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文献番号 2026WLJCC004
明治大学 名誉教授
野川 忍
Ⅰ はじめに
本件は、私立大学において、任期一年の労働契約を一回更新して、大学の研究センターにおいて業務に従事していた大学教授が、二回目の更新に当たって、同センターが廃止されることに伴い、同教授の担当業務がなくなることを理由としてなされた、労働条件を変更した更新の申入れを拒否し、雇止めされたところ、同教授より、労働契約法(以下「労契法」)19条を根拠として、労働契約上の地位の確認と未払い賃金及び賞与が請求された事案である。
近年、有期労働契約の更新に当たって、使用者が労働条件を変更して更新を申し入れた場合、それが労契法19条に定める雇用継続の合理的期待の有無を判断するに当たってどのように解されるかが争点となる事案が増加しているが、本件もその一つである。また、労契法19条が適用された場合の、同条2号において雇止めが認められない要件とされている雇用継続の合理的期待に、所属機関の廃止という事態がどう影響するかも争点の一つであり、整理解雇や変更解約告知のケースと類似する論点を提示している。
Ⅱ 事実
1.事件の概要
控訴人Yは、大学を経営する学校法人であり、被控訴人Xは、中央官庁たる〇〇省に平成3年から令和2年まで勤務した後に同年4月、Yとの間で上席研究員として雇用契約を締結し、平成28年にYに設置されたd研究センター(以下「本件研究センター」)に配属された。同雇用契約の内容は、期間を令和2年4月1日から令和3年3月31日までとし、基本給月額を53万3000円、賞与を6月、9月、12月、3月に支払う、期間が満了した場合、Yにおいて必要があると認めるときは更に1年間同契約を更新する、というものであった。さらに令和3年3月25日、上席研究員として、期間を同年4月1日から令和4年3月31日までとし、基本給月額を53万9000円、賞与及び期間満了時の扱いについては令和2年の初発の契約と同様とする雇用契約(以下「本件雇用契約①」)を締結した。なお、採用に当たり、令和2年1月14日の面談では、D副所長より、採用から3年は1年毎の更新となるが、4年目以降については、それまでの勤務状況を勘案して雇用を継続することに特段の問題がなければ期限の定めのないものに移行するとの説明がなされた。
Yは、令和4年3月末日をもって本件研究センターを廃止することとしたが、その経緯は以下のようなものであった。
本件研究センターは、再生可能エネルギーの一層の利用を図るために、プロジェクト(以下「本件プロジェクト」)を立ち上げてこれに関する研究が進められ、エネルギー関連企業や千葉市等の自治体をメンバーとしてfフォーラムが創立され、また教育関連企業と共同研究契約が締結されていた。認定によれば、本件プロジェクトはその研究対象が再生可能エネルギーであるという性質上、長期間継続することが予定されていた。
ところが令和3年2月ころから、理事長、常務理事らによりD副所長に対して、本件研究センターの廃止が示唆されるようになった。そして遅くとも令和3年10月ころには理事長及び常務理事において廃止の協議がなされ、学長の同意を得て、廃止することが決定された。その後令和3年12月15日開催の理事会において令和4年3月31日をもって廃止することが決定された。また平成28年7月21日制定の本件研究センター規程(以下「本件規程」)は、令和4年7月20日開催の理事会において本件規程の廃止について審議がされ、本件研究センター廃止に伴う本件規程の廃止が異議なく承認された。
Xは、本件研究センターの廃止について令和3年11月8日に面談で伝えられ、Xの処遇については残務処理を最大限に考慮して令和5年3月末日までの雇用契約とすると告げられたのに対し、令和3年度の予算に係るヒアリングが行われた際には、研究は継続する旨聞いており安心していたと伝えた。
以上の結果に至る経緯の中では、C所長が研究所発足当初から体調不良で入院したり、回復してからも年に3、4回のミーティングを行う程度にとどまっていたが72歳になった令和3年3月末日をもって退職したところ、C所長は弁護士を立ててYと対立し、結果的には退職を了承したという事情があり、また、令和4年2月8日XとD副所長が事務局長と常務理事と面談した際に、あたかもC所長とYとの対立が研究所廃止に影響を与えたかのようなY側の回答があり、また数字に基づく根拠があるわけでもないこと等が示された。
Yは令和4年3月17日、Xに対し、同年4月以降の労働条件について雇用契約書を提示の上、次のいずれかを選択することを提案(以下「本件提案」)した。
①上席研究員として、期間を令和4年4月1日から同年9月17日まで、基本給月額を54万4900円、賞与を6月と9月に支給し、期間が満了した場合、契約更新はしない。
②上席研究員として、期間を令和4年4月1日から令和5年3月31日まで、基本給月額を54万4900円、賞与を6月、9月、12月、3月に支給し、期間が満了した場合、契約更新はしない。
Xはこれに対し、令和4年3月29日に、期間満了時の更新をしないとの規定は入職時に提示された条件と異なるので受け入れられないと回答した上で、同年4月20日付けの書面により、従前と同様の有期労働契約の更新を申し込んでいることを前提として、改めて従前と同様の有期労働契約の締結を申し込むと表明した。Yは、同年3月30日に上記二つの選択肢のいずれをも拒否するのであれば、令和4年3月31日をもって任期満了とすると通知し、同年4月20日付けのXからの書面に対しては、同年5月2日付で「有期労働契約の更新を拒絶されたのは、X氏であって本学ではありません」などと回答した。Xは、令和4年4月以降就労していないが、その後Xは、令和5年4月28日になって、Yに対して、本件訴訟準備書面によって、当初の雇用契約と同一の条件で成立したとする雇用契約(以下「本件雇用契約②」)を更新する旨の申込みをした。
2.原審※2判旨
①本件雇用契約②が労契法19条の適用により更新されたか、すなわちYがXの更新の申込みを拒絶したかといえるか
採用前の面談におけるD副所長の発言や、Yが、前掲の二つの選択肢を提示した本件提案をしたことを理由に、本件雇用契約の期間満了時である令和4年3月31日の時点において、Xが本件雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるといえることをYが特段争っていないこと等からして、令和4年3月31日の時点において本件雇用契約①が更新されるものとXが期待することについて合理的な理由がある。そして、Yの本件提案は本件研究センターが廃止されることに伴うものであるが、以下のとおりこれは本件提案の合理性を基礎付け得ないから、本件雇用契約①は労契法19条により更新されたことになる。
②本件雇用契約②が労契法19条により更新されたか(すなわち、令和5年3月31日の時点においてXが本件雇用契約②が更新されると期待したことにつき合理的な理由があるか、Yが更新の申込みを拒絶したことにつき客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められないときに当たるか)
採用前の面談におけるD副所長の発言から、「採用から4年目となる令和5年4月1日以降も、Yとの雇用契約が継続し得ることを前提とした説明を受けていたことになる」(〇〇省での定年退職まで10年あった)。また、本件プロジェクトは長期間継続することが予定されており、業務の整理として令和5年3月31日当時も存在していたこと等が、Xの期待の合理性を裏付ける事実と評価できる。
③本件研究センターの廃止について
本件研究センターの廃止については、その廃止がXの担当していた業務がなくなることと必ずしも結び付くものではなかったと解されること(令和3年2月8日のD副所長、理事長、常務理事との面談での理事長の発言)、C所長に対する批判的な感情が常務理事らにあったこと、廃止しなければならないことについて適切に検討された結果によるものか疑問が残ること等からすると、本件研究センターの廃止は本件雇用契約②が更新されるとXが期待したことにつき合理的な理由があることを否定し切る事情とはいえず、Yが本件研究センター廃止を理由にXによる更新申込みを拒絶したことは客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない。
④賞与請求権について
賞与請求権については、XとYとの間で具体的な支払金額が合意されていると認められないこと等から否定。
Ⅲ 判旨
1.本件雇用契約①が労契法19条の適用によって更新されたといえるか
①労契法19条2号該当性
3年を経過する時点までの勤務状況を勘案し、雇用を継続することに特段の問題がないと判断された場合には、4年目以降の雇用契約については期間の定めのないものに移行する旨の説明を受けていたこと等から、本件雇用契約①の更新について期待することに合理性が認められる。
②労契法19条柱書の適用場面か
Yの本件提案とこれを拒否したXの対応等の経緯から見て、Yの本件提案は更新の申出ではなく新たな契約の提案であり、XはYに対し、労働契約の更新を申し込み、Yはこれを拒絶したものであるから、労契法19条柱書の適用場面に該当する。Yは、本件提案における不更新条項は契約期間中の労働条件ではなく、契約が更新されるかは期間満了の時点で問題となるだけであるから、Yの本件提案は新たな契約の提案ではなく更新の申出であって、Xが更新を拒絶したものであり、労契法19条柱書の適用場面ではないとするが、Xにおいては本件雇用契約①が更新されると期待することについて合理的期待が認められる状況にあったのであるから、その状況における不更新条項を示した労働契約の提示は、新たな労働契約の申込みといわざるを得ない。
③本件研究センター廃止について
「本件研究センターの廃止については、その設置の根拠となる本件規程の廃止が理事会の決議事項とされている・・・・・・ことからすれば、本件規程に基づく実体である本件研究センターの存続に関わるものとして、Yの理事会の決議事項に当たるものと解すべきである。・・・・・・本件研究センターの廃止について理事会の決議を経ていない点において、手続的な不備があるものといわざるを得ない。・・・・・・本件規程10条において、本件規程の改廃は、理事会の議決を経るものとされているのは、その前提となる本件研究センターの改廃についても理事会の決議に委ねる趣旨であると解される」べきである。また、「理事会の決議事項として議論が尽くされていないことは、手続のみならず、判断の相当性についても影響し得るものであるというべきである。・・・・・・本件研究センターの廃止の是非については、広く理事会において議論を尽くす必要があったものと解されるのである。・・・・・・本件研究センターが令和4年3月31日をもって廃止されるという事情は、本件雇用契約①が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある状況における更新拒絶の合理的な理由となるということはできず、社会通念上相当であるということもできない。」
2.本件雇用契約②が労契法19条の適用により更新されたか
本件研究センター廃止に係る不備は解消されておらず、Xが令和4年4月以降一切の労務提供をしていないこともYに責任があること等からして、令和5年3月31日の時点で、本件雇用契約①に関する事情と異なる事情はないから本件雇用契約②も更新されたものと認められる。
3.更新後の労働契約の内容について
令和5年3月31日以降も更新される場合は期間の定めのないものになることについてXY間に争いはないから、期間の定めのない労働契約が認められる。また賞与については、Yでは研究員に対して定められた算定方法に従って一律に賞与が支給されているとのXの控訴審における補充主張をそのまま認めて、請求額を認容した。
Ⅳ 評釈
1.本件の意義
①事案の特性
本件は、本件雇用契約①については、期間を短縮した上で次回の更新は行わないこと、もしくは単に次回の更新は行わないことを更新の条件として使用者が更新を申し入れ、それを労働者側が拒否して契約終了に至った事案である。判旨はこれを労契法19条2号の合理的期待を踏まえてYの側に雇止めする合理的理由や社会通念上の相当性はないと断じたが、疑念を惹起する内容である。また、本件雇用契約②については、判旨は、更新がなされたものとみなされた本件雇用契約①の期間が満了した後に、期間の定めのない契約に移行したことを認めるとの判断を示しており、これも非常に際立った意義を有している。
②判旨の位置付け
まず、労契法19条の更新が、従前の労働契約と同一の労働条件で契約を締結することを意味するのかについて、本件判旨は、Yの更新申込みを異なる契約締結の申込みであるとしているので、同条の更新は同一労働条件ないし同一期間による更新のみを意味すると解しているものと解される。
この問題については、河合塾(雇止め)事件(東京高判令和4年2月2日)※3が同一の労働条件ないし期間に限定されないとの判断を示し、他方で、東光高岳事件(東京地判令和6年4月25日)※4では、同一の労働条件による場合のみが同条の更新に当たるとしており、学説は前者に与する者が多く※5、本件のように期間についてのみ変更された場合も更新に該当するというのが一般的な理解である※6。
もっとも、これらの見解はいずれも、更新が実際になされた場合を想定することが通常であり、本件のように変更申入れの場合も同様に解すべきかは明らかではない。仮に本件で、Yの申入れも更新の申入れであるとした場合は、更新それ自体はXYとも意図しているので、問題は従前とほぼ同一の労働契約の更新を求めることが、もっぱら期間につき限定を加えた更新の申入れを否定することになるか、言い換えれば雇用継続の合理的期待には、期間に限定を置かれないことも含まれるかという問題となる。これは契約不更新の条件を付けた更新の申入れと基本的には同様の問題として検討できることとなろう。とりわけ本件事案では、Yは、期間を6か月に短縮した内容と、期間の変更もなく単に次回は更新しないという趣旨の内容の選択を求めているところ、特に後者の提案は、いわゆる不更新の意思を通知しての更新申入れであって、これまでこのような申入れを対象としてそれが労契法19条2項の適用により雇用継続の合理的期待が認められ、かつ雇止めに合理的理由と社会通念上の必要性がないと認められた事例はない。不更新の通告があった場合の雇止めの適法性を判断した最近の事案(国立大学法人Y大学(雇止め)事件・福岡高那覇支判令和4年11月24日※7、日本通運事件・東京高判令和4年9月14日※8、アンスティチュ・フランセ日本事件・東京地判令和4年2月25日※9等)、また不更新条項や不更新合意の存否、効果等が論点となった先例(明石書店事件・東京地決平成22年7月30日※10、高知県公立大学事件・高松高判令和3年4月2日※11、東芝ライテック事件・横浜地判平成25年4月25日※12等)も、いずれも不更新の合意や通告がなされてすぐ期間満了が主張されたか、不更新期限をもって期間満了で契約終了とされたもので、本件のように次回の期間満了で不更新とするとして更新を申し入れた使用者の意思表示に対してその回の満了時に更新申入れをして就労しなかったという例はない。したがって、本件は、次回の更新はそれまでとほぼ同一の条件でありつつ次々回以降については更新しないことが通告された場合にも、次回の更新は次々回の更新をしないという条件が付かないものでなければならないということ自体が合理的期待に含まれるという判断事例として位置付けられよう。
③判旨の評価
本件の経緯によれば、Yは11月8日の時点ですでにXに対し令和5年3月末日をもって契約が終了することを伝えており、令和4年度については更新することを表明しているのであって、これを踏まえた更新の提案をもって「新たな契約の締結申入れ」とする判断を問題ないとすることは困難であろう。判旨は、本件雇用契約①が更新されると期待することについて合理的期待があったのだからその状況のもとで不更新条項を示すのは新たな労働契約の申込みだとするが、そうすると4年後の不更新を付した更新申入れも同じ解釈が可能となり、実務的には著しく現実性を欠くのみならず、令和4年度の契約が更新されるとの合理的期待は満たされているのであるから、その点も説得力を欠く。
2.合理的期待の判断
YがXとの契約の更新を次回限りにしようとしたのは、所属機関の廃止によるものであるが、判旨のこれに対する判断も疑問を禁じ得ない。判旨は、理事長と常務理事による機関廃止の決定と、関連規定の理事会による審議を経ての廃止という一連の手続につき、「手続違反」としているが、機関の廃止も諸規定の廃止もYにおける所定のルールに沿ったものであり、機関廃止も理事会の審議によるべきであるというルールの存在は認定されておらず、存在しない手続の違反を主張する判旨は理解しがたい。
さらに、Xは令和4年4月以降労務の提供をしておらず、更新されたとした場合の労務提供義務を果たしていない。加えて、上記のように不更新は次回の期間満了の折について示されているのであり、「次回は更新しない」という条件を付した更新の拒否が、その時点で労契法19条の定める労働者側の更新の申入れとみなされると判断し得る理由も明確ではない。
3.本件雇用契約②についての判断
判旨は、令和5年4月以降についても、本件労働契約②が期間満了をもって期間の定めのないものに移行するとの判断を示しているが、この点は説得力を著しく欠く。本件雇用契約②に関しては、すでに令和4年3月末で契約が終了しており、仮にそれが更新されていたとしても、Xは業務に従事していないのであるから、3年の期間を経て能力や業績に問題がなければ無期契約に移行する、との条件が満たされていると認めることは不可能である。判旨があげる、本件研究センターの廃止が合理的期待を消すことはないという論拠も、本件雇用契約①についてはいざ知らず、本件雇用契約②については、すでに廃止された後の更新の可能性であるから、本件雇用契約①についての判断と同様の判断に至ることはあり得まい。
Ⅴ 展望
Yとしては、これだけ手続を踏み、Xにも配慮した対応を全否定されたこととなり、これが先例となれば、各大学は、有期雇用の教員については当初から更新を厳格に制約する新たな方策をとらざるを得なくなり、労使双方に困難を増大させるだろう。また、有期雇用の実態には非常に豊富なバリエーションがあり、労契法19条がそれらの紛争をすべて処理し得るツールとなり得る状況ではない。特に本件のような大学や研究機関、さらに専門性の高い業務を特定した有期雇用の形態等に関する雇止めをめぐる紛争に関しては労契法19条の適用は実務上の困難をきたすことが少なくない。今後は、外部労働市場の進展を踏まえた損害賠償制度による解決の選択肢も検討されるべきであろう。
(掲載日 2026年2月24日)
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