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1 30, 2018

日EU経済連携協定における原産地証明(1)

著者: 畠山佑介・箱田優子

今回は、トムソン・ロイター ソリューション コンサルタントの箱田より、外務省で昨年夏まで弁護士兼外交官として 2年5か月にわたりTPP協定や日EU・EPAの原産地規則章等を担当されていた畠山氏にお話をうかがいました。 (以下、敬称略)

背景
箱田: 日EU・EPAは現在どんな局面にあると思われますか。

畠山: 日本と欧州連合(EU)との間で2013年3月に交渉が開始された経済連携協定(日EU・EPA)は、昨年12月8日の日EU首脳電話会談において、交渉妥結に達したことが確認されました[1]。現在、早期の署名・発効に向けて、引き続きリーガル・スクラビングと呼ばれる協定の英文の細かな部分を法的観点から整える作業等が行われていますが、EU側が暫定版の条文を公表[2]したこともあり、日EU・EPAに対する関心が高まっています。現時点では、2018年中の署名及び2019年中の発効を目指して日EU双方大詰めの作業が進められているようです。

箱田: 高いレベルで合意に至ったとのことですが、具体的にはどのような内容になるのでしょうか。

畠山: 日EU・EPAが発効すると、総人口約6.4億人(世界の人口の約8.6%)、世界のGDPの約28%、世界貿易の約37%を占める巨大な自由貿易圏が新たに誕生することになります[3]。日本産品のEU市場へのアクセスの観点から見ると、工業製品について品目数及び輸出額で100%の関税撤廃、農林水産品等はほぼ全ての品目で関税撤廃(ほとんどが即時撤廃)を獲得しています。

箱田: 交渉開始当初より、日本政府及び日本企業にとって、とりわけ自動車と自動車部品は、非常に関心が高かった分野かと思いますが、このあたりはいかがでしょうか。

畠山: そうですね。日本企業の関心がとりわけ高いと考えられる自動車関連の品目については、乗用車(現行税率10%)は発効から8年目に関税が撤廃され、自動車部品については貿易額ベースで92.1%の即時撤廃で合意されています[4]。これは、TPP協定における米国の譲許内容及び韓国EU自由貿易協定におけるEU側の譲許内容を上回る水準であり、日本の自動車関連業界によるEUへの輸出の拡大も見込まれています。また、その他の産品についても、関税削減又は撤廃によりもたらされるメリットは大きいため[5]、日EU・EPAの利用を検討する企業も多いと予想されます。

箱田: TPP協定とEU韓FTAを協定上は「超えた」かもしれませんが、実際の品目別貿易量を詳細に分析する必要がありそうですね。また、EU韓FTAは日EU・EPAと同様に、当初自動車及び自動車部品については、韓国からEUへの輸出拡大が主眼でしたが、協定発効数年後には、EUから韓国への輸出、つまり、当初見込んだのとは逆方向の輸出が伸びてきている[6]のも興味深い点ですね

原産地証明

箱田: 日EU・EPAの原産地規則章における目新しい点は、どのようなものがありますか。

畠山: まず、日EU・EPAによる関税削減又は撤廃による利益を享受するためには、EU加盟国に輸出する産品が日本の原産品であることを証明する必要があります(原産地証明)。日本がこれまでに締結してきた経済連携協定(EPA)では、原産地証明制度として①第三者証明制度、②認定輸出者自己証明制度及び③自己申告制度(完全自己証明制度)のいずれか又はそのうちの複数の制度が採用されてきました。日EU・EPAの特徴は、このうち③自己申告制度(完全自己証明制度)のみを採用した点です。

箱田: これまでのEPAと日EU・EPAを合わせて、全体的にはどのような状況にあるのでしょうか。

畠山: 日本がこれまでに締結したEPAは、未発効のTPP協定も含めると16個ありますが(日EU・EPAは現時点では未締結というステータスです)、以下の表のとおり、自己申告制度が採用されているのは、日豪EPA及びTPP協定のみです。このうち、日豪EPAでは第三者証明制度も用いることができ、また日EU・EPA と同様に自己申告制度のみを採用しているTPP協定は未発効であるため、日EU・EPAが発効した場合には、これが日本にとって初めて第三者証明制度を用いることができないEPAということになります。

【日本のEPAにおける原産地証明制度】

箱田: 第三者証明と自己申告は、どのような点で異なるのでしょうか。

畠山: 第三者証明制度とは、輸出者又は権限を与えられたその代理人が、原産地証明書の発給機関として指定されている日本商工会議所(日・シンガポールEPAを除く。)に対して、産品の原産性判断のための参考資料を提出しつつ原産性の判定の依頼をし、判定の結果原産品と認められれば原産地証明書を発給してもらえるという制度です。つまり、この制度の下では、輸出者は原産性を証明する資料を自ら作成し、またはサプライヤー等から収集する必要がありますが、原産性の判断については日本商工会議所に相談することもでき、原産性を証明する原産地証明書を自ら作成する必要はありません。 

これに対して、自己申告制度の下では、輸出者が自ら原産性の判定を行い、その判定に基づいて原産性を証明する文書を作成しなければなりません。したがって、これまでに日豪EPA又は第三国間の自由貿易協定(FTA)における自己申告制度を用いた経験がある企業以外は、新たに自己申告制度に対する理解を深めてこれに対応できる体制を構築する必要があります。

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Source

[1] http://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ie/page4_003523.html

[2] http://trade.ec.europa.eu/doclib/press/index.cfm?id=1684
あくまでもEU側が一方的に暫定的なものとして公表したものであり、今後規定ぶりが変更される可能性があることにご留意ください。

[3] 外務省経済局「日EU経済連携協定(EPA)に関するファクトシート」p.2 http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000270758.pdf

[4] 外務省経済局・前掲注3 p.7

[5] 外務省「日EU・EPA 関税交渉の主な結果」http://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ie/page23_002293.html

[6] http://trade.ec.europa.eu/doclib/docs/2016/june/tradoc_154699.pdf