1. トムソン・ロイター
  2. 税務・会計
  3. Blog
  4. 輸出品のHSコードとどのように付き合うか?- 前編

3 28, 2018

輸出品のHSコードとどのように付き合うか?- 前編

著者: Akira Shioi

輸出事業者の悩み、HSコード
今回のブログでは常日頃、海外事業の輸出取引や契約に忙しい毎日を送られている方のお役にたつことを念頭に「輸出品のHSコードとどのように付き合うか?」について書いてみます。

ここでグローバルな取引(輸出入あるいは貿易)として取り上げるのは「国境をまたぐ物品の売買(契約)に基づく取引」です。その際に、売買対象となる貨物の「関税番号」、「税番」、あるいは「輸出入統計品目番号」などと呼ばれる「HSコード」について、平素から疑問やご苦労がある場合、この記事をお読みいただくことで、何等かお役にたてればと思います。このテーマについて読み解くに当たり、まず最初に「日本へ輸入する場合」についてみていきます。

国境をまたぐ物品の売買契約、貿易取引
ご承知の通り、一般に貿易相手つまり輸入(買い手)側の国では物品輸入に対し関税の徴収があります。 日本の関税法が規定する輸入では、貨物は「保税地域」に搬入され、そこで外国貨物(外貨)として輸入申告と納税申告を行います。そして日本国の税関当局が輸入許可を行った後に内国貨物(内貨)となり、輸入者による内貨の引取りが可能となります。(*一部例外もありますがここでは省略して基本的なケースで書きます) 

輸入手続きでは通常、インコタームズ® CIFベースの Value(輸入物品の価額等)を税関に申告し、併せて納税申告(税の納付)を要します(日本では輸入申告と納税申告が原則同時)。納税申告は輸入時の関税徴収(輸入者から見れば、納付)ならびに消費税徴収(納付)のために必要な手続きです。

品目分類としてのHSコード
国家の重要な財政源のひとつである「関税」。その徴収には、輸入する対象物の品目を分類して当てはめる 「物品の定義」が不可欠です。モノが「なに」であるかにより、関税が何%であるかが決まるからです。そこで、世界税関機構(WCO)が管理しているHS条約にもとづき日本をはじめとする加盟国(*153の国およびEU:2016年7月現在)ならびに条約非加盟国でも使用している国と地域を含め、200以上の国と地域がHSコードを使用しています。「HSコード」は、「商品の名称及び分類についての統一システム(Harmonized Commodity Description and Coding System)に関する国際条約(HS条約)」に基づいて定められたコード番号です。この統一されたコードシステムによる、貿易実務での品目分類とそれに基づく納税事務が発生することになります。

※「HSコード」とHS条約について、ジェトロによる説明が詳しいです。こちらをご覧ください。

輸入(申告)手続き
日本の輸入者(「者」 企業・団体、もしくは個人)が海外の輸出相手と売買契約を結び、海外から物品を輸入する場合、ふつうは、いわゆる通関業者(Custom broker, Freight Forwarderなど、税関に登録した国家資格の「通関士」を有するサービス業者、国際輸送事業者など)に輸出入業務を委託する形で税関への申告業務を行うことが一般的です。これら業者に輸入申告を自社(自己)名義で行っていただくスキームです。「輸入者」は当該者本人であり、輸入申告業務を本人名義で「代行」 してもらうため、輸入通関の代行業者へは「委任状」を提出し、アカウント登録を含めた委託業務の契約を締結します。その後に、通関(代行)業者が輸入者(本人)名義でその手続きを税関や船会社・航空会社等、貿易の各ステークホールダーに対して貿易実務スキームに則って行っていくことになります。

通関業者はHSコード決定に責任を持つか
これらの通関業者は、この貿易実務(ここでは輸入事務とします)の委託をされたお客様のため、輸入物品の品目分類を考えて適正なHSコード(世界共通の6桁を含む詳細番号)に置き換え、輸出入通関システムであるSea-NACCS(海上貨物のとき)やAir-NACCS(航空貨物のとき)に10桁のコード(日本の場合)を入力します[1])。 その他、輸出入許可に関わる事務を通じて法定の輸入申告を行い、税関から輸入許可を得ます。しかし通関業者(通関士)が行うのはHSコードを特定して、通関のための申告を行う「事務」です。これは通常、民法に有名契約として定められている「準委任契約」です。従って、HSコードの特定に最終責任を負ったり、それを保証したりするものではありません。みなさんの会社が取り交わした通関業者とのサービス契約を読めば分かりますが、HSコードを責任もって最終確定するまでを「保証すること」は、受託事務の範囲外となっていることでしょう。

貿易手続きに必要な判定は行いますが、それを最終確定するまでは通常契約には含まれません。なぜならHSコードは、輸入(あるいは輸出)する当事者の責任下にあるものだからです。そしてHSコードを最終判断するのは輸入国税関の官吏です。彼らは依って立つ関税法や関税定率法、関税暫定措置法ほか通関に関わる諸法規に従い、HSコードを決定します。ですから、HSコードの最終決定までを委託した通関業者(通関士)に求めることは筋違いなのです。

HSコードは誰がどう決めればよいか
では、HSコードはどのようにして誰が決めるのが適切なのでしょうか?

まず冒頭述べた、「国境をまたぐ物品の売買契約に基づく」で B to B取引ですから、売り手(輸出者)と買い手(輸入者)が契約の2当事者であるのが一般的です。この売買契約において、物品通関時のHSコードを含めた関税評価までを規定することは私の知る限り例がありません。売買契約の主目的は貿易手続きの通関事務までを規定することではなく、商売としての売り買いの諸条件を当事者で確認しあうためのものです。

一つには、HSコード、すなわち『関税番号の分類』は公権力(Authority)の専管事項ですので、民間事業者ないしは個人間売買契約の中で、仮に規定したとしても何らの強制力はありません(したがって意味がない)。それ以前に通常、海外事業で取引を行う時、貿易実務の「手続き」自体に労力をかけて全てをクリアにするほど、事業の現場に時間も専門ノウハウもないのが通常の姿かもしれません販売戦略、販売促進からマーケティングまで、そして顧客対応から価格交渉・納期交渉まで、最後は売買契約の締結とそのフォローアップなど、事業担当者は手一杯なものですね。 

一般に大企業が職能別組織に分化しているとき、貿易業務を担当する部署に通関業務に詳しい「つわもの」がいたりします。しかし彼/彼女も、現実には自社製品しか頭にないでしょう。海外調達品(輸入品)について、HSコードの判定を行うには、その物品の設計者や製造を行った者など対象物品の重要な(主要な)特性や素材、機能・性質・用途をより詳しく知る者が、専門性をもって検討することが望ましいと言えます。

(日本から)輸出する場合は原則として輸出統計のためにHSコードを使います。ですから輸出者(あるいは委託を受けた通関業者)は輸出申告時、税関に対しHSコードを含めた輸出申告が必要です。輸出許可を得て外貨となり、国際輸送され仕向港に着荷します。しかしながら仕向国で税関に輸入申告手続きをする際、輸出国でのHSコードがそのまま自動的に(盲目的に)使われて手続きされることは避けておいた方が無難でしょう。 輸出者が通知してきたコードを安易に使って輸入手続を進めると、申告書類の訂正や修正申告が必要になるリスクがあります。 

逆に輸入する側から見れば、日本では輸入申告と併せて納税申告を行うため(関税率の判定のため)HSコードを使います。輸入国における輸入手続きは、必ず輸入当時国の法規に則って、輸入国税関の権限下で行われるものです。 

では、輸入時の(輸入国における)HSコードについて日本を例にとってもう少し考えてみましょう。

輸入時のHSコードについて(以下HS、またはHS# と略します)
日本企業による輸入(買い手となって調達)を想定する時、実務では概ね以下の手順で進むと思います。

  1. 輸入手続きの委託を受けた(通関業者等の)通関士が、輸入者が提示する契約書、発注書(Purchase Order)や輸出者(売り手)発行の商業送り状(Invoice)等、輸入申告のベースとなる「船積み書類」ならびに輸入品の内容説明を受けて、その貨物のHSコードが何かを判定する。反復取引での繰り返し品であれば、税関が許可して輸入通関したHS#を使う
  2. 新規取引品の場合、汎用物品で通関士が材料などから判断できれば、そのHS#を使う
  3. 複雑あるいは高度な品、または新奇品の場合、通関士は輸入担当(企業であれば貿易部や業務部、海外調達担当部署のバイヤーなど)に対し、その品の性質・素材・機能、参考として用途などを含めた詳しい「商品説明」を求める。口頭のこともあるが、商品カタログや仕様(書)・図面などを要求する場合が多い。輸入品の説明を任意のフォーマットで書いてほしい、と要求される場合もある。輸入する商品に関する多面的な情報をもとに「正しいHS#を判定する」

そして上記3でも不明な場合、自信がない場合など輸出入者として公的機関へ問い合わせる方法が想定されます。 

一例としてジェトロ(独立行政法人日本貿易振興機構)の貿易投資相談課などへの問合せがありえます。あるいはまた日本商工会議所・東京商工会議所や、ミプロ(MIPRO:一般財団法人対日貿易投資交流促進協会)など。輸出企業の場合は自社が所属する日本機械輸出組合などの業界団体、輸出相手国の在日大使館商務部など。 困ったときに相談すべきさまざまな公的機関が考えられます。しかし果たしてこれらの公的機関に問い合わせれば、最終的に正しい(間違いのない)HSコードが判明し、最終確定もするのでしょうか?  本ブログでは手短に、結論からご紹介することにします。

正しいHSコードの対応方法
HSコードはどのように対応するのが良いのでしょうか?

最初に、経済連携協定をお使いになる場合、対象となるこれら協定は全てHSコード(関税分類番号)で規定されているという基本を抑えておくことが最重要です。 経済連携協定(EPA) (あるいはFTA:自由貿易協定)を利用して輸出入取引をする場合、まず第一に正しいHSコードを「確定しておくこと」が極めて重要です。EPA(FTA)協定ではEPA税率、品目別規則はともにHSコード毎に規定されています。ですから、HSコードを間違えると税率・品目別規則が異なることになり、本来の意図(輸入時の関税低減や撤廃)が反映されなくなるという大きな失敗リスクがあります。ですから正しいHSコードを最初に確定することがもっとも重要です。 EPAではEPA税率、品目別規則はともにHSコードをベースに規定されています。ですから、HSコードを間違えると税率・品目別規則が異なることになり、EPA本来の意図が反映されなくなるリスクがあります。正しいHSコードを最初に確定することが重要なのです。

 次に、HSコードは輸入国税関の判断であることです。EPA(FTA)の輸入締約国税関と輸出締約国税関のHSコード判断が異なる場合、輸入締約国税関の判断が優先します。

以上から、推奨したいHSコードの確定方法は以下の通りです。
1)以前に、輸入締約国に同一製品を輸出したことがあれば、その輸入時の納税証明書、輸入許可証に記載のHSコードを輸入者に問い合わせる。
2)上記実績がない場合、日本税関では品目分類の事前教示制度を利用した書面(回答書) によるHSコードの確定を行う。日本の場合、基本的に税関回答書内容(のHSコード)が3年間尊重されます。この回答書を輸入通関時に提示することで税関から得たHSコードに基づいた輸入ができるのです。

さらに気を付けるべき事項として、HSコードの年版が5年ごとに改訂されることがあります。

EPA(FTA)を利用する対象物品の最新HSコードが過去のHSコードから変更された品目である場合、 第3者機関が発給した原産地証明書に記載されるHSコード(協定が定める年版でのHSコード)と輸入申告書上のHSコード(輸入する現在の時点で適用となるHSコード)が異なるので、この点に注意を要します。

ちなみに、現在発効しているEPAのHSコードは以下のとおりです。

  • 2002年版HSコードで規定されているEPA ⇒ 日シンガポール、日メキシコ、日マレーシア、日チリ、日タイ、日インドネシア、 日ブルネイ、日アセアン、日フィリピン
  • 2007年版HSコードで規定されているEPA ⇒ 日スイス、日ベトナム、日インド、日ペルー
  • 2012年版HSコードで規定されているEPA ⇒ 日オーストラリア、日モンゴル [2]

以上を踏まえて、日本へ輸入する場合の輸入者のみなさまへの本稿での結論(推奨方法)は、「輸入する際のHSコードは輸入国の税関に問い合わせること」・・・これが一番正しい方法です。ちなみに日本の税関には、そのように親切な対応をしてくれる専門部署があるのです。以下、税関のページです。

ここに、輸入地を所轄する税関官署の「相談官」コンタクト先が掲載されています。まず輸入者は自社が輸入申告する港湾・空港の地を所轄する税関官署へ電話して「相談官」にコンタクトしましょう。その際、輸入品についての素材、性質や機能・用途・利用目的のほか、税関相談官のご判断をサポートできるよう、尋ねられた質問に的確にこたえられる資料などをしっかりと手元に準備してから、相談することです。

日本輸入の場合 、税関相談官制度をご利用されることにより、輸入時の適切なHSコードを当局から直接教えていただくことができます。このとき上述の事前教示制度の仕組みも使うことができます。ただしこれは日本の税関が物品の所属であるHSコードを決めることができる 「輸入の場合」 に限ります。

逆に日本の輸出企業が、例えば米国へ商品を輸出する場合、日本の税関に輸入国アメリカのHTSコード(アメリカ合衆国はHTSコードと呼びます)を尋ねてもお答えいただけないか、あるいは、「日本で輸入する場合を基準に、あくまでも参考のみとして」教えてもらえることなどが想定されます。その際、税関から返ってくるのは、 「正確なHTSコードは米国輸入者(売買契約の相手方=買い手)を通じて米国税関に聞いてください」という応答になるのではないかと思います。

次回ブログ(後編)では、日本企業が海外へ製品を輸出する際の効率性として、「HSコードをどのように自主判断できるか」や、輸出入リスクとなりうる 検認(輸入国税関による事後調査)への対応について、考えてみたいと思います。

Source

[1] HS条約加盟国は、国内法に基づいて6桁以降を細分化することができます。7、8、9桁目を輸出入統計分類用、10桁目をNACCS(輸出入・港湾関連情報処理センター株式会社が運営する、税関その他の関係行政機関に対する手続及び関連する民間業務をオンラインで処理するシステム)用で使用しています。

[2] 税関ウェブサイト「関税分類の概要」、財務省ウェブサイト「HS条約の改正に伴う関税率表の改訂」から構成