判例コラム

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第386号 バンドスコア事件最高裁  

~最高裁第二小法廷令和8年10月9日判決※1~


文献番号 2026WLJCC024
桃尾・松尾・難波法律事務所 パートナー弁護士
松尾 剛行※2


Ⅰ はじめに
 本件は、バンドスコアというバンド用楽譜(一審原告スコア、最高裁においては「被上告人スコア」)を作成した一審原告(被上告人)が、これを模倣した楽譜(一審被告スコア、最高裁においては「上告人スコア」)を公開した一審被告(上告人)両名に対して、不法行為(民法709条)に基づき損害賠償を求めた事案である。ここで、もし一審原告が一審原告スコアに記された楽曲の著作権者であれば、一審被告の行為は著作権侵害である。しかし、一審原告は当該楽譜に関して著作権を有しない。即ち、一審原告は耳で音を聞いて楽譜に落とし込む採譜(耳コピ)を行っていたものである※3。
 そのような著作権法で保護されないクリエイティブな活動は、どの範囲で保護されるのだろうか。とりわけ、単に一審被告が一審原告スコアにつき、複製・翻案等の著作権法が規定する利用行為を行ったということだけをもって一審被告の行為を一審原告に対する不法行為とすることは、同法が著作物を限定した趣旨との関係で問題があると思われる。そこで、どのようなプラスαがあれば、自由競争の原則の下でも、なお著作権で保護されない一審原告スコアを一審被告が利用したことを不法行為とすることができるかが問題となる。この点については、北朝鮮映画事件※4が、著作権侵害にならない場合の不法行為成立のためには「特段の事情」が必要としていた。そして、原審(東京高裁)は、一審被告の行為につき「特段の事情」が認められるとして、不法行為による一審原告の営業に対する保護を認めたところ※5、一審被告が上告した。
 控訴審判決の直後から、同様に著作権で保護されないものを利用した営業に対する不法行為を利用した保護として、棋譜の保護に関する3事案6判決が相次いだ※6。控訴審判決は、これらの棋譜に関する事案と共に、新たな時代においてますます増加するであろう著作権法で保護されない営業が不法行為によって保護される可能性を示す重要判決として、2026年5月の著作権法学会で取り上げられ、筆者もこれに登壇し※7、その予稿的書籍として『棋譜に著作権はあるのか』※8を刊行した。
 この問題が非常に重要であり、AI法の分野で理論と実務の架橋を試みる筆者として、単著を刊行するほど注目しているのは、筆者が「AI時代において著作権法で保護されないクリエイティブやデータが増加する中、どのようにクリエイターを保護するか」、という問題意識を持っているからである。例えば、文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」※9は、「アイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されること等の事情が、法(筆者注:著作権法のこと)第30条の4との関係で『著作権者の利益を不当に害することとなる場合』には該当しないとしても、当該生成行為が、故意又は過失によって第三者の営業上の利益や、人格的利益等を侵害するものである場合は、因果関係その他の不法行為責任及び人格権侵害に伴う責任の要件を満たす限りにおいて、当該生成行為を行う者が不法行為責任や人格権侵害に伴う責任を負う場合はあり得ると考えられる」とする※10。最近では、著作隣接権で保護されない態様※11でAIを利用して声を利用する行為からの保護が問題となっており、筆者も判例コラムを執筆した津田健次郎事件※12では、声をパブリシティ権で保護する余地が認められている。このような文脈の下、以下では、本判決の概要を紹介した上で、クリエイターの保護との関係を中心に、簡単にコメントしたい。


Ⅱ 事案の概要と判決要旨
1.事案の概要

 バンドスコアとは、バンド音楽の楽譜である。バンド音楽は、様々なパート(ギター、キーボード、ドラム、ボーカル等)で構成される。そして、その全てのパートを記載したものがバンドスコアである。バンド音楽においては、メロディーやコード等の基本的要素は決定していることが多い。しかし、実際に各パートがどのように演奏されるかは、収録現場においていわばアドリブ等も含めて演奏しながら決定されていく。その結果として、「作曲者が作成した全パートが揃った完璧な楽譜」なるものはそもそも存在しないのである。よって、コピーバンドがあるバンド音楽を演奏したいと思ったら、自分たちで各パートを聞き取ってスコアを作る(採譜、耳コピ)か、又は第三者の作成したバンドスコアを利用する必要がある。
 一審原告は、担当者が演奏を聴いて、それぞれのパートごとにどのような演奏が行われているかを聞き取り、それを楽譜に起こすという採譜を行い、一審原告スコアというバンドスコアを作成した。そして、著作権者の許可を得てこれを出版し、有償で販売していた。
 最高裁によれば、一審被告会社は、少なくとも平成23年12月から平成30年6月までの間、579曲について一審被告スコアを作成した上で、これを自社のウェブサイトにおいて無料で公開し、広告料収入を得た。一審被告スコアの制作の経緯については、一審被告個人において自ら事前に購入した一審原告スコアを音源データと共に一審被告会社の担当者に渡し、一審被告会社において自ら採譜をすることなく一審原告スコアに依拠してこれと実質的に同一の表記をするという方法で行われたものであり、一審被告スコアの内容は、いずれも、一審原告スコアを完全に複製したとまでいうことはできないものの、一審原告スコアの全体を細部まで模倣したということができるものであった(本件行為)とのことである。なお、以下では、一審被告会社と一審被告個人を「一審被告」と総称する。


2.判決要旨
(1)法廷意見

 最高裁は、本件に北朝鮮映画事件の射程が及ぶことを前提に、一審被告の本件行為は、著しく不公正な手段を用いて一審原告の営業の継続を困難にさせる競業行為であり、社会通念上自由競争の範囲を逸脱して一審原告の営業を妨害し、その営業上の利益を侵害するものということができ、北朝鮮映画事件のいう「特段の事情」があるとした。そこで、不法行為を認めた原審を是認し、上告を棄却した。


(2)補足意見
①尾島補足意見

 一審原告スコアは著作権法2条1項1号の著作物ではないところ、北朝鮮映画事件が同法6条各号に該当しない著作物の利用行為について判示するところと同様に、特段の事情が必要だとした。その理由は、「著作権法がその権利成立の要件、保護範囲、救済手段、保護期間等を法定していることから、著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益の侵害に該当することにより初めて不法行為が成立するとすることによって、著作権の保護と他人が創り出したものを利用して行う営業活動の自由との関係を調整しようとするものとして理解できる」としている。その際には、「ある事業者が費用等をかけて創り出し、利益を上げていた商品を他の競業者がそのことを認識しつつ、費用等をかけずに模倣して利用し、消費者をより誘引する別の方法で市場に提供する行為は、知的成果物の利用による利益の侵害行為とはいえなくても、営業妨害行為として不法行為には該当し得る場合がある」とした。
 なお、「科学技術の進歩は目覚ましく、現在ではバンドスコア制作を取り巻く状況に変化がある可能性はあるものの、平成30年頃までの時期においては、一般の利用者の使用に耐える程度のバンドスコアを制作するには多大な費用等をかけて採譜をする必要があった」ともしている。


②高須補足意見
 「時代を先取りした新種ビジネスの展開が、競争原理を根幹とする取引社会において、社会の活力の源泉となるという積極的意義を有するということも、考慮しなければならない」としてスタートアップやイノベーション保護を述べたが「専ら自らの創意と才覚によって新種ビジネスを遂行しているケースとは異なり、一方で従来のビジネスモデルの成果に便乗しこれを利用しながら、他方で新たなビジネスモデルの果実を独占的に収受したというケースであり、上告人らによる本件行為は、公正な競争秩序を害する方法で従来のビジネスモデルに基づく市場参加者を著しく不利な立場に置くものといわざるを得ず、このような営業行為はやはり許容することはできない」として、法廷意見に賛成するとした。


Ⅲ 評釈―AI時代のクリエイター保護との関係
1.はじめに

 本判決についてはまずロジックを正しく理解した上で(下記Ⅲ2.)、AI時代のクリエイター保護との関係で簡単にコメントしたい(下記Ⅲ3.)。


2.最高裁のロジック
 最高裁はどのようなロジックでその結論に至ったのかを整理しよう。


(1)北朝鮮映画事件の射程
 「被上告人スコアは、著作権法2条1項1号にいう著作物に当たらないから、被上告人スコアについてされた同法上の著作物の利用行為に相当する行為は、同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではない」として北朝鮮映画事件を引いた。
 つまり、最高裁によれば、北朝鮮映画事件の射程は(北朝鮮の映画のように、著作権法2条1項1号の著作物たる要件を満たすものの、同法6条各号に基づき日本において保護されない場合だけではなく、)本件のような、そもそも著作物に該当しない場合にも及ぶ。


(2)「特段の事情」
 最高裁はその上で、「上記行為が、単に著作物の利用行為に相当する行為であるというにとどまらず、社会通念上自由競争の範囲を逸脱して被上告人(筆者注:一審原告)の営業を妨害し、その営業上の利益を侵害するものということができるときは、被上告人スコア(筆者注:一審原告スコア)を独占的に利用する利益とは異なる被上告人の法的に保護された利益を侵害するものとして、上記特段の事情があり、不法行為を構成するものというべき」とした。
 つまり、北朝鮮映画事件のいう「特段の事情」について、営業妨害の場面※13において、「社会通念上自由競争の範囲を逸脱して」「営業を妨害し、その営業上の利益を侵害する」場合が特段の事情にあたるとした。


(3)あてはめ
 裁判所は、以下の事実を認定した。

  1.  ・一審原告が多大な費用等をかけて自ら採譜をして、一審原告スコアを制作し、これを販売して費用等を回収することにより営業を継続していた。
  2.  ・一審被告が、約6年半にわたり、579曲の多数の楽曲について採譜なしに一審原告スコアを細部まで模倣した一審被告スコアを無料で公開し、広告料収入を得る行為(本件行為)を行った。
  3.  ・一審被告が営業を継続することができたのは、バンドスコアの制作に要するはずの多大な費用等の負担を免れていたことによるものというべきである。
  4.  ・一般の利用者にとっては2つのスコアは同程度の品質を有すると考えられ、一審原告の売上げが大きく減少した期間があったこと等も併せ考慮すると、本件行為は、一審原告から容易に顧客を奪取し、一審原告の営業の継続に直接的かつ重大な悪影響を及ぼすものであったということができる。
  5.  ・その上、そのことを一審被告が認識していた。
  6.  ・加えて、本件行為と同様の行為が許容されるとすれば、自ら多大な費用等をかけて採譜をし、バンドスコアを制作している楽譜出版社が市場において著しく不利な立場に置かれることとなり、公正な競争秩序が害される結果となりかねない。
 これらの事情を総合考慮し「本件行為は、著しく不公正な手段を用いて被上告人(筆者注:一審原告)の営業の継続を困難にさせる競業行為であり、社会通念上自由競争の範囲を逸脱して被上告人の営業を妨害し、その営業上の利益を侵害したものというべきである。そうすると、本件行為について、被上告人スコア(筆者注:一審原告スコア)を独占的に利用する利益とは異なる被上告人の法的に保護された利益を侵害したものとして、前記特段の事情があるということができる」とし、不法行為を構成するとした。


3.検討
(1)著作権で保護されないクリエイティブやデータを利用する営業の保護にとって有利な判決

 北朝鮮映画事件は、確かに、「特段の事情」さえ満たせば、著作権で保護されない場合でも、その営業等が不法行為で保護されるということを判示していた。ただ、一般にはその「特段の事情」というのは容易に認められないと解されていた。北朝鮮映画事件以前は多数の、著作権で保護されないものを利用した営業であっても不法行為で保護される旨の判決が下されていた※14。ところが、北朝鮮映画事件が「特段の事情」を具体的事案において否定したこともあって、同判決が下された後、長きにわたり「特段の事情」を認めた裁判例は出てこなかった※15。つまり、北朝鮮映画事件は、いわば「著作権法を通じて国会が、著作権を侵害しなければ原則不法行為にならないとした。裁判所は、立法権を持っていない以上、これを尊重すべきだ」というものとして理解され、そのような裁判所の態度が長期にわたって継続された。
 これに対してバンドスコア事件高裁判決がいわば風穴を開け、上記の棋譜に関する判決群がそれに続き、著作権で保護されなくても不法行為で保護される可能性があるとした。その中で下された本判決は、著作権で保護されないクリエイティブやデータを利用した営業の保護にとって有利な判決である。


(2)北朝鮮映画事件との関係
 ここで、バンドスコア事件において、著作権で保護されないバンドスコアを利用した一審原告の営業を最高裁が保護しようとするのであれば、北朝鮮映画事件との関係について、2つのルートがあった。1つは北朝鮮映画事件の射程を狭める(狭いとする)方法である。つまり、北朝鮮映画事件の射程は事案が異なるバンドスコア事件に及ばず、「特段の事情」の有無ではなくダイレクトに不法行為になるかだけを考えればよいとするものである。もう1つは北朝鮮映画事件の射程がバンドスコア事件に及ぶとした上で、「特段の事情」を実際に満たす事案が存在することを示すというものである。その中で最高裁は後者の道を選んだ。
 即ち、北朝鮮映画事件において、最高裁は、著作権法6条各号「所定の著作物に該当しない著作物の利用行為は、同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である」と判示した。その上で、営業上の利益侵害についても検討し、「本件放送が、自由競争の範囲を逸脱し、1審原告X1(筆者注:権利者)の営業を妨害するものであるとは到底いえないのであって、1審原告X1の上記利益を違法に侵害するとみる余地はない」として、当該事案における不法行為該当性を否定した※16。
 ここで、北朝鮮映画事件は著作権法2条1項1号の著作物ではあるが、外国の著作物として同法6条各号により保護されていないことが問題であった。これに対し、本件はそもそも同法2条1項1号の著作物ではなかった※17。そこで北朝鮮映画事件の射程から外す余地もあった※18。しかし、最高裁は、上記Ⅲ2.(1)のとおり本件に対して北朝鮮映画事件の射程が及ぶとした※19。
 その上で、上記Ⅲ2.(2)のとおり、「社会通念上自由競争の範囲を逸脱して被上告人(筆者注:一審原告)の営業を妨害し、その営業上の利益を侵害するものということができるとき」は「特段の事情」があるとし、本件の行為は「著しく不公正な手段を用いて被上告人の営業の継続を困難にさせる競業行為」であるから、そのような場合に該当するとした。北朝鮮映画事件が具体的事案で否定した「特段の事情」を本件の具体的事案で肯定したものである。
 なお、下記Ⅲ3.(5)との関係ではこの射程が、著作権法30条の4や47条の5等の権利制限規定によって適法とされたものにまで及ぶかなどが問題となる。この点は下記Ⅲ3.(5)を参照のこと。


(3)控訴審との相違
 最高裁の結論は上告棄却であるため、控訴審と同じ判断をしたという読み方もできる。ただ、以下のとおり、いくつかの重要な相違が指摘可能である。


①「著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情」に関する、営業上の利益侵害の場面における下位規範が示されたこと
 控訴審は、「他人が制作したバンドスコアを利用してバンドスコアを制作し販売等(インターネット上に無料で公開し広告料収入を得る行為を含む。以下同じ。)をする行為について不法行為が成立するためには、当該行為について著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情が認められることが必要」としており、特段の事情の有無として、北朝鮮映画事件で最高裁が判示したとおり、「著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害する」かを考えている。
 しかし、最高裁は、「単に著作物の利用行為に相当する行為であるというにとどまらず、社会通念上自由競争の範囲を逸脱して被上告人の営業を妨害し、その営業上の利益を侵害するものということができるときは、被上告人スコアを独占的に利用する利益とは異なる被上告人の法的に保護された利益を侵害するものとして、上記特段の事情があり、不法行為を構成する」として、営業上の利益侵害の場合には「社会通念上自由競争の範囲を逸脱して被上告人の営業を妨害し、その営業上の利益を侵害する」かというのが※20、北朝鮮映画事件で特段の事情とされた「著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害する」かの下位規範となることを明らかにした※21。
 なお、北朝鮮映画事件の段階で、「自由競争の範囲を逸脱し、1審原告X1の営業を妨害するものであるとは到底いえない」とは判示されていた※22。その意味では、バンドスコア事件最高裁判決が行ったことは、北朝鮮映画事件の前提としていた枠組みを確認しただけと評する余地もある。ただ、仮にそうであっても、当該枠組みを明言したことには大きな意味がある※23。


②バンドスコア全般に関する判示から、本件におけるバンドスコアに関する判示へ変更されていること
 具体的な認定においては、控訴審がバンドスコアが一般的にどのような性質のものかという方向に寄せて判示を行っていたところ、最高裁が本件の具体的競争状況に寄せた判示を行ったことが重要である。
 控訴審は、バンドスコアの一般論として「採譜という作業には多大な時間、労力及び費用を要し、また、採譜という高度かつ特殊な技能の修得にも多大な時間、労力及び費用を要する」として、採譜作業と採譜技能習得過程における時間・労力・費用が多大であることを指摘した。その上で、他人が採譜したバンドスコアへのフリーライド一般を認めれば、投資を十分に回収できなくなり、採譜によりバンドスコアを制作・出版しようとする者がいなくなり、採譜技術を習得する者もいなくなり、音楽出版業界が衰退し、音楽文化の発展を阻害するとした。その結果、控訴審の表現を借りれば、「他人が販売等の目的で採譜したバンドスコアを同人に無断で模倣してバンドスコアを制作し販売等する行為」全般について、北朝鮮映画事件の「特段の事情」が認められ、不法行為となるとした。これは少なくともその文言上は具体的なバンドスコアの作成・販売態様等を問わずに一律に「特段の事情」を認めるという、極めて広い射程を持つ判示である※24。
 これに対し、最高裁の「特段の事情」の認定の際には、一審原告のスコアに関する一審被告の行為(本件行為)の具体的態様にフォーカスした判断が行われている。つまり、一審原告は「多大な費用等をかけて自ら採譜をし、バンドスコアを制作していたものであり、これを販売して上記費用等を回収することにより、バンドスコアの制作、販売を内容とする営業を継続していた」として、これに対し、一審被告は579曲を6年半以上にわたりスコアの全体を細部まで模倣して無料公開する(本件行為)という形で、一審原告と一審被告の具体的行為態様が示され、それが評価された。つまり、最高裁は、控訴審と異なり、「特段の事情」の認定においては、当該ビジネスの一般論に基づく概括的な検討をするのではなく、主に両当事者の個別具体的な競争状況を検討している。例えば、同じバンドスコアの利用でも、細部に至るまでの模倣ではなかったり、規模が小さかったり、期間が短いなどのような相違があれば、異なる判断になった可能性がある。また、その結果として、バンドスコアの品質が異なるとか、異なる市場の別の消費者をターゲットにしているとか、その結果として一審被告スコアの提供によっても一審原告スコアの販売が減少しないといった事態が生じれば、異なる判断となった可能性がある※25。
 なお、最高裁は、「本件行為と同様の行為が許容されるとすれば、自ら多大な費用等をかけて採譜をし、バンドスコアを制作している楽譜出版社が市場において著しく不利な立場に置かれることとなり、公正な競争秩序が害される結果となりかねない」として、最後に個別論から本件行為と「同様の行為」が許容された場合の公正な競争秩序への影響を検討している。この点は、競争秩序というのは、2社の競争関係のみではなく、市場全体をみるべきであることから、もし一審被告の行為が不法行為ではないとして、他社も同様の行為をやってよいとなった場合において市場がどのようになると予想され、それが公正といえるか、という点を考えたのであろう。そこで、この部分は競争秩序への影響の検討であったからこそ、その性質に鑑みて一般的な議論が行われたに過ぎず、主に個別具体的な競争関係に注目するという最高裁の基本的なスタンスと矛盾するものではないだろう。


③最高裁は二重のフリーライドを少なくとも重要な理由付けとしていないこと
 控訴審は、「他人が販売等の目的で採譜したバンドスコアを同人に無断で模倣してバンドスコアを制作し販売等する行為については、採譜にかける時間、労力及び費用並びに採譜という高度かつ特殊な技能の修得に要する時間、労力及び費用に対するフリーライドにほかなら」ないことを理由に「公正かつ自由な競争秩序を害する手段・態様を用いて市場における競合行為に及ぶものであると同時に、害意をもって顧客を奪取するという営業妨害により他人の営業上の利益を損なう行為」だとして「特段の事情」を認めた。控訴審としては、上記の採譜作業と採譜技能習得過程の双方へのフリーライドという二重のフリーライドを問題としている。
 最高裁からは、フリーライドという言葉が消えた※26。最高裁は、一審原告スコアを「細部まで模倣することにより、」一審被告スコア「の制作に要するはずの多大な費用等の負担を免れていた」ため無料公開による営業を継続することができたところ、一審原告「から容易に顧客を奪取し、」一審原告「の営業の継続に直接的かつ重大な悪影響を及ぼすものであったということができる上、そのことを」一審被告「が認識していたことは明らか」であって「自ら多大な費用等をかけて採譜をし、バンドスコアを制作している楽譜出版社が市場において著しく不利な立場に置かれることとなり、公正な競争秩序が害される結果となりかねない」として、「社会通念上自由競争の範囲を逸脱して被上告人の営業を妨害し、その営業上の利益を侵害する」特段の事情があると結論付けている。
 もちろん、最高裁の一審原告スコアを「細部まで模倣することにより、」一審被告スコア「の制作に要するはずの多大な費用等の負担を免れていた」という部分の判示はフリーライドと実質的に同様の点を指摘しているといえる。但し、最高裁は、この点から直ちに結論を導くのではなく、一審原告の営業の継続に対する直接的かつ重大な悪影響、認識及び公正な競争秩序への影響を挙げていることに留意が必要である。


④「害意」について
 控訴審は「害意」を「特段の事情」があると認めた理由としながらも、それをフリーライドから認定(推認)している。つまり、控訴審は、バンドスコアの模倣が二重のフリーライド(上記Ⅲ3.(3)③参照)だという議論の直後に、まず、客観的に「公正かつ自由な競争秩序を害する手段・態様を用いて市場における競合行為に及ぶもの」だとした上で、続いて、「害意をもって顧客を奪取するという営業妨害により他人の営業上の利益を損なう行為」だともしている。つまり、具体的に一審被告にどのような認識があったかを、例えば一審被告の発言等を基に認定したのではなく、二重のフリーライドたる模倣行為をした以上は、それは主観面においても害意があったのだ、と認定(推認)している。
 これに対し、最高裁は、「本件行為は、」一審原告「から容易に顧客を奪取し、」一審原告「の営業の継続に直接的かつ重大な悪影響を及ぼすものであったということができる上、そのことを」一審被告「らが認識していたことは明らかである」とした。つまり、一審被告が、相手の営業継続に直接的かつ重大な悪影響を及ぼすことを認識した上で本件行為を行った、との認定は存在する。しかし、そこに「害意」という文言は用いられていないところ、控訴審とあえて異なる表現を用いていることからは、最高裁は、その具体的事情の下では、自由競争逸脱を認定する上で、「害意」がなくとも十分にこれを認定可能だとした、とみることができる。
 控訴審が害意を認定した背景としては、ある意味では、害意さえある一審被告については、より(違法な)営業妨害が認定しやすいという部分はあっただろう。但し、その害意というものが、客観的な競争態様を踏まえ、一審被告が当該競争態様であると知ってなお行為を行った以上害意がある、ということに過ぎないのであれば、あえて害意を認定したところで、(違法な)営業妨害だという根拠としての「プラスα」※27の価値は少なくとも強いとはいえない。そのような中で、最高裁は、一審被告の認識のみを認定した上で、自由競争を逸脱した営業妨害としており、少なくとも本件のような事実関係の下においては、控訴審のように苦心して害意を認める必要がないことを明らかにした。


⑤営業継続の困難性について
 控訴審はバンドスコアのフリーライドが許されない理由として、以下のとおり判示していた。即ち、「バンドスコアの制作者が販売等の目的で採譜したバンドスコアを制作者に無断で模倣してバンドスコアを制作し販売等すること、すなわち、バンドスコアの制作者が採譜にかけた時間、労力及び費用についてフリーライドすることが許されるとしたら、その反面、制作者が販売するバンドスコアの売上げが減少し、採譜によるバンドスコアの制作への投資を十分に回収できなくなり、採譜によってバンドスコアを制作し販売する事業者は壊滅的な打撃を被ることになって、自ら時間、労力及び費用を投じて採譜によりバンドスコアを制作しようとするインセンティブは大きく損なわれ、採譜によりバンドスコアを制作し出版しようとする者がいなくなるから、音楽の演奏を趣味・職業とする者等から一定の需要が見込めるにもかかわらず、採譜によるバンドスコアの供給が閉ざされる結果になりかねない。また、高度な技術を身に着けて苦労して採譜した成果物についてフリーライドが許されるとしたら、多大な時間、労力及び費用を投じて採譜の技術を修得しようとする者がいなくなり、ひいては、バンドスコアに限らず、採譜によって制作される全ての楽譜が制作されなくなって、音楽出版業界そのものが衰退し、音楽文化の発展を阻害する結果になりかねない。」要するに、採譜作業の継続という意味では、フリーライドをされると投資を回収できなくなるからバンドスコアの制作・出版活動の継続が困難になる。また、採譜技能の習得についても、フリーライドをされると技能を習得する者がいなくなり、採譜による楽譜作成全般が困難になるとした※28。
 最高裁は、上記のとおり、本件行為が一審原告「の営業の継続に直接的かつ重大な悪影響を及ぼすものであった」とか「自ら多大な費用等をかけて採譜をし、バンドスコアを制作している楽譜出版社が市場において著しく不利な立場に置かれる」といった認定をした後で、最後に自由競争の範囲逸脱を認めるにあたり「本件行為は、著しく不公正な手段を用いて」一審原告「の営業の継続を困難にさせる競業行為であ」るとしている。つまり、手段の不公正性と結果の営業継続困難性に着目している。仮に手段の不公正性が控訴審のいう二重のフリーライドと同様のものとみれば、上記のとおり、控訴審も営業継続困難性を問題としている以上、最高裁と控訴審は一定程度類似した判断を行っているとなるだろう。但し、繰り返しになるが、最高裁は、あくまでも本件行為に着目しており、バンドスコアの模倣全般ではない点で控訴審とは異なっている(上記Ⅲ3.(3)②参照)。
 なお、最高裁が自由競争逸脱性を判断する上で、果たしてこの2点のみを考えているのかというと、疑問がある。実際には、例えば、一審原告が多大な費用をかけていること、つまり営業の要保護性に関する事情を認定しているし、また、一審被告において、営業の継続に直接的かつ重大な悪影響を及ぼすものであったことの認識等の一審被告の主観も併せて認定している。もちろん、手段の不公正性は、単に客観的にフリーライドであるかどうかをみるのではなく、どのような営業に対するどのような主観に基づく行為なのかをみるのだなどとして広く考えれば、結局のところこの2点に帰着すると評する余地もゼロではない。ただ、あくまでも総括をする際に、最高裁が特に結論としての自由競争逸脱性を認定するにあたり重視したのがこの2点だった、という程度の趣旨なのではなかろうか※29。


(4)棋譜事件に対する影響
 現在(2026年10月27日時点)、棋譜に関する3事件は全て上告審に係属している。そこで、バンドスコア事件最高裁判決がこれらの事件にどのような影響を与えるかも検討したい※30。


①自由競争逸脱性は個別に検討されること
 上記Ⅲ3.(3)②で示した、最高裁が控訴審におけるバンドスコア全般の議論から個別具体的な競争態様にフォーカスしたことを棋譜に引き直して考えれば、棋譜に関する3事件における「特段の事情」の有無も、「棋譜だから」ということで一律に判断されるのではなく、それぞれの事案における具体的な競争態様の相違を踏まえ、個別具体的に自由競争逸脱性が検討されるべきことを示唆する。
 ここで、バンドスコア事件最高裁判決は一審原告のビジネスモデルを認定している。将棋のビジネスモデルに関しては、将棋連盟なのか、スポンサーなのか、スポンサーだとしてもどのような利益を得るためにスポンサーとなり、具体的にどのように棋譜を利用しているかによって個々のアクターごとのビジネスモデルは微妙に異なるし、その利害の相違はあるだろう。ただ、将棋連盟の営む1つのビジネスモデルの中に将棋連盟や各スポンサーの利害関係が組み込まれているとみれば、基本的には、その将棋連盟の営むビジネスモデル(竜王戦事件の用語でいえば「収益モデル」)の要保護性やそれに及ぼす悪影響やその程度こそが重要であって、個別のアクターごとの利害の相違は「特段の事情」ではなく損害で検討されるべき、という考えもあり得る※31。もしそうであれば、3事件をある程度の共通の枠組みで検討する余地はある。
 また、競争秩序への影響との関係では、もし同様の行為を他の配信者も行ったらどうなるか(公正な競争秩序が害されないか)などが検討されることになるところ、その特定の配信者の行為だけではなく、多くの将棋系配信者が存在し、配信を無制限に認めれば、それらの配信者が一斉にリアルタイム等の上記のビジネスモデルに悪影響を与える形で配信をすることが予想されるということも、3事件において共通するだろう。
 但し、配信のリアルタイム性等の、個別具体的な自由競争への悪影響の程度等はなお問題となるだろう(下記Ⅲ3.(4)③参照)。


②竜王戦事件の枠組みで示された事項を検討していること
 最高裁は、上記Ⅲ3.(3)①で述べた、「社会通念上自由競争の範囲を逸脱して被上告人の営業を妨害し、その営業上の利益を侵害する」かを検討する上で、更なる下位規範を示しておらず、あくまでも具体的事情を認定して結論を出した際において、同⑤で述べた手段の不公正性と、営業継続困難という結果に着目しているというものといえる(なお、注29も参照のこと。)。ただ、最高裁の検討した要素は、東京高判令和8年3月12日(【棋譜当日再現動画損害賠償命令事件(竜王戦事件)】控訴審判決)の判断枠組みで示された各要素と相当以上に重複している。
 同判決は、当日中に棋譜を再現した動画をYouTuberが配信した事案である。東京高裁は、北朝鮮映画事件を引いて、他人が取得した情報を許可なく無断で当該他人の営業と競合関係にある自己の営業に利用した場合に、そのことをもって直ちに不法行為を構成すると評価するのは相当でなく、当該他人の営業上の利益を保護する必要性、当該利用行為により被利用者が受ける不利益の内容及び程度、利用行為の目的・態様等に鑑みて、当該利用行為が許される自由競争の範囲を逸脱するといえる場合に限り、当該利用行為は当該他人の営業上の利益を侵害するものであり、上記「特段の事情」があるものとして、不法行為を構成すると解するのが相当であるとの基準を立て、本件において不法行為を認めた一審(東京地判令和7年5月21日)の判断を引用した。
 ここで、「当該他人の営業上の利益を保護する必要性」についてみると、最高裁は、バンドスコアのビジネスモデルを認定し、一審原告が多大な費用等をかけた上でバンドスコアを販売することで費用を回収していたとして、一審原告の営業上の利益を保護する必要性を認定している。
 また、「当該利用行為により被利用者が受ける不利益の内容及び程度」についてみると、最高裁は、一審被告が一審原告の顧客を収奪したことによる営業の継続に関する直接的かつ重大な悪影響を認定しており、これは、当該利用行為により被利用者が受ける不利益の内容及び程度といえる。
 更に、「利用行為の目的・態様」についてみると、一審被告の行為が、一審原告のスコアを細部まで模倣することで費用負担を免れながら一般利用者にとって同等の品質を有するものを無料で提供するといった態様であって、それによって一審原告の営業継続に重大かつ継続的悪影響を及ぼすことを一審被告が認識していたこと等の利用行為の目的・態様も認定している※32。
 このような観点からすると、もちろん具体的な「あてはめ」の部分では異なる判断がされる可能性はあるものの、最高裁は、このような判断基準に親和的であるといえる。その意味では、特に棋譜当日再現動画損害賠償命令事件(竜王戦事件)について、最高裁が明示的にこの判断基準を採用するかや、上記Ⅲ3.(3)⑤の手段の不公正性・結果の営業継続困難性との関係についてどのような判断をするかなどが注目されるということである。


③グラデーションの中でどこにラインを引くか
 最大の問題は、上記Ⅲ3.(4)②でいう「あてはめ」、つまり、グラデーションの中でどこにラインを引くかである。そして、3案件で異なるのが配信者による利用行為の「態様」と、それによる将棋連盟・スポンサーに対する不利益の「程度」である。つまり、それがリアルタイムか(大阪高判令和7年1月30日(【リアルタイム配信逆転不法行為事件(王将戦・銀河戦事件)】控訴審判決))、当日か(上記竜王戦事件)※33、又は非リアルタイム(当日及び翌日)か(知財高判令和7年2月19日(【非リアルタイム配信非不法行為事件】・王将戦事件控訴審判決))※34という態様の相違が、どの程度棋譜を知りたい将棋ファンを公式から奪うかという不利益の程度へ影響するということである。
 『棋譜に著作権はあるのか』においても、まさにこの線引きの難しさを提起したところである※35。つまり、将棋ファンにとって最も価値が高いリアルタイムであればその不利益の程度は大きい。そして、流石に対局後無限に棋譜が保護され続けるということはないものの、だからといって厳密にリアルタイムに限定すべきかは疑問である。そうすると、リアルタイムの配信ではないものも一定程度保護する余地があるとして、例えば当日に限定するか、翌日までか、それ以降か(それ以降ならいつまでか)などのライン引きこそが、棋譜の保護(棋譜を利用したビジネスの保護)に関する重要問題である。
 このような観点からは、ある意味では当日及び翌日の非リアルタイムの利用が問題となった王将戦事件こそが重要な「試金石」であろう。同事案の控訴審までの経緯について、純粋な「ライン引き」という観点から残念なのは※36、一貫してこのような時期における棋譜の配信に問題がないことが前提とされていたことである※37。そこで、法律審である最高裁が、高裁までの間に当事者間でこの点についての主張・立証が尽くされていない状況でどこまで踏み込んだ判断をすることができるかは不明である。その中で、例えば、バンドスコア事件最高裁判決を棋譜に適用した場合において、「特段の事情」を認めるための不利益の程度の判断基準等を示した上で、新たな判断枠組みに照らして原判決に結論を左右する法令違反があり、必要な事実の審理が不足しているなどとして、本件を高裁に差し戻して、その当日及び翌日に行われた非リアルタイムの配信がどの程度の不利益を与えたかについて更に主張・立証を尽くさせるということは全く考えられなくもないかもしれない。


④バンドスコア事件の各要素が揃わないと棋譜事件でも不法行為が認められないのか?
 西内は最高裁判決の示した各要素を「いずれも平成23年判決の「特段の事情」を認めて責任を肯定するために不可欠の要素と見るべき」として、棋譜についてもこれら各要素が存在することを求める※38。
 しかし、棋譜のような一定の時期においてのみ高い価値を持つデータであれば、まさにそのタイミングでそのデータを公開等したことが極めて重大なダメージを与える(バンドスコア事件最高裁判決でいうところの「営業の継続に直接的かつ重大な悪影響を及ぼす」)のであって、例えば、YouTuberがリアルタイムでその棋譜情報を公開したという場合に、それが一回きりのリアルタイム配信のみで、その後継続して配信しなくても(バンドスコア事件におけるような長期間・多数に対する行為)、不法行為を認めてよいように思われる。
 その意味で、あくまでもバンドスコア事件最高裁判決は、バンドスコアのような蓄積されて長期的価値を持つものを利用した営業の保護に即して判断をしただけであって、ホットニュース的な時間的価値を持つ棋譜のような、バンドスコア事件と異なる類型であれば、必ずしもバンドスコア事件同様の要素を要求するべきではないと考える。


(5)AI時代のクリエイターへの影響
 以上を踏まえ、本判決のAI時代のクリエイターへの影響について述べたい。


①おおいにプラスの影響を与える最高裁判決
 筆者としては、これはAI時代のクリエイターにとっておおいにプラスの影響があると考える。その例としては以下のようなものがあるだろう。

  1.  ・イラストレーターがAIによってアイディアに属する作風・画風だけが模倣され、その結果として著作権法に基づく権利を行使できない場合でも、それを不法行為を理由に違法とできる可能性がある。
  2.  ・これまでサイト訪問者が存在することによる広告料収入等で自らの創作に対する収益を得ていた(新聞社を含む)クリエイターについて、AIの招いた「ゼロクリック」によって実際にサイト等を訪問する人がいなくなり、広告料収入が得られなくなるという被害を受けた場合、AIの学習や生成は著作権法30条の4や47条の5によって著作権侵害にはあたらないとされるかもしれないが、不法行為を理由に違法とできる可能性がある。
  3.  ・AIを活用するクリエイターが、自らが創作するものがAI生成物であるために著作権では保護されないという場面において、不法行為を理由にそれを利用した営業の保護を得ることができる可能性がある。
  4.  ・AIを活用するクリエイターが工夫して創作したプロンプトやスキル等が著作権では保護されない場合に、不法行為を理由にそれらを利用した営業の保護を得ることができる可能性がある。
 筆者は、このようなAI時代のクリエイター保護の余地を広げたバンドスコア事件最高裁判決をおおいに歓迎したい※39。


②ビジネスとしての要保護性
 但し、最高裁が保護するのは※40、営業の自由や(不当に営業妨害を受けない)営業上の利益である。決して、クリエイティブそのものを保護するような、いわば「準著作権」のようなものが認められたわけではない。
 そうすると、一定の労力、費用、時間をかけなければ創作できないクリエイティブが存在し、それが著作権法によって保護されないという一事をもって、バンドスコア事件最高裁判決の規範を利用して保護を受けるようになるのではない。あくまでも、そのクリエイティブを利用してどのようなビジネスが行われていて、そのクリエイティブをフリーライドする人の行為によって、具体的にどのような被害を受けているのかなどの点が問題となる。
 例えば、「プラットフォームを利用し、ファンに対して、その希望する背景・キャラクター・ポーズ等に応じて自らの作風のイラストを作成して納品しその対価を得る営業」や「新聞記事をインターネット上で公開し、訪問者に広告を表示して対価を得る営業」等の具体的な営業が特定される必要がある。また、その営業のため(及び、当該営業に利用されるクリエイティブ創作のため)に、どのような時間、労力及び費用が必要かが問題となる※41。


③本判決の射程との関係
a 本判決の射程を示唆する尾島補足意見

 上記のとおり北朝鮮映画事件が、著作権法2条1項1号の著作物ではあるが同法6条各号に該当しないため、日本の同法上保護されない北朝鮮の映画について「特段の事情」を求めたところ、バンドスコア事件最高裁判決は、同法2条1項1号にそもそも該当しないバンドスコアを北朝鮮映画事件の射程に含めた。
 尾島補足意見は「このような特段の事情を要するのは、著作権法がその権利成立の要件、保護範囲、救済手段、保護期間等を法定していることから、著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益の侵害に該当することにより初めて不法行為が成立するとすることによって、著作権の保護と他人が創り出したものを利用して行う営業活動の自由との関係を調整しようとするものとして理解できる」とする。
 このような見解を踏まえれば、著作物性という「権利成立の要件」だけではなく、著作権法の定める保護範囲、救済手段、保護期間その他の障壁によって、同法の保護を受けないもの全般について、北朝鮮映画事件の射程が及び、「著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益の侵害」か、つまり、この文脈では「社会通念上自由競争の範囲を逸脱して被上告人の営業を妨害し、その営業上の利益を侵害する」かを問題とするべきだ、ということが示唆される。


b 著作権法で保護される著作物ではあるが、相手の利用方法がそのうちのアイディア部分のみを利用するものである場合
 例えば、上記のイラストレーターの営む「プラットフォームを利用し、ファンに対して、その希望する背景・キャラクター・ポーズ等に応じて自らの作風のイラストを作成して納品しその対価を得る営業」につき、第三者が、当該イラストレーターの画像を大量に学習させた上で、LoRA等の技術を利用して、まさにその営業と競合するものの、元のイラストレーターの画像の表現上の本質的特徴を一切感得できないため、著作権侵害とならないサービスを提供する場合はどのように考えるべきか。
 この点については、確かに利用されているものが著作物たる画像ではあるものの、問題となっているのはそのうちのアイディア部分のみである。まさにバンドスコア事件において、バンドスコアそのものは著作物であるが問題となっているのはそのうちの採譜部分のみという場合に、これは著作権法2条1項1号の著作物ではないとして「特段の事情」を検討したように、この事案でも、同様に「模倣されたアイディア部分」は同号の著作物ではないとして、北朝鮮映画事件・バンドスコア事件の射程が及ぶことを前提として「特段の事情」を検討すべきではなかろうか。
 その上で、もし、以下のような事情が認められれば、バンドスコア事件に鑑み、「特段の事情」があるとして不法行為(イラストレーターの営業に対する自由競争の範囲を逸脱した営業妨害)を認めてよいのではないか。

  1.  ・イラストレーターが多大な費用等をかけて自ら絵を描いて、イラストを作成し、これを販売して費用等を回収することにより営業を継続していた。
  2.  ・第三者が、長期にわたり、AIを利用してイラストレーターの作風を細部まで模倣した大量のイラスト風生成物を依頼に応じて有償で作成したり、かかるイラスト風生成物を無料公開して広告料収入を得たりするなどして利益を上げた。
  3.  ・第三者が営業を継続することができたのは、そのイラストレーター独自の作風等を習得し、それを個々のイラストの形で表現するために要するはずの多大な費用等の負担を免れていたことによるものというべきである。
  4.  ・一般の利用者にとってはイラスト及びイラスト風生成物は同程度の品質を有すると考えられ、イラストレーターの売上げが大きく減少した期間があったこと等も併せ考慮すると、当該行為は、イラストレーターから容易に顧客を奪取し、イラストレーターの営業の継続に直接的かつ重大な悪影響を及ぼすものであったということができる。
  5.  ・その上、そのことを第三者が認識していた。
  6.  ・加えて、本件行為と同様の行為が許容されるとすれば、自ら多大な費用等をかけてイラスト技術を習得し、イラストを作成しているイラストレーターが市場において著しく不利な立場に置かれることとなり、公正な競争秩序が害される結果となりかねない。


c 制限規定について
 なお、「新聞記事をインターネット上で公開し、訪問者に広告を表示して対価を得る営業」については、著作権法30条の4や47条の5等の制限規定によって適法とされたものにまで及ぶかなどが問題となる。少なくとも権利制限規定は尾島補足意見(上記Ⅲ3.(5)③a)の「権利成立の要件、保護範囲、救済手段、保護期間等」における「等」として、著作権法が既に調整済みの事項に入るのではなかろうか。そのように考えれば、北朝鮮映画事件及びバンドスコア事件の双方の射程が及ぶと解し得る。
 ここで、両条は既に、権利制限規定に一見該当し得るように見える行為が及ぼす悪影響に対して考慮している。著作権法30条の4但書は「ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」として「著作権者の利益を不当に害するか」を問題とする。また、同法47条の5第1項但書も「その他当該公衆提供等著作物の種類及び用途並びに当該軽微利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」として同様に「著作権者の利益を不当に害するか」を問題とする。そうであれば、この要件を踏まえてなお、権利制限規定により適法となる著作物利用行為については、不法行為による「セカンドチャンス」を認めるべきではない、という考えも十分あり得る。
 しかし、上記Ⅰで引用した、著作権法30条の4との関係で「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には該当しないとしても不法行為となり得るという「AIと著作権に関する考え方について」の記載は、まさに、同条但書と、不法行為成立の「特段の事情」の判断は異なることを示唆する。なお、同法47条の5の但書につき「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方」24頁※42は、「著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するか」を基準とするが、これもバンドスコア事件最高裁判決のいう不法行為成立要件と一定程度類似するが、必ずしも完全に一致するものではないだろう。
 そこで、「権利制限規定によって著作権法に違反しない利用だが、営業妨害として不法行為が成立する」という余地はなおあり得ると考える。


(6)スタートアップや新規ビジネス立ち上げ支援を行う法律家に対する示唆
 高須補足意見はバンドスコア事件のような判断が、新規ビジネスに悪影響を与えることを懸念して以下のとおり述べる。「競業行為が営業妨害行為に当たるか否かの判断に当たっては、時代を先取りした新種ビジネスの展開が、競争原理を根幹とする取引社会において、社会の活力の源泉となるという積極的意義を有するということも、考慮しなければならない。」
 ある意味では、新しいビジネスは従来のビジネスをディスラプト(攪乱)させる性質があり、「特段の事情」の判断の際にもそれを踏まえることが必要であるという高須補足意見の趣旨は十分に理解できる。
 ただ、高須補足意見も、本件では、「専ら自らの創意と才覚によって新種ビジネスを遂行しているケースとは異なり、一方で従来のビジネスモデルの成果に便乗しこれを利用しながら、他方で新たなビジネスモデルの果実を独占的に収受」しているとして、「特段の事情」を認める。
 今後はAIを利用した様々な新ビジネスが登場するであろう。このような場合について、先行者のビジネスにおける成果を活用することはあり得る。そして、それが著作物ではないとか、著作物でも権利制限規定にあたるならば、著作権法はこれを問題視しない。そして、その結果として先行者に対して売上げ減少等の事態を招いたとしても、当該ビジネスが自由競争の範囲である限り不法行為にもならない。とはいえ、市場が競合する状況において、先行者が多大な費用時間労力をかけて作った成果を、先行者が競争上おおいに不利になるような形で、かつ、そのことを知りながら利用し、先行者の営業継続に重大な悪影響を与えるような場合には、「特段の事情」があるとして不法行為となり得る。
 だからこそ、新規ビジネスの立ち上げを行う者やそれを支援する(法務担当者や弁護士等の)法律家は、バンドスコア事件最高裁判決の判示を踏まえ、先行者の成果の利用をどの程度トランスフォーマティブに行い、先行者と市場を異にする形で新たな価値を生み出すものといえるか(注25も参照のこと。)など、いかに不法行為に該当しないといえるようにするかを検討しなければならない。逆にいうと、そのような点を考慮し、依然として自由競争の範囲に入っているといえる限りにおいて先行者の成果のフリーライドを行う新規ビジネスは、直ちに不法行為にはならないのである。そのような意味で、バンドスコア事件最高裁判決は、スタートアップや新規事業支援を行う法律家としてもおおいに注目に値するものである。



(掲載日 2026年10月27日)

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  • WestlawJapan文献番号2026WLJPCA10099001。
  • 桃尾・松尾・難波法律事務所(https://www.mmn-law.gr.jp/lawyers/600050.html)。
  • 最高裁は、採譜について、演奏情報(音の要素(音高、音価、音色等)、音楽の要素(メロディー、ハーモニー、リズム)、演奏ポジション、その他の演奏指示等)を書き起こす作業とする。
  • 最一小判平成23年12月8日民集65巻9号3275頁、WestlawJapan文献番号2011WLJPCA12089001。
  • 東京高判令和6年6月19日判タ1534号105頁、WestlawJapan文献番号2024WLJPCA06196003。拙稿「バンドスコア事件(非著作物たるバンド音楽の楽譜の模倣につき不法行為を認めた事案)~東京高裁令和6年6月19日判決~」WLJ判例コラム第340号(文献番号2025WLJCC005)2025年。
  • 大阪地判令和6年1月16日判時2620号59頁、WestlawJapan文献番号2024WLJPCA01169002(【リアルタイム配信逆転不法行為事件(王将戦・銀河戦事件)】第一審判決・拙稿「棋譜情報を配信する動画に対し著作権侵害を理由として削除申請をしたことの不競法違反等が問題となった事案~大阪地裁令和6年1月16日判決~」WLJ判例コラム第312号(文献番号2024WLJCC006)2024年)、大阪高判令和7年1月30日判タ1543号126頁、WestlawJapan文献番号2025WLJPCA01306001(【リアルタイム配信逆転不法行為事件(王将戦・銀河戦事件)】控訴審判決・拙稿「棋譜事件控訴審判決(リアルタイムで棋譜情報を配信する動画の配信が不法行為と認定された事案)~大阪高裁令和7年1月30日判決~」WLJ判例コラム第342号(文献番号2025WLJCC007)2025年)、東京地判令和6年2月26日判タ1533号223頁、WestlawJapan文献番号2024WLJPCA02269004(【非リアルタイム配信非不法行為事件】・王将戦事件第一審判決)、知財高判令和7年2月19日WestlawJapan文献番号2025WLJPCA02199009(【非リアルタイム配信非不法行為事件】・王将戦事件控訴審判決・拙稿「リアルタイムではない形で棋譜情報を利用するYouTuberの動画に対する著作権侵害の申告が不競法違反とされた事案~知財高裁令和7年2月19日判決~」WLJ判例コラム第348号(文献番号2025WLJCC013)2025年)、東京地判令和7年5月21日WestlawJapan文献番号2025WLJPCA05216002(【棋譜当日再現動画損害賠償命令事件(竜王戦事件)】・拙稿「竜王戦の棋譜を対局の当日中に再現した動画の配信が不法行為として、主催者である新聞社に対する損害賠償が命じられた事案~東京地裁令和7年5月21日判決~」WLJ判例コラム第362号(文献番号2025WLJCC027)2025年)、及び、東京高判令和8年3月12日WestlawJapan文献番号2026WLJPCA03126001(【棋譜当日再現動画損害賠償命令事件(竜王戦事件)】控訴審判決・拙稿「竜王戦の棋譜を対局の当日中に再現した動画の配信が不法行為として、主催者である新聞社に対する損害賠償が命じられ、控訴審でも不法行為との判断が維持された事案(【棋譜当日再現動画損害賠償命令事件】)~東京高裁令和8年3月12日判決~」WLJ判例コラム第376号(文献番号2026WLJCC014)2026年)を参照のこと。
  • 松尾剛行「実務の観点から」著作権法学会2026年研究大会シンポジウム「著作権法と一般不法行為」。
  • 拙著『棋譜に著作権はあるのか―著作権・不法行為から棋譜の保護を考える―』(弘文堂、2026年)。
  • https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf
  • 同上・23-24頁。なお「著作物性がないものであったとしても、判例上、その複製や利用が、営業上の利益を侵害するといえるような場合には、民法上の不法行為として損害賠償請求が認められ得ると考えられる」(同40頁)も参照のこと。
  • 例えば、本人の実演と異なる形で、歌手や声優の声をAIで模倣し、楽曲やナレーション等を歌わせ、読み上げさせるなどの行為については、実演家としての権利保護は及ばない。拙著『生成AIの法律実務』(弘文堂、2025年)323頁参照。
  • 東京地判令和8年9月30日WestlawJapan文献番号2026WLJPCA09309001。拙稿「声のパブリシティ権が認められた事案~東京地裁令和8年9月30日判決~」WLJ判例コラム第385号(文献番号2026WLJCC023)2026年。
  • 北朝鮮映画事件調査官解説においては、営業妨害以外に、「著作者が公立図書館において著作物が閲覧に供されることにより取得する、思想の自由、表現の自由を脅かすおそれのある行為から守られる人格的利益」(最一小判平成17年7月14日民集59巻6号1569頁、WestlawJapan文献番号2005WLJPCA07140004)のほか、名誉、営業の自由等があるとされる。山田真紀「判解」最判解民事篇(平成23年度)(2014年)734頁。
  • 通勤大学法律コース事件(知財高判平成18年3月15日WestlawJapan文献番号2006WLJPCA03159001)、ライントピックス事件(知財高判平成17年10月6日WestlawJapan文献番号2005WLJPCA10069001)、オートくん事件(大阪地判平成14年7月25日WestlawJapan文献番号2002WLJPCA07259001)、翼システム事件(東京地中間判平成13年5月25日判時1774号132頁、WestlawJapan文献番号2001WLJPCA05250007)、コンベヤベルトカバー設計図事件(大阪地判平成10年3月26日WestlawJapan文献番号1998WLJPCA03266014)、木目化粧紙事件(東京高判平成3年12月17日知財集23巻3号808頁、WestlawJapan文献番号1991WLJPCA12170006)、佐賀錦袋帯事件(京都地判平成元年6月15日判タ715号233頁、WestlawJapan文献番号1989WLJPCA06150004)。
  • なお、著作権ではなく、不正競争防止法違反にならない事案で一般不法行為を認めた事例につき、ワンスプーン事件(大阪高判令和6年5月31日WestlawJapan文献番号2024WLJPCA05319002)及びアイクリーム事件(札幌地判令和6年2月27日金商1696号26頁、WestlawJapan文献番号2024WLJPCA02276009)を参照されたい。この点は拙著・前掲注8・144頁以下でも解説している。
  • なお、本件放送は、テレビニュース番組において、北朝鮮の国家の現状等を紹介することを目的とする約6分間の企画の中で、同目的上正当な範囲内で、2時間を超える長さの本件映画のうちの合計2分8秒間分を放送したものとされている。
  • 正確には、バンドスコア自体は作曲家の著作物である。ただし、バンドスコア作成のために一審原告が行った採譜等の活動はクリエイティブではあるものの、それをもって「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)が創出されたとはいえず、単なる元の作曲家らの作品の複製行為に過ぎない、ということであろう。
  • バンドスコア事件の控訴審が「バンドスコアは、著作権法6条各号所定の同法による保護を受ける著作物に該当しない。」として同条を挙げているのは間違いであろう。もちろん著作物でなければ「日本国民の著作物」(同条1号)等にはならないが、著作物性は同法2条1項1号で決定されるのであり、同法6条の問題ではない。
  • この点について上述のとおり尾島補足意見は「著作権法がその権利成立の要件、保護範囲、救済手段、保護期間等を法定していることから、著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益の侵害に該当することにより初めて不法行為が成立するとすることによって、著作権の保護と他人が創り出したものを利用して行う営業活動の自由との関係を調整しようとするものとして理解できる」としている。即ち、著作権法により国会がどこまでのデータを自由に利用できるかを定めたことを重視し、北朝鮮映画事件の射程を広く取っているという立場と理解される。
  • なお、「著しく不公正な手段を用いて被上告人の営業の継続を困難にさせる競業行為」についてはⅢ3.(3)⑤を参照のこと。
  • なお、控訴審は、「特段の事情」を認める際に、「公正かつ自由な競争秩序を害する手段・態様を用いて市場における競合行為に及ぶものであると同時に、害意をもって顧客を奪取するという営業妨害により他人の営業上の利益を損なう行為」として、最高裁のいう「社会通念上自由競争の範囲を逸脱して被上告人の営業を妨害し、その営業上の利益を侵害する」とも類似する点に言及している。
  • 但し2時間を超える映画の2分8秒をテレビ番組(6分のコーナーの中)で放映する態様についてのものである。
  • 上野達弘「『知的財産法と不法行為法』の現在地2026―司法による政策形成?―」パテント79号27頁(2026年)は「バンドスコア事件の控訴審判決のように、裁判所が、民事不法行為訴訟における当事者間の利益調整を超えて、バンドスコアの制作・出版によって実現される『音楽文化の発展』といった社会的目標の実現を目指すという将来指向的な観点から、不法行為の成立を基礎づけたとすれば、その是非が課題になろう」として「将来指向的な政策形成というのは、将来において実現すべき社会の目標とその達成手段を定めるものであるから、それは社会公共の利害関係を調査する資源を有すると共に、民主的正統性を有する立法機関に委ねられるべきものであると考えられ」るとする。本文で述べた最高裁と高裁の相違は、できるだけ政策形成的な議論を避けようとした可能性がある。なお、裁判所の政策思考につき、後述の西内(後掲注38)は、バンドスコアの利益が知的財産権とは「異なる法的に保護された利益」に該当するかについて政策思考を入れるならば、生じさせるべきインセンティブの違いは別個の法的保護に値することを意味するものとして、別個権利性を肯定しやすくなり、営業権・営業利益侵害としての不法行為は認められるかについても政策思考による権利侵害を認めやすくなるとしている。
  • なお、控訴審は「特段の事情」の一般論とは異なる、模倣の有無や損害の算定の部分で、具体的な模倣行為の態様や売上減少・サイト閉鎖後の売上増加を認定している。その意味では、控訴審は「特段の事情」を判断する際においても、個別具体的な一審被告の行為を念頭には置いていたのであろうが、少なくとも「特段の事情」に関する判示においては一般的な文言が採用され、一般化された判断となっている。
  • いわゆる米国著作権法のフェアユースにおけるトランスフォーマティブな利用が行われれば、異なる判断となる可能性があることは、「専ら自らの創意と才覚によって新種ビジネスを遂行しているケース」かを問題とする高須補足意見が示唆するともいえる。
  • なお、尾島補足意見は「平成30年頃までの時期においては、一般の利用者の使用に耐える程度のバンドスコアを制作するには多大な費用等をかけて採譜をする必要があったところ、そうであるにもかかわらず、上告人会社の営業は、被上告人の費用等の負担を認識しながらこれにフリーライドをするというおよそ公正な商業活動とはいえないものであったこと、上告人会社が被上告人スコアの模倣を営業に利用していた期間が長く、利用楽曲数も多数に上ること等に鑑みると、上告人らの行為は、社会通念上自由競争の範囲を逸脱する営業妨害行為であったと評価することができよう」として「フリーライド」に言及している。
  • つまり、「客観的な競争態様に加えてのプラスα」という意味である。
  • なお、Ⅲ3.(3)②のとおり、少なくとも文言上はバンドスコア全般に関する一般論として議論されている。
  • そこで、Ⅲ3.(3)①において、「社会通念上自由競争の範囲を逸脱して被上告人の営業を妨害し、その営業上の利益を侵害する」かを下位規範とし、「著しく不公正な手段を用いて被上告人の営業の継続を困難にさせる競業行為」かは下位規範としていない。
  • 須河内隆裕=石井将介著、髙部眞規子監修「バンドスコア事件最高裁判決(最判令和8年10月9日)―著作物としての保護を受けない情報財の模倣について一般不法行為の成立を認めた事例―」西村あさひ法律事務所IPニューズレター2026年10月20日号(https://www.nishimura.com/sites/default/files/newsletters/file/intellectual_property_261020_ja.pdf)も本判決は「事例判決であると考えられますが、『営業上の利益』の侵害の有無を判断するに当たって重視された考慮要素は、実務上参考となる」として、本判決の考慮要素と棋譜に関する各判決の考慮要素を比較している。
  • 将棋連盟と読売新聞について、不法行為該当性については一緒に検討した上で、損害において異なる判断をした東京高判令和8年3月12日(【棋譜当日再現動画損害賠償命令事件(竜王戦事件)】控訴審判決)の判断はこのような考え方に親和的である。なお、大阪高判令和7年1月30日(【リアルタイム配信逆転不法行為事件(王将戦・銀河戦事件)】控訴審判決)は、「放送配信事業者である控訴人の収益構造も、このような(筆者注:将棋連盟の)ビジネスモデルに組み込まれたものということができる」としている。
  • 但し、Ⅲ3.(3)④のとおり、害意は認定されていない。そこで、例えば積極的に一審原告の営業に悪影響を及ぼす目的のような意味における「目的」は少なくとも明示的に認定されていない。
  • なお、竜王戦事件において、地裁は「当日」とするだけであったのが、高裁は(損害の判断において)「本件各配信は、ともに動画配信の方法により、リアルタイムで本件各○○戦の棋譜を無料で提供する」「リアルタイムで視聴する方法は、本件各配信」としており、リアルタイム性が前提となっている可能性があるところ、もしリアルタイム性が前提となっていれば、「特段の事情」が肯定される可能性は高いだろう。とはいえ、リアルタイムに関する言及は損害論のみであって、竜王戦事件控訴審の不法行為の判断そのものにおいて、射程をリアルタイムの場合に限定するような説示はされていない。
  • 但し、2日制対局の1日目終局後2日目開始前が含まれるため、「リアルタイムではなくても対局は継続中である」、という状況がどのように評価されるかは本件特有の事情として考慮が必要である。
  • 拙著・前掲注8・206頁以下。
  • この点は、まさに不法行為が成立するか微妙な事案であったからこそ、あえてスポンサーである囲碁将棋チャンネルとして、棋譜は著作物であるかとか、配信者の行為が不法行為かを争点としない、という訴訟戦略を選択した可能性がある。
  • 配信者の動画に対して、スポンサーである囲碁将棋チャンネルが動画取下げを申請したことが営業誹謗(不正競争防止法2条1項21号)として不法行為であることを前提に、その損害等が問題となった。
  • 西内康人「個別の法律で規律されていない知的成果物を、営業利益侵害に基づく不法行為責任を通じて保護する可能性—最二小判令和8・10・9」有斐閣オンライン(2026年)。
  • 但し、尾島補足意見の「科学技術の進歩は目覚ましく、現在ではバンドスコア制作を取り巻く状況に変化がある可能性はある」には留意が必要である。これは、著作権法学会でも報告したが、AI採譜によってバンドスコアの採譜の費用が相当節約されるようになっている。そこで、AI技術の進歩により、新たに不法行為で保護されるものが出てくると同時に、これまで不法行為で保護されていたものが保護されなくなる可能性にも留意が必要である。
  • 山田・前掲注13のとおり、「著作者が公立図書館において著作物が閲覧に供されることにより取得する、思想の自由、表現の自由を脅かすおそれのある行為から守られる人格的利益」や名誉等もあり得ることに留意されたい。
  • 例えばイラストの腕を磨くための努力や実際に注文されたイラストを描くための努力が問題となったり、新聞記者を教育して配置することで新しいニュースに対応できる体制を構築する努力や、新聞記事作成に至る取材・執筆・編集・校閲等の努力が問題となったりするのではなかろうか。
  • https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h30_hokaisei/pdf/r1406693_17.pdf




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