国際仲裁:国際的なビジネス紛争の解決方法(2)

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箱田:契約書の中に紛争解決条項として仲裁合意を盛り込む場合について、アドバイスなどありますか。

高橋: 仲裁合意の内容をあまり複雑にしない方がよいですね。実績のある仲裁機関の標準条項を用いることが無難でしょう。日本企業であれば、国際商業会議所(ICC:International Chamber of Commerce)、日本商事仲裁協会(JCAA:Japan Commercial Arbitration Association)ロンドン国際仲裁裁判所(LCIA:London Court of International Arbitration)、米国仲裁協会(AAA:American Arbitration Association)、シンガポール国際仲裁センター(SIAC:Singapore International Arbitration Centre)などの仲裁機関を利用している事案をよく見ます。標準条項は、各仲裁機関のウェブサイトに掲載されていることが多いです。

箱田: 具体的な例として、何か参照先をひとつ挙げていただくことはできますか。

高橋: 仲裁条項をどのようにしてドラフトすべきかに関して、IBA国際仲裁条項ドラフティング・ガイドライン[2]が参考になると思います。その中でも、特に、「II. 基本的なドラフティング・ガイドライン」の各項目が参考になると思います。

箱田: 仲裁手続を規律するルールにはどのようなものがありますか。

高橋: 仲裁手続は当事者の合意をベースにする手続ですので、仲裁地の仲裁法などに反しない限り、当事者の合意により柔軟な手続を定めることができます。仲裁機関を指定した場合には、その仲裁機関の仲裁規則が仲裁手続に適用されます。 仲裁機関の仲裁規則は、大部分を仲裁廷の裁量に委ねています。手続の細かい部分に関しては、仲裁廷が手続命令(Procedural Order)を発令して定めることが通常です。 また、国際仲裁における証拠調べ手続に関しては、IBA国際仲裁証拠調べ規則[3]を参照する旨を手続命令に記載する仲裁廷が多いように思います。 

箱田: 仲裁手続はどのように進むのでしょうか。

高橋:仲裁手続は、仲裁合意の一方当事者による仲裁申立書の提出により開始します。そして、この仲裁申立書が他方当事者に届けられ、その申立書を受領した当事者が答弁書を提出します。この段階で、当事者が紛争について判断する仲裁人を選任します。

次に、仲裁人が選定され、仲裁廷が構成されると、仲裁廷と当事者(及びその代理人)との間で、仲裁手続の進行に関する協議が行われます。この協議で、当事者は何回主張書面の提出の機会があるか、その主張書面の提出期限をいつにするか、審問期日をいつにするかなどといった事項が話し合われます。この協議の結果に従って、仲裁手続のスケジュールが作成されることが多いと思います。その後に事情の変更がなければ、初めの協議で決定されたスケジュールに従って進行します。国際仲裁の場合、仲裁人、当事者及び当事者の代理人がそれぞれ違う国や地域に住んでいることが通常であり、仲裁手続の進行に関する協議は、直接顔を合わせることなく、電話会議で行なわれることが多いです。

その後、主張書面及び証拠提出を行います。主張書面及び証拠提出の方法に関しては、仲裁廷による手続命令の中で、証拠番号の振り方、主張書面の部数などの細かい点も含めて定められます。この間の仲裁人及び当事者間のやり取りは、ほとんどEメールで行なわれます(主張書面や証拠を印刷したものも仲裁機関に提出します)。

審問では、当事者(の代理人)が自分の主張を仲裁廷に口頭で伝達するオープニング・ステートメントや証人尋問などが行われます。審問の期間は、事案の複雑さにもよりますが、ある程度の規模の国際仲裁であれば、1週間前後の長さにはなります。非常に規模が大きい案件の場合には、審問の期間が2週間を超えることもあります。審問の直前の時期に、証人を何人呼ぶか、尋問の順番・長さをどうするかなどを協議するための電話会議が開催されることも多くあります。

審問後に、審問の内容も踏まえた主張書面の提出を認める仲裁廷が多いという印象を個人的には有しておりますが、仲裁廷によっては、そのような主張書面を提出させない場合もあります。そして、審問後、仲裁廷が審議を行い、仲裁判断が下されます。この審議も電話会議で行なわれることが多いと思います。仲裁に対する上訴は認められず、その仲裁判断は紛争に関する終局的判断になります。 

箱田: 仲裁判断は紛争に関する終局的判断とのことですが、仲裁判断に関する不服は一切言えないのでしょうか。

高橋: 仲裁判断の取消制度というものがあります。ただ、仲裁廷の事実認定、法解釈、事実の法への当てはめが不満であるというだけでは仲裁判断の取消しは認められません。どのような場合に仲裁判断取消しが認められるかについて、例えば、日本の仲裁法が定める仲裁判断取消事由は以下の通りです。

  1. 仲裁合意が、当事者の行為能力の制限により、その効力を有しないこと
  2. 仲裁合意が、その準拠法によれば、当事者の行為能力の制限以外の事由により、その効力を有しないこと
  3. 申立人が、仲裁人の選任手続又は仲裁手続において、日本の法令又は合意により必要とされる通知を受けなかったこと
  4. 申立人が、仲裁手続において防御することが不可能であったこと
  5. 仲裁判断が、仲裁合意又は仲裁手続における申立ての範囲を超える事項に関する判断を含むものであること
  6. 仲裁廷の構成又は仲裁手続が、日本の法令又は合意に反するものであったこと。
  7. 仲裁手続における申立てが、日本の法令によれば、仲裁合意の対象とすることができない紛争に関するものであること
  8. 仲裁判断の内容が、日本の公序良俗に反すること

なお、仲裁判断取消しの申立ては、その申立人が仲裁判断の写しの送付により通知を受けた日から3か月以内に行なわなければなりません。

箱田: 実際に、仲裁判断の取消しが認められた事例はありますか。

高橋:仲裁判断の取消しが認められた事例としては、仲裁判断の主文に影響を及ぼすような重要な事項につき、当事者間に争いがあるにも拘らず、その事項を争いのない事実として仲裁判断することが我が国の手続的公序に反するとして、仲裁判断の取消を認めた事案があります(東京地裁平成23年6月13日決定・判例時報2128号58頁)。 控訴審(東京高裁平成30年8月1日決定)で結論が覆されましたが、この決定の第一審(東京地裁平成30年3月28日決定)でも仲裁判断の取消しが認められていました。 

箱田: 国際仲裁には、どのくらいの費用がかかるものなのでしょうか。

高橋:仲裁の特徴として「廉価であること」が挙げられることがありますが、国際仲裁に関しては、廉価であるとは言い難いと思います。仲裁機関の手続費用、仲裁人への報酬、弁護士報酬などを含めると費用が一千万円を超えて、数千万円になることもあります。非常に大きな案件ですと、費用が億単位になることもあります。ただ、国際ビジネス紛争であれば、裁判で紛争を解決する場合でも同程度の費用がかかる可能性があることも留意しておく必要があります。

箱田: 企業へ何かアドバイスなどございますでしょうか。

高橋: 国際ビジネスでは、双方とも自国の裁判所での紛争解決を主張し、両者が妥協できる方法として、契約に仲裁条項が入ることも多いと思います。私が関与した国際仲裁の案件では、日本企業が被申立人であることがほとんどでした。自社が仲裁申立てをしなくとも、国際仲裁に関与せざるを得ない場合もありますので、国際仲裁について詳細に理解する必要はありませんが、契約に仲裁条項を入れるのであれば、国際仲裁に関する大まかな知識を持っておくことをお薦めします。

 紛争解決方法である仲裁に関するトピックですので、紛争が発生後のことについてお話ししましたが、紛争が発生すると、費用も時間も労力もかかります。紛争は未然に回避した方がよいことに間違いありません。特に国際ビジネスの場合、紛争になったら大変面倒であることを肝に銘じて、契約を締結する段階で、面倒臭がらず、将来生じうるトラブルを想定しつつ、そのトラブルがどのように解決されるかが契約文言から明確になるよう、サボらずに交渉することが重要だと思います。

お話をうかがったのは:
弁護士 高橋直樹氏(プロファイルはこちら

※ 本稿のうち、意見にわたる部分は話者の個人的見解であり、話者の所属する事務所の見解を示すものではありません。

 

    2. https://www.amt-law.com/asset/res/news_2011_pdf/111207_2521.pdf
    3. https://www.ibanet.org/Publications/publications_IBA_guides_and_free_materials.aspx