第13号 【2026年施行】公益通報者保護法改正の概要と対応ポイント
文献番号 2026WLJLG001
Westlaw Japan コンテンツ編集部
Ⅰ 改正の概要
1.はじめに
「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)」が、2025年6月11日に公布され、2026年12月1日に施行されます。本改正は、近年の事業者の公益通報への対応状況等に鑑み、主に、公益通報制度の実効性を向上させ、公益通報者の保護をより一層強める観点からなされたものです。この記事では、公益通報制度の概要を説明し、企業が把握すべき本改正の全体像をまとめ、同改正につき、企業が取るべき対応等についても簡単に説明します。
*この記事では、本改正による改正後の公益通報者保護法を、単に「公益通報者保護法」といいます。
2.公益通報とは?
公益通報とは、①公益通報の主体として規定された者(労働者等)が、②不正の目的でなく、③役務提供先(勤務先等)(又はその役務提供先の事業に従事する場合におけるその役員、従業員等)について、通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、一定の通報先に通報することです(公益通報者保護法2条1項)。公益通報に該当する場合、事業者が公益通報をしたことを理由とする解雇や懲戒としての不利益な取扱い、及び労働者派遣契約の解除は無効とされ(公益通報者保護法3条、4条)、公益通報を理由とするその他不利益な取扱い(役員に対する報酬の減額等)も禁止されています(公益通報者保護法3条ないし6条)。また、事業者は、公益通報によって損害を受けたとして、公益通報者に対して損害賠償を請求することはできません(公益通報者保護法7条)。
通報対象事実は、役務提供先又はその役員、従業員、代理人その他の者が、公益通報者保護法の別表所定の「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律」に規定する犯罪行為や過料対象行為、及びそれらにつながる行為です。この「国民の生命」該当する法律は約500件ありますが、例えば、「同僚が会社の資金を横領している」、「産地を偽装して販売している」などの事実は通報対象事実の典型例といえるでしょう。
通報先は、①内部(企業の内部通報窓口等)、②行政機関、③外部のその他の一定の機関(例:報道機関や消費者団体、労働組合等)の3つですが、この3つの区分により、保護される要件(通報対象事実の発生等を思料するだけで保護の対象になるのかなど)が異なります。
なお、従業員が301人以上の事業者に対しては、公益通報の受付や調査等の業務に従事するいわゆる「従事者」を指定する義務、公益通報に適切に対応するための体制(内部通報窓口の設置等)を整備すること等も義務付けられています(公益通報者保護法11条。従業員が300人以下の事業者には努力義務が課されています)。そして、従事者には異動や退職後も続く守秘義務が課されており(公益通報者保護法12条)、違反した場合には、30万円以下の罰金が科されます(公益通報者保護法22条)。
3.本改正の概要
公益通報者保護法は数度の改正を経ているものの、公益通報を理由とする不利益な取扱いに対する抑止・救済の強化の点は課題として残っていました。また、実態調査によると、国内の事業者が社内の公益通報体制整備を徹底できていなかったり、実効性に課題があったりする場合も見受けられた上、国際的にも、通報者保護の強化の潮流にあります(「公益通報者保護制度検討会報告書」(消費者庁ウェブサイト))。そこで、以下の4点を主軸として、本改正が行われました。
①事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上
②公益通報者の範囲拡大
③公益通報を阻害する要因への対処
④公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済を強化する措置
(1)事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上
前述のとおり、従業員数が301人以上の事業者には、従事者を指定する義務があり、この従事者指定義務に対しては、現行法上、内閣総理大臣が指導・助言・勧告ができるとされています。今回の改正では、この勧告に従わない場合には、内閣総理大臣は命令ができ(公益通報者保護法15条の2第2項)、この命令に従わない場合には、行為者及びその法人に対して30万円以下の罰金が科されることになり(公益通報者保護法21条2項1号)、従事者指定を行わない場合の罰則等が設けられました。なお、同命令は公表されることがあります(公益通報者保護法15条の2第3項)。
また、前述の事業者に対する報告徴収権限に加え、立入検査権限が新設され(公益通報者保護法16条1項)、報告を怠ったり、虚偽の報告をしたり、検査を拒絶した場合には、行為者及び法人の両方に30万円以下の罰金が科されることになりました(公益通報者保護法21条2項2号)。
さらに、現在は、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(消費者庁ウェブサイト。いわゆる「法定指針」)で示されている、労働者等に対する事業者の公益通報対応体制の周知義務につき、公益通報者保護法上に義務として明示されました(公益通報者保護法11条2項)。
(2)公益通報者の範囲拡大
現行法上、公益通報の主体として公益通報者保護法の保護を受けるのは、正社員、派遣労働者、アルバイト、パートタイマー、役員、公務員、退職者(退職後1年以内に通報した者)も含まれます。
今回の改正では、事業者と業務委託関係にあるフリーランスや業務委託関係が終了して1年以内のフリーランスも、保護の対象に含まれることになりました(公益通報者保護法2条1項3号)。フリーランスに対する公益通報を理由とする不利益な取扱いとしては、業務委託を終了(解約)すること等が考えられます。
*フリーランスの定義は、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(いわゆる「フリーランス(新)法」)2条を引用して規定しています。フリーランス新法の概要については、「法令ガイド第1号フリーランス新法(2024年11月1日施行)」も参考になります。
(3)公益通報を阻害する要因への対処
通報後(又は、事業者が外部通報のあったことを知って解雇もしくは懲戒をした場合は、事業者が知った日から)1年以内の解雇又は懲戒は、公益通報を理由としてされたものと推定されるようになりました(公益通報者保護法3条3項)。
また、公益通報を理由として解雇又は懲戒をした者に対して、直罰規定(6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金)を新設し(公益通報者保護法21条1項)、法人に対する法定刑も3000万円以下の罰金としました(公益通報者保護法23条1項1号)。
公益通報を理由とする一般職の国家公務員等に対する不利益な取扱いを禁止し、これに違反して分限免職又は懲戒処分をした者にも、6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金が科されます(公益通報者保護法9条、21条1項)。
4.まとめ
この記事では、2026年12月に施行予定の公益通報者保護法改正につき説明してきました。本改正では、公益通報を理由とする解雇・懲戒につき、直罰規定が設けられるとともに、従事者指定義務違反に関しても、同義務違反を起点とした命令違反の場合の罰則も設けられました。また、公益通報の妨害や通報者の探索が禁止され、妨害に係る法律行為等は無効とされます。
さらに、フリーランスを通報主体として追加するとともに、公益通報後1年以内の解雇等につき、公益通報を理由とすると推定される規定も設けられました。また、既に法定指針にも記載されているものの、内部通報窓口等の体制につき、周知する義務を明示されました。
このように、本改正は、主に、従来の義務に関して実効性を強化する方向でなされたものです。改正内容ごとに企業として対応すべき点は、企業向けチェックリストが参考になりますが、企業は、従事者指定義務や体制整備義務のような義務をしっかりと実効的に守っていくことが求められます。
Ⅱ 企業向けチェックリスト(全業種向け)
1.社内の公益通報に関する体制の見直しポイント
・・・包括的な従事者指定が想定される公益通報受付窓口の担当者以外でも、事案により同窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行い、かつ、その業務に関して、公益通報者を特定させる事項を伝達される者に該当する場合には、必要が生じた都度、その担当者を従事者として指定する必要があります。不注意による指定漏れがないようにしましょう。
2.フリーランス関係の見直しポイント
3.公益通報を阻害する要因への対処に関係する見直しポイント
4.不利益な取扱いに対する抑止・救済の強化に関する見直しポイント
・・・通報後1年以内の解雇に関して、公益通報を理由とするものであるという推定が及びます。しかし、例えば解雇等の判断の過程を詳細に記録するなどし、証拠化しておくことで、その推定を覆すことも可能であると思われます。
5.最新情報に着目
企業が対応しなければならない法改正等は数多くなされています。
このような法改正に対応するためには、最新情報に触れることが重要です。特に、今回のような重要改正については、専門家による解説記事等も参考になるでしょう。Westlaw Japanでは、このような解説記事も多数掲載しており、おすすめです。
*このチェックリストは、文中のリンクの他、末尾のリンクを参考に、一部、編集・加工等して作成しています。簡易化のため、適宜省略・加筆等していますので、詳細は下記リンク等をご参照ください。
(掲載日:2026年1月30日)
*この記事は作成・更新時点での情報を基に作成されています。