判例コラム

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第348号 リアルタイムではない形で棋譜情報を利用するYouTuberの動画に対する著作権侵害の申告が不競法違反とされた事案  

~知財高裁令和7年2月19日判決※1

文献番号 2025WLJCC013
桃尾・松尾・難波法律事務所 パートナー弁護士※2
松尾 剛行

Ⅰ はじめに
 本判決は、棋戦のスポンサーとして、棋戦を有料でリアルタイム中継するビジネスを行う一審被告(被控訴人)が、一審被告が提供した棋譜情報を利用してYouTube等で配信を行っていた一審原告(控訴人)の動画について著作権侵害を理由とした削除の申告(通知)を行い、これらの動画が(一時的に)削除されたため、一審原告が一審被告に対し、不正競争防止法(以下「不競法」という。)違反及び不法行為を理由に損害賠償を求めた第一審において、極めて少額の賠償のみを認める第一審判決※3が下ったことから、より高額な賠償を求めて一審原告が控訴したところ、控訴を棄却したものである※4
 ここで、棋譜の利用による不法行為や、著作物ではないものの利用に関する不法行為については、近時複数の判決が下され、議論が盛り上がっている。筆者も、このような文脈の下において、以下の3本の判決に関するコラムを執筆した。

  1.   ・棋譜事件第一審(大阪地判令和6年1月16日※5※6
  2.   ・バンドスコア事件(東京高判令和6年6月19日※7※8
  3.   ・棋譜事件控訴審(大阪高判令和7年1月30日※9※10

 本判決は、このような議論の盛り上がっている分野において、新たな判断を知財高裁が下したという意味で重要性が高い。


Ⅱ 事案の概要と判決要旨
1.事案の概要
(1)本件の事案

 将棋のAI解説動画等を投稿し、動画を収益化している※11YouTuberである一審原告が将棋の王将戦の棋譜を用いて解説や今後の予想等を提供する動画や、将棋の王将戦の全棋譜をAI評価値付きで再生する動画(以下「本件動画」という。)を投稿した。本件動画はいずれもリアルタイムで棋譜情報を配信するものではなく、2日間の対局の1日目終了後に2日目の対局の予想をしたり、対局終了後に対局の解説をしたりする内容であった。これに対し、YouTubeやCSで囲碁及び将棋を中心としたコンテンツを配信、放送する株式会社で、スポンサー料を支払い、王将戦の棋譜に関する権利を有する一審被告は、YouTubeに対して本件動画の著作権侵害を理由とした削除の申告(通知)を行い、本件動画はいずれも削除された。但し、削除後に一審原告が異議を申し立てたことから、本件動画は復活し、再度視聴可能となっている。一審原告は、一審被告の削除申告(通知)行為が、不競法上の虚偽告知行為(不競法2条1項21号※12、営業誹謗とも呼ばれる)※13に該当し、また、民法上の不法行為にも該当する(民法709条※14)ところ、それにより経済的損害及び精神的損害を被ったとして損害賠償等を求めた※15

    (2)第一審判決
  1.   ア 第一審判決の争点
  2.    ここで、一審原告は、経済的損害は不競法を根拠に、精神的損害は民法を根拠に請求していた。そして、一審被告は、原則として不競法及び不法行為の侵害論について争わないとした。その上で、経済的損害に関する損害論、及び精神的損害に関する主張、即ち、一審原告主張に係る人格的利益が民法709条にいう「法律上保護された利益」に該当するかどうかが争点となった。
  3.   イ 経済的損害について
  4.    第一審判決は、経済的損害に関する損害論については以下の検討を行い、約1万8000円が損害だとした。まず、再生回数1回当たりの利益は、(YouTubeから支払われる)推定収益を視聴回数で除した額とするのが相当とした。その上で、削除申告(通知)によって失われた視聴回数を推定するに当たり、投稿から約24時間にあっては、視聴者において関心が高く集中的に再生される一方、約24時間の経過後にあっては僅かな回数が再生されるにとどまっているという本件動画の再生傾向を踏まえ、これを約3万5000回とした。そこで、失われた再生数に再生回数1回当たりの利益を乗じることで、失われた収益を計算し、その約1割である弁護士費用を加えた額を損害として認めた。
  5.   ウ 精神的損害について
  6.    また、精神的損害については、一審原告が(著作権侵害ではないのに著作権侵害だという)虚偽の事実を告知されたことによって人格的利益を侵害されたと主張した。これに対し、第一審判決は「人格権ないし人格的利益とは、明文上の根拠を有するものではなく、生命又は身体的価値を保護する人格権、名誉権、プライバシー権、肖像権、名誉感情、自己決定権、平穏生活権、リプロダクティブ権、パブリシティ権その他憲法13条の法意に照らし判例法理上認められるに至った各種の権利利益を総称するものであるから、人格的利益の侵害を主張するのみでは、特定の被侵害利益に基づく請求を特定するものとはいえない。しかしながら、原告は、裁判所の重ねての釈明にもかかわらず、単なる総称としての人格的利益をいうにとどまることからすると、原告の主張は、請求の特定を欠くものとして失当というほかない」としてこれを否定した。
     なお、一審原告は図書館における書籍の取り扱いに関する図書館事件※16等と同様の人格的利益侵害があるなどと主張したが、「著作者の思想の自由、表現の自由が憲法により保障された基本的人権であることに鑑み、公立図書館において閲覧に供された図書の著作者の思想、意見等伝達の利益を法的な利益として肯定するものであり、その射程は、公立図書館の職員がその基本的義務に違反して独断的評価や個人的好みに基づく不公平な取扱によって蔵書を廃棄した場合に限定される」として同判決の射程外だとした。
     また、一審原告は、本件と同様に、YouTubeに対する理由のない削除の申告(通知)を理由として慰謝料が認められた、いわゆる編み物系YouTuber事件※17と同様に慰謝料が認められるべきだと主張したが、「(筆者注:同事件で慰謝料が認められたのは、)投稿者の営業活動を妨害するという側面をも踏まえたものであるから、精神的価値という法益に限定して法的利益性が主張されている本件には、(筆者注:先例として)必ずしも適切ではない」とした上で、「伝達の利益を法的な利益として肯定する場面を、公立図書館の職員による極めて不公平な取扱等の場合に制限している趣旨に照らしても、憲法で保障されている表現の自由から、直ちにYouTubeにおける投稿動画に係る伝達の利益を肯定するのは相当ではない」とし、伝達の利益侵害が人格権侵害になる場合をかなり限定している。

2.判決要旨
 控訴棄却。第一審判決と同様に、約1万8000円の限度で請求を認容。

(1)経済的損害に関する判断
 経済的損害については、基本的に第一審判決の判断を踏襲した上で、損害がより大きいという一審原告の主張及び損害がより少ないという一審被告の主張の双方を否定した。即ち、本件動画が、2日間の対局の1日目終了後に2日目の対局の予想をしたり、対局終了後に対局の解説をしたりする内容であるから、投稿から時間が経過するにつれて視聴者の関心が薄れていくと推認されるとし、それを元に、両当事者の主張を前提としても第一審の判断は正当とした。その他、YouTubeに対する異議申立ての代理費用やYouTubeによって一時的に投稿が不可能とされ、予定していた動画の投稿ができなくなったことによる逸失利益等についても、具体的事案に即して、損害の範囲に入らないとしている。

(2)精神的損害(人格的利益侵害)に関する判断
 ここで、不法行為に基づく精神的損害(人格的利益侵害)について、本判決は特徴的な判断をしている。
 即ち、Googleのポリシーの中に、投稿された動画に対して第三者が著作権侵害による削除通知(著作権侵害申告)を行った場合、当該申告(通知)が有効である限り、動画の投稿者の意見を求めることなく、当該動画を削除(配信停止)し、動画の投稿者は、当該動画の配信の再開を求めるのであれば異議申立てを行う、という制度が組み込まれているとした。
 その上で、一審原告を含むYouTubeの利用者は、著作権侵害への対応について上記のような制度設計をしているYouTubeを自ら選択して、代金の支払をすることなく動画投稿を行い、閲覧数に応じて広告収入の配分を得ているのであって、著作権侵害申告(通知)に対して上記のような対応がとられることを前提として、著作権侵害に関する上記制度を含むものとしてのYouTubeのシステムを利用しているとした。
 その結果として、過失により事実と異なる申告(通知)がなされ一定期間動画が削除(配信停止)されたことにより、動画の配信がされていれば得られるはずであった収入を得られなかったという経済的損害について不競法2条1項21号(虚偽表示)、4条※18に基づく損害賠償が認められるとしても、それ以外に動画投稿者の表現の自由その他の権利又は法律上保護される利益が違法に侵害されたとは認められず、不法行為の成立は認められないとした。
 とはいえ、著作権侵害がないことを認識しながら、特定の動画投稿者について多数回にわたって著作権侵害申告(通知)を行い、動画の公開を妨げるような場合や、著作権侵害がないことを明確に認識してなくとも、著作権侵害申告(通知)を行う目的やそれに伴う行為の態様等の諸事情に鑑み、著作権侵害を防ぐとの目的を明らかに超えて動画投稿者に著しい精神的苦痛等を与えるような場合は、動画投稿者の法律上保護される利益が違法に侵害されたものとして、例外的に不法行為の成立が認められる場合があるというべきであるとした。
 本件に対する、具体的当てはめとして、一審被告が著作権侵害のないことを認識しながら意図的に本件著作権侵害申告(通知)を行ったことを認めるに足りる証拠はなく、基本的にYouTubeの制度の範囲内での行動にとどまっていたといえるから、著作権侵害を防ぐとの目的を明らかに超えて動画投稿者に著しい精神的苦痛等を与えるような場合に該当せず、動画投稿者の法律上保護される利益が違法に侵害されたとは認められず、不法行為の成立が認められる場合には該当しないと認められるとして、不法行為の成立を否定した。よって、著作権侵害申告(通知)と相当因果関係のある精神的損害の発生は認められないとした。

Ⅲ 評釈
1.はじめに

 以下では、棋譜事件控訴審判決との関係(2.)及びどのような場合が不法行為となる営業妨害的場合か(3.)、YouTubeの制度をベースとした不法行為の限定(4.)等について検討したい。

2.棋譜事件控訴審判決と矛盾?
(1)棋譜事件控訴審判決と矛盾しないこと

 棋譜を利用するYouTuberに対する著作権侵害申告(通知)を不競法違反とした本判決は、一見、棋譜を利用するYouTuberに対する著作権侵害申告(通知)を不競法違反ではないとしたいわゆる棋譜事件控訴審判決※19と矛盾するようにも思われる。しかし、筆者はそのような矛盾があるとは考えていない。なお、以下の説明に当たっては、筆者の判例コラムを引用することから適宜参照頂きたい。

(2)棋譜事件のポイント
 棋譜事件については、YouTuberによるリアルタイムでの棋譜を利用した動画配信が著作権侵害、不法行為その他の違法なものであるかが争われた。つまり、棋譜の利用が不法行為等になる違法行為であれば、当該営業は不競法により保護されないことから、著作権侵害申告(通知)が不競法に違反するかの判断の前提として、YouTuberによる棋譜の利用の違法性が争われた。ある意味では棋譜事件こそが、棋譜をどこまで無断で利用していいのかという点が正面から争われた事案といえる。そして、棋譜事件控訴審判決は、同判決に関するコラムで紹介したとおり、「少なくとも控訴人(筆者注:棋譜に関する権利者)が棋戦をリアルタイムで配信するまさにそのときになされた被控訴人(筆者注:動画配信者)による本件動画の配信は、自由競争の範囲を逸脱して控訴人の営業上の利益を侵害するものとして違法性を有し、不法行為を構成するというべきである」と判示した。
 そして、同コラムでも紹介したとおり、棋譜事件控訴審判決の射程は必ずしも広いとはいえない。即ち、伊藤が「王将戦・銀河戦などの有償でしか配信されていない棋譜情報を、まさにリアルタイムで配信する行為が不法行為とされたのであって、加えて、当該配信者の過去の言動といった主観的要素も考慮された判断であることに注意が必要です」※20とするように、リアルタイムで棋譜を知りたいという将棋ファンのニーズを無料で満たすことによって、棋譜を含め当該棋戦を独占的に有償でリアルタイム配信をしていた権利者に対する営業妨害になるという状況を踏まえているものであり、無償配信される棋譜情報の利用の場合や、リアルタイムではない棋譜情報の利用の場合について述べるものではないという点を指摘することができる。

(3)本件が射程外と思われること
 そして、本判決の事案は、上記棋譜事件控訴審判決の射程の外にあると理解される。
 即ち、本判決の認定によれば、本件動画は、いずれも、将棋の王将戦の対局に関し、対局の棋譜を用いて解説や今後の予想等を提供する内容の動画であり、全て1日目の対局の終了後、2日目の対局の開始前に投稿したか、又は、2日目の対局の終了後に投稿した動画であると認定されている。つまりこれはリアルタイム配信ではなく、棋譜事件控訴審判決が射程としていない、非リアルタイム配信である。
 そして、棋譜事件控訴審でリアルタイム配信だったからこそ営業妨害的要素が強いと認められたように、本件ではその営業妨害的要素が弱く、だからこそ、一審被告は(財産的損害に関する限り)侵害論において争わなかったものと理解される。
 このように、本判決は棋譜事件控訴審判決が射程としていない事案についての判断であって、本判決をもって、棋譜事件控訴審判決と矛盾しているなどということは到底できないだろう。

3.どのような場合が知的財産権で保護されないものの、なお不法行為となる「営業妨害」的な場合となるか
(1)はじめに

 棋譜事件控訴審判決においては、YouTuberの行為が不法行為とされ、それに対する侵害申告(通知)が適法(不競法上の営業誹謗等に該当しない)とされた。これに対し、本件では、一審被告は一審原告であるYouTuberの行為が不法行為だとは主張していない。
 この2つの判断を踏まえれば、少なくとも高裁レベルでは、棋譜情報といった著作権で保護されない情報であっても、それをリアルタイムで配信することは営業妨害的で不法行為になりやすいが、棋譜情報の事後配信は営業妨害的ではないので不法行為になりにくい、という判断となっていると総括できるだろう。これを踏まえ、YouTuberの棋譜情報利用を念頭に、どのような場合が営業妨害的な不法行為となるのかを再検討したい。

(2)前提となる北朝鮮映画事件
 北朝鮮映画事件※21については、既に関連する他のコラムでも再三解説しているとおりである。即ち、著作権法で保護されない北朝鮮の映画の一部をテレビ番組で放映したことが問題となった同判決で最高裁は、著作権法6条※22各号「所定の著作物に該当しない著作物の利用行為は、同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である」と判示し、当該事案における不法行為該当性を否定した。
 調査官解説によれば、著作権法の規律対象とする利益においては、それを保護する、保護しないを含めて著作権法の制定により決定されており、同利益については、著作権法で保護されないとすれば、原則として、別途不法行為が成立するものではないことを示したとされる※23
 そして、最高裁が、営業上の利益について検討(具体的事案へのあてはめにおいては消極)したように、営業上の利益は、「著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益」である。また、調査官解説は、図書館事件※24を引いて、人格的利益も「著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益」だとした※25
 この点、上野は、著作物かどうかという点の相違を踏まえ、著作物であれば、著作権法があえて著作物であるにもかかわらず保護を否定したり権利に制限を設けているのだから、著作権法以外の保護は原則として否定すべきだが、「著作物でないものについては、著作権法が『保護』を否定しているからといって、その『自由』についてまで積極的に確保しているわけではない」とした上で、北朝鮮映画事件は前者の著作物であるが保護されない場合に関するものであって、「少なくとも『著作物』でないものについては、同判決の直接の射程外」としており、傾聴に値する※26

    (3)営業上の利益侵害に関する従前の議論
  1.   ア 学説※27
     営業上の利益侵害を理由に不法行為になる場合として、北朝鮮映画事件が営業妨害的なレベルに達している場合には不法行為の成立を認めた趣旨※28等とされる※29
     この文脈では、自由競争の範囲を逸脱した営業妨害や公正な競争として社会的に許容される限度を超えた営業妨害で、違法性の程度が強度である場合には、「特段の事情」が認められる可能性があり、その際の主張立証においては、結果(法的保護に値する営業活動上の利益)、行為(自由(公正)競争もしくは社会的相当性の範囲を逸脱した手段の不公正性)及び認識(加害の意図や範囲の逸脱についての認識の程度)の各面から、主張立証を展開するのが有効であるといえようとするものがある※30
     具体的な営業妨害の判断につき、「本件でも、被告が本件映画自体をDVDに収録して販売したり、テレビ放送していたような場合には、不法行為の成立を認める余地があろう。いずれにせよ、今後は、『営業妨害的な』場合を含めてどのような場合に著作権法の規律の対象となる利益と異なる利益が侵害されることになるかについて、具体的に検討していくことが重要となるであろう」※31とされている。
     また、ギャロップレーサー事件※32につき、物のパブリシティ権侵害という法律構成に基づく不法行為の成立を否定したものであって、他の法律構成による不法行為の成立を否定する趣旨のものではないとする調査官解説※33を引いた上で「物の名称や影像の無断利用についても、営業妨害的な事案(商業利用されている人気動物のキャラクターグッズを無断で販売する場合など)においては、不法行為の成立を認める余地があると解される」とするものがある※34
     これに対し、ピンクレディ事件※35調査官解説は、北朝鮮映画事件を引いて、ファンサイトにおいて無料で肖像等を掲載する場合について、仮にそれが大量であっても、営業活動を妨害する目的その他の強い詐害性が認められない限り、営業妨害を理由に肖像等の利用行為による財産的利益が侵害されたとして一般不法行為が成立すると解するのは困難とする※36
  1.   イ 裁判例
     裁判例についてはバンドスコア事件に関する判例コラムを参照頂きたいが、裁判例における不法行為肯定例として、以下のようなものがある。

  1.  ・「少なくとも控訴人が棋戦をリアルタイムで配信するまさにそのときになされた被控訴人による本件動画の配信は、自由競争の範囲を逸脱して控訴人の営業上の利益を侵害するものとして違法性を有し、不法行為を構成するというべきである」と認定した棋譜事件控訴審判決※37
  2.  ・「他人が販売等の目的で採譜したバンドスコアを同人に無断で模倣してバンドスコアを制作し販売等する行為については、採譜にかける時間、労力及び費用並びに採譜という高度かつ特殊な技能の修得に要する時間、労力及び費用に対するフリーライドにほかならず、営利の目的をもって、公正かつ自由な競争秩序を害する手段・態様を用いて市場における競合行為に及ぶものであると同時に、害意をもって顧客を奪取するという営業妨害により他人の営業上の利益を損なう行為であって、著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するものということができる」としたバンドスコア事件控訴審判決※38
  3.  ・販売契約の終了後、別会社製造に係る被告商品に類似の商品名を付け、まるで改良後継商品であるかのように装うとともに、原告商品のカスタマーレビューを被告商品に流用するなどしている販売行為について「原告商品の商品名自体が不競法上の周知商品等表示と認められず、本件販売行為が不正競争を構成しないとしても、需要者の誤認を利用するものといえる上記被控訴人による被告商品の販売態様は、自由競争の範囲を逸脱した違法な販売態様で控訴人の顧客を奪っているものといえるから不法行為を構成するというべきである」とした大阪高判令和6年5月31日※39
  4.  ・比較広告について「本件比較広告が不競法2条1項21号にいう『営業上の信用を害する』ものとはいえず、同号所定の不正競争には該当しないが、(略)本件比較広告のうち『年間定期購入(税抜)3ヶ月ごと3本ずつのお届け』『1本あたり2,533円+送料(合計:7,599円/1年契約)』とする記載及び『1本ずつ届くお試し定期コースでも、Eはいつでも解約OK』『Dは定期コースを途中解約できない!』とする記載(略)については、自由競争として許容される範囲を逸脱する態様による広告であって、一般不法行為(民法709条)としての違法性を有するというべきである」とした札幌地判令和6年2月27日※40

    (4)検討
  1.   ア 自由競争の範囲内であれば不法行為が成立しないこと
  2.    まず、自由競争が認められる日本においては、自由競争の範囲内であれば不法行為が成立しない。だからこそ、バンドスコア事件コラムでは、裁判例を引いて、多大な時間をかけたことへのフリーライドだけでは足りず、抽象的な主張も足りず、顧客が競合するだけでも足りない、何かプラスアルファが必要としたところである。
  1.   イ 営業妨害までは必要がなく営業妨害「的」であれば良いこと
  2.    とはいえ、完全な営業妨害に至る必要はなく、営業妨害「的」なものであれば自由競争を逸脱するとされることから、それが厳密な意味において営業妨害にまで至っているかの検討までは不要である。
  1.   ウ 結果・行為・認識等を総合して判断すること
  2.    結果・行為・認識という要件については、明示的に論じている論者はもちろん、明示的な議論をしていない論者も、これらを総合して検討すべきという限りでは異論がないようである※41
  1.   エ 結果については、(単なるフリーライドにとどまらず)どの程度需要を代替するなどして営業に対する打撃を与えるかが重要となること
  2.    営業が現に妨害されるか、営業妨害のおそれがあるような場合かの判断において、客観的に需要が直接代替されるのか、それとも間接的な影響しかないのかという点は重要な問題であろう。例えば、北朝鮮映画事件で映画自体をDVDに収録して販売したり、テレビ放送していたような場合に不法行為を肯定し得るとか、商業利用されている人気動物のキャラクターグッズを無断で販売する場合に不法行為を肯定し得るなどというのはこの需要代替を重視していた議論といえる。
  3.    例えば、「リアルタイムで棋譜を見たい」という将棋ファンの需要に対し、公式配信が有料で、非公式に当該公式配信を見た者が直ちに同じ内容を無料で配信するのであれば、有料配信の需要が無料配信の方に流れるということは十分にあり得ることから、直接的な代替といい得る。しかし、事後的に配信するだけであれば、そもそも、公式配信を(有料で)見てまでもリアルタイムで棋譜を知りたいというニーズがなかった将棋ファンが無料の事後配信を見る可能性もあり、そうであれば(本当は無料でリアルタイム配信を見たいが、有料ならばやむなく無料の事後配信を見るなどの間接的な代替はあっても)需要の代替は直接的とまではいい難い。
  4.    このような客観的な側面における、どの程度需要を代替するなどして営業に対する打撃を与える結果となるかは重要であり、棋譜事件控訴審判決が配信を不法行為とし、本判決の事案で不法行為性が争われなかった理由として重要であろう。
  1.   オ 行為についてはその不正性・不当性を基礎づける要素があればより営業妨害的な性質が認められやすくなること
  2.    行為については、通常の営業の範囲内なのか、それとも何らかの不正性・不当性を基礎づける要素があるのかは問題となり得る。例えば、本件とは異なるが、上記の裁判例が需要者の誤認を利用する(上記大阪高判令和6年5月31日)とか虚偽の説明を行う(上記札幌地判令和6年2月27日)といった要素を重視しており、もし、需要者が公式の配信と誤認するような説明をしたり、何らかの虚偽説明をして公式ではなく自らの配信を見るよう誘引するなどの事情があれば、より営業妨害的な性質が認められやすくなっただろう。
  1.   カ 認識については、害意等があることが客観面を補充する事情となること
  2.    なお、棋譜事件控訴審判決では害意が認められ、これも不法行為の肯定の要素となった。とはいえ、バンドスコア事件では、主観的害意そのものを直接認定するのではなく、客観的模倣があれば害意があるといった判断をしている※42。その意味では、害意はもちろんそれがあれば、客観面を大きく補充し不法行為の肯定につながりやすいが、必ず害意が必要とまではいえないように思われる※43

(5)更なる裁判例の蓄積が期待されること
 以上、ある程度の考慮要素が抽出可能な程度の裁判例の存在が認められるものの、まだ裁判例の数は少ない。今後より多くの裁判例が蓄積され、更に議論が精緻化されることを期待したい。
 その観点から「残念」と評さざるを得ないのは本判決において一審被告が正面から「一審原告の行為が不法行為になるから、一審被告のYouTubeに対する通報行為は営業誹謗にならない」という主張を行わなかったことである。この点は、一審被告が控訴審から代理人を変え、本判決と棋譜事件控訴審判決を同じ事務所の代理人(4名中3名共通)としたにもかかわらず、営業誹謗を争わなかったのはなぜかが問題となるところ、上記のとおり、各種要素を総合して具体的事案で一審原告の行為が不法行為になる可能性が低いと判断した、という可能性は十分にある。とはいえ、その結果として知財高裁のこの点についての正面からの判断がされていないのは、純粋なこの分野の議論の進展という意味では、残念なところが残る。

4.YouTubeの制度をベースとした不法行為の限定について
 なお、上記3.の「YouTuber(一審原告)の行為が不法行為になるか」とは異なる問題として、一審被告の行ったような、侵害申告(通知)がいかなる場合に不法行為になるかという論点がある。この点について、本判決は上記のとおり、YouTubeが著作権侵害について一定の制度を設け、侵害申告(通知)がされて一度動画が削除されても異議を出すことで動画が復活するといった内容を公表した上で、それを理解してYouTubeをあえて利用している以上、営業誹謗は成立しても、不法行為は原則として成立しないとした。
 この点は、YouTubeの制度の存在が一定の考慮要素となるとしても、それによって不法行為のみが限定される反面、不競法違反については何も限定されない、ということが妥当なのか(不競法違反についても限定されるべきではないか)、例外的に不法行為が認められる場合の規範として「特定の動画投稿者について多数回にわたって著作権侵害申告を行い、動画の公開を妨げるような場合や、著作権侵害がないことを明確に認識してなくとも、著作権侵害申告を行う目的やそれに伴う行為の態様等の諸事情に鑑み、著作権侵害を防ぐとの目的を明らかに超えて動画投稿者に著しい精神的苦痛等を与えるような場合は、動画投稿者の法律上保護される利益が違法に侵害されたものとして、例外的に不法行為の成立が認められる場合があるというべき」としているところ、その基準が妥当なのかなどについて更に検討がされる必要があると考える。
 即ち、YouTubeの制度が存在し、一定の範囲で著作権侵害等と言いがかりをつけられる可能性はあるものの、その言いがかりに対しては異議を申し立てることでいわば「火の粉を払い落とす」ことができるという点は、そのような言いがかりによる著作権侵害等の申告(通知)について、不快であっても、それを違法な権利侵害とまでいえないという方向に傾く要素であることは間違いないだろう。
 とはいえ、本判決は、そのような要素が権利侵害成立に及ぼす影響を営業誹謗(不競法)と不法行為で完全に区別し、営業誹謗(不競法)は不当な著作権侵害申告(通知)をした者(一審被告)に過失があれば成立するが、不法行為は「著作権侵害がないことを認識しながら、特定の動画投稿者について多数回にわたって著作権侵害申告(通知)を行い、動画の公開を妨げるような場合や、著作権侵害がないことを明確に認識してなくとも、著作権侵害申告(通知)を行う目的やそれに伴う行為の態様等の諸事情に鑑み、著作権侵害を防ぐとの目的を明らかに超えて動画投稿者に著しい精神的苦痛等を与えるような場合」でなければ成立しないという判断をしたものである。
 従来、被害者が企業である事案でも、営業誹謗ではなく、名誉・信用毀損の不法行為(民法709条)を利用することは多かった※44。そして、営業誹謗が存在するからといって不法行為のハードルを特に高めるという解釈は行われてこなかった。その意味では、このような不法行為成立のハードルを高めようという本判決の試みは、ある意味では非常にユニークである。
 もちろん営業誹謗には「競争関係にある他人」性(不競法2条1項21号)という不法行為には存在しない要素があり、そのような行為が特に悪質だということは事実である。そこで、筆者としては、知財高裁が、この悪質性の相違に着目して、営業誹謗と不法行為を区別したのではないかとは想像するものの、少なくともこの点は判決文から明確ではない。
 また、いわゆる編み物系YouTuber事件※45が「YouTubeに投稿する自由は、投稿者の表現の自由という人格的利益に関わるものである」として人格的利益の侵害を認めているところ、単に射程が異なるだけなのか※46、それとも実質的には内容的にも異なる判断をしているのかなども必ずしも明らかではない。
 その意味では、この点は更に関連する裁判例が蓄積され、議論が明確になることを期待したいところである。

5.棋譜の著作物性については判断がされていないこと
 本件では、棋譜の著作物性は争点ではなく、あくまでも一審被告がYouTubeに対して行なった申告(通知)について営業誹謗が成立することを前提とした損害論の検討及び不法行為が成立するか否かが争われたに過ぎない。その意味で、本判決を「棋譜の著作物性を否定した判決」と理解すべきではない。
 なお、棋譜事件第一審判決に関するコラムにおいては当時探すことができた関連する議論をまとめているところ、執筆後の約1年間で、新たに以下の議論が見られた。同コラムとあわせて参照されたい※47

  1.  ・棋譜において差し手が記号で記されるところ「こうした表現自体における創作性は乏しいように思われますので、棋譜は、著作物にはなり難いように思えます」とする岡本健太郎「棋譜の取り扱い」※48
  2.  ・第5版の「棋譜に記入された対局者の着手や指し手それ自体は、当該対局の勝敗に向けられた対局者のアイディアそのものなので、対局者による本法上の創作的表現とはいえない。記録者による棋譜への記入も表記方法に従った不可避的表現である」という記述を維持した岡村『著作権法〔第6版〕』※49
  3.  ・棋譜事件第一審判決を「真っ向から棋譜の著作権を争ったという著作権法違反の裁判ではありませんが、棋譜についてかなり重要な判断をした裁判例といえるでしょう」とする早稲田「著作物性についての考察」※50
  4.  ・棋譜事件(大阪地裁)第一審判決を引いて当該判決の「棋譜等の情報は、被告が実況中継した対局における対局者の指し手及び挙動(考慮中かどうか)であって、有償で配信されたものとはいえ、公表された客観的事実であり、原則として自由利用の範疇に属する情報であると解される。」という判示からは棋譜が「著作物」に該当しないと考えていることがうかがわれるとした『エンタテインメント法実務〔第2版〕』※51

6.残された課題
 本稿で検討できていない課題として、第一審判決がこれまでの判例法理上認められるに至った各種の権利利益からどれか1つ(又はそれ以上)を特定して主張しないと、人格権侵害の主張自体が失当となるようにも思われる判断※52をしている点は気になるところである※53。本判決はこの問題に正面から検討せず、上記4.のようなYouTubeの制度をベースとした不法行為の限定を行うことで解決している。この点は、残された課題として今後検討していきたい。


なお、本稿についてもシティライツ法律事務所伊藤雅浩先生にコメントを頂いた。この点につき感謝している。ただし、本稿の誤りは全て筆者の責任である。


(掲載日 2025年5月13日)

  • WestlawJapan文献番号2025WLJPCA02199009
  • 桃尾・松尾・難波法律事務所(https://www.mmn-law.gr.jp/lawyers/600050.html
  • 東京地判令和6年2月26日判時2608号67頁WestlawJapan文献番号2024WLJPCA02269004
  • 一審被告も附帯控訴しており附帯控訴も棄却されている。
  • WestlawJapan文献番号2024WLJPCA01169002
  • 拙稿「棋譜情報を配信する動画に対し著作権侵害を理由として削除申請をしたことの不競法違反等が問題となった事案~大阪地裁令和6年1月16日判決~」WLJ判例コラム第312号(文献番号2024WLJCC006)2024年。
  • WestlawJapan文献番号2024WLJPCA06196003
  • 拙稿「バンドスコア事件(非著作物たるバンド音楽の楽譜の模倣につき不法行為を認めた事案)~東京高裁令和6年6月19日判決~」WLJ判例コラム第340号(文献番号2025WLJCC005)2025年。
  • WestlawJapan文献番号2025WLJPCA01306001
  • 拙稿「棋譜事件控訴審判決(リアルタイムで棋譜情報を配信する動画の配信が不法行為と認定された事案)~大阪高裁令和7年1月30日判決~」WLJ判例コラム第342号(文献番号2025WLJCC007)2025年。
  • つまり、YouTubeのパートナープログラムに参加し、チャンネル収益化ポリシー等に基づきチャンネル再生数に基づく広告収入等の収益の配分を受けているということ。
  • 不正競争防止法2条1項21号
  • 競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為。
  • 民法709条
  • なお、一審原告は控訴審で差止めも求めたが「被控訴人が、本件訴訟において、控訴人各動画が被控訴人の著作権を侵害したとの主張をしておらず、本件著作権侵害申告(通知)が不正競争防止法2条1行為(筆者注:原文ママ)21号に該当するとの控訴人の主張を争っていないことからすれば、被控訴人が再び控訴人の配信する動画について著作権侵害申告(通知)を行う可能性はそれほど高いとはいえず、この点も考慮に入れるならば、上記のような広範な差止めを認める必要性はなおさら認められない」とした。
  • 最一小判平成17年7月14日民集59巻6号1569WestlawJapan文献番号2005WLJPCA07140004
  • 大阪高判令和4年10月14日判タ1518号131頁WestlawJapan文献番号2022WLJPCA10149001
  • 不正競争防止法4条:故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、第15条の規定により同条に規定する権利が消滅した後にその営業秘密又は限定提供データを使用する行為によって生じた損害については、この限りでない。
  • 大阪高判令和7年1月30日・前掲注9。
  • 伊藤雅浩「棋譜データの利用と配信(控訴審)大阪高判令7.1.30令6ネ338」(https://itlaw.hatenablog.com/entry/2025/02/17/234133)。
  • 最一小判平成23年12月8日民集65巻9号3275頁 WestlawJapan文献番号2011WLJPCA12089001
  • 著作権法6条
  • 山田真紀「判解」最判解民事篇(平成23年度)(2014年)734頁。
  • 最一小判平成17年7月14日・前掲注16。
  • 山田・前掲注23。なお、図書館事件(最一小判平成17年7月14日・前掲注16)やピンクレディ事件(最一小判平成24年2月2日民集66巻2号89頁WestlawJapan文献番号2012WLJPCA02029001)、ギャロップレーサー事件(最二小判平成16年2月13日民集58巻2号311頁WestlawJapan文献番号2004WLJPCA02130001)と対比して、人格的利益は別個の利益として認められやすいが営業利益は認められにくいとする島並良「著作権制度の形式性と実質化傾向」コピライト757号(2024年)20-23頁も参照。
  • 上野達弘「著作権法による自由」田村善之編著『知財とパブリック・ドメイン 第2巻 著作権法篇』(勁草書房、2023年)36-41頁。
  • バンドスコア事件に関する判例コラムでは、伊藤雅浩「判批」著作権研究50号(2025年)の予定稿を元に議論をしていたが、この度同論考が公刊された。バンドスコア事件に関する決定版の論考として参考になる。
  • 横山久芳ほか『条解著作権法』(弘文堂、2023年)25頁。
  • 但し、こと不競法について果たして北朝鮮映画事件の射程が及ぶかは疑問があることにも留意が必要である。上野達弘「民法不法行為による不正競争の補完性」パテント76巻12号(2023年)40-41頁。
  • 三山裕三『著作権法詳説 判例で読む14章〔第11版〕』(勁草書房、2023年)114-116頁。なお、類似の議論をする三山裕三『著作権トラブル解決実務ハンドブック』(青林書院、2019年)225-226頁は「侵害者は、権利者が苦労して開発した情報に便乗する、いわゆるフリーライダーであって、これを不問に付したのでは開発に関するインセンティブが大きく阻害されるから、もはや自由競争の範囲内であるとか、社会的に許容される限度内であるとは、到氏いえないことを強調する」とあるが、単にフリーライダーというだけでは足りないと思われることにつき、バンドスコア事件判決に関するコラム(前掲注8)で挙げた関連する裁判例に基づく教訓を参照のこと。
  • 島並良ほか『著作権法入門〔第4版〕』(有斐閣、2024年)80頁。
  • 最二小判平成16年2月13日・前掲注25。
  • 瀬戸口牡夫「判解」最判解民事篇平成(16年度)(2007年)117-118頁。
  • 横山・前掲注28・25頁。
  • 最一小判平成24年2月2日・前掲注25。
  • 中島基至「判解」最判解民事篇(平成24年度)(2015年)51頁。なお、会社法8条商法12条という明文規定が存在する前提の下、東京地判平成23年7月21日(WestlawJapan文献番号2011WLJPCA07219006)を引いて、「周知性を獲得していなくても、嫌がらせや営業妨害等の悪質な目的を持つ特定のYとの関係では、保護がなされてもよい場面がありそう」とする清水真希子=髙橋美加『商法総則・商行為法の現在 その現代化に向けて』(有斐閣、2024年)60-61頁も、不競法に違反しない(周知性のない)場合における営業妨害的な行為を理解する上で参考になると思われる。
  • 大阪高判令和7年1月30日・前掲注9。
  • 東京高判令和6年6月19日・前掲注7。
  • WestlawJapan文献番号2024WLJPCA05319002
  • 金判1696号(2024年)26頁。
  • 但し、例えば、詐害性という論者が認識の部分を重視することをうかがわせる等それぞれの力点の置き方は異なり得る。
  • 「バンドスコアの採譜を取り巻くこのような事情に鑑みれば、 他人が販売等の目的で採譜したバンドスコアを同人に無断で模倣してバンドスコアを制作し販売等する行為 については、採譜にかける時間、労力及び費用並びに採譜という高度かつ特殊な技能の修得に要する時間、労力及び費用に対するフリーライドにほかならず、営利の目的をもって、公正かつ自由な競争秩序を害する手段・態様を用いて市場における競合行為に及ぶものであると同時に、害意をもって顧客を奪取するという営業妨害により他人の営業上の利益を損なう行為であって、著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するものということができるから、最高裁平成23年判決のいう特段の事情が認められるというべきである。」
  • むしろ、行為と結果という側面から営業妨害的事案であればそのような客観面を認識しながらあえて行っているのであれば、それを事後的に「害意」と評価できるということもできるのではないか。
  • 拙著『最新判例に見るインターネット上の名誉毀損の理論と実務〔第2版〕』(勁草書房、2019年)において名誉毀損の不法行為が認められたとして紹介した事案の中にも、このような企業を被害者とした事案が多い。
  • 大阪高判令和4年10月14日・前掲注17。
  • なお、本判決の一審は「人格的利益に関わるものと説示しつつも、投稿者の営業活動を妨害するという側面をも踏まえたものであるから、精神的価値という法益に限定して法的利益性が主張されている本件には、必ずしも適切ではない」として編み物系YouTuber事件と区別していたところである。
  • なお、髙部眞規子「著作権侵害不法行為」月例著作権研究会2025年4月度の講演録がコピライトに掲載されると、これはこの分野の重要文献となるだろう。
  • 岡本健太郎「棋譜の取り扱い」宣伝会議2024年6月号148頁(https://mag.sendenkaigi.com/senden/202406/copyright-all-whateverQandA/029432.php)。
  • 岡村久道『著作権法〔第6版〕』(民事法研究会、2024年)48頁。
  • 早稲田祐美子「著作物性についての考察」コピライト760号(2024年)6-8頁。
  • 骨董通り法律事務所編『エンタテインメント法実務〔第2版〕』(弘文堂、2025年)。
  • 「原告は、本件において虚偽の事実を告知等されたことによって、経済的損害につき不正競争防止法2条1項21号に基づく損害賠償請求権が発生するほかに、併せて人格的利益を侵害するものとして、別途不法行為に基づく損害賠償請求権が発生する旨主張する。・・・・・・そこで検討するに、人格権ないし人格的利益とは、明文上の根拠を有するものではなく、生命又は身体的価値を保護する人格権、名誉権、プライバシー権、肖像権、名誉感情、自己決定権、平穏生活権、リプロダクティブ権、パブリシティ権その他憲法13条の法意に照らし判例法理上認められるに至った各種の権利利益を総称するものであるから、人格的利益の侵害を主張するのみでは、特定の被侵害利益に基づく請求を特定するものとはいえない。しかしながら、原告は、裁判所の重ねての釈明にもかかわらず、単なる総称としての人格的利益をいうにとどまることからすると、原告の主張は、請求の特定を欠くものとして失当というほかない」。
  • なお、「著作権法でいう著作者人格権を超える人格的利益が侵害されたという場合であっても、それが民間人同士のレベルの争いで、しかも憲法の基本的人権の侵害にまで至っていない事案では、特段の事情が認定されることは難しいのではないかと解される」とする三山・著作権法詳説・前掲注30・116頁も参照。


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