険を生じさせる速度である前記速度で直進進行して本件交差点に進入し、折から対向右折進行してきたA(被害者、当時50歳)運転の普通乗用自動車(被害者車両)に著しく接近させたことにより、被害者車両の左前部に被告人車両の前部を衝突させ、その衝撃により被害者を車外に放出させて路上に転倒させ、よって、被害者に骨盤骨折の傷害を負わせ、同月10日午前1時34分頃、同市内の病院において、被害者を前記傷害に基づく出血性ショックにより死亡させた」というものである。
 原審検察官は、被告人の上記運転行為が自動車運転処罰法(令和4年改正前のもの)2条2号にいう「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」に該当し、同号の危険運転致死罪が成立するとともに、被告人には同条4号にいう「人又は車の通行を妨害する目的」があったとして、同号の同罪が成立する旨を主張した(なお、当初の訴因からは変更が為されている)。


2. 原審弁護人は、被告人の行為につき、過失運転致死罪が成立することは争わないが、自動車運転処罰法2条2号の進行制御困難高速度には該当せず、同条4号の通行妨害目的もないので、危険運転致死罪は成立しないと主張した。


3. 原判決は、自動車運転処罰法の「通行妨害目的」を有する危険運転致死罪の成立を否定したが※3、罪となるべき事実として、公訴事実のうち、「通行を妨害する目的」に関する事実を除いた事実を認定し、自動車運転処罰法2条2号の「進行制御困難高速度」による走行の同罪の成立を認め、被告人を懲役8年に処した※4
 原判決は、自動車運転処罰法2条2号の「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」に関し、東京高判令和4年4月18日※5の、「速度が速すぎるため、道路の状況に応じて進行することが困難な状態で自車を走行させることを意味し、具体的には、そのような速度での走行を続ければ、道路の状況や車両の構造・性能、貨物の積載の状況等の客観的事実に照らし、あるいは、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスによって自車を進路から逸脱させて事故を発生させる実質的危険性があると認められる速度で自車を走行させる行為をいい、この概念は、物理的に進路から逸脱することなく進行できない場合のみならず、操作ミスがなければ進路から逸脱することなく進行できる場合も含まれることを前提としている」との解釈を採用し※6、①本件道路は一般道路であり、15年以上改修舗装歴がなく、轍割れが本件交差点付近等に存在していたと推認でき、②被告人車両が進行した第2車両通行帯の幅員は3.4mであるのに対し同車両の幅は177cmで、余裕は81.5cmずつしかなかった上、同車両通行帯の右側は中央分離帯の縁石に直接接しており、③一般的に、自動車は、速度が速くなると、揺れが大きくなり、運転者のハンドル操作の回数が多くなる傾向があり、かつ、夜間では、運転者の視力が下がったり視野が狭くなったりする傾向があるところ、④本件道路は、右折・横断・転回車両や、横断歩行者・自転車、先行車両の減速・停止があり得る信号交差点、車道と直接接する歩道等が存在し、本件当時、被害者車両以外にも複数台存在したこと等を考慮すれば、付近がやや暗い本件道路において、法定最高速度の3倍以上の高速度で被告人車両を走行させ続けた場合、路面状況から車体に大きな揺れが生じたり、見るべき対象物の見落としや発見の遅れ等が生じたりし、道路の形状や構造等も相まって、ハンドルやブレーキの操作の僅かなミスが起こり得ることは否定できないと認定した。その上で、ひとたび操作ミスが起これば、例えば、被告人車両が第2車両通行帯から瞬時に逸脱し、立て直しが困難となって蛇行・スピンするなどした結果、本件交差点を対向右折進行してきた車両に衝突するなどの事故が発生する事態が容易に想定できるとし、時速約194.1kmの速度で車両を走行させて交差点に進入した行為は、ハンドルやブレーキの操作の僅かなミスによって自車を進路から逸脱させて事故を発生させる実質的危険性があると認められる速度で自車を走行させる行為といえるから、「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」に該当するとした。そして、運転行為と事故との間には因果関係があり、本件道路の状況や、被告人車両が著しく速い速度で走行していること等の進行の制御の困難性を基礎付ける事実を認識して危険運転行為に及んだと認められるので、故意に欠けるところもないとした。
 弁護人は、被告人の運転行為は、自動車運転処罰法2条2号の「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」に該当しないのに、これに該当するとして、危険運転致死罪の成立を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認ないし法令適用の誤りがある、として控訴した。


Ⅲ 判旨
 福岡高裁は、弁護人の事実誤認ないし法令適用の誤りの論旨は理由があるとして、本件において、被告人が「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させ」たとは認められないから、原判決の事実認定ないし法令適用には誤りがあることは明らかであり、自動車運転処罰法2条2号の「進行制御困難高速度類型の危険運転致死罪の成立を認めた原判決の判断は是認することができない。」として原判決を破棄した。
 福岡高裁は、自動車運転処罰法2条2号にいう「進行を制御することが困難な高速度」とは、「速度が速すぎるため、自車を道路の状況に応じて進行させることが困難な速度をいい、具体的には、そのような速度での走行を続ければ、道路の形状、路面の状況などの具体的な道路の状況、車両の構造や走行性能、貨物等の積載状況等の客観的な事実に照らし当然に、あるいは、ハンドルやブレーキの操作の僅かなミスによって、自車を進路から逸脱させて事故を発生させることになるような速度をいうと解すべきである」とした。危険運転致死傷罪の危険運転行為は、過失犯として処罰することが相当でなく、傷害罪、傷害致死罪に準じて重く処罰すべきものと認められる類型に限定されるべきで、過失犯として処罰すべき類型との区別という観点が重要であるとし、「高速度運転の場合には、歩行者の飛び出しや他の走行車両の割り込み等といった道路や交通の状況に応じて人の生命、身体に対する危険を回避するための対処をすることが困難となる危険性(対処困難性)」と異なる、「自車を道路の状況に応じて進行させることが困難な速度、あるいは、自車を進路から逸脱させて事故を発生させることになるような速度」であったことが合理的な疑いを超えて立証される必要があるとし、その根拠を「このように解さなければ、・・・・・・速度超過に起因する過失運転致死傷罪との区別に支障を来すことになる」という点に求める。
 福岡高裁は、原判決の挙げた、①本件道路の状況、②車両通行帯の幅員と車幅の関係等、③高速度の走行による自動車の揺れや視野の狭窄、④通行車両の状況等を考慮すれば、被告人が法定最高速度の3倍以上の高速度での走行を続ける場合、ハンドルやブレーキの操作の僅かなミスが起こり得ることは否定できず、ひとたび操作ミスが起これば、被告人車両が第2車両通行帯から逸脱し、立て直しが困難となって蛇行・スピンするなどした結果、本件交差点を対向右折進行してきた車両に衝突するなどの事故が発生する事態が容易に想定できるとしたのに対し、「原判決が指摘する事情は、・・・・・・いずれも、具体的でない抽象的な可能性を指摘するものにすぎないか、進行制御困難高速度該当性を判断するに当たって考慮すべきでない事情を考慮するものであって、これらの事情を基に進行制御困難高速度を肯定することは、論理則、経験則等に照らして、不合理といわざるを得ない」とした。
 そして、原審は、一般道路である点や、15年以上改修舗装歴がない点、本件交差点付近等に轍が存在していた点等を指摘するものの、それらが被告人車両の走行に与える具体的な影響につき何ら説明し得ていないとし、進路に沿って走行させるのに特に注意を要するハンドル操作が求められるような道路状況ではなかったものと認められるとし、本件道路の具体的な状況と、その状況が被告人車両に対して、具体的にいかなる影響を与えたかといった点についての立証として不十分であるとした※7
 そして、「被告人車両は、一貫して自車線(第2車両通行帯)内で直進進行を続けており、進行車線から逸脱したりスリップやスピン等を起こしたりすることはもとより、ふらついたり、その走路がぶれたりした状態に陥るなど、進行の制御に何らかの困難な事態が生じていたとの事実関係は見出されない。」「BMWの『M235i』という車種や、整備状況等を含む被告人車両の当時の具体的な性能等を前提とした車両で本件道路を時速約194.1kmで走行した場合、ハンドルの切り方やブレーキのかけ方が走行車両に対して実際にいかなる影響を与えるかについては、何らの立証もなされていない。」とした※8
 原判決の、被告人車両について、「その走行安定性が格別高かったことを疑わせる事情が見当たらない」との判示に対しては、「一般的な車両よりも走行安定性が高かった合理的な疑いが残るのであれば、それを前提にしなければならないのであって、原判決の上記指摘は相当でない[なお、付言するに、被告人車両であるBMW『M235i』は、速度無制限区間もあるアウトバーンが存在するドイツの自動車メーカーの製造であり、最高速度は時速250kmとされていること・・・・・・などに照らしても、被告人車両の走行安定性が格別高くなかったことを窺わせる事情は存しない。]。」と判示した。
 結論として、「本件では、被告人の運転行為が、日常用語としての『危険な運転』であるか否かが問われているのではなく、法(筆者注:自動車運転処罰法のこと。以下同じ。)2条2号に定める『その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為』に当たるか否かが問題となっている。法は、単なる高速度での運転ではなく、進行を制御することが困難な高速度であることをその成立要件としているのであるから、被告人の運転行為が、日常用語としての『危険な運転』であることは明白であり、また、危険運転致死傷罪に関する現行規定によっては、適用される事案と当罰性においてさほど径庭のない危険性の高い、相当に悪質な事案を捕捉することができず、均衡のとれた処罰が実現できていない懸念もあるといわざるを得ないが、危険運転致死傷罪の立法が、近年、制定、施行されたものであり、その立法趣旨が明確であって、それが今なお通用し、日常用語としては『危険な』無謀運転といえる高速度運転による死傷事犯であっても、当裁判所と同様の法解釈等に基づき、進行制御困難高速度該当性を否定し、過失運転致死傷罪で処罰している裁判例が積み重ねられ、進行制御困難高速度該当性の解釈が定着されてきているといえる現状にあっては、上記の点は、立法的手当てによって対応すべき事柄と思料され、本件被告人に対してのみ、条文の文言並びにその立法趣旨及び経過にそぐわない、罪刑法定主義の原則に則していないおそれのある、特異な判断をそのまま維持することはできない。被告人に法2条2号の進行制御困難高速度類型の危険運転致死罪の成立を認めることはできない」と判示したのである。


Ⅳ コメント
1.自動車運転処罰法の危険運転行為の法改正が進行中である。罪刑法定主義の観点からの「危険運転行為の不明確性」の解消が議論の中心になっているが、同法の改正の動きの原動力は、痛ましい経験をした国民(さらには同種の事故報道に接する国民)の「公道上の無法運転を厳しく禁圧して欲しい」という声の高まりであった。交通事故に対応してきた業務上過失致死傷罪は、昭和43年に、「3年以下の禁錮」を「5年以下の懲役若しくは禁錮」に改める改正がなされた※9
 しかし、悪質な事案の発生が絶えず、「過失犯の重罰化」のみでは国民の安心安全の要請に応えられないため、危険運転致死傷罪が、故意の危険運転行為により意図しない人の死傷の結果が生じたときに成立する結果的加重犯に類する犯罪類型として、平成13年12月から刑法208条の2として施行され※10、平成26年5月から施行された自動車運転処罰法の中に移されることになった※11


2.自動車運転処罰法2条は、自動車を①アルコール等の影響により正常な運転が困難な状態で走行させる行為、②進行を制御することが困難な高速度で走行させる行為、③進行を制御する技能を有しないで走行させる行為、④通行を妨害する目的で、直前に進入したり著しく接近したり、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転する行為、⑤赤色信号等を殊更に無視し、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転する行為等により、人を死亡させた者は1年以上の有期拘禁刑に処する。
 しかし、その後も、国民の危険運転事故死を抑止すべきとの声は強まる一方で、自動車運転処罰法の改正作業が進行している。現在、改正作業が終盤を迎え、危険運転とみなすスピードを、制限速度時速60km以下の道路(一般道路等)では「50km超過」、制限速度時速60km超の道路(高速道路等)では「60km超過」と規定することにしている。本件道路のような一般道路で140km超過した場合は、当然危険運転となる。


3.ただ、現行法の解釈論としても、本件行為に危険運転を認定した原審判断を「罪刑法定主義の原則に則していないおそれのある、特異な判断」として退けた本判決には、違和感がある。
 本判決も、「危険性の高い、相当に悪質な事案を捕捉することができず、均衡のとれた処罰が実現できていない懸念もあるといわざるを得ない」と認めている。しかしその不均衡の除去は、「立法的手当てによって対応すべき事柄」とするのである。しかし、解釈論としても、本件道路の時速約194.1km走行を、進行制御が困難な高速度走行と認定することは、十分可能であるように思われる。
 もとより罪刑法定主義は重要であるが、罪刑法定主義から、論理的に本判決の「不成立の結論」が導けるわけでもない。立法趣旨を強調するが、法解釈においては、あくまで「参考資料」に過ぎないし※12、本件判断と同様の法解釈等に基づく裁判例が定着されてきているとするが、必ずしもそういいきれない※13


4.本件を検討する上で、最も重要な裁判例は、本件原審も引用した、「進行を制御することが困難な高速度」に関する、東京高判令和4年4月18日※14である。
 午後11時半頃、普通乗用自動車を運転し、U市付近の、最高速度時速50kmと指定された右方に湾曲する道路を、時速約95kmないし約105kmで進行させたことにより、自車を左前方に逸走させて、自車の同乗者2名を死亡させ、他の2名に傷害を負わせた事案について、自動車運転処罰法2条2号に該当するとしたものである。原審が、上記速度は限界旋回速度を時速20kmほど下回っていたので、「進行を制御することが困難な高速度」とはいえないと判示したのに対し、「限界旋回速度よりも低い速度であっても、道路の状況やわずかな操作ミスによって自車を進路から逸脱させて事故を発生させることは十分あり得るから、限界旋回速度を下回っているからといって、直ちに『進行を制御することが困難な高速度』に当たらないとはいえない」とし、「本件道路が最高速度を時速50kmに指定された片側1車線の一般道であり、そのような道路の曲線部を、指定最高速度を時速40km以上も上回る速度で走行することの危険性を適切に考慮しない不合理なものといわざるを得ない」として、原審を覆したのである。直線と曲線との差、車線数の相違は十分に勘案されなければならないが、時速40kmオーバーでも「道路の状況やわずかな操作ミスによって自車を進路から逸脱させて事故を発生させることは十分あり得る」と認定したのである。


5.時速130kmオーバーの事案に関し、「進行を制御することが困難な高速度」には当たらないとした本判決の論旨の骨格は、危険運転致死罪が「故意犯と同等に処罰する」以上、過失と質的に異なる基準が必要で、「自車を道路の状況に応じて進行させることが困難な速度」であったことが合理的な疑いを超えて立証される必要があるとする。「このように解さなければ、速度超過に起因する過失運転致死傷罪との区別に支障を来すことになる」とするのである。
 そして、被告人車両は、ふらついたり、その走路がぶれたりした状態に陥るなど、進行の制御に何らかの困難な事態が生じていたとの事実関係は見出されず、被告人車両の具体的な性能等を前提とすれば本件道路を時速約194.1kmで走行した場合の「進行の制御に何らかの困難な事態」は立証されておらず、走行安定性に疑いはなかったとする。


6.しかし、時速194kmで走行した場合の制動距離は211mで(停止するにはさらに空走距離を加えなければならず、さらに距離は伸びる。)、制限速度の時速60km走行の場合の制動距離20mの10倍なのである※15。いかに、走行中ふらついたりしていなくても、本件の事故のような「右折車の存在」に気付いて回避することは不可能に近い。
 この点、本判決は、「進行を制御することが困難な高速度」の判定からは「対処困難性」を除くべきだと主張する。「道路や交通の状況に応じて人の生命、身体に対する危険を回避するための対処をすることが困難となる危険性」は、過失運転致死傷罪において吟味されるべき問題で、それと法定刑の異なる危険運転罪を特徴付ける因子ではないとする。
 しかし、危険運転罪は、車線を維持できなかったことから直接生じた事故のみを想定しているわけではない。一般道路上の障害物等による事故を一切排除すると解する根拠は乏しい。一般道では、交差点の存在、当該道路上を走行する他の車両の意外な運転態様等、高速運転でも回避し得るが、本件のような超高速度の場合には、その制動距離等によって対処が不可能な事態が存在し得る。一般道では、いかに走行安定性が維持されていても、時速190kmを超える場合を「進行を制御することが困難な高速度」に該当するとすべき場合があり得るし、その結論が罪刑法定主義に反するとはいいきれないように思われる。



(掲載日 2026年4月21日)

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  • WestlawJapan文献番号2026WLJPCA01226002。
  • 大分地判令和6年11月28日WestlawJapan文献番号2024WLJPCA11289002。
  • 原審は、自動車運転処罰法2条4号の通行妨害目的とは、「歩行者又は道路上を通行する車全般に自車との衝突を避けるために急な回避措置をとらせるなど、相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図することをいい、これらについての未必的な認識、認容があるだけでは足りない」とし、被告人は、被告人車両の前後及び対向車線を進行する車両は存在しないとの認識の下、アクセルを強く踏み込み始めるとともに、前照灯をハイビームにし、同衝突地点の手前約331mの地点で本件交差点の対面信号機が青色を表示しているのを確認した後、高速度で本件交差点に進入したものであり、その際、対向右折進行してきた被害者車両に対して積極的にその通行を妨げる動機があったことを窺わせる事情もないから、被告人に通行妨害目的があったとは認められないとした。
  • 原審に関しては、斉藤彰子「『制御困難な高速度』の意義」法学教室534号(2025年)128頁参照。
  • 判タ1502号116頁WestlawJapan文献番号2022WLJPCA04186002。最三小決令和4年10月7日WestlawJapan文献番号2022WLJPCA10076006で維持。
  • 福岡高裁は、立法時における立法当局者の説明を基に、「進行制御困難高速度該当性を判断する基礎となる『道路の状況』とは、道路の幅員の広狭、湾曲の程度、勾配の程度、路面の舗装の有無、凹凸、乾湿などの、構造物としての道路の物理的な形状、構造、状態等をいい、それには、他の走行車両や歩行者等の他の交通主体の存在は含まれないと解すべきである」とする。
  • 検察官が、ハンドル操舵角について、本件道路を時速60kmで走行した場合と、サーキットを時速60km及び時速140~150kmで走行した場合とを比較したものを基に、サーキットと比べて多数回のハンドル操作を必要とする道路であり、速度が上がれば、車両の揺れが大きくなり、その分、車両の挙動が不安定となり、多数回のハンドル操作が必要となると指摘したが、異なる車種を前提にしたものであり、本件道路を時速約194.1kmで走行する被告人車両のハンドルを切った角度によって被告人車両がいかなる挙動を示すか、といった点について、具体的な立証は何らなされていないと判示した。また、幅員が車幅との関係で左右約80cmずつしか余裕がなく、進路右側や交差点出口に縁石が存在し、これらに接触・逸走することや、これらを避けようとするため、あるいは、これらに気を取られて他への注意が疎かとなり、ハンドルやブレーキ操作の誤りが生じることも十分に考えられる、というが、抽象的な可能性を指摘するものにすぎず、採用し得ないと判示した。さらに、速度が速くなると、揺れが大きくなり、運転者のハンドル操作の回数が多くなる傾向や、視野が狭くなったりする傾向があるとする指摘も、一般論に過ぎないとして退けた。
  • 原審公判廷でプロドライバーが、本件道路を時速194kmで走行するのは、元プロレーサーの自分でも無理であると証言した点に関しても、証人は、自動車を高速度で走行させた場合の一般論を述べる以外は、単に、個人の意見、感想を述べるにすぎないとして、その証言の証拠価値は乏しいとした。
  • 平成19年6月に新設された自動車運転過失致死傷罪(旧刑法211条2項)の対象とされ、法定刑の上限が、7年に引き上げられた(自動車運転過失致死傷罪は刑法典から自動車運転処罰法に移されることになる)。
  • なお、危険運転行為は6つの類型であったが、平成29年6月の「東名高速あおり運転事故」をきっかけに、あおり運転が社会問題化し、危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法2条)に新たにあおり運転(5号)と妨害運転(6号)が追加され、8類型となった(令和2年7月改正)。
  • 前田雅英『刑法各論〔第8版〕』(東京大学出版会、2025年)50頁。
  • 立法者も、走行安定性があれば、日本の一般道を時速200kmで走行して事故死させても、危険運転とはならないと考えていたとは思われない。
  • 星周一郎「『進行を制御することが困難な高速度』の意義─危険運転致死傷罪の『想定』と実態─」法学新報129巻6・7号(2023年)521頁。
  • 前掲注5。
  • 自動車の停止距離は、空走距離に制動距離を加えたもので導かれる。制動距離は、「時速(km/時)の2乗÷(254×摩擦係数)」の算式で求められるとされている。通常の一般道路面の摩擦係数は0.7である。他方、空走距離は、「反応時間(秒)×車速(m/秒)」で求められる。通常人の平均的な反応時間は0.75秒とされており、時速194kmで走行した場合、40mとなる。




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