判例コラム

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第373号 大学非常勤講師の労働者性  

―労働契約法の労働者性に対する判断基準―
~東京高裁令和8年1月15日判決※1


文献番号 2026WLJCC011
明治大学 名誉教授
野川 忍


Ⅰ はじめに
 近年、大学非常勤講師と雇用主である大学との間の法的紛争が頻発している。その多くは雇止めや解雇をめぐる事案であるが、紛争類型は多様化しており、その業務や地位の特殊性も相まって、それぞれ重要な論点を提供しているといってよい。本件においては、そもそも当該講師と大学との間の役務提供契約が労働契約に当たるのか、言い換えれば当該講師は労働契約法上の労働者といえるのかが争われ、原審と控訴審との間で結論が分かれる結果となっており、今後の同種事案に対する処理基準の定立にどのような影響を及ぼすかが注目される。


Ⅱ 本件の概要
 被告・被控訴人Y(以下Yが設置・運営する東京海洋大学を「Y大学」という。)は、国立大学法人であり、原告・控訴人XはYとの間で委嘱契約を締結して就労する非常勤講師である。
 Xは、平成17年4月、Yとの間で、YがXに対し、数学科目の非常勤講師を委嘱する旨の委嘱契約(委嘱期間1年)を締結し、Y大学にて、非常勤講師としての勤務を開始した。その後、XとYは、令和3年まで毎年、同様の委嘱契約(以下令和3年の委嘱契約を「本件契約」という。)を締結した。
 Y大学の教員には、常勤教員(教授、准教授、専任講師、助教及び助手)と非常勤教員(寄付講座教員、プロジェクト教員、年俸制雇用教員、連携大学院教員及び非常勤講師)がおり、このうち常勤教員は、Yと雇用契約を締結した労働者と扱われていたが、非常勤講師については、Yから講師を委嘱する旨の委嘱契約に基づく受託者と扱われていた。常勤教員は、Y大学の就業規則に服し、職務上の指揮命令に従う義務があり(Y大学の就業規則37条)、これに違反した場合には懲戒処分の対象となるが(同規則33条)、非常勤講師には同規則は適用されないものと扱われていた(同規則4条)。
 Yが非常勤講師に業務を委嘱するに当たっては、まずYから候補者に対して担当科目、開講学期、曜日、時限、時間数、委嘱期間が明記された「非常勤講師の委嘱について(依頼)」と題する依頼文書と承諾書が送付され、候補者から承諾書が返送される形をとっていた。Xはこれに基づいてY大学hキャンパスにおいて非常勤講師室にある出勤簿に押印して講義を行っていた。非常勤講師は休講した場合には補講することができたが代講は認められていなかった。Xの報酬は90分1コマの授業につき12000円であった。
 令和3年9月に、XはY大学のA教授から令和4年度の非常勤講師の委嘱は行わない旨を告げられ、委嘱契約の更新は行われなかった(以下「本件雇止め」という。)。これに対してXは、Yとの契約が労働契約であって自分は労働契約法上の労働者であることを前提に、労働契約法(以下「労契法」という。)18条による無期転換権を行使したうえで、Yによる委嘱契約の更新拒否は解雇であり、労契法16条に照らして無効であるとして、労契法上の地位の確認等を請求して訴えを提起した。


Ⅲ 原審※2判旨
 原審はXの請求を棄却した。

1.Xが労契法2条1項の「労働者」に該当するか否かは、本件契約の内容、本件契約に基づく労務提供の実態等に照らし、XがYの指揮監督下において労務を提供し、当該労務の提供への対価として賃金を得ていたといえるか否か(XとYとの間に使用従属関係が存在するといえるか否か)という観点から判断するのが相当である。

2.Xの業務の範囲は、本件契約で委嘱された担当科目に係る授業の実施に限定されており、Xにおいては本件契約で通常予定されていない仕事の依頼あるいは業務従事の指示を拒否する自由を有していたと認めるのが相当である。

3.またXは、各担当科目の講義の内容、教授方法及び個々の学生の成績評価という、本件契約において求められている業務の本質的な部分につき、自由に決定することができ、Yの指揮監督が及んでいたとは認め難い。

4.本件契約に基づくXの業務が大学における講義である以上、講義の実施場所及び実施時間はあらかじめ学生に周知される必要があり、Xもこの周知された場所及び時間に拘束されることになるが、これは、業務の性質によるものであり、原告による業務執行につきYの指揮監督を及ぼす目的でされるものではない。このことは、Xが、講義自体の実施を除き、本件契約に基づく業務をいつ、どこで行うかを自由に決めることができ、Yは、Xがいつどこで業務を行っているかを把握していなかったことからも裏付けられる。そうすると、Xに対する時間的・場所的な拘束は希薄であったといえる。

5.Yが支払った報酬は、Xが業務に費やした時間及び労力によって増減するものではないから、労務の提供の対価として支払われたとは評価し難く、「給与」との名目で支払われていること、業務委託契約の報酬として消費税の支払をしていなかったことを考慮しても、講義の実施という特定の事務の執行に対する対価としての性質が強いといえる。

6.以上の検討によれば、Xが、Yの指揮監督下において労務を提供し、当該労務の提供への対価として賃金を得ていたとは認めるに足りず、XとYとの間に使用従属関係があったとは認められない。
 これに対してXが控訴した。


Ⅳ 判旨
 控訴認容。Xの労働契約上の地位の確認と未払賃金の支払が認められる。


1.判断枠組みと考慮要素
 労契法2条1項の「基本的な判断枠組みは、指揮監督下の労働と報酬の労務対償性が基準になるものと解される」。
 「その考慮要素としては、……請負又は準委任か雇用かが問題となるような類型においては、労基研報告が示す考慮要素、すなわち、①仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、②業務遂行上の指揮監督の有無、③拘束性の有無、④代替性の有無、⑤報酬の労務対償性、⑥事業者性、⑦専属性の程度、⑧その他の事情(以下、順に「考慮要素①」などという。)を前提に長年にわたって議論が蓄積されてきた経緯があり、原審の判断も、基本的にはこれに沿うものと理解される」。


2.各考慮要素による判断
(1)考慮要素①については、滋賀県社会福祉協議会事件※3を引用し、担当科目が決まっていたこと等は労働契約であっても業務内容の特定はあり得るので、Xの労働者性を否定する要素にはならない。また、契約締結段階においても、XとYとの力関係(バーゲニングパワー)からして、XはYからの委嘱の依頼について実質的に諾否の自由があったといえるかは疑問である。

(2)考慮要素②については、授業科目の講義内容や定期試験の内容、評価についてXが自由に定められるとしてもそれは労働者性に争いがない常勤の教員も同様であって、指揮監督がXに及んでいたと評価できる点も少なくない。

(3)考慮要素③については、出退勤の把握が自由であったこと等は常勤教員も同様であって非常勤講師ゆえに拘束性が希薄になっているという事情を認めるに足りる証拠はない。

(4)考慮要素④については、Xら非常勤講師は、Yの常勤教員もしくは非常勤講師にのみ代講を依頼することができるので、代替性が認められていたとはいえないが、これ自体は、指揮監督関係を否定する要素にならないというにすぎず(労働基準法研究会報告※4(以下「労基研報告」という。)参照)、労働者性を積極的に基礎付ける事情とはいえない。

(5)考慮要素⑤については、Xは授業1コマにつき報酬額が定められており、講義の準備等を含めた稼働時間に応じて報酬額を定めるような仕組みになっていなかったが、このような算定方法をもって使用者性、労働者性を否定する方向で考慮するのは誤りである。

(6)考慮要素⑥については、Xの事業者性を基礎付けるような事情は見当たらない。

(7)考慮要素⑦については、Xの専属性は低いが、労基研報告によれば専属性がないことは労働者性を弱めることにはならないとされており、Xの労働者性を否定する方向で考慮することは相当でない。

(8)考慮要素⑧については、文部科学省(以下「文科省」という。)が、大学の教員は常勤であるか非常勤であるかを問わず労働者として処遇することが適切であるという指導を強めていること、本件契約が雇用契約でないとすれば、雇用関係にない者に実質的に授業科目を担当することが不適切であるとの文科省の見解に抵触することとなることが考慮されるべきである。


3.結論
 以上のとおり、Xの労働者性を否定する有力な事情は見当たらないこと、非常勤講師と常勤教員との間で授業担当教員としての業務内容に本質的な違いがないこと、大学の教員は非常勤であれ常勤であれ労働者として処遇するのが一般的であり、文科省もそのような扱いが適切であるとしていること等を総合すれば、Xは労働者に該当し、本件契約は労働契約であって、無期転換権の行使により期間の定めのない労働契約に転換しており、本件雇止めは解雇に当たるところ、本件の経緯に照らして同解雇は客観的に合理的な理由は見当たらず、社会通念上相当であるとは認められないので無効である。


Ⅴ 判決の意義と評価
1.判決の意義

 期間の定めある契約により就労している大学の非常勤講師をめぐる争いにおいては、これまで期間満了時の雇止めの適法性が中心的争点となっていたが、最近になって、委嘱という契約形態で授業を担当する非常勤講師の例が増加し、そもそも当該契約が労働契約なのか否かが争われる事案が注目されるようになった。本件はそのうちの初めての高裁判決であるが、地裁レベルではすでに、本件原審判決のほか、国立大学法人東京芸術大学事件※5及び国立大学法人大阪大学事件※6があり、ここ3年余りで、国立大学法人3校で同様の事案についての判決が出されたこととなる。背景には、実態として多くの国立大学法人で、非常勤講師のうちの一部について雇用ではなく委嘱という形態で採用することが徐々に一般化していること、また本件判旨も引用するように文科省が大学教員につき常勤非常勤を問わず労働者として扱うことを要請する通達を出したこと等が影響しているといえる。そうして、これまで非常勤講師の労働者性が争われた事案では、本件原審及び上記2件の判決はいずれも労働者性を否定していた。本件は、同種事案についての初めての高裁判決であるのみならず、委嘱契約による非常勤講師の労働契約上の労働者性を認めた初めての判決である点において重要な意義を有する。しかし、後述のようにその理由付けについても結論においても説得力を欠くものとなっており、先例性を十分に有する判決となっているとはいい難い。


2.大学非常勤講師の労働者性判断に関する前提等
 現在大学法人は、国公立か私立かを問わず、少子化や国際化等の要因に加え、大学法人の数自体が過剰気味であること等から、生き残りをかけて困難な運営を強いられている。その中で非常勤講師の扱いについては、労契法18条及び19条を遵守しつつ合理的かつ効果的な大学経営を行うために、さまざまな対応を苦慮しており、その一環として、本件のように授業の一部については雇用ではなく委嘱の形で講師を依頼することも実施されてきた。他方で、現在の非常勤講師という立場は、地位の不安定さのみならず常勤教員に比べた処遇の低さ等により、従事する多くの研究者にとって満足できるものとはなっていない。このように労使の双方に困難な事情が控えており、適切妥当な判断基準を見出すことは実態の解決のよりどころとしても重要な要請となっている。また、労働法学の分野では、労働者性の判断基準をどう定立するかが、かねてから重要なテーマとして検討されており、特に労働基準法(以下「労基法」という。)、労働組合法(以下「労組法」という。)、労契法のそれぞれにおいて独自の労働者の定義が置かれている日本では理論的な整合性を備えた判断基準の定立は労働法学の難題の一つと意識され、今なお膨大な研究の蓄積が続いている。さらに、実務上も、労働市場一般をみてもフリーランスやクラウドワーカー等、従来の典型的労働者像とは異なる類型の就労形態が多様に増加しているし、大学における研究者の就労形態も、本件に現れた委嘱契約による非常勤講師のみならず、直接に授業は担当しなくても、教育、研究に関わる業務を委託契約の形式で担当する形態も増えている。こうした山積みの課題が、本件事案の背景には控えているのである。


3.判旨の位置付けと評価
 労基研報告は、40年以上前に出された本格的な解釈基準であって、判旨も指摘するとおりその後の労働者性判断について圧倒的な影響を及ぼしてきた。確かに、この報告書は周到に検討された内容で、労基法が適用される労働者か否かという困難な問題について信頼できる指標をもたらしたことは疑えない。また、労働契約上の労働者か否か、労組法上の労働者か否かについても参考にし得る汎用性を備えていたことも疑えない。しかし、判旨が労基研報告に全面的に依拠して検討を行い、結論を導いていることには疑問を禁じ得ない。この報告書は、あくまでも労基法が適用される労働者とはどのような存在かを示すために策定された内容であり、策定当時においては、労基法の適用如何が問題とならない争いにおいて、当該契約が労働契約か否かを決定するための労働者性を判断するためにも利用されることは想定されていない。また、当時は労契法は制定されておらず、労働契約上の労働者か否かを判断する実定法上の規定自体が存在していなかったので、この報告書の示す判断基準を活用することには妥当性も意義もあったが、労契法が制定されて独自の労働者の定義も存在している現在、この報告書に全面的に依拠することが妥当であるといえるためにはそれ自体の根拠が必要であろう。いうまでもなく、刑罰法規であり、行政監督のための法律である労基法が適用されるか否かと、民法の特別法である労契法が適用される労働者か否かは、実質的には重なる場合が多いとしても、法の適用基準としては明確に異なる。
 そのうえで判旨の具体的な判断は、常勤教員と非常勤講師の授業担当における実態がさほど相違のないという実状や、文科省の指導に大きなウェイトが置かれており、判旨自身が整理した判断要素①~⑧の判断が十分に生かされているとはいい難い。
 まず、常勤教員と非常勤講師の授業担当における実態がさほど変わらないことは、労働契約であれ嘱託契約であれ特定の業務を遂行することが核となる義務であればその業務の遂行形態にほぼ相違がないのは当然であり、そのことは当該契約が労働契約であることを示す指標にはならない。そうではなく、当該授業担当者が、契約の相手方の指示によって他の業務に従事し、あるいは業務内容を変更する可能性が含まれているか否かがポイントなのであり、一般に常勤教員は学内行政に関わる業務をはじめとして授業以外の業務について、実際に担当することは多くなくても労働契約にはそれらの業務も行う可能性が排除されることはないのが通常である。判旨に引用はしなかったが、本件判決においては千葉大学大学院の数学担当の教授の証言をもって、常勤教員と非常勤講師の間の業務にほとんど相違はないとして、これを本件契約が労働契約であることを認定する重要な裏付けの一つとしている。しかし、そこで証言されているのは、担当する授業の遂行方法については相違がないというだけのことであって、非常勤教員の業務は委嘱された内容だけであるが、常勤教員の業務は、中心的には授業の担当であるが、特段の合意がない限り上記のとおり他の業務を遂行する可能性を含むのが通常であって、判旨の判断は著しく妥当性を欠く。
 また判旨は、文科省が本件のように労働契約ではない形態で授業を担当させることが不適切であると指摘していることをもって、本件契約が労働契約であるとの判断を補強する要素としているが、この点も疑問を禁じ得ない。文科省が懸念を示しているのは、雇用ではない形態で授業を担当させることであって、授業を担当している場合は雇用だとみなす、などとはいっていない。むしろ、本件のように委嘱契約によって授業を担当させているということを事実として認識したうえで、それは不適切であると指摘しているのである。したがって、文科省の指摘をもって本件契約が労働契約であることの根拠とするのは全くの筋違いな論理である。
 本件までに出されている上記の3件の地裁判決に対しては、いずれも批判的な評釈が目立つ※7が、それらはいずれもそれぞれの判決の論理につき不十分さを指摘する点では意義があるものの、本件事案が労契法の適用をめぐる事案であって労基法上の労働者性をめぐる問題とは直接関係がないこと、同じように授業を担当しても、常勤教員が労働契約に基づき行う場合と本件のように委嘱によって行う場合とでは、他の業務に従事する可能性が契約自体に含まれているか否かなどにおいて基本的な相違があること、文科省の指摘は委嘱によって授業を担当する契約を労働契約とみなすということの論拠にはならないこと等、重要なポイントを看過している点で賛同できない。


Ⅵ 今後の展望
 本件については、地裁判決も必ずしも十分に説得的ではない。特に、判断枠組みとして一般的な使用従属性の有無を定立して本件の事案としての特殊性を顧みていないことや、具体的検討に当たって大学教員の業務の性格等が適切に考慮されていない点等は見逃せない。早い時点で、同種事案に応用できる最高裁の基本的考え方が示されるべきであろう。



(掲載日 2026年5月12日)

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  • WestlawJapan文献番号2026WLJPCA01156001。
  • 東京地判令和7年2月20日労経速2590号17頁WestlawJapan文献番号2025WLJPCA02206009。
  • 最二小判令和6年4月26日裁時1838号3頁WestlawJapan文献番号2024WLJPCA04269001。
  • 労働基準法研究会報告(https://jsite.mhlw.go.jp/fukushima-roudoukyoku/content/contents/001846686.pdf
  • 東京地判令和4年3月28日労判1335号80頁WestlawJapan文献番号2022WLJPCA03288004。
  • 大阪地判令和7年1月30日労判1329号5頁WestlawJapan文献番号2025WLJPCA01306003。
  • 代表的なものとして、本件原審判決につき橋本陽子「判批」ジュリスト1611号4頁(2025年)、国立大学大阪大学事件につき水町勇一郎「判批」ジュリスト1616号142頁(2025年)、国立大学東京芸術大学事件判決につき小西康之「判批」ジュリスト1589号146頁(2023年)。




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