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文献番号 2026WLJCC006
東京都立大学 名誉教授
前田 雅英
Ⅰ 本判例のポイント
被告人Xが、工場や事業所の倉庫に侵入して工具やタイヤ等を盗んだという建造物侵入、窃盗4件と、中古車販売業者のコンテナ倉庫(以下「本件コンテナ倉庫」という。)内からタイヤを盗んだ窃盗2件の事案である。2か月足らずの短期間に、高値で売れるタイヤや工具を盗んで転売することを6回も繰り返したという事案で、第1審は、懲役2年6月の実刑を言い渡し(令和5年の実行行為で拘禁刑へ改正される前)、控訴審、上告審でも維持された。
争点は、認定された6個の犯罪事実の内、S市内の本件コンテナ倉庫に侵入し、ホイール付きタイヤを窃取した事実が、窃盗罪に加え、建造物侵入罪に当たるかという点である。X側は、本件コンテナ倉庫は、土地に定着しておらず、建造物に当たらないので、刑法130条前段に該当しないと主張した※2(その他、量刑不当の点も争われた)。現代社会では、コンテナは、固定した形でも、多用途に、そして広く利用されている。
Ⅱ 公訴事実
Xに対する公訴事実は、「窃盗の目的で、令和5年6月4日頃、給油所所長Gが看守するS市内給油所東側に設置されたコンテナ倉庫に出入口扉の施錠を解いて侵入し、その頃、同所において、Hほか1名所有のホイール付きタイヤ8本(時価合計約13万2768円相当)を窃取した」というものである(この他に、倉庫やコンテナに侵入して工具やタイヤ等を盗んだという建造物侵入と窃盗に関する5つの事実で起訴された)。
第1審※3は、検察の主張を認め、公訴事実を全て認定し、2か月足らずの間に、タイヤ・工具を盗んで転売する行為を6回も繰り返し、利欲的な動機に同情すべき点はなく、同種前科を5犯も有しており、法を守る意識が乏しく、盗癖を修正できていないとして、懲役2年6月を言い渡した。
これに対しX側は、刑法130条前段における「建造物」とは、屋蓋があり壁や柱で支えられて土地に定着し、人の起居出入りに適した工作物のうち、住居、邸宅以外のものを指すと解すべきところ、本件コンテナ倉庫は、土地に定着しておらず、建造物に当たらないのに、第1審はこれを建造物として、そこに侵入した行為につき刑法130条前段を適用しており、判決に影響する法令適用の誤りがあるほか、量刑が重過ぎて不当であるとして控訴した。
しかし、原審※4は、公訴事実にあるコンテナ倉庫は、奥行き1240cm、幅240cm、高さ288cmと大型のものであり、同コンテナ倉庫の看守者によれば、顧客からタイヤを預かり保管するサービスを始めたことをきっかけに令和元年7月11日に設置され、それ以降場所を移動させたことはないし、給油所が存続する限り、移動させる予定はなく、仮に移動させようとする場合には、専門業者に依頼する必要があるというのであり、現に多数のタイヤ等が保管されていたのであるから、倉庫として継続的に使用され、随時かつ任意に移動できないもので、今後も移動の予定はないものと解される上、同コンテナ倉庫内には電気業者に依頼して設置した電灯設備があり、電気は電柱から電線で引いているともいうのであるから、その形態及び使用の実態に照らすと、社会通念上、同コンテナ倉庫は、土地に定着しているというべきであって、刑法130条前段の「建造物」に当たると認められ、第1審判決の法令の適用に誤りはないとして、控訴を退けた。
なお、量刑不当の主張に対しても、X側の最終刑執行終了後7年余りにわたって検挙されずに生活していた旨の主張を踏まえたとしても、第1審判決の、Xの遵法意識の乏しさや盗癖の根深さの指摘は不当ではなく、所論指摘の点を考慮した上で本件の犯情を正当に評価しているとし、被害品のほとんどを被害者に還付したり、買取業者に対して買取価格相当額を弁償していることについては、第1審判決も所論指摘の点を量刑において考慮していることは、判文上明らかで、前記の犯情に照らせば、考慮の程度も不当とはいえないとし、被告人が第1審公判において、事件に至った原因を分析し、再犯の防止に向けた方策を検討して供述したことも、第1審の判断の中で考慮されており、量刑の変更を要する事情は認められないと判示した。
これに対し、Xの弁護人は、本件コンテナ倉庫は、土地に定着していないから、刑法130条にいう「建造物」に当たらないなどと主張して、上告した。
Ⅲ 判旨
上告棄却。最高裁は、上告趣意は、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、適法な上告理由に当たらないとした上で、以下のように判示した。
「所論は、第1審判決判示第6のコンテナ倉庫(以下「本件コンテナ倉庫」という。)は、土地に定着していないから、令和4年法律第67号による改正前の刑法130条にいう「建造物」に当たらない旨主張する。しかし、原判決の認定及び記録によれば、本件コンテナ倉庫は、奥行き約1240cm、幅約240cm、高さ約288cmの大きさの鉄製のコンテナが土地上に設置されたものであり、設置されて以降3年10か月以上の間、移動されることなく、電気を電柱から電線で引き込んでタイヤ等を保管する倉庫として継続的に使用されていたというものである。以上の事実関係の下では、本件コンテナ倉庫は、移動が容易でなく土地に置かれて継続的に使用される物であり、その形態及び使用の実態に照らし、社会通念上土地に定着しているといえるから、上記改正前の刑法130条にいう『建造物』に当たるというべきである。基礎が打たれていないこと等の所論が指摘する事情は、本件コンテナ倉庫が上記『建造物』に当たることを否定すべきものとは認められない。したがって、被告人について、建造物侵入罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判決の判断は正当である。」
Ⅳ コメント
1.刑法130条の客体は、人の住居と人の看守している邸宅・建造物・艦船である。住居とは、屋蓋があり壁や柱で支えられて土地に定着し、人の起居出入りに適した工作物のうち、人の起臥寝食に使用される場所である※5。一定の構造・設備が必要で、テント程度のものも入る。当然、起臥寝食に使用されているトレーラーハウスも「住居」と解される。本件の関係で留意しておかねばならないのは、「土地に定着している」ということは、「住居の要件」としては必須のものではないのである。
なお、いかに起臥寝食に長期に用いていようと、地下道、段ボール箱、ドラム缶、山の横穴等は含まない。逆にホテルの客室は、一時的ではあるがある程度継続的に利用している場合には利用者の住居となる。入院中の病室も同様である※6。
2.刑法130条の対象とする建造物は、「人の看守しているもの」に限られる。
建造物とは、住居用以外の建物一般を指すとされている※7。その結果、建造物の定義も「住居」の意義と強く関連してくる。そうすると、起臥寝食には用いない「建造物」としてのトレーラーも、「土地に定着している」か否かは重要ではなく、トレーラーハウスと同様に、刑法130条の客体たり得ることになる(トレーラーを住居的に用いる場合もあることにも注意を要する)。しかし、「建造物」という語のニュアンスからいっても、住居に比較して、「土地に定着したもの」という性格が濃くなるといってよい。
官公庁の庁舎、学校、事務所、工場が典型であるが、駅舎、神社、寺院等を広く含むと解されている。なお、広島の原爆ドームについて、区画されておらず生活の場として予定されていないとして建造物ではないとした裁判例もある※8。
他方、万博の太陽の塔は建造物に当たり、顔の部分に上がる行為が建造物侵入罪とされた※9。また、国体のスタンドスコアボード屋上のポールに掲揚されていた日の丸旗を引き降ろし火をつけるなどの目的で、スコアボード壁面をよじ登りその屋上に立ち入った行為も、建造物侵入とされている※10。駅のホームは、駅舎と屋根でつながっていて柵があるような場合には、建造物となる。駅の構内は、乗降客のための通路部分であっても建造物とされる※11。雑居ビルの駐車場に小銃の部品を積み替えるため立ち入る行為は、同ビル駐車場の他の区画の使用権を有する者でも建造物侵入となる※12。
3.本判決の意義
弁護人が、本件コンテナ倉庫は、土地に定着しておらず、建造物に当たらない以上、第1審及び原審の判決は誤りであると主張したのに対し、最高裁は、「原判決の認定及び記録によれば、本件コンテナ倉庫は、奥行き約1240cm、幅約240cm、高さ約288cmの大きさの鉄製のコンテナが土地上に設置されたものであり、設置されて以降3年10か月以上の間、移動されることなく、電気を電柱から電線で引き込んでタイヤ等を保管する倉庫として継続的に使用されていたというものである。以上の事実関係の下では、本件コンテナ倉庫は、移動が容易でなく土地に置かれて継続的に使用される物であり、その形態及び使用の実態に照らし、社会通念上土地に定着しているといえるから、上記改正(筆者注:令和4年改正のこと。)前の刑法130条にいう『建造物』に当たるというべきである。基礎が打たれていないこと等の所論が指摘する事情は、本件コンテナ倉庫が上記『建造物』に当たることを否定すべきものとは認められない。したがって、被告人について、建造物侵入罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判決の判断は正当である。」と判示した。
最高裁は、建造物の要件として「土地定着性」を重視しているものの、本件コンテナ倉庫は社会通念上土地に定着しているといえるとして、上告を退けた。
4.「土地定着性」の実質的理解
土地定着性をいう以上、「基礎が打たれておらず土地に固定されていない本件コンテナは建造物たり得ない」という議論も成り立ち得る。刑罰謙抑主義からは、「正しい結論」とされるかもしれない。しかし、それはあまりに形式的解釈論であり、第1審、原審、そして最高裁の判示にも示されているとおり、結論が妥当ではないのである。最高裁は、「その形態及び使用の実態に照らし、社会通念上土地に定着している」とした。法解釈は、語義から形式的に決まるものではなく、最終的には、国民の規範意識によって導かれる。判例の「社会通念上」というのも、同じことである。
「社会通念上土地に定着している」という規範的評価を導いたのは、①奥行き約1240cm、幅約240cm、高さ約288cmの大きさの鉄製のコンテナであること、②設置以来3年10か月以上の間、移動されることがなかったこと、③電気を電柱から電線で引き込んでタイヤ等を保管する倉庫として継続的に使用されていたこと等が判文に示されている。
「①②③等の事情が認定できれば、建造物と認め処罰してよい」としたわけだが、しかし、①大きさや重さがこれほどでなくても、コンテナ利用形態等によっては、刑法130条は成立し得る。クレーンによって動かせ得る「コンテナ」であっても、保管用のレンタルスペースとして利用されている場合、侵入行為を処罰すべき場合はあり得る。
そして②設置直後であっても、さらに③電線が通じていなくても、土地への定着を認定し得る場合は考えられるのである。もちろん、④基礎が打たれていれば、「建造物」に当たることを肯定すべきことになろう。
構成要件該当性は、具体的な事実抜きには、判断できない。まさに、その意味で実質的なものなのである。
(掲載日 2026年3月10日)
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