国際仲裁:国際的なビジネス紛争の解決方法 (1)

今回は、トムソン・ロイター ソリューションコンサルタントの箱田より、経済産業省通商政策局経済連携課で2013年5月から2015年8月まで、任期付公務員として2年3ヶ月にわたり、投資協定及び経済連携協定交渉をされており、現在は、一般企業法務に加え、国際仲裁分野でもご活躍の弁護士の高橋氏にお話をうかがいました。(以下、敬称略)

冒頭

箱田:日本企業による海外進出の進展に伴い、日本企業と外国企業との間の国際的なビジネス上の紛争が増加していますが、解決方法にはどのようなものがあるのでしょうか。

高橋: 国際的な商事紛争については、調停による紛争解決も盛んになっているとは聞きますが、一般的に、一方の企業が所在する国の裁判手続による紛争解決と仲裁による紛争解決があります。

箱田: 仲裁による紛争解決というのは、かなり浸透しているのでしょうか

高橋: 世界的には、紛争解決手段として、仲裁はかなり利用利用されています。ただ、日本に関しては、必ずしもそうとは言えないかもしれません。日本企業も、外国企業との契約の中に、仲裁により紛争を解決する旨の条項を含めることはかなり多くあると思います。しかし、実際に外国企業との間の紛争を仲裁で解決した経験を有する企業の数は多くなく、国際仲裁のことをよく知らないまま、仲裁条項を漫然と契約の中に含めている企業関係者もいるのではないかと思っています。

箱田: 今日は、企業関係者が知っておくとよいと国際仲裁に関する基本的な事項について、高橋さんにご説明いただきたいと思います。

仲裁とは

箱田: そもそも仲裁とはどんなものなのでしょうか。

高橋: 仲裁は訴訟とならぶ紛争解決手段の一つです。訴訟では、紛争に関する判断を国が任命する裁判官が行います。他方、仲裁では、紛争に関する判断を行なう第三者(=仲裁人)を当事者が選びます。そして、仲裁の当事者は、自分達が選んだ仲裁人の判断に拘束されることになります。

先ほどお話ししたとおり、日本では、仲裁があまり使われておりませんが、世界全体では、仲裁は国際ビジネス紛争の解決手段としてよく使われています。

箱田: 国際ビジネス紛争の解決手段として、仲裁がよく使われるのは、なぜなんでしょうか。

高橋: 仲裁が国際ビジネス紛争の解決手段としてよく利用される理由としては、途上国の裁判所による判断が信用できないことがあります。途上国の場合、裁判官に対する賄賂が横行していること、自国企業と外国企業との間の紛争に関して、裁判所が自国企業の肩を持つ傾向があることもよく指摘されます。あと、途上国に限らず、国によっては、裁判手続に非常に時間がかかり、適切な時機に紛争解決ができないこともあります。これらの問題点を回避するため、国際ビジネス紛争の解決手段として仲裁が選ばれると言われています。 

これらの点に加え、仲裁手続の場合、裁判手続よりもビジネス上の秘密を保持し易いこと、仲裁判断の場合、他国にある財産に対する執行が容易であることも、仲裁が国際ビジネス紛争の解決手段として選ばれる理由として挙げられています。

箱田: 仲裁判断の方が外国での強制執行が容易であるというのは、どういうことでしょうか。

高橋: 仲裁判断の執行に関しては、外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約(「ニューヨーク条約」と言われることが多い)があります。この条約には、2018年10月現在157カ国が加盟しています(最近の加盟国は2016年8月12日に加盟したアンゴラ)。[1]    そして、ニューヨーク条約の加盟国は、本条約5条に定める事由がない限り、外国を仲裁地とする仲裁判断の執行を拒絶することができないという義務を負っています。5条で定められている執行拒絶事由は、具体的には、以下の通りです。

  1. 仲裁合意の当事者が、その当事者に適用される法令により無能力者である、又は、仲裁合意が準拠すべき法令により有効でないこと
  2. 仲裁判断が不利益に援用される当事者が、仲裁人の選定若しくは仲裁手続について適当な通告を受けなかった、又は、他の理由により防御することが不可能であったこと
  3. 仲裁判断が、仲裁合意で定められていない紛争又は仲裁合意の範囲を超える紛争に関する判定を行うこと
  4. 仲裁機関の構成又は仲裁手続が、仲裁合意に従っていない、又は、仲裁地の法令に従っていないこと
  5. 仲裁判断が、まだ当事者を拘束するものとなっていない、又は、仲裁判断がなされた国の裁判所で取り消されたこと
  6. 紛争対象事項がその国の法令により仲裁で解決することが不可能なものであること
  7. 仲裁判断の承認及び執行がその国の公の秩序に反すること

他方で、外国の裁判所の判決の承認と執行を保証する世界的な条約はなく、この点は国際的なビジネス紛争の解決に仲裁が用いられる理由の一つであると言われています。外国での仲裁判断の執行が容易である点を考慮して、裁判ではなく仲裁を選択する場面もあると思います。

箱田: 具体的に何か例などありますか。

高橋: 中国の裁判所は日本の裁判所による判決の執行を認めておらず(東京地裁平成27年3月20日判決(判タ1422号348頁)を参照)、この点を考慮すると、紛争の相手方の財産の多くが中国に存在し、それらに対する強制執行を見込んでいるのであれば、日本の裁判所における紛争解決ではなく、仲裁による紛争解決を合意する条項を検討した方がよいかも知れません。

箱田: 少し技術的なことになりますが、外国を「仲裁地」とする仲裁判断とはどういう意味でしょうか。

高橋: 「仲裁地」は法的概念で、一言で言えば、「どこの仲裁法が適用されるか」を示す概念です。日本を「仲裁地」とする仲裁の場合、日本の仲裁法が適用されることになります。そして、この「仲裁地」は、証人尋問を行ったりする審問(Hearing)が開催される場所と必ずしも一致する必要はありません。「仲裁地」を「東京」とする仲裁手続につき、その審問をシンガポールで行なうことも可能です。

「仲裁地」をロンドンやニューヨークやシンガポールとする仲裁判断につき、日本の裁判所でその執行が求められた場合、日本の裁判所にとって、当該仲裁判断は「外国を仲裁地とする仲裁判断」となります。

箱田: 仲裁という紛争解決手段を用いるにあたっては、何が必要になりますか。

高橋: 仲裁を利用するためには、仲裁により紛争を解決するという当事者間の合意(仲裁合意)が必要です。紛争が生じてから仲裁合意をすることも可能ですが、ほとんどの場合、仲裁合意は契約書の中に紛争解決条項として含まれています。

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    1. http://www.newyorkconvention.org/list+of+contracting+states