法令ガイド

 

第10号 【2026年4月等施行】労働安全衛生法等改正(個人事業者等の安全衛生対策の推進、ストレスチェック実施の義務化等)~

文献番号 2025WLJLG006
Westlaw Japan コンテンツ編集部

Ⅰ 改正の概要

 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)が、2025年5月14日に公布され、即日施行の部分を除き、2026年1月1日から段階的に施行されます。
 本改正は、多様な人材が安全に、かつ、安心して働き続けられる職場環境の整備を推進するため、①個人事業者等に対する安全衛生対策の推進、②職場のメンタルヘルス対策の推進、③化学物質による健康障害防止対策等の推進、④機械等による労働災害の防止の促進、⑤高年齢労働者の労働災害防止の推進等の措置を講じるものです。この記事では、本改正の全体像をまとめるとともに、企業が取るべき対応等についても簡単に説明します。

*この記事では、本改正による改正後の労働安全衛生法及び作業環境測定法をそれぞれ、単に「労働安全衛生法」、「作業環境測定法」といいます。

1.個人事業者等の安全衛生対策の推進(2025年5月14日から2027年4月1日にかけて順次施行)

 既存の労働災害防止対策に個人事業者等も取り込み、労働者のみならず個人事業者等による災害の防止を図るため、個人事業者を「事業を行う者で、労働者を使用しないもの」と定義の上、以下の①~③の措置等が講じられました。

  • ①個人事業者等を含む作業従事者(事業を行う者が行う仕事の作業に従事する者)が混在する作業による災害防止対策の強化等、注文者等(元方事業者等)が講ずべき措置を定めるなどしました。
  • ②労働者と同一の場所において作業を行う場合に、個人事業者等(個人事業者及び中小企業の代表者・役員等)自身が講ずべき措置(安全衛生教育の受講等)が定められました。
  • 作業従事者が事業場に労働安全衛生法等違反があった場合に申告できることとし、事業者や注文者等が当該申告を理由とする不利益な取扱いを行うことは禁止されます。また、国(厚生労働大臣)等は、災害状況の調査のために必要なときは、事業者等に対して、報告させることが可能です。

2.職場のメンタルヘルス対策の推進(2028年5月13日までの間において政令で定める日に施行)

 現在、当分の間、努力義務となっている労働者数50人未満の事業場についても、年1回のストレスチェックの実施が義務化されます。このような小規模事業場では、現在ストレスチェックの実施が義務付けられている事業場とは異なる配慮が必要と考えられます。そこで、現在、小規模事業場で現実的に実効性のあるストレスチェックの実施体制等が検討されており、2026年には「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル」が公表される予定です(「「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル」作成ワーキンググループの設置について」(厚生労働省ウェブサイト))。小規模事業場では、このマニュアルを参考に準備を進めることが求められます。

3.化学物質による健康障害防止対策関連の改正(2026年4月1日以降順次施行)

(1)危険性及び有害性情報の通知制度の履行確保(2030年5月13日までの間において政令で定める日から施行)

 現行法上、労働者に危険若しくは健康障害を生ずるおそれのある化学物質等(通知対象物)を譲渡又は提供する場合には、その相手方にその旨を通知しなければなりません。今回の改正では、この化学物質を譲渡し、又は提供する者(通知対象物譲渡者等)による危険性・有害性情報の通知義務に違反した場合の罰則(6か月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)を設けました。また、この通知後に、通知した事項に変更を行う必要が生じた場合の変更事項の通知につき、現行の努力義務から義務に引き上げることとしました

(2)営業秘密である成分に係る代替化学名等の通知(2026年4月1日から施行)

 (1)の通知義務に関連し、化学物質の成分名が営業秘密である場合に、一定の有害性の低い物質(厚生労働省令で定めるもの)に限り、代替化学名等の通知が認められることになりました。なお、代替を認める対象は成分名に限られ、人体に及ぼす作用や応急の措置等は対象としません。代替化学名等で通知する場合には、通知対象物の成分及び通知した代替化学名等の事項を記録する必要があり、また、健康障害のおそれがある場合には、医師の求めに応じて、成分の情報を開示することが求められます。国(厚生労働大臣)は、代替化学名等の適切かつ有効な実施のための指針を公表し、同指針に従い、通知対象物譲渡者等に対して指導等を行うことができます。

(3)作業環境測定の対象拡大(2026年10月1日から施行)

個人ばく露測定作業環境における労働者の有害な因子へのばく露の程度を把握するための測定)も、事業者が有害な業務を行う作業場で行い、結果を記録すべき「作業環境測定」に含むものとして位置付けました。当該作業環境測定は、有資格者(必要な講習を受講した作業環境測定士等)が、作業環境測定基準にしたがって実施しなければなりません。

4.機械等による労働災害の防止の促進等(2026年1月1日以降順次施行)

(1)特定機械等の製造許可及び製造時等検査制度の見直し(2026年4月1日から施行)

 危険な作業を必要とする特定機械等(ボイラーやクレーン等)に関する以下の2つの検査について、民間の登録機関が実施できる範囲が拡大されました。

a 設計審査に係る検査

 特定機械等を製造しようとする際に事前に必要となる製造許可を申請する際には、原則として、民間の機関である登録設計審査等機関による検査を受け、設計審査結果を添付することとされました。

b 製造時等検査

 製造許可後に、移動式クレーンやゴンドラを製造等しようとする場合も、民間の登録設計審査等機関の検査を受けることになりました。同機関は、定められた基準に従い、各種検査・検定を行います。

(2)譲渡等の制限等の対象となる機械等に関する規定の見直し等

a 譲渡等の制限・型式検定対象機械等に関する規定(2027年4月1日から施行)

 現行法の労働安全衛生法42条1項は、特定機械等に該当しない機械のうち一部の機械等(例:ゴムを練るロール機や防じんマスク等)につき、規格又は安全装置の具備を義務付け、譲渡や貸与、設置等を行うことを禁止しています。
 今回の改正では、これらの機械等につき、規格又は安全装置を具備しなければ、労働者に使用させてはならないこととしました。また、「作業従事役員等」が、自らその機械等を使用して、労働者と同一の場所で仕事の作業を行う場合にも、規格又は安全装置を具備していない機械等を使うことはできないとしました。ここでいう「作業従事役員等」とは、「一定数以下の労働者を使用する事業者又は個人事業者(これらの者が法人である場合には、その代表者又は役員。)」です。おおまかには、個人事業者や中小企業の代表者や役員をイメージするとわかりやすいでしょう。

b 技能講習関係の改正(2026年1月1日から順次施行)

 技能講習のうち、車両系建設機械その他政令で定める車両系機械の運転技術習得のための講習を「車両系機械運転技能講習」とするとともに、登録教習機関の登録要件等を規定しました。

(3)特定自主検査及び技能講習の不正防止対策の強化(2026年1月1日から順次(登録取消し等に関しては同年4月1日から)施行)

a 特定自主検査の不正防止強化

 フォークリフト等の一定の機械に課されている特定自主検査について、(最終的には、事業者及び個人事業者の区別により)厚生労働大臣の定める基準(所定の資格を有する一定の者による検査の実施)にしたがって行わなければならないとし、違反した場合には、検査業者の登録取消しや業務停止命令等を行うことができるものとされました。

b 技能講習の不正防止強化

技能講習修了証の不正な交付やこれと紛らわしい書面の交付が禁止されました。違反した場合には、当該書面を回収等するよう命令がされ、この命令に従わない場合に、登録教習機関に対しては、業務停止や登録取消しが行われる可能性があります。なお、登録取消しが行われた場合は、10年を超えない範囲で、登録を受けることができない期間が指定されることがあります。

5.高年齢労働者の労働災害防止の推進(2026年4月1日施行)

高年齢労働者の労働災害防止に必要な措置(高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理等の必要な措置の実施)が事業者の努力義務となりました。事業者は、今後、公表予定の「指針」に基づいた取り組みを行うことが求められ、必要な場合には指導が行われます。同指針は、現行の「エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)(厚生労働省ウェブサイト)」を参考に検討されることとされており、同ガイドラインでは、職場環境の改善として、身体機能の低下を補う設備等、主にハード面での対策を行うことが求められるほか、作業管理では、主にソフト面として、敏捷性や持久性、筋力の低下等の高年齢労働者の特性を考慮した作業内容等の見直しを行うこと等が求められているとしています(労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要(厚生労働省ウェブサイト))。

Ⅱ 企業向けチェックリスト(全業種向け)

1.個人事業者等の安全衛生関係

2.ストレスチェックの全面義務化

3.化学物質関係

4.機械等による労働災害の防止

5.高年齢労働者の労働災害防止の推進(努力義務)

6.最新情報に着目

 企業が対応しなければならない法改正等は数多くなされており、労働安全衛生関係だけでも、2026年や2027年に施行予定の労働安全衛生規則の改正法が公布されています。
 このような法改正に対応するためには、最新情報に触れることが重要です。最新ニュースや法令の情報等を把握し、折よく対応していくために、Westlaw Japanがおすすめです。

*この記事のチェックリストは、文中のリンクの他、末尾のリンクを参考に、一部、編集・加工等して作成しています。簡易化のため、適宜省略・加筆等していますので、詳細は下記リンク等をご参照ください。

(掲載日:2025年10月31日)
*この記事は作成・更新時点での情報を基に作成されています。

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