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文献番号 2026WLJCC005
桃尾・松尾・難波法律事務所 パートナー弁護士※2
松尾 剛行
Ⅰ はじめに
本件は、通信カラオケの音楽データを制作等する会社である原告が、原告の元従業員であった被告に対して損害賠償を請求した事案である。その際、被告が、音楽のMIDIデータ又はこれを利用して作成した音楽データをSNSにアップロードして第三者にダウンロードさせたことを不法行為として主張した※3。
以下では、本判決の概要を紹介した上で、棋譜・バンドスコア等に関する先例との関係で、著作権が認められないものの無断利用と不法行為について簡単にコメントしたい。
Ⅱ 事案の概要と判決要旨
1.事案の概要
原告は、カラオケ事業者の委託を受けて、通信カラオケに用いる音楽、映像、歌詞データ等を制作することを業務としていた。裁判所の認定によれば、原告はMIDIデータの形式で音楽データを制作しているところ、MIDIデータの作成の際には、市販の音源と同じものを作業者が耳で聞きながら楽器ごとの演奏内容を手動でデータ化して作成するため、MIDI規格の知識、編集のためのソフトウェアを操作する技術等一定の知識、技術を必要とするもので、原告が独自に作曲等することによって作成されたものではないものの、人件費等がかかっていた(1曲の制作単価は6万6000円と認定されている)。
原告は、MIDIデータが保管されているサーバーに対してアクセス権限の設定はしていたものの、MIDIデータの保守管理のための管理指針を明文で定めることはなく、従業員との間で秘密保持誓約書を作成させるなどの措置を講じていなかった。
MIDIデータに関するリスト(本件データベース)は被告の上長に当たるCの社内パソコンで管理され、Cの上記パソコンを用いて同データをコピー等するに当たっては、Cの承諾を得ることとされていた。そのような状況において被告は、Cに事前事後の報告や承諾を得ることなく、本件データベースをコピーした(本件行為1)。
サーバーのMIDIデータそのものが保存される領域について、当初被告は業務上アクセスが許されており、アクセスが許されている時期に、被告は業務用カラオケMIDIデータ18万9656曲(本件MIDIデータ①)をコピーした(本件行為2)。また、その後人事異動に伴い、被告はアクセス権限を失うこととなったところ、原告において同日中にその権限抹消の手続をしていなかった。
その後被告は、在宅勤務に伴い自宅に持ち込んだ社内パソコンから業務用カラオケMIDIデータ1曲(本件MIDIデータ②)をコピーした(本件行為3)。
被告は音楽SNSであるnanaに音楽データをアップロードしていたところ、これらの音楽データ作成において本件MIDIデータ①、②が利用されたかについて当事者間に争いがある(下記2.(2)参照)。
原告は、不法行為を理由として、被告に対し、被告が保有する本件MIDIデータ①、②の回収、SNSでのMIDIデータの公開の停止、第三者に渡ったMIDIデータの消去等のための費用である合計438万1865円と遅延損害金の支払いを求めた。
2.判決要旨
(1)結論
裁判所は、合計216万円と遅延損害金の支払いを被告に命じ、その余の原告の請求を棄却した。
(2)被告のアップロードした楽曲と本件MIDIデータ①、②の関係について
被告は、自作のカラオケ音源をアップしており、確かに、自身がアップロードした楽曲の一部について本件MIDIデータ①、②を参考にして修正したことはあるが、本件MIDIデータ①、②自体を公開していないと主張した。
裁判所は、原告の調査に基づき、被告がnanaにアップロードした曲のうち39曲が本件MIDIデータ①、②を参照していたとの疑いが濃く、被告自身も原告の調査に対し、本件行為2、3により得られた本件MIDIデータ①、②を含め原告のMIDIデータを参照して52曲程度のMIDIデータを作成してアップロードし、もって第三者に提供した旨を認めていることから、その旨推認され、これを覆すに足りる証拠は見当たらないとした。即ち、原告の作成したMIDIデータそのものを被告が公開したとまで認定はしていないが、被告が公開した音楽データが原告のMIDIデータを「参照し」たと認定されている(なお、下記(4)の認定においてはかかるMIDIデータを「基にし」たとされている)。
(3)被告の本件行為は正当か
被告は、本件行為1〜3を行ったという外形的事実は認めたものの、Cのパソコン上又はサーバー上でデータを利用しようとした際にフリーズや処理速度の遅さといった問題があったのでやむなく行ったに過ぎないと主張した。また、就業規則において、原告のコンピュータ、ハードディスク、CD-ROM、MO、DVD等各種メディアに記録された原告の秘密事項(個人情報を含む。)を許可なくコピーし、又はインターネット回線を使用して社外 に持ち出さないこと等という規定が存在することは認めるが、就業規則は周知されていないとした。
裁判所は、被告の主張するようなフリーズ状態が生ずるなどといった事情を認めるに足りず、持ち出しが業務上必要だとは認めるに足りないし、原告の就業規則がデータの形で原告内において周知、共有されていたものである上、過去の不正持ち出し事案を契機として改めて原告から持ち出し禁止の周知がされたことによって、承諾を得ないデータの持ち出し、複製行為が許容されないことについては、被告も十分に認識していたものと認められるとした。ここでは、原告の主張する事実が認定され、被告の事実主張が排斥されている。
もっとも、裁判所は、本件行為1~3により原告から得た各データが外部に提出されない限り、就業規則による制裁の対象になることはあっても、直ちには原告の損害を観念することは困難であるとした。
(4)不法行為の成否について
その上で、裁判所は、これらのデータを基にして音源データを作成し、SNSにアップして第三者に提供することは、不法行為上、違法といわざるを得ないとした。
そして、「なるほど本件MIDIデータ①、②は、市販の音源と同じものを作業者が耳で聞きながら楽器ごとの演奏内容を手動でデータ化して作成されたものではあって、原告が独自に作曲等することによって作成されたものではないものの、原告が人件費その他の費用を出捐して上記作業を経ることにより体系的に作成、整理されたものであって(証拠……及び弁論の全趣旨によれば、1曲の制作単価は6万6000円となる。)、著作権法上の原盤権の有無にかかわらず、原告における営業上の貴重な利益、財産であるというべきものである。……そして、かかるMIDIデータを基にして音源データを作成して第三者に公開することは、本来、原告と契約を締結している通信用カラオケ業者によらずとも、同データに基づく音源を利用することができ、また、大量の複製行為を可能とすることになることに照らせば、被告の前記行為は、原告の上記利益等を侵害するものと評価することができる。」と判断した。つまり、「原告における営業上の貴重な利益、財産」であるMIDIデータを基にして音源データを作成して第三者に公開することで、①契約をしていない者が同データに基づく音源を利用することができること、及び②大量の複製行為を可能とすることになることを理由に、不法行為の成立を認めたものである。
(5)損害額について
原告が本件の解決のために原告代理人弁護士に支払った弁護士費用220万円については、MIDIデータの価値、外部流出による原告の損害等の可能性を考慮すると、弁護士を選任して対応させることは合理的なものといえ、相当因果関係を有する損害であるといえる。その余の費用のうち、(会社として負担すべき、非違行為に対する通常の調査等に必要な)通常の経費等に含めるのが相当ではない部分、すなわち、相当の専門的知見、あるいは通常の業務の範疇にとどめることが相当ではない楽曲調査、被告のSNSにアップロードされた音源データの解析等に要した費用等については、相当因果関係を有する損害として評価すべきであるところ、50万円の限りで損害であると認めるのが相当であるとした。
その上で、原告においては、過去同様の不正持ち出し事案があったにもかかわらず、これに対応して情報管理に関する指針等を設けず、本件データベース、本件MIDIデータ①、②のアクセスについて明文での規程等を設けることもなく、また、被告の部署異動にもかかわらず、データへのアクセス権限の解消等の措置を講じていなかったこと等からすると、過失相殺として、損害から2割を減ずるのが相当であるとした。
よって270万円の8割である216万円を認めた。
Ⅲ 評釈―著作権が認められないものの無断利用と不法行為
1.原盤権が主張されていないこと
本件において、原告は本件MIDIデータ①、②にかかる楽曲の著作権者ではない。もっとも、「シンセサイザーの操作により入力されたデータで音を再生できる場合も、音を固定したということができる」※4とされていることから、原告が実施したデータ化によって原盤権を取得したとも解釈し得る。しかし、原告は原盤権を主張していない。
その理由は、被告の行為が「レコードの送信可能化」(著作権法96条の2)に該当しないと判断されたからであるものと推測される。すなわち、同条の「レコードの送信可能化」の意義については「録音物に収録されている実際の音を送信可能化する行為」※5とされている。つまり、原盤権の対象が当該レコード(原告が入力した本件MIDIデータ①、②)に限られるところ※6、「レコードの送信可能化」についても本件MIDIデータ①、②の「実際の音」の送信可能化に限定される。
そして、本件で被告がnanaにアップロードした楽曲のうち52曲程度が、本件MIDIデータ①、②を「参照」していた(又は「基づく」)ことまでは認定できても、それを超えて本件MIDIデータ①、②「に収録されている実際の音」を送信可能化させたとまで証明することができず、よって、原盤権は主張されなかったのだろう。
2.他の裁判例と比較した、本判決の不法行為についての議論の特徴
筆者はこれまで、著作物性が認められない場合における不法行為が判断された裁判例につき、5本の判例コラムを執筆してきた。
(1)著作権侵害が認められない場合について不法行為の認定にハードルがあること
北朝鮮映画事件※17では、テレビニュース番組において、北朝鮮の国家の現状等を紹介することを目的とする約6分間の企画の中で、その目的に照らし正当な範囲内で、2時間を超える映画のうち合計2分8秒間分を放送した(本件放送)という事実関係の下、不法行為の成否が問題となった。もし、当該映画が著作権で保護されていれば著作権侵害が問題となったが、北朝鮮の映画は条約上の保護の対象ではない。そこで、不法行為が主張された。
最高裁は、外国の著作物を含む著作物が著作権法の保護範囲に含まれるかを定める同法6条各号「所定の著作物に該当しない著作物の利用行為は、同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である」と判示し、また、営業上の利益侵害についても検討した上で、「本件放送が、自由競争の範囲を逸脱し、1審原告X1(筆者注:権利者)の営業を妨害するものであるとは到底いえないのであって、1審原告X1(筆者注:権利者)の上記利益を違法に侵害するとみる余地はない」として、当該事案における不法行為該当性を否定した。
調査官解説によれば、著作権法の規律対象とする利益においては、それを保護する、保護しないを含めて著作権法の制定により決定されており、同利益については、著作権法で保護されないとすれば、原則として、別途不法行為が成立するものではなく、例外として「同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情」があればこれと異なる判断となる※18。
要するに、著作権法の規律対象とする利益に関して不法行為責任が問題となる場合には、特段の事情が存在すると認定・判断されて初めて不法行為となるのであり、判例上、その意味における「ハードル」が存在するのである。
(2)他の類似事案よりも容易に不法行為を認めたバンドスコア事件
ここで、上記のうちのバンドスコア事件が、事案としては本件との類似性が最も高い。同判決は、ギター、キーボード、ドラム、ボーカル等、個々のパートがどのように演奏すべきかまで落とし込んだ楽譜、つまりバンドスコアについて、採譜といわれる作業が必要であるところ、この採譜という行為の特殊性を強調し、このような特殊性のある業界において、フリーライドが許された場合には、誰も採譜をしなくなり、結局のところ業界の衰退を招きかねない、というロジックを適用し、バンドスコアを模倣する行為は、「営利の目的をもって、公正かつ自由な競争秩序を害する手段・態様を用いて市場における競合行為に及ぶものであると同時に、害意をもって顧客を奪取するという営業妨害により他人の営業上の利益を損なう行為」だとして営業権侵害の不法行為を認めた。
ここでは、具体的に主観的な害意を認定するというよりは、客観的に悪影響の大きいフリーライドを行った以上、主観的害意も認められるとしたというものであり、その意味では比較的容易に不法行為を認めている。しかし、そうであっても、なお、客観的営業権侵害行為及び主観的な害意等を認定していることに留意されたい。
(3)リアルタイム配信逆転不法行為事件
そして、棋譜に関しては上記のとおりさまざまな裁判例が存在するところ、リアルタイム配信逆転不法行為事件においては、囲碁将棋チャンネル等が棋譜の配信を独占することができる代わりに日本将棋連盟等に対価を支払うという特定のビジネスモデルを前提に、棋譜情報をリアルタイムで配信したYouTuberの行為によって当該ビジネスモデルの成立が阻害され、ひいては現状のような規模での棋戦を存続させていくことを危うくしかねないものといえるという客観的状況がまず認定されている。またYouTuberの主観として、単に「本件動画を将棋ファンに無料で配信し視聴させることが、その反射として一審被告から有料で配信を受けていたはずの将棋ファンを減少させ、その結果として一審被告に損害を与える」と認識していたに留まらず、むしろそのビジネスモデルを批判し、それが崩壊してもやむを得ないような主張すらしていることからすると、当該YouTuberにおいて、日本将棋連盟及びそのビジネスモデルに組み込まれた囲碁将棋チャンネルを害する目的すらあったことさえうかがえるともされている。本判決はこのような客観面・主観面の双方を挙げた上で、一視聴者としての費用を負担するのみでリアルタイムの棋譜情報を取得し、これを動画配信において利用することで視聴者にアピールして収益を上げ、しかも、これにより一審被告に対して故意に損害を与えているというYouTuberによる動画配信は、明らかに競争の枠外の行為をしているものということができると結論付けている。
要するに、YouTuberの行為は客観的にビジネスモデル破壊の現実的危険のある行為であり、しかもYouTuberの主観においても、ビジネスモデルの破壊を招いてもやむを得ないと考えていたという害意をそれぞれ個別に認定し、不法行為を認めたものである。
(4)棋譜当日再現動画損害賠償命令事件
また、棋譜当日再現動画損害賠償命令事件においては、どのような場合に棋譜等の情報を無許可で利用する行為が不法行為になるかにつき、「他人が取得した情報を許可なく無断で当該他人の営業と競合関係にある自己の営業に利用した場合に、そのことをもって直ちに不法行為を構成すると評価するのは相当でなく、当該他人の営業上の利益を保護する必要性、当該利用行為により被利用者が受ける不利益の内容及び程度、利用行為の目的・態様等に鑑みて、当該利用行為が許される自由競争の範囲を逸脱するといえる場合に限り、当該利用行為は当該他人の営業上の利益を侵害するものであり」、「「特段の事情」があるものとして、不法行為を構成すると解するのが相当である。」という規範を立てた。
その上で、本件における原告らの営業活動において投下された費用が多額で、労力も多大であること、新聞社とYouTuberの間には、竜王戦の棋譜を知りたい顧客を奪い合う競合関係があること、YouTuberの配信により新聞社らは営業活動による収益が減少するという不利益を被ること、利用行為・態様については、まさに情報鮮度として最も価値が高い対局当日に棋譜の全てを利用していること等を指摘した。なお、YouTuberは、新聞社らがガイドラインに基づき利用許諾料を徴収することは「カツアゲ」「悪徳商法」だと公言しており、このような事情もYouTuberの行為を悪質と評価すべき事情の1つとなるとした。
これらを踏まえ、裁判所は、YouTuberによる配信は、新聞社らが多大な費用と労力を投下して行った竜王戦にかかる営業活動と競合し、新聞社らへの営業活動に重大な悪影響を与える行為であり、利用行為の態様も、新聞社らが多大な労力及び費用を投下した結果にフリーライドしたものである上、竜王戦の当日に全ての棋譜を利用するという棋譜の利用価値を大きく減殺させる極めて悪質なものであること等を併せて考慮すれば、YouTuberの配信は許される自由競争の範囲を逸脱した行為というべきとした。
結論として、当日ではあるがリアルタイムではないという、リアルタイム配信逆転不法行為事件よりは要保護性が低いと思われる事案において、当該他人の営業上の利益を保護する必要性、当該利用行為により被利用者が受ける不利益の内容及び程度、利用行為の目的・態様等に鑑みて、なお、当該利用行為が許される自由競争の範囲を逸脱する不法行為であると判断し、新聞社の損害賠償請求を認めた。
(5)VTuber事件
VTuber事件は、Vtuber事務所(原告)関係者と思われる発信者が、Vtuberの「中の人」である甲がオーディションに応募した際に、限定公開でYouTube上にアップロードした、その音声等が録音される動画(本件動画)のURL(本件URL)をインターネット掲示板に投稿したことを理由とした発信者情報開示事案である。この事案は、役職員5名しか知らなかった本件URLを発信者がいわゆるアンチスレと呼ばれる原告に対して批判的投稿がされる掲示板に投稿した事案である。そこで、発信者は従業員であると強く推認されるものである。
裁判所は、このような経緯を前提に、「本件URL及び本件動画は、本件記事が投稿されるまで一般に公開されていなかったと推認され、この推認を覆すに足りる証拠はない」とした。その上で、「原告社内において本件URLを知っていた者は、原告代表者ほか4名の合計5名しかおらず、同5名は、本件URLを原告の他の従業員及び第三者に伝えてはならないとされていたと認められるところ、この認定事実によれば、本件URL及び本件動画は、これが不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に該当するかどうかは措くとしても、原告の社外秘の情報であったと認めることができる。」とした。そして、このような投稿により甲から原告の社内の人物が本件発信者ではないかなどと抗議されたため、甲に対し、謝罪するとともに、できる限り法的措置を講じると約束した。そのような経緯から本件URLの掲示板への「投稿によって業務を円滑に遂行するという法律上保護される利益が侵害された」と認め、発信者情報開示を命じた。
確かに、この事案では、VTuberの「中の人」の音声が、キャラクターの同意なく収録された動画であり、その秘匿の可能性は高い。但し、そのような場合、原告は秘密管理措置を講じることで営業秘密としての保護を受ける余地があった(不正競争防止法(不競法)2条6項)。そのような観点からすると、限定公開動画はURLを知っている人にとって、何の制限もなく閲覧可能である。その意味で、秘密管理措置が講じられいたかは疑問がある。もちろん、限定公開動画には、画面上小さな「限定公開」の文字は出る。しかし、それだけで本当に、秘密管理措置として必要とされる「認識可能性」を担保できるかなどは疑問がある。その意味では、例えばID・パスワードで管理するといった方法を採用して営業秘密として保護を受けるべきだったようにも思われるところであるが、裁判所は上記のとおり「これが不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に該当するかどうかは措くとしても」とした上で、不法行為を肯定している。
(6)本判決がかなり簡単に不法行為を認めていること
このように、最も容易に不法行為を認めているバンドスコア事件でも、(主観を客観から推認しているものの)客観的営業妨害と主観的悪意を認定しており、リアルタイム配信逆転不法行為事件は個別に客観的営業妨害と主観的悪意を認定しており、棋譜当日再現動画損害賠償命令事件は当該他人の営業上の利益を保護する必要性、当該利用行為により被利用者が受ける不利益の内容及び程度、利用行為の目的・態様等に鑑みて、なお、当該利用行為が許される自由競争の範囲を逸脱するとして不法行為を認めた。
ところが、本判決は、上記のとおり、①契約をしていない者が同データに基づく音源を利用することができること、及び②大量の複製行為を可能とすることになることを理由に、不法行為の成立を認めたものである。
少なくとも判決文上は、何ら客観的営業権侵害行為であるとか、主観的な悪意等が認定されていない。その意味では、上記(5)のVtuber事件を除く過去の先例と比較してかなり簡単に不法行為を認めたものである。もちろん、上記①及び②は営業権侵害を基礎付け得る事実と評することは可能であり、また、本件行為1~3という「不正」持ち出し行為を認定しているので、そこにおいて悪意を認定したと理解することはできなくはない。とはいえ、北朝鮮映画事件等を引用することなく、上記(1)で述べた「ハードル」を少なくとも判決文上は十分に意識した記載となっていない。
3.検討
(1)財産権侵害という構成に対する懸念
本判決は、本件MIDIデータ①、②が「原告における営業上の貴重な利益、財産である」とされた。しかし、例えば原告の従業員が本件MIDIデータ①、②を消去した結果、原告がこれを使えなくしてしまう、ということならば営業妨害性は十分に理解できるものの、それをコピーしてそれを参照した楽曲をSNSにアップするというだけであれば、引き続き原告は本件MIDIデータ①、②を利用し続けることができる。まさにそのような無体物の特徴から、著作権法が原盤権の及ぶ範囲を定めている訳である。
(2)原告が本来なすべきことをしていれば不競法上の保護を受けることができたはずであること
しかも、原告について認められた下記事実は、管理の杜撰さを示している。
(3)カラオケビジネスへの悪影響
仮に本判決を正当化するとすれば、「かかるMIDIデータを基にして音源データを作成して第三者に公開することは、本来、原告と契約を締結している通信用カラオケ業者によらずとも、同データに基づく音源を利用することができ、また、大量の複製行為を可能とする」というところから示唆される、原告の行うカラオケビジネスへの悪影響なのであろう。
例えば、MIDIデータ18万9657曲(本件MIDIデータ①と②の合計曲数)をまとめてアップロードされてしまえば、原告はこれまで契約した事業者に対してのみこれらの音楽データを有償で提供していたのにもかかわらず、それ以降、事業者は原告と契約するのではなく、当該アップロードされた楽曲をダウンロードして音楽を再生してしまい、1曲6万6000円という多額の人件費等をかけてMIDIデータを作った原告のビジネスに重大な悪影響を与える可能性がある。本判決はこのような点を重視して不法行為を認定したと推測される。
とはいえ、本件では、不正取得行為(本件行為1~3)は18万9657曲分認定されているものの、(原告のデータを参照した)楽曲の公開はわずか約52曲について認定されたに過ぎない。また、上記(2)のとおり、原告がなすべき管理を行っていれば、限定提供データとして保護されたはずであった。
その観点からすると、限定提供データとしての管理を怠った原告について、わずか52曲の(しかも原告の音楽データそのものではなく、これを「参照」した音楽データの)SNS上での公開に過ぎない被告の行為が、どの程度原告の営業活動に対して打撃をもたらすものかの具体的認定※19がないまま、簡単に原告の営業上の利益、財産を侵害するとして不法行為を肯定したことの根拠について、本判決は更なる説明をすべきであった。具体的には、著作権による保護が認められない場合の不法行為による保護があくまでも「特段の事情」のある場合に限定される例外的なものだという北朝鮮映画事件の趣旨(上記2.(1)でいう「ハードル」)との関係性を説明すべきだった。なお、本判決は、そもそも北朝鮮映画事件の射程が労働関係にまでは及ばないといった理解に基づいている可能性があるところ、この点は2.(5)のVTuber事件も参照しながら更に北朝鮮映画事件の射程を考えるべきである※20。
(掲載日 2026年3月3日)
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