法令ガイド

 

第9号 【2026年5月までに施行】共同親権制度の導入について

文献番号 2025WLJLG005
Westlaw Japan コンテンツ編集部

【この記事のポイント】

 2024年の離婚件数は18万5895組で人口1000人当たりの離婚率は1.55でした(「令和6年人口動態統計月報年計(概数)の概況」(厚生労働省ウェブサイト))。1000人に1人以上が離婚していることになります。また、2023年の特殊離婚率(離婚件数÷婚姻件数)は38.7です。3組に1組が離婚しているといわれるのはこのためです。
 さらに、未成年の子どもがいる離婚は2023年には9万4487件で全体の51.4%にのぼります(「関係データ集」(こども家庭庁ウェブサイト))。つまり、日本では離婚全体の半数以上が未成年の子を抱える家庭の離婚ということになります。
 その状況下で、民法(家族法)等が改正され、「離婚後の共同親権」という新しいルールが誕生し、遅くとも2026年5月までに施行されることになっています。今回の民法(家族法)等の改正は、多くのご家庭に関わる大切な内容ですので、以下で解説していきます。

Ⅰ 概要

1.法改正の背景

(1)そもそも親権とは何でしょうか?

 親権とは、子どもを育て、守り、教育し、生活の面倒をみる大切な権利であり、責任です。
 例えば、

  • ・どの学校に通わせるか
  • ・病気のときの治療方針
  • ・住む場所
  • ・子どもの財産の管理

 等、子どもの生活に関わる重要なことを決める役割です。

(2)これまでのルール

 これまでは、日本では離婚した後、どちらか一方の親が「単独親権」を持つことになっていました。例えば、母親か父親のどちらか一人が法律上の親権者と決められ、子どもの大事なことを決める権利も責任もその親に集中していました。他方で、親権を持たない方の親は、子どもの大事な決め事に関われないことが多く、子どもと一緒に住んでいない場合は面会すらできなくなることもあり、親子関係が途切れがちでした。

(3)なぜ改正されるのか

 これまでの制度では、親権を持たない方の親が、子どもの重要なことを決める場に関わりにくいという問題がありました。
 「離婚しても子どもにとっては親であることに変わりはない」
 「どちらの親ともつながりを保ちたい」
 という思いを尊重し、子どもの福祉と親子関係の継続を重視して、離婚後も両方の親が子どもの育ちに関わる「共同親権」制度が導入されることになりました。

2.共同親権とは

(1)基本事項

 共同親権とは、離婚した後も父母の両方が親権を持つ制度です。つまり、日常の行為に当たらない子どもの大事なことを決めるとき、両方の親が話し合って決めることになります。
 例えば、

  • ・引っ越し
  • ・進学先
  • ・手術を受けるか否かなどの医療方針

 こうした大きな決めごとは、両親で相談して決めます。つまり、どちらかが勝手に大事なことを決めることはできなくなります。ただし、日常の行為に当たること、つまり日常生活の小さなこと(ご飯を何にするか、習い事に通わせるかなど)は、共同親権者である父母の一方が単独で判断できます。

(2)例外

 それでは、どのようなケースでも共同親権になるのかというと、全ての離婚家庭が必ずしも共同親権になるわけではありません。双方の話合いで単独親権とすることも可能ですが、例えば、暴力や虐待等、片方の親と関わることで子どもや元配偶者に危険がある場合等は、単独親権が選ばれます。
 ほかにも、両親の対立が激しくて話合いが全くできないケースや一方の親が親権者となることを拒否するケース、一方の親が行方不明で連絡が取れないケース等では、単独親権になります。

(3)どうやって決めるのか

 離婚のときに、

  • ・父母が話し合って共同親権にするか単独親権にするかを決める
  • ・話合いでまとまらない場合は、家庭裁判所が子どもの利益を考えて判断する

 という流れになります。
 なお、従来は、話し合って離婚する(離婚届を提出する)場合、離婚時に必ず親権者を決め、離婚届に記載しなければなりませんでしたが、今回の改正では、離婚の際、親権者を定めていなくても、親権者の指定を求める家事審判又は家事調停の申立てをしていれば、離婚届が受理されるようになります。
 また、父母が結婚しておらず、父が子どもを認知している場合でも、従来の単独親権のままにするだけでなく、話合い又は家庭裁判所の審判によって共同親権とすることもできるようになります。

(4)共同親権でも親権の単独行使が可能な場合等

 説明してきたように、共同親権の場合には、原則として日常の行為に当たらない大事なことは父母が共同して(話し合って)親権を行使します。
 ただし、例えば、急病で子どもに緊急の医療行為を受けさせる必要がある場合等、日常の行為には当たらないものの、父母での話合いや家庭裁判所の手続を経ていては親権の行使が間に合わず、子どもの利益を害するおそれがある場合もあります。このような「子の利益のため急迫の事情があるとき」は、日常の行為に当たらない大事なことを決める場合でも、共同親権者である父母の一方が単独で親権を行使することができます。
 また、父母が共同して親権を行使すべき事項について、どうしても父母で話合いがつかない場合もあるでしょう。そのような場合には、父又は母の請求により、家庭裁判所が父母のどちらか一方をその事項に係る「親権行使者」として指定することができます。指定された「親権行使者」は、その事項について、単独で親権を行使することが可能です。
 さらに、共同親権の場合でも、父母のどちらか一方を「監護者」と定めることで、子どもの監護をその「監護者」に委ねることができます。「監護者」は、日常の行為に限らず、子どもの財産管理を除いた子どもの身の回りの世話、教育、生活場所等を単独で決定することが可能です。「監護者」でない親権者は、監護者による子どもの監護等を妨害しない範囲において、親子交流の機会等に、子どもの監護をすることが可能です。

Ⅱ 今後の対応 New!

1.注意点

(1)冷静に話し合う

 共同親権になると、親同士のコミュニケーションがとても大切です。どちらかが勝手に物事を進めると、トラブルになります。
 また、子どもにとっては、両親がケンカばかりしているとつらい思いをします。子どもの気持ちを一番に考えて、冷静に話し合うことが大事です。
 とはいえ、暴力や虐待の疑いがある場合は、適切な支援や司法判断を活用することが重要です。

(2)すでに離婚している場合

 すでに離婚して単独親権である場合、今回の法改正によって自動的に共同親権に変わるわけではありません。元夫婦で話し合い、家庭裁判所に申し立てて共同親権に変更する必要があります。相手方の同意があることや、子どもの利益になると裁判所が認めることが必要となります。

2.養育費や親子交流等についてのルールの整備

 離婚後の子どもの生活が不安定にならないように、共同親権の導入だけでなく、養育費の取決めを確実に実行できるようにし、両親が子どもの成長に一緒に関わっていけるよう、法務省が次のようにルールを整備しています。

(1)最低限の養育費(法定養育費)の設定

 これまでは、離婚時に父母間で養育費の合意がない場合や家庭裁判所の手続がない場合は、養育費の金額が定まらず、請求してもその通りに支払ってもらえないケースが散見されました。しかし、今回の改正により、協議離婚において離婚時に養育費の合意がなくても、離婚時から引き続き子どもの監護を主として行う父母は、他方に対して、「法定養育費」を請求することができるようになります。
 法務省は、法定養育費として、子ども1人あたり月額2万円を標準額とする省令案を提示しました。したがって、子ども1人につき月2万円が基準になる見込みです。
 なお、法定養育費は、養育費の取決めをするまでの暫定的、補充的なものになります。父母の合意によって養育費の額をこれよりも増やすことはいつでも可能です。

(2)主な履行確保手段

 複数の手段を組み合わせて子どもの利益を守る仕組みになっています。

a 養育費

 養育費が支払われない場合に備え、相手方の財産を差し押さえるなどの執行措置が可能となる仕組みも整備されます。その他の債権者より優先して回収できる「先取特権」が付与されますが、その上限は子ども1人当たり月額8万円となる予定です。
 2025年9月から国民の皆さんの意見を募集(パブリックコメント)し、2026年5月までに施行(改正民法とあわせてスタート)される予定です。
 また、養育費を請求するための民事執行の手続において、①財産開示請求、②情報提供命令、③債権差押命令という一連の手続を1回の申立てで申請できるようになりました。

b 親子交流

 正当な理由なく、子どもに会わせてもらえないときは、金銭支払を命じて間接的に強制することができます。
 (例)「実施しなければ1日あたり○万円を支払え」、「1回拒否ごとに○万円支払え」などと裁判所が命じること
 なお、子の心身への影響が大きいため、直接強制はできません。また、離婚調停等の家庭裁判所での手続中に親子交流を試行的に行う「試行的実施」に関する制度も設けられています。

c 子の引渡し

 拒否した場合に、「引渡しがなされない1日につき○万円支払え」との間接強制をすることができます。
 執行官による実力行使もできますが、「子の利益」への配慮から慎重な運用がされています。

d 全体的な義務の不履行

 裁判所の審判や調停で確定した義務を履行しない場合、裁判所は、申立てにより、履行勧告・履行命令を出すことができます。例えば、調停で定められた養育費の不払や親子交流の不実施のケースにおいて、裁判所が、約束を守ってくださいと勧告したり、約束を守りなさいと命令を出したりする仕組みです。履行命令に違反すると10万円以下の過料に処せられます。

3.これから省令・最高裁規則等で定められると想定される主なもの

 法律では「枠組み・基本原則」を定め、省令や最高裁規則で「手続的・技術的な細部」を定めるのが一般的です。例えば「どのような場合に共同親権を選べるか」などは民法で規定しますが、そのために提出する用紙や提出先、通知の方法等は省令や最高裁規則で規定します。

(1)法務省令・最高裁判所規則

 養育費(法定額・履行確保)、裁判所手続の様式・通知方法等、広範な基本ルールを作ります。想定される主なものは次の事項です。

a 養育費・面会交流に関する履行確保の運用

  • ・裁判所の履行勧告・間接強制を円滑にするための届出や報告の様式
  • ・取り決めた養育費支払状況の確認方法

b 登録・通知制度

  • ・共同親権の合意や裁判所決定を市町村戸籍事務にどう通知するか
  • ・戸籍に記載する際の技術的フォーマット

c 実務上の細目

  • ・DVや虐待が疑われるケースでの情報提供や事実確認の手順
  • ・離婚後に単独親権から共同親権に変更する具体的な申立方法や相手方の同意の取り方
  • ・届出や手続のオンライン申請(マイナポータル利用等)の技術仕様

(2)厚生労働省/内閣府/こども家庭庁の府省令や告知

 子育てや生活の支援のルール作りをすることが考えられます。

a 児童扶養手当の支給要件

  • ・児童扶養手当・医療費助成の対象者の認定手続
  • ・共同親権・共同養育の導入に伴い、戸籍上「親権者が双方」の場合の手当支給事務
  • ・支給停止・併給調整の取扱いを定める省令改正

b 養育支援・家庭相談事業の運営

 男女共同参画や子ども政策(こども家庭庁との連携)に関わるため、共同養育の周知・広報に関するガイドラインを内閣府告示等で整備する可能性があります。
 制度の運用を図るため、こども家庭庁において「共同養育家庭への対応マニュアル」的な通知・告示が出る可能性が考えられます。

(3)文部科学省令

 学校・教育委員会が子どもの保護者とやり取りする際のルール整理について、教育委員会規則や文科省令で細則が出る可能性があります。

(例)
  • ・入学・転校・進学手続で「両親の同意」が必要かどうか
  • ・学校への情報開示(成績表・健康診断結果等)を共同親権の下でどう扱うか

(4)総務省の通知等

 市町村の戸籍事務を所管するため、戸籍の記載方法等を整備する可能性があります。

(例)
  • ・親権者欄の記載方法
  • ・市町村窓口での事務ルール

4.最後に

 今回の法改正では大枠が定められましたが、細かい運用ルールは、パブリックコメントや専門家による会議等を経て今後定められます。このように、対応しなければならない法改正等は、数多くなされており、対応するためには、まず、最新情報に触れることが重要です。最新ニュースや法令の情報等を把握し、折よく対応していくためには、Westlaw Japanがおすすめです。

(掲載日:2025年8月29日 更新日:2025年9月30日)
*この記事は作成・更新時点での情報を基に作成されています。

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