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文献番号 2025WLJCC023
金沢大学 教授
大友 信秀
1.本件を紹介する理由
本件は、原告を同じくする、ファッションショーに関係する役務を含む「沖縄コレクション」の標準文字からなる商標出願及び「九州コレクション」の標準文字からなる商標出願に対する2件の審決取消訴訟において、原告の請求が棄却されたものである。
知的財産高等裁判所は、上記両出願について、商標法3条1項3号※2に該当することを理由に登録を認めなかった特許庁の審決を正当とした。
本件は、いわゆる記述的商標の登録性が問題となったものであるが、出願の分割その他の手続補正を行っていないため、手続としては、他の対応の余地もあったと考えられる。
本件の訴訟対応に加え、他の対応の余地も検討することで、実務対応の参考になると思われるため、紹介する。
2.本件
(1)本件訴訟に至る経緯
①本件出願の経緯
X(原告)は、令和4年4月14日、「沖縄コレクション」及び「九州コレクション」を標準文字で表してなる商標(以下、「本願商標」という。)につき、それぞれ指定役務に第35類や第41類を含む商標登録出願(以下、「本願」という。)をした※3。
本願については、令和5年4月14日付けで拒絶査定(以下、「本件拒絶査定」という。)がされた。Xは、これを不服として、令和5年7月18日、拒絶査定不服審判を請求した※4。
②Y(特許庁)の判断(審決※5の理由の要旨)
「本願商標をその指定役務中、ファッションショーに関係する役務に使用した場合、これに接する取引者、需要者に「沖縄(筆者注:「九州コレクション」においては、「九州」)で開催される有名デザイナーなどの発表する発表会、ファッションショー」ほどの意味合いを認識させるに止まるから、本願商標は、単に、役務の質(内容)を表示するにすぎず、自他役務識別標識としての機能を果たし得ないものというべきである。
したがって、本願商標は、商標法3条1項3号に該当する。」
(2)本判決
原告の請求を棄却する。
①商標法3条1項3号該当性について
1)判断基準
「商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは、このような商標は、指定商品又は指定役務との関係で、商品の産地、販売地、品質その他の特徴等、役務の提供の場所、質その他の特徴等を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品・役務識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによる(ワイキキ商標事件最高裁判決参照)。
そうすると、出願に係る商標が、その指定役務について、同号にいう役務の提供の場所、質その他の特徴(以下「役務の特徴」という。)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるというためには、当該商標が当該役務との関係で役務の特徴を表示記述するものであり、当該商標が当該役務に使用された場合に、取引者、需要者によって、将来を含め、役務の特徴を表示したものとして一般に認識されるものであれば足りるものと解される。」
2)本願商標について
本願商標を構成する文字中、「沖縄(筆者注:「九州コレクション」においては、「九州」)」は、地理的位置を意味する語であり、「「コレクション」は、英語の「collection」の日本語表記であり、①「趣味として集めること。収集。」、②「収集品。特に美術品・骨董品・書物などの収集品。」のほか、③「有名デザイナーなどの発表する、そのシーズンの一連の新作。また、その発表会。」・・・・・・を意味する語である。・・・・・・英語の「collection」も、「(服飾の)コレクション、新作品(発表会)≪デザイナーが1シーズンに売り出す衣服の全部≫」の意味を有している・・・・・・。・・・・・・そして、ファッション、アパレル業界においては、パリ、ミラノ、ニューヨーク、ロンドンの世界4都市でそれぞれ開催される「ファッションウィーク」(ある一定期間のうちに多数のブランドがファッションショーや最新のコレクションを発表する期間、又はそのイベントの総称)がその取引者、需要者に広く知られており、これらのイベントは、日本国内では「世界4大コレクション」と呼ばれたり、各都市名を採って「パリコレクション」「ミラノコレクション」などと呼ばれたりするのが一般的となっている・・・・・・。また、日本国内では、東京ファッション・デザイナー協議会が立ち上げ、2020年春夏コレクションからは「Rakuten Fashion Week TOKYO」の名称で開催されているファッションイベントが「東京コレクション」と呼ばれている・・・・・・。」
3)本願商標の指摘役務に係る取引の実情等
ア 取引者・需要者の特定
「本願商標の指定役務(商標法6条2項)は、商標法施行令2条の規定による商品及び役務の区分に属する商品又は役務として商標法施行規則6条、別表で定める第35類「広告業」及び同第41類「興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)」(以下単に「興行の開催等」という。)を含むものであり、「広告業」には、「広告のための商品展示会、商品見本市の企画又は運営」が含まれている(同規則別表・第35類「一 広告業」(六))。以下、この「広告のための商品展示会、商品見本市」を「商品展示会等」という。)。・・・・・・これらの指定役務に係る商品展示会等の役務の取引者、需要者は、商品展示会等の目的に応じ、その商品や役務に関係する取引業者、販売業者又は一般消費者であり、興行の開催等の役務の需要者もその役務に関係する取引業者や一般消費者であると認められる。」
イ 指定役務に関する「コレクション」名称の使用状況
「そして、本件審決時における、これらの指定役務に関する取引の実情として、・・・・・・以下の事実が認められる。」
a 「沖縄コレクション」事件判決の説示
「沖縄県内で開催された、デザイナーや服飾関係の業者、団体により開催されたファッションショー(服飾に係る商品展示会等に当たると認められる。)や、モデルがランウェイを歩くといったファッションショーを模した企画を含むイベント(興行に当たると認められる。)の名称として、「沖縄コレクション2023」・・・・・・、「沖縄コレクション2010」・・・・・・、「OKINAWA COLLECTION(オキナワコレクション)2008」・・・・・・の名称が用いられている。」
「沖縄県以外の地域において開催された、前記・・・・・・同様のファッションショーや、ファッションショーを模した企画を含むイベント(商業目的以外と窺われるものを含む。)の名称として、開催地の地域名と「コレクション」を組み合わせた、以下の名称が用いられている」(「KSC 九州コレクション 2024」等12例)。
「特定の地域で開催されたファッションショー(商業目的以外と窺われるものを含む。)について報道する新聞等において、・・・・・・「長崎コレクション」・・・・・・といった略称が用いられている。」
「ファッションショー以外の商品展示会等に係る、以下の事例がある」(「北海道コレクション HOKKAIDO COLLECTION」等10例)。
b 「九州コレクション」事件判決の説示
「福岡県北九州市で開催された、モデルがランウェイを歩くといったファッションショーを模した企画を含むイベント(興行に当たると認められる。)の名称として、「KSC 九州コレクション 2024」・・・・・・、「九州コレクション2022」・・・・・・の名称が用いられている。」
「国内各地で開催された、デザイナーや服飾関係の業者、団体により開催されたファッションショー(服飾に係る商品展示会等に当たると認められる。)や、・・・・・・同様のファッションショーを模した企画を含むイベント(商業目的以外と窺われるものを含む。)の名称として、開催地の地域名と「コレクション」を組み合わせた、以下の名称が用いられている」(「沖縄コレクション2023」等13例)。
「特定の地域で開催されたファッションショー(商業目的以外と窺われるものを含む。)について報道する新聞等において、・・・・・・「長崎コレクション」・・・・・・といった略称が用いられている。」
「ファッションショー以外の商品展示会等に係る、以下の事例がある」(「北海道コレクション HOKKAIDO COLLECTION等10例)。
4)判断
「以上のとおり、本願商標を構成する「コレクション」は、一般に「有名デザイナーなどの発表する、そのシーズンの一連の新作の発表会」を意味するものとして使用されることがある語であって、これと代表的な開催地の地名を結び付けた「パリコレクション」などの語は、その地で開催されるファッションウィークの日本国内における呼び名として、ファッションに関係する役務の取引者、需要者に広く知られていると認められる。
加えて、本願商標の指定役務に係る商品展示会等又は興行の開催等に含まれる、ファッションショーやファッションショーを模した企画を含むイベント(商業目的のもの、商業目的以外のもの)については、開催地の地名に続けて「コレクション」の文字を組み合わせた名称が広く用いられており、新聞等においても、これらのファッションショーやイベントが当該名称とともに報道されている。その他、特定の地域で開催されたファッションショーについて、開催地の地名に続けて「コレクション」の文字を組み合わせた略称が、記事中で用いられている実情が認められる。
このような本願商標の構成文字の語義及び本願の指定役務に関する取引の実情を踏まえると、本願商標「沖縄コレクション(筆者注:「九州コレクション」においては、「九州コレクション」)」は、その指定役務に含まれるファッションショーや、ファッションショーの要素を伴うイベントの企画、運営、開催について使用された場合、本願商標の指定役務である商品展示会等又は興行の開催等の取引者、需要者に、「沖縄(筆者注:「九州コレクション」においては、「九州」)で開催される、ファッションショー又はファッションショーを模した企画を含むイベント」という、役務の提供の場所及び役務の質(内容)を表示記述するものと一般に認識されると認められる。
このような本願商標は、ファッションショーや、ファッションショーの要素を伴うイベントの企画、運営、開催に係る役務の取引に際し、役務の特徴(特に提供の場所及び役務の内容)を表すための必要適切な表示として、何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、多くの場合自他役務識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることが明らかである。
そうすると、「沖縄コレクション(筆者注:「九州コレクション」においては、「九州コレクション」)」を標準文字で表した本願商標は、少なくともその指定役務に含まれるファッションショーや、ファッションショーの要素を伴うイベントに係る役務につき、当該役務の特徴を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法3条1項3号に該当する。」
②原告の主張に対する判断
1)「原告は、本願商標の指定役務のうち、ファッションショーを取り扱わない役務に係る取引の実情や需要者等の認識をも考慮すべきである旨主張する。
しかし、出願商標の指定商品・役務の中の一部に登録を受けることのできないものがあれば、出願の分割ないし手続補正により当該登録を受けることのできない指定商品・役務が削除されない限り、その出願は全体として登録を受けることができないと解される(東京高裁昭和59年9月26日判決・無体集16巻3号66頁参照)。本願商標は、指定役務の少なくとも一部について商標法3条1項3号に該当する以上、全体として登録を受けることができない。
なお、原告は、ワイキキ商標事件最高裁判決を引用するが、同判決は、複数の商品(せっけん類、歯みがき、化粧品、香料類)を指定商品とする「ワイキキ」の片仮名文字からなる商標について、少なくとも花香水を含む化粧品類についてはワイキキの土産品として生産され、広く現地の販売店において販売されていることが認められる事案において、商標法3条1項3号該当性及び同法4条1項16号該当性を認め、登録無効審判不成立審決を取り消した原判決を結論において維持したものである。ワイキキ商標事件最高裁判決は、指定商品の一部についてのみ商標法3条1項3号該当性が認められるにすぎない場合には出願全部の拒絶査定をすることができない旨の判断を示したものではないから、同判決を根拠に、ファッションショー以外の指定役務について、本願商標の商標法3条1項3号該当性を判断すべきである旨の原告の主張は理由がない。」
2)「この点を措くとしても、原告が指摘する「地名」と「コレクション」を組み合わせた語の使用例・・・・・・は、以下に述べるとおり、いずれも前記・・・・・・の判断を覆すに足りるものではない。
すなわち、そもそも前記・・・・・・のファッションショーを模したイベントの名称であるもの(京都コレクション・・・・・・)は、むしろ前記・・・・・・の判断を裏付けるものである。・・・・・・オーディション(四国コレクション・・・・・・)は、モデル分野の審査があるもので、事情によりファッションショーを取りやめたと報じられており・・・・・・、当初はファッションショーを模した企画を含むイベントとして計画されていたと認められる。
また、前記・・・・・・の、「コレクション」と組み合わせた地域の物産を対象とする商品展示会等の名称に使用されている例・・・・・・のほか、その地域の物産に係る販売用ウェブサイト(江戸川いいものコレクション・・・・・・)、地産品等を紹介する冊子名(大津コレクション・・・・・・)、国際見本市に出展した県の特産品の展示プロジェクト(A×岐阜コレクション・・・・・・)、特産品を紹介するSNSのアカウント名(鹿児島コレクション・・・・・・)、寄付金募集用ウェブサイトの謝礼品の表示(町田コレクション・・・・・・)に「地名」と「コレクション」を組み合わせた語が用いられていることは、本願商標「沖縄コレクション(筆者注:「九州コレクション」においては、「九州コレクション」)」が特定の地域の物産を対象とする商品展示会等に係る役務に使用された場合、「沖縄県産(筆者注:「九州コレクション」においては、「九州産」)の物産の広告のための商品展示会、商品見本市」という、役務の質(内容)を表示記述するものと一般に認識されると認められることになり、商標法3条1項3号該当性を認めるべき事情となる。
これ以外の様々な使用例についても、一定の地域で撮影された写真の展示会(柏コレクション写真展・・・・・・)、一定の地域に存在する観光資源や生き物の集まり(滋賀コレクション・・・・・・)、一定の地域の展示会場(那覇コレクション・・・・・・)、一定の地域の伝統工芸品を用いた製品の集合(福島コレクション、・・・・・・)、一定の地域の風景やニュースを紹介した記事の掲載サイトの標題の名称(静岡コレクション・・・・・・)、一定の地域の情報の発信サイト(三重コレクション・・・・・・)、一定の地域の学生から構成される団体(愛媛コレクション・・・・・・)、一定の地域の写真素材(小樽コレクション・・・・・・)であって、「地名」と「コレクション」の組合せは、各地域と関連する事物の集合を表示記述するものとしても一般に認識されているものということができ、それ自体、商標法3条1項3号該当性を認めるべき事情となる一方、これらの使用例の存在により前記・・・・・・の認定判断が否定されることにはならない。・・・・・・したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。」
3.本判決の判断について
(1)ワイキキ事件最高裁判決※6の解釈
本件原告は、記述的商標該当性について、以下のように、ワイキキ事件最高裁判決を引用する主張をなしている。
「本件審決は、本願商標の対象役務の中にファッションショーの企画・運営等のファッションショーに関するものが含まれると評価した上で、記述的商標該当性を判断するに当たり、「これを取り扱う業界においては」という判断枠組みを採用するが、このような判断過程は、本願の指定役務の需要者を意図的に狭く解釈する不当なものである。
指定役務との関係で本願商標の記述的商標該当性を判断するに際しては・・・・・・ワイキキ商標事件最高裁判決・・・・・・に照らし、本願商標の指定役務の全部について、その需要者等であれば何人もその使用を欲するか否か、という検討を行うべきである。
この点、ファッションショーを取り扱わない業界においては、「地名」+「コレクション」の語が多様な意味合いで用いられ、しかもそれらが需要者等において特段の混乱もなく使用されていることが窺える・・・・・・。
・・・・・・ファッションショーを取り扱う業界の需要者であっても、市井の人々である以上、日々さまざまな情報に接しており、「地名」+「コレクション」の語がファッションショー以外の意味合いで用いられる例は枚挙にいとまがないのであるから、本願商標が需要者に「沖縄で開催される有名デザイナーなどの発表する発表会、ファッションショー」ほどの意味合いを認識させるに止まるとはいえない。」
これに対して、本判決は、ワイキキ事件最高裁判決が商標法3条1項3号該当性に関する判決であることは確認しながらも、原告の主張の一部である、「指定商品の一部についてのみ商標法3条1項3号該当性が認められるにすぎない場合には出願全部の拒絶査定をすることができない旨の判断を示した」ものであるという点を否定した。
(2)ファッションショーと商標法3条1項3号の関係について
また、原告の「本願の指定役務の需要者を意図的に狭く解釈する不当なものである」との主張に対しても、「「地名」と「コレクション」の組合せは、各地域と関連する事物の集合を表示記述するものとしても一般に認識されているものということができ、それ自体、商標法3条1項3号該当性を認めるべき事情となる一方、これらの使用例の存在により前記・・・・・・の認定判断が否定されることにはならない。」とし、原告の主張にならい、本願の指定役務の需要者を広く解釈しても、結論が同じになるとした。
不登録事由に該当する商標については、上位概念と下位概念の関係に注意し、需要者の特定において上位概念の需要者が下位概念を排除しない場合には、同じ需要者と見られることが確認された。
4.本件と同様の出願への対応策について
(1)出願の分割による対応
本判決も言及しているように、「本願商標は、指定役務の少なくとも一部について商標法3条1項3号に該当する以上、全体として登録を受けることができない。」ものであった。
この瑕疵を治癒するためには、出願の分割という方法が選択可能であることからすれば、原告は、出願分割により、不登録事由に係らない部分について登録を確保した上で、残りの部分について出願の補正をすることが、より現実的な対応ではなかったかとも考えられる。
この点については、原告(出願人)の意向であったのか、代理人の方針であったのか、明らかではないが、一般的な対応とは異なる印象を持たざるを得ない。
(2)標準文字以外による出願
以上のように、出願を分割した上で、残りの部分については、標準文字をデザイン化し、図形ないし図形との組み合わせによる出願とすれば、通常は、登録可能であったものと思われる。
その上で、使用を重ね、標準文字による取得につなげることが、実務上は現実的な対応策と考えられるため、本件のような判決は、比較的珍しいものであると考えられる。
5.まとめ
記述的商標のように、普通名称に近い商標は、登録できれば、絶大な力を持つ可能性も否定できない。このことから、原告のように、訴訟まで争う意図も否定できないが、商標法は、名称等の使用が他の者の通常の取引を害することがないよう設計されており、商標法3条1項3号の例外に該当するためには、市場における使用の積み重ねが不可欠である。
普通名称に近い商標の出願においては、長期的、戦略的な使用を念頭に、代理人とコミュニケーションをとることが不可欠であろう。
(掲載日 2025年10月21日)