法令ガイド


2026 | 2025 | 2024

第19号 【2026年10月以降施行分】年金制度改正法の企業実務対応まとめ:106万円の壁撤廃だけじゃない、企業が取るべき対応の概要

文献番号 2026WLJLG007
Westlaw Japan コンテンツ編集部

Ⅰ 概要

に成立した「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」(以下「年金制度改正法」とします。)は、多様化する働き方やライフスタイルに対応するため、公的年金制度及び私的年金制度の広範な見直しを行っています(公布日はです。)。同法による改正の多くは2026年度以降に順次施行されるため、企業の実務担当者にとっては、施行時期を正確に把握し、給与計算、労務管理、規程改定等の準備を計画的に進めることが急務です。

 本ガイドでは、以降に施行を迎える重要な改正事項である「社会保険の適用拡大」「標準報酬月額の上限引上げ」「在職老齢年金の見直し」「iDeCo(個人型確定拠出年金)等私的年金の見直し」を中心に、企業が取るべき対応の概要を解説します。

1.社会保険の適用拡大(106万円の壁・企業規模要件の撤廃)

 今回の改正で企業実務に大きな影響を与えるのが、短時間労働者に対する社会保険(厚生年金・健康保険)の適用拡大です。これまで設けられていた適用要件のハードルが順次撤廃され、多くのパート・アルバイト従業員が新たに加入対象となります。

(1)賃金要件の撤廃(いわゆる「106万円の壁」の撤廃)
a 改正内容(図1)

 短時間労働者が社会保険に加入するための要件の一つであった月額8.8万円以上(年額換算で約106万円)という賃金要件が撤廃されます。これにより、週所定労働時間が20時間以上であれば、賃金額にかかわらず原則として社会保険の加入対象となります。

【図1 「年金制度改正法が成立しました」(厚生労働省ウェブサイト)より抜粋】
社会保険の加入対象の拡大①:短時間労働者の賃金要件と企業規模要件を撤廃する見直し内容の図解
b 根拠条項

 厚生年金保険法12条5号、健康保険法3条1項9号(適用除外要件からの削除等)

c 施行時期

 最低賃金の引上げ状況(全国の最低賃金が1,016円以上となること)を見極めた上で、公布の日から起算して3年以内の政令で定める日(まで)とされています。もっとも、厚生労働省の「社会保険加入の要件」(厚生労働省ウェブサイト)では、賃金要件の撤廃予定はとされています。

d 実務対応

 賃金要件が撤廃されることで、例えば最低賃金で週20時間以上働く従業員も社会保険の加入対象となります。施行に向けて、自社の短時間労働者の労働時間と賃金を精査し、新たに加入対象となる人数を把握しておく必要があります。また、手取りの減少を懸念する従業員に対して、将来の年金増額や傷病手当金等のメリットを説明し、労働時間の調整(いわゆる働き控え)を防ぐためのコミュニケーションが重要です。

(2)企業規模要件の段階的撤廃

a 改正内容(図1)

 改正前は、短時間労働者の社会保険適用は「常時従業員が51人以上の企業等」に限定されていますが、この企業規模要件が10年かけて段階的に撤廃され、最終的に全ての適用事業所が対象となります。

b 根拠条項

 公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律(平成24年法律第62号。以下「年金機能強化法」とします。)附則17条等の改正

c 施行時期

 以下のスケジュールで対象企業が拡大されます。

① 
 従業員数36人以上 (年金制度改正法による改正後の年金機能強化法附則17条の3の2:からまでは35人以下に適用除外と規定)
② 
 従業員数21人以上 (年金制度改正法による改正後の年金機能強化法附則17条の3の2:からまでは20人以下に適用除外と規定)
③ 
 従業員数11人以上 (年金制度改正法による改正後の年金機能強化法附則17条の3の2:からまでは10人以下に適用除外と規定)
④ 
 従業員数要件の完全撤廃(1人以上の企業)
d 実務対応

 自社の従業員数(厚生年金の被保険者数)を常に把握し、自社がいつから適用対象となるかを正確に認識する必要があります。対象となる年の半年前には、該当する従業員への説明を実施し、加入手続の準備を進めるとよいでしょう。

(3)社会保険加入拡大に伴う事業主への支援策
a 制度内容(図2)

 適用拡大に伴う従業員の手取り減少を緩和するため、3年間にわたり、事業主の追加負担によって労働者の保険料負担を軽減できる特例的・時限的な措置が実施されます。労使折半を超えて事業主が負担した保険料相当額については、その全額が制度全体から支援されます。例えば、月収8.8万円の場合、本来の本人負担割合50%を25%に軽減することが可能です(3年目は軽減割合を半減)。

【図2 「年金制度改正法が成立しました」(厚生労働省ウェブサイト)より抜粋】
新たに社会保険加入となる短時間労働者への3年間の保険料負担軽減措置の一覧
b 施行時期

から順次

c 実務対応

 事業主としてこの支援制度を活用することで、従業員の社会保険加入へのハードルを下げ、人材定着を図ることが可能です。制度の適用要件や申請フローを確認し、導入を検討することが求められます。

(4)個人事業所の適用対象の拡大
a 改正内容(図3)

 常時5人以上の従業員を使用する個人事業所のうち、これまで非適用とされていた業種(農業、林業、宿泊業、飲食サービス業等)についても、適用事業所となり、社会保険への加入が必要になります。

【図3 「年金制度改正法が成立しました」(厚生労働省ウェブサイト)より抜粋】
社会保険の加入対象の拡大②:個人事業所の適用対象を2029年10月から全業種に拡大する図解
b 施行時期

~(ただし、施行時に既に存在する事業所については、経過措置として当面の間、適用除外となります)。

2.標準報酬月額の上限の段階的引上げ

(1)改正内容(図4)

 厚生年金保険料等の計算基礎となる「標準報酬月額」の上限が、現在の65万円から75万円へ段階的に引き上げられます。これにより、上限を超える給与を受け取っている従業員の保険料負担と将来の年金受給額が増加することになります。

【図4 「年金制度改正法が成立しました」(厚生労働省ウェブサイト)より抜粋】
厚生年金の計算に使う賃金上限を月65万円から75万円に段階的に引き上げる見直しの図解
(2)根拠条項

 厚生年金保険法20条1項等

(3)施行期日
a 
 68万円に引上げ
b 
 71万円に引上げ
c 
 75万円に引上げ

(4)実務対応

 高所得層の従業員(賞与を含めて概ね年収1,000万円以上相当)に対して、社会保険料の控除額が増加し手取りが減少することを事前にアナウンスする必要があります。同時に、事業主が負担する法定福利費も増加するため、該当する各年度の事業計画において、社会保険料の増加分を予算に組み込む必要があります。また、給与計算システムが新しい等級に対応できるよう、ベンダーとの調整やアップデートを確実に行うことが求められます。

3.在職老齢年金制度の見直し

(1)改正内容(図5)

 65歳以上で働きながら年金を受給する高齢者について、年金の一部または全部が支給停止となる「在職老齢年金制度」の基準額が緩和されました。具体的には、賃金と老齢厚生年金の合計額による支給停止基準額が、50万円(2024年度価格)から62万円に引き上げられました。

【図5 「年金制度改正法が成立しました」(厚生労働省ウェブサイト)より抜粋】
在職老齢年金の減額基準を月50万円から62万円に引き上げる制度改正の図解
(2)根拠条項

 厚生年金保険法46条3項

(3)施行期日

(4)実務対応

 この改正により、高齢者が就業調整(年金を減らされないために労働時間や収入を抑える働き方)を行う必要性が薄れ、より長く、多く働く意欲を高める効果が期待されます。企業としては、深刻化する人手不足への対応として、シニア人材の積極的な活用、定年延長や継続雇用の処遇見直し、フルタイム勤務の促進等、高齢者が能力を最大限発揮できる人事制度の再構築を行う機会となります。

4.iDeCoおよび企業年金(私的年金制度)の見直し

(1)iDeCoの加入可能年齢の引上げ
a 改正内容(図6)

 誰もが長期的な老後資産形成を行えるよう、iDeCoの加入可能年齢の上限が現在の65歳未満から70歳未満に引き上げられます。

【図6 「年金制度改正法が成立しました」(厚生労働省ウェブサイト)より抜粋】
私的年金の見直し:iDeCoの70歳までの加入拡大、企業型DCの拠出限度額拡充などの図解
b 根拠条項

 確定拠出年金法62条1項、同条2項等

c 施行時期

d 実務対応

 従業員からiDeCoに関する問い合わせが増加することが予想されます。特に65歳を超えて雇用を継続するシニア従業員に対して、資産形成の一環としてiDeCoの継続や新規加入が可能となる旨を情報提供することが福利厚生の観点から望まれます。

(2)企業型DC(確定拠出年金)の拠出限度額の拡充
a 改正内容(図6)

 企業型DCにおいて、加入者が事業主の掛金に上乗せして拠出するマッチング拠出について、事業主掛金の額を超えてはならないという制限が撤廃されました。

b 根拠条項

 確定拠出年金法4条1項3号の2の削除

c 施行時期

d 実務対応

 マッチング拠出を導入している企業は、規約の変更手続が必要となる場合があります。従業員がより柔軟に資産形成を行えるようになるため、社内通知を通じて制度変更を周知し、利用を促進することが重要です。

(3)企業年金の運用の見える化(情報開示)
a 改正内容(図6)

 DB(確定給付企業年金)やDC(確定拠出年金)等の企業年金の運営状況等について、厚生労働省が情報を集約し、公表する仕組みが導入されます。これにより、他社の運用状況との比較や分析が可能となります。

b 根拠条項

 確定拠出年金法50条2項等の新設

c 施行時期

 公布から5年以内の政令で定める日(まで)

d 実務対応

 企業年金を導入している企業は、自社の年金運用のガバナンスやパフォーマンスが外部に開示されることになります。そのため、従業員にとって最善の利益をもたらす運用が行われているか、運営管理機関(金融機関等)の選定や運用商品のラインナップが適切かを再評価し、受託者責任を一層適切に果たす体制を整備することが求められます。

5.まとめ

 2026年以降に順次施行される年金制度改正法は、社会保険の適用拡大によるパートタイム労働者の処遇見直し、標準報酬月額引上げに伴うコスト増、在職老齢年金緩和を受けたシニア人材の活用、そして企業年金の情報開示と、企業の労務管理や財務に影響を及ぼします。

 各制度の施行日は段階的かつ複数年にまたがるため、企業の人事・労務部門は、自社の対象者の洗い出しとコスト試算を早期に行い、経営陣への報告や社内規程の改定、システム改修、そして従業員への丁寧な説明を計画的に進めることが不可欠です。

Ⅱ チェックリスト

1.社会保険の適用拡大への対応

(1)自社の適用時期と対象者の把握(施行の半年前~1年前)

(2)会社負担の試算と事業主支援策の検討

(3)社内方針の決定と従業員への周知・説明(施行の数ヶ月前)

(4)各種規程の改定と加入手続(施行直前〜施行時)

2.その他の主要改正項目への対応

(1)標準報酬月額の上限の段階的引上げへの対応

(2)在職老齢年金制度の見直しへの対応

(3)iDeCoおよび企業年金制度の見直しへの対応

3.最新情報に着目

 企業が対応しなければならない法改正等は数多くなされています。このような法改正に対応するためには、まず、最新情報に触れることが重要です。最新ニュースや法令の情報等を把握し、折よく対応していくために、Westlaw Japanがおすすめです。

*この記事は、文中のリンク等を参考に、一部、編集・加工等して作成しています。簡易化のため、適宜省略・加筆等していますので、詳細は文中リンク等をご参照ください。

(掲載日:
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