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文献番号 2025WLJCC012
金沢大学 教授
大友 信秀
1.本件を紹介する理由
指定商品に第28類「縫いぐるみ、アクションフィギュア、人形、その他のおもちゃ」を含む立体商標の商標登録が認められた※2。
立体商標の登録に関しては、著作権保護には期限があるのに対して、ある形状に商標登録が認められると永久にその保護が認められることになり、著作権法の趣旨を没却するのではないかといわれてきたところ、本件はまさに、著作権の保護期間を超える保護を商標が実現することになる事例ともいえる。
本件では、特許庁が登録を認めなかった審決を知的財産高等裁判所が取り消した。
原告の主張及び証拠の判断が特許庁と裁判所でどのように判断されたのかを確認することは、今後の同種の事例にとって極めて重要である。
さらに、本件では、本願との同一性が明確に否定された商品の著名性が本願の著名性を示す事実として考慮された。
このような判断は、立体商標の類似範囲が問題となる、侵害の範囲の判断にどのような影響を与えるのか、また、不使用取消しの際の登録商標との「社会通念上の同一性」とは関係しないのか、等、今後幅広い影響が予想できる。
2.本件
(1)本件訴訟に至る経緯
①本件出願の経緯
X(原告)は、令和元年10月10日、「本願商標」※3の構成からなる商標(立体商標)について、第9類、第16類、第25類、第28類及び第41類の商品又は役務を指定商品又は役務として、原出願※4をしたが、令和2年8月21日、「本願商標をその指定商品中、第28類「縫いぐるみ、アクションフィギュア、人形、その他のおもちゃ」に使用するときは、単に商品の品質・形状を普通に用いられる方法で表示する」ものであり、商標法3条1項3号※5に該当するとの拒絶理由通知を受けた。
Xは、令和2年9月29日、原出願につき、第28類の指定商品のうちの「縫いぐるみ、アクションフィギュア、その他のおもちゃ、人形」を削除する手続補正を行うとともに、商標法10条1項※6(商標登録出願の分割)の規定に基づき、原出願と同一の本願商標(立体商標)につき、新たに、前記削除した商品である第28類「縫いぐるみ、アクションフィギュア、その他のおもちゃ、人形」を指定商品とする商標登録出願(本件出願)※7をした。
上記補正後の原出願は、同年10月9日に登録査定を受けた。
Xは、本件出願につき、令和3年5月28日付けで拒絶査定を受けたため、同年8月30日、拒絶査定不服審判を請求した。
特許庁は、上記請求について審理を行い、令和6年3月29日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(本件審決)※8をし、Xは、令和6年5月10日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
②特許庁の判断(審決の理由の要旨)
1)商標法3条1項3号該当性
「商品の形状は、商品の用途、性質等に基づく制約の下で、同種の商品等について、機能又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば、当該形状が特徴を有していたとしても、商標法3条1項3号に該当するものというべきである。
本件出願の指定商品を取り扱う業界において、一般に、人、動物(想像上の動物も含む。)やアニメのキャラクター等をかたどった形状の商品の販売が行われている事実があり、本件出願の指定商品を取り扱う業界において、本願商標と同様に、恐竜あるいは想像上の動物をかたどったと思われる立体的形状よりなる商品が実際に販売されている事実がある。
本願商標は、その指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、その商品の特徴や品質として採択され得る商品の立体的形状の一類型であると認識するにとどまり、単に商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものと判断するのが相当である。」
2)商標法3条2項該当性
「本願商標と特徴を共通にする立体的形状(使用形状)を使用した怪獣、恐竜あるいは想像上の動物を模したと思われる「縫いぐるみ、アクションフィギュア、その他のおもちゃ、人形」(使用商品)の使用(販売)期間は7年程度で永年とはいえず、ライセンシーの販売実績も含むものである。市場規模が8244億円(令和2年)、8900億円(令和3年)という玩具業界の中で使用商品の市場占有率が高いとはいえない。
テレビにおいて、使用商品の宣伝広告がされたことはうかがえるが、本願商標の立体的形状自体やその特徴を積極的に言及する等、立体的形状を原告の自他識別標識であることを印象付けるように取り上げられたとはいえない。また、その宣伝広告の実績(期間、規模、広告宣伝費等)については、何ら証拠が提出されていない。
原告が実施した本件アンケートについて、調査対象者の過半数の一般需要者は、使用形状を認識していない一方で、使用形状を「「ゴジラ」、「シン・ゴジラ」をモデルにしたフィギュア」と回答した者及び「シン・ゴジラやゴジラがどのような形状を有しているか、「分かる」又は「ほぼ分かる」」と回答した者は、過半数を超えているが、使用形状と原告の関係についての質問はない。」
(2)本判決
特許庁の本件審決を取り消す。
①取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について
1)商標法3条1項3号の趣旨
「商標法3条1項3号は、「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。・・・)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は、商標登録を受けることができない旨を規定しているが、これは、同号掲記の標章は、商品の産地、販売地、形状その他の特性を表示、記述する標章であって、取引に際し必要な表示として誰もがその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合、自他商品・役務識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないことから、登録を許さないとしたものである。
商品の形状は、本来、商品の機能をより効果的に発揮させたり、美観を向上させるために選択されるものであるから、商品の形状からなる商標は、その形状が、需要者において、その機能又は美観上の理由から選択されると予測し得る範囲を超えたものである等の特段の事情のない限り、商品等の形状そのものの範囲を出るものでなく、商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものとして、商標法3条1項3号に該当するものと解される。」
2)本願商標の商標法3条1項3号該当性について
「本願の指定商品を取り扱う業界においては、恐竜や怪獣(恐竜等をモチーフにした想像上の動物)をかたどった立体的形状からなる様々な商品が製造、販売されている実情が存在する・・・・・・ところ、これらの立体的形状の中には、本願商標の形状が有する上記特徴にも劣らない際立った特徴的な造形を備えるものもみられる・・・・・・。こうした造形は、際立った特徴を有するものであっても、「縫いぐるみ、アクションフィギュア、その他おもちゃ、人形」としての機能又は美感上の理由から選択されたと解されるものであって、換言すれば、怪獣又は恐竜に係る商品自体の形状として採用されたにすぎないと認識されるものである。・・・・・・現時点において本願商標に係る立体的形状と同様の恐竜や想像上の動物についての商品が存在しないとしても、そのことから直ちに、独占使用の弊害を免れる根拠となるものではない。」
「Xは、本件特徴を備えた本願商標の立体的形状を見れば、一般消費者において容易に原告のゴジラ・キャラクターであると認識し、他の恐竜や想像上の動物と区別できるから、本願商標の立体的形状は、自他商品識別機能を有している旨主張するが、この点は、本願商標の立体的形状の使用により自他商品識別機能を有するに至った(筆者注:原文ママ)否かという商標法3条2項該当性の問題として検討するのが相当である。」
②取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について
1)本願商標を使用したものと評価できる商品の対象範囲
「シン・ゴジラの立体的形状は、それ以前のゴジラ・キャラクターと比較して、・・・・・・両者を同一(実質的に同一)と認めることは相当でない。」「しかし、商標法3条2項の「使用」の直接の対象はシン・ゴジラの立体的形状に限られるとしても、その結果「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる」に至ったかどうかの判断に際して、「シン・ゴジラ」に連なる映画「ゴジラ」シリーズ全体が需要者の認識に及ぼす影響を考慮することは、何ら妨げられるものではなく、むしろ必要なことというべきである。」
2)具体的事情
「シン・ゴジラの立体的形状は、本件特徴を全て備える点を含め、それ以前のゴジラ・キャラクターの基本的形状をほぼ踏襲している」。
「「ゴジラ」の文字商標は、・・・・・・著名となっている」。
「全国の15歳~69歳の男女を対象とするアンケート調査において、・・・・・・その回答結果は、シン・ゴジラの立体的形状の著名性を示すものといえる。」
「以上を総合すれば、本願商標については、その指定商品に使用された結果、需要者である一般消費者が原告の業務に係る商品であることを認識できるに至ったものと認めることができる。」
「本件においては、本願商標の使用以前から、原告を商品化の主体とするゴジラ・キャラクターの商品が需要者に広く深く浸透しており、本願商標の立体的形状はこれとの連続性が認められるという特殊な事情も存在している。」
3)他人による使用
「出願人から許諾を受けた者による使用も、第三者による当該商標の使用態様が出願人によって適切に管理されており、需要者が出願人の商品であると認識し得るような場合には、商標法3条2項にいう「使用」に含まれると解すべきところ、Xは、・・・・・・ライセンシーとの間に使用許諾契約を締結し、使用商品の形態も含めて監修するとともに、フィギュア類の出所がXであることを示す適切な管理をしている。本件著作権等表示が、当該商品がXの許諾に基づき製造されたことを示すことは特段の困難なく理解できるものである。」
3.商標法3条1項3号該当性について
本判決は、取消対象となった特許庁の本件審決の判断と同じく、本願商標の商標法3条1項3号該当性を肯定した。
Xは、シン・ゴジラと共通するゴジラ・シリーズの特徴を本願商標の指定商品である第28類における自他識別機能を果たす特徴であると主張したが、同類における多様な形状の可能性から、そのような特徴が商標法3条1項3号の趣旨である独占使用の弊害を免れる根拠とはならないとした。
この点については、それぞれの指定商品について、商標法3条1項3号該当性を特許庁や裁判所が緻密に判断し、同法3条2項該当性との差別化をあいまいにする危険を回避した点で判断構造上合理的であると評価できる。
4.商標法3条2項該当性について
(1)本判決の判断構造
本判決は、本願商標が使用によって自他識別力を獲得するに至ったかどうかの判断において、本件審決及び本判決の両者が「両者を同一(実質的に同一)と認めることは相当でない」とした「シン・ゴジラ」以前の「ゴジラ」シリーズの形状の著名性を考慮した。
そのために、「シン・ゴジラ」の立体的特徴がそれ以前の「ゴジラ」キャラクターの基本的形状を踏襲していることを確認し、全国アンケートの回答結果を「シン・ゴジラ」の立体形状(本願商標)の著名性を示すものとして認定した。
このように、本判決は、本願商標の使用以前から使用されてきた本願商標とは同一ではない「ゴジラ」キャラクターの需要者への浸透度を本願商標と連続するものと認めた点が特許庁判断と結論を異にさせた。
(2)本願商標と著名形状の同一性、連続性
Xは、本願商標はそれ以前の「ゴジラ」キャラクターと「全身はゴツゴツした岩肌のような複雑な陰影を醸し出し、無数のヒダが刻まれている。」等の19の共通点があるとした(本件特徴)※9。
本判決は、上記の本件特徴を認め、本願商標の自他識別力の有無の判断において、「ゴジラ・キャラクターの圧倒的な認知度」を決定的事実とした。
本判決は、「シン・ゴジラ」の形状を著名にするに際し、すでに需要者が有していた「ゴジラ」キャラクターの認知度が強く影響したと判断したものと評価できる。
5.まとめ
本判決は、商標法3条1項3号に関して、合理的な解釈基準を示したものと評価できることは上記の通りである。
商標法3条2項については、「ゴジラ」キャラクターに関する「特殊事情」から、他の立体商標の自他識別力肯定に必要な期間よりも比較的短い時間の本願使用期間で、これを肯定するとの判断を行った。
立体的形状については、人が認識可能な範囲で同一性ないし類似性を感じる類似範囲が存在する。
今後の立体商標の法的問題において、侵害判断、とりわけ類似の判断はどのように行うのか、また、類似範囲ないし同一性の程度が問題となる不使用取消しにおける判断はどうなるのか、に本判決が影響を与えないとはいえない。
本判決は、「特殊な事情」としているため、このような判断は例外であるのか、立体商標に共通する問題であるのか、今後の検討が待たれる※10。
(掲載日 2025年4月22日)