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文献番号 2019WLJCC018
おおとり総合法律事務所 弁護士
矢澤 昇治
第1 事案の概要
1 事案の要旨
控訴人X1(原告X1)が、刑務所に収容されていた当時、同控訴人と養子縁組をしていた亡D(以下、「D」という。)に対して信書を発信しようとしたところ、刑務所長は、この信書の発信を禁止する決定をした。これに対して、控訴人X1並びにDの父母である控訴人X3及び控訴人X4が、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律は受刑者とその親族との信書の発受は禁止することができないと規定しており、Dは控訴人X1の親族に当たるから、刑務所長の上記信書の発信を禁止する決定は違法であり、控訴人X1及びDがこれによって精神的損害を被ったとして、国家賠償法1条1項に基づき、控訴人X1が、慰謝料100万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、控訴人らが、Dを相続したことによるDの慰謝料各33万3333円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めたものである。
原審は、控訴人X1の訴えのうち、同控訴人がDの訴訟手続を承継したことに基づく33万3333円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分を却下し、控訴人X1のその余の請求並びに控訴人X3及び控訴人X4の請求をいずれも棄却する判決(以下、「原判決」という。)をし、控訴人らは、これを不服として控訴したものである。
第3 裁判所の判決要旨
1 東京地裁の判決
2 東京高裁の判決
第4 本件判決を理解するための前提
1 本件判決で注目すべきこと:信書発受の禁止を実現するために「親族」という身分関係の成立を争う方法が違法であること<
2 監獄法における親族の信書の発受
3 自由権規約の採択後にも存続した監獄法
4 刑事収容法95条及び128条(信書の発受の禁止)(旧95条)
また、同法128条及び129条は、信書発受を禁止する場合及び差し止める場合について、限定的に明示または列記をし、この法律によって定められた特定の場合にしか、禁止及び差止め処分を行うことができないとすることで、通信の自由を少なくとも法律上は、「監獄法」の下においてと比較すると、相当広範囲に容認するようになったといえよう※13。
5 刑事収容法128条の規定の「親族」の前提となる同法45条の親族
6 親族間での信書発受禁止の裁判例
第5 本件の評釈
1 本件の争点
本件の争点は、(1)控訴人X1の訴えの適法性であり、控訴人X1の訴えのうち、同控訴人がDの訴訟手続を承継したことに基づく部分(33万3333円及びこれに対する遅延損害金の支払請求)が適法か否か、(2)本件決定の違法性の有無であり、刑務所長が本件決定をしたことについて、国家賠償法1条1項にいう違法があるか否か、(3)故意又は過失の有無であり、刑務所長が本件決定をしたことについて、故意又は過失があるか否か、(4) 損害の有無及びその額であり、控訴人X1及びDの損害の有無及びその額である。
2 本コラムでは、争点(1)と(2)を取り上げるにとどめる。
3 本件判決の位置づけ
4 性的少数者の人権について
【エピローグ】
このコラムを執筆する過程で、裁判例⑮でも取り上げた平7(行ツ)66号発信不許可処分取消等請求事件につき、本件訴訟代理人である海渡雄一氏が死刑確定者Sに対して拘置所長がした新聞に対する投稿の自由が制限されたという信書不許可処分の違法を説く上告理由に接した。その冒頭では、「本件は死刑確定者の刑事施設内における法的な地位とその外部交通権についてのリーディングケースである。本件の真の争点は、上告人が主張するように、死刑確定者が人間として人権の主体として認められるのか、あるいは、被上告人が主張するように、生きながらにして屍としてその生命に対する権利、内心の自由という根源的な人権を否定された存在なのかというところにある。」と記載されている。筆者は、第二東京弁護士会人権擁護委員会に設置された死刑制度廃止検討委員会の部長を勤めてきたが、この間1947年に福岡市で発生した殺人事件で主犯とされたNの死刑判決に疑念を生じ、教誨師であった古川泰龍氏の著書を再現する作業もした(『真相究明書 ― 九千万人のなかの孤独』(花伝社、1991年))。現在のわが国においては、未だ死刑制度が存置され、拘置所には、生きる屍として人権を享受できない死刑確定者がいる。また、再審請求をなしえず処刑された菊池事件のFや飯塚事件のKもいる。これらの確定死刑囚に対する人権蹂躙と同質の処遇が、現在でも、刑務所などの収容施設においても公然となされている事を確認することができよう。被拘禁者、受刑者には、外部交通の方法、わけても信書の発受が極めて限定されているのだ。そして、再審の道は閉ざされ、十全たる防御権が確保されない事態にある。本件は、刑務所長が養子縁組の成立を否定する挙に出て、「親族」に保障される信書の発受を実現不能にしようとする愚行である。
当職の事務所の玄関には、Nの画いた観音像に古川泰龍氏が「君看双眼色、不語似無憂」の書を添えた絵がある。この絵を見るたびに、無実の罪で死刑台に吊るされたNを思い偲び、また、収容施設にいる被拘禁者、受刑者らに対する処遇の酷さ、そして、それらの者から我々弁護士への信書も直接の発受すら拒否されている法状況を鑑みるに、国際人権諸条約が定める人権擁護の事態を確保すべく歩みたいと考える次第である。
【資料2 弁護士会による勧告と要望】
ここでは、ネット等で筆者が把握できたわが国の単位弁護士会から出された刑務所長や拘置所長宛の勧告書と意見書を参考までに取り上げた。調査を重ねるならば、これらの勧告書や意見書が氷山の一角であると推測できる。直近から時系列的に遡る形で掲載した。日弁連『人権侵犯申立事件 警告・勧告要望例集 第4巻』から、2つの侵害を取り上げた。
(掲載日 2019年7月17日)
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