第20号 【2026年12月施行】こども性暴力防止法
文献番号 2026WLJLG008
Westlaw Japan コンテンツ編集部
Ⅰ 概要
に 学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律(以下「こども性暴力防止法」とします。) が施行されます。同法は、教育や保育等のこどもに接する現場において、こどもへの性暴力を未然に防ぎ、こどもの心と身体を守るための法律です。
本ガイドでは、学校法人や保育事業者のみならず、学習塾、スポーツクラブ、放課後児童クラブ等を運営する民間企業に向けて、法律の概要、対象となる事業や業務、事業者に求められる具体的な義務・取組み、そして施行に向けて今から準備すべき実務対応について解説します。
1.こども性暴力防止法とは(図1)
こどもに対する性暴力等は、こどもの権利を著しく侵害し、その生涯にわたって心身の発達に回復し難い重大な影響を与えるものです。しかし、教育や保育の現場における性暴力事案は後を絶たないのが実情です。
こうした事態を重く受け止め、こどもに対して教育や保育の役務を提供する立場にある事業者が、従事者による性暴力を防止する責務を有することを明らかにしたのがこども性暴力防止法です(同法1条)。
こども性暴力防止法では、事業者が日頃から講ずべき安全確保の措置や、こどもと接する業務に就く人に特定性犯罪の前科がないかを確認する仕組み(犯罪事実確認)、そして被害が疑われる場合の対応等を定めています。

2.制度の対象となる事業者と業務(図2~4)
こども性暴力防止法では、対象となる事業者を大きく学校設置者等(義務対象)と民間教育保育等事業者(認定対象)の2つに分類しています。

(1)学校設置者等(義務対象)
法律に基づく認可等を受けており、対象となる範囲が明確で、所管庁の監督の仕組みが整っている施設・事業です。
具体的には、学校(幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校等)、専修学校(高等課程)、認定こども園、児童相談所、児童福祉施設(認可保育所、児童養護施設等)、指定障害児通所支援事業等が該当します(こども性暴力防止法2条3項)。これらの事業者には、法律で定める性暴力防止の取組みが義務として課されます。法定事業者が使用できる事業者マークは図3のとおりです。

(2)民間教育保育等事業者(認定対象)
学校設置者等以外の事業者で、各種学校や民間教育事業を行う者等が該当します。具体的には、専修学校(一般課程)、学習塾、スポーツクラブ、放課後児童クラブ、認可外保育施設、一時預かり事業、病児保育事業等が挙げられます(こども性暴力防止法2条5項)。
学習塾やスポーツクラブのように、学校等による教育等以外の場面でも、こどもに何かを教え、以下の4要件を全て充足する「民間教育事業」を行う事業者は、事業内容を問わず、認定(3.参照)の対象である民間教育保育等事業者に当たります。4要件とは、①修業期間(6か月以上の期間中に、2回以上同じこどもが参加できること)、②対面(こどもと対面で接すること)、③場所(こどもの自宅以外の場所(オフィス、カフェ、自社施設等)で教えることがあること)、④人数(こどもに何かを教える者が3人以上であること)です。
これらの事業者は、国(こども家庭庁)に申請を行い、学校設置者等と同等の措置を実施する体制が確保されている旨の認定を受けることで、制度の対象となります(こども性暴力防止法19条)。
(3)対象となる業務(職種)
対象事業者(学校設置者等及び認定を受けた民間教育保育等事業者)が行う事業において、以下のように、こどもと接する業務(対象業務)に就く従事者が、下記の犯罪事実確認等の対象となります。
- ① 教員等(こども性暴力防止法2条4項):学校設置者等における対象業務従事者(教諭、保育士等)
- ② 教育保育等従事者(こども性暴力防止法2条6項):民間教育保育等事業者における対象業務従事者(塾講師、放課後児童支援員等)
教員等及び教育保育等従事者は、その業務の実態が、①支配性(こどもを指導するなどし、非対称の力関係があるなかで支配的・優越的立場に立つこと)、②継続性(時間単位のものを含めてこどもと生活を共にするなどして、こどもに対して継続的に密接な人間関係を持つこと)、③閉鎖性(親等の監視が届かない状況の下で預かり、養護等をするものであり、他者の目に触れにくい状況を作り出すことが容易であること)の3要件を満たすものが対象です。また、対象業務に該当するかの判断に当たっては、こどもから見て当該業務が支配的・優越的であるかという観点も重視します。
そのため、こどもと常に接する職種は一律対象となりますが、事務職員や送迎バスの運転手等、業務内容によってこどもに継続的に接する可能性がある職種については、事業者の判断で対象とすることができます。また、雇用形態に関わらず、短期間の労働者やボランティア、実習生等も対象となる場合があります。

3.民間企業が認定を受けるメリット
民間教育事業等を行う企業にとって、本制度による認定を受けることは任意です。しかし、認定を受けることには企業にとって大きなメリットがあります。
(1)社会的信頼の向上(図5)
認定を受けた事業者は、自社のウェブサイト、パンフレット、募集案内、広告、名刺等に「こまもろうマーク(認定事業者マーク)」(図5)を表示することができます(法23条1項)。このマークはこどもをしっかり見て守るフクロウをモチーフにしたもので、こども性暴力防止の取組みが適切に行われている事業者であることを保護者や社会に対して一目でアピールすることができます。

(2)安全な環境の構築
犯罪事実確認の仕組みを利用できるようになるため、過去に性犯罪歴がある者をこどもと接する業務から排除し、自社のサービスの安全性を高めることができます。
なお、認定事業者以外が認定事業者マークを表示することは法律で禁止されており、違反した場合は1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金が科される罰則があります(こども性暴力防止法23条2項、45条1項等)。
4.事業者に求められる取組み(安全確保措置等)
義務対象事業者及び認定を受けた事業者は、主に以下の措置を講じる必要があります。
(1)未然防止措置(日頃から講ずべき措置)
a 早期把握のための措置
こどもの心身の状況の日常的な観察や、発達段階に応じた定期的な面談、アンケートの実施(こども性暴力防止法5条1項、20条1項2号)。
b 相談体制の整備
こどもや保護者が相談しやすいよう、相談員を選任したり、相談窓口を設置・周知すること(こども性暴力防止法5条2項、20条1項3号)。
c 研修の実施
従事者に対して、こどもの権利や、性暴力等につながり得る不適切な行為の範囲等を学ぶ研修(座学・演習)を受講させること(こども性暴力防止法8条、20条1項5号)。
(2)被害が疑われる場合の対応
a 調査の実施
性暴力等の疑いが生じた場合、こどもの人権や特性に配慮しつつ、事実の有無や内容について調査を行うこと(こども性暴力防止法7条1項、20条1項4号ロ)。
b 保護・支援
被害を受けたと認められるこどもに対して、加害者との接触回避等の保護・支援措置を講じること(こども性暴力防止法7条2項、20条1項4号ハ)。
(3)犯罪事実確認の実施(図6)
事業者は、対象業務の従事者を雇い入れる際や配置転換の際に、過去の特定性犯罪の前科の有無を確認しなければなりません(こども性暴力防止法4条、26条)。
確認の対象となる「特定性犯罪」には、不同意性交、不同意わいせつ、痴漢、盗撮等が含まれ、成人に対する性犯罪も対象です。前科の確認期間は、拘禁刑の執行終了等から20年、執行猶予の期間満了から10年、罰金刑の執行終了等から10年と定められています(こども性暴力防止法2条7項、8項)。
犯罪事実確認の具体的な手続フローは下記5.をご参照ください。

(4)児童対象性暴力等の防止措置(図7)
犯罪事実確認の結果、特定性犯罪の前科が確認された場合や、児童からの相談、調査等により、従事者による性暴力等が行われるおそれがあると判断される場合には、その従事者をこどもと接する業務に就かせない(配置転換等)などの防止措置を講じる義務があります(こども性暴力防止法6条、20条1項4号)。

(5)情報管理措置
犯罪事実確認で得た前科情報等は極めて機微な個人情報であるため、適正な管理、利用目的の制限、第三者提供の禁止、一定期間経過後の廃棄・消去、情報管理規程の作成等が厳格に求められます(こども性暴力防止法11条、12条、38条、39条、20条1項6号等)。
5.犯罪事実確認の具体的な手続フロー(図8)
犯罪事実確認の手続は、プライバシー保護の観点から、国(こども家庭庁と法務省)を介してオンラインシステム(こまもろうシステム)で行われます。

(1)申請
事業者が、こども家庭庁に対して犯罪事実確認書の交付を申請します。
(2)戸籍等の提出
従事者本人が、マイナンバーカード等を用いて、直接こども家庭庁へ戸籍情報等を提出します。
(3)照会と回答
こども家庭庁が法務省に性犯罪前科を照会し、法務省が回答します。
(4)結果の通知(犯歴(特定性犯罪の前科)なしの場合)
犯歴がない場合は、こども家庭庁から事業者に「犯罪事実確認書」が交付されます。
(5)結果の通知(犯歴ありの場合)
犯歴がある場合は、事業者に犯罪事実確認書が交付される前に、まず従事者本人に事前通知が行われます。本人は内容に誤りがあれば訂正請求を行うことができます(2週間以内)。また、この期間中に本人が内定辞退等を申し出れば、手続は終了し、事業者には犯罪事実確認書は交付されません。訂正請求等がなく期間が経過した場合は、事業者に犯罪事実確認書が交付されます。この仕組みにより、不必要に犯歴が事業者に伝わることを防ぐ配慮がなされています。
6.施行に向けた準備の必要性
の施行に向けて、対象事業者(特に義務対象事業者や、速やかに認定を受けたい企業)は、今から準備を進める必要があります。
7.まとめ
こども性暴力防止法は、こどもたちが安心して学び、遊び、過ごすことができる環境を実現するための非常に重要な法律です。民間企業にとっても、同法への適切な対応や認定の取得は、コンプライアンスの強化や企業価値・ブランドの向上に直結します。こども家庭庁の特設サイトや下記のチェックリストも参考にしつつ、適切に対応していくことが重要です。
Ⅱ チェックリスト
1.自社が制度の対象となるか(対象範囲の確認)
(1)義務対象となる事業者(学校設置者等)
法律に基づく認可等を受けており、以下のいずれかの施設・事業を運営する事業者は、こども性暴力防止法による安全確保措置等が義務となります。
(2)認定対象となる事業者(民間教育保育等事業者)
義務対象以外の以下のような事業を行う事業者は、国(こども家庭庁)に申請し認定を受けることで、制度の対象(認定事業者)となります(認定の取得は任意です)。
(3)対象となる「業務・職種」の確認
上記の事業において、こどもに接する全ての従業員が対象になるわけではありません。業務の実態が以下の3要件を全て満たす職種が「犯罪事実確認」等の対象となります。
*教諭や保育士等は一律対象ですが、事務職員や清掃員、送迎バス運転手等は、実態に応じて事業者が対象か否かを判断します。
2.【対象者事業者向け】法対応チェックリスト
義務対象事業者と認定対象事業者(認定を受ける場合)に求められる性暴力を防ぐための取組み(安全確保措置等)の内容は基本的に同じです。施行()に向けた対応について次の各事項をご確認ください。
(1)施行に向けた事前準備・システム対応
(2)日頃から講ずべき措置(未然防止・早期把握・相談)
(3)犯罪事実確認と防止措置(被害発生時の対応)
(4)情報管理措置
3.最新情報に着目
企業が対応しなければならない法改正等は数多くなされています。このような法改正に対応するためには、まず、最新情報に触れることが重要です。最新ニュースや法令の情報等を把握し、折よく対応していくために、Westlaw Japanがおすすめです。
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