第7号 【2025年等施行】建設業法等改正(一般企業向け)
文献番号 2025WLJLG003
Westlaw Japan コンテンツ編集部
Ⅰ 建設業法等改正の概要
1.建設業法等改正とは?
2024年6月14日に、建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律(※)(令和6年法律第49号)が公布されました(以下、この改正法による改正後の建設業法を「建設業法」とし、改正前の建設業法を「改正前建設業法」とします。)。この改正法は、建設業が社会において担う重要な役割にもかかわらず、就労条件等を背景に就業者の減少が続いていることや昨今の急激な資材価格高騰を受けて現場技能者の賃金の原資となる労務費等がしわ寄せを受けることが予想されることを背景に、
- ①労働者の処遇改善
- ②資材高騰による労務費へのしわ寄せ防止
- ③働き方改革と生産性の向上
の3つを大きな柱に、「持続可能な建設業」の実現に向け、建設業法(※)及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(※)(以下「入契法」とします。)の改正を行うものです。
建設「業」法改正というと、建設業界のみに影響があると思われるかもしれませんが、実際には、一般企業も発注者等として影響を受ける可能性があります。そこで、本ガイドでは、本改正の概要を説明するとともに、特に、一般企業においてどのような対応が必要かについて説明していきます。
なお、2024年には、建設業法等改正と同様の目的から、公共工事の品質確保の促進に関する法律(※)(以下「公共工事適正化促進法」とします。)の改正も行われました。建設業法、入契法及び公共工事適正化促進法は「担い手3法」と総称され、2024年の改正についても3法の改正を合わせて、「第3次担い手3法」といった形で説明されることもありますが、このうち建設業法以外の2法は、公共工事に関わるものであり、建設業者以外への影響はさほど大きくはないと考えられることから、本ガイドでは、担い手3法のうち、特に一般企業にも影響があると考えられる建設業法の改正に対象を絞って説明します。
2.施行日は?
本改正法の主なトピック及び施行日は以下の表のとおりです。本改正法は段階的に施行されていますが、2025年12月中に全面的に施行される予定です。
3つの柱 | 主なトピック | 主な施行日 |
---|---|---|
①労働者の処遇改善 | 労働者の処遇確保の努力義務化 | 2024年12月13日 |
「労務費の基準」の作成・勧告 | 2024年9月1日 | |
著しく低い材料費等の見積り等の禁止 | 2025年12月13日までの政令で定める日 | |
原価割れ契約の禁止を受注者にも導入 | 2025年12月13日までの政令で定める日 | |
②資材高騰による労務費へのしわ寄せ防止 | 受注者から注文者への「おそれ(リスク)情報」の提供義務化 | 2024年12月13日 |
請負代金等の「変更方法」を契約書記載事項として明確化 | 2024年12月13日 | |
資材高騰時の契約変更協議に誠実に応じる努力義務等の新設 | 2024年12月13日 | |
③働き方改革と生産性の向上 | 働き方改革 工期ダンピング対策の強化 (著しく短い工期による契約締結を受注者にも禁止) |
2025年12月13日までの政令で定める日 |
ICTを活用した生産性の向上
|
2024年12月13日 |
3.改正の概要① 労働者の処遇改善(適正な賃金の支払等)(一部施行済)
建設業者の労働者の処遇を改善するという観点から、①労働者の処遇確保の努力義務化、②「労務費の基準」の作成・勧告、③著しく低い材料費等の見積り等の禁止、④原価割れ契約の禁止を受注者にも導入の4点につき、改正がされました。
このうち、①と②は施行済みで、③と④については、2025年内に施行される予定です。
(1)労働者処遇確保の努力義務化
本改正では、建設業者に、労働者に対して適正な賃金を支払うこと等、労働者の処遇を確保するための措置が努力義務化されました(建設業法25条の27第2項)。この措置を行うことは、あくまで努力義務であり、違反に対する具体的な制裁はありませんが、国が実施状況を調査・公表等することも予定されており(同法40条の4第1項)、本改正の趣旨を尊重し、労働者の処遇改善に努めることが期待されています。
(2)中央建設業審議会による「労務費の基準」の作成・勧告
中央建設業審議会とは、建設業法34条に基づき、国土交通省に設置され、建設業等の有識者を委員とする組織です。
本改正では、この中央建設業審議会が、新たに、建設工事の労務費に関する基準(「労務費の基準」(標準労務費))を作成し、その実施を勧告できるようになりました(同法34条2項。現在、検討されている詳細については「中央建設業審議会:労務費の基準に関するワーキンググループ」(国土交通省ウェブサイト)も参考になります。)。建設業者は、この「労務費の基準」に沿って実際に労務費を計算することが期待されており、下記(3)で説明するとおり、著しく低い労務費等で見積りを行った場合には、指導・監督処分の対象となります。
(3)著しく低い材料費等の見積り及び見積り変更依頼の禁止
建設業者は、材料費や労務費等(以下、「材料費等」とします。)の必要事項が記載された見積書を作成する努力義務を負っており、注文者から請求があったときは、この見積書を交付等する必要があります(建設業法20条1項、2項)。
本改正では、この見積書に記載すべき事項をより詳細に規定するとともに、見積書に記載する材料費等の額が、著しく低い材料費等(当該建設工事を施工するため通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回るもの)にしてはならないことが定められました。(同法20条1項、2項)。また、建設工事の注文者は建設工事の請負契約を締結する際には、この見積書の内容を考慮するよう努める必要があり、著しく低い材料費等となるような見積りの変更を求めることはできません(同条4項、6項)。
この規制に違反した場合には、指導・監督処分の対象となり、著しく低い材料費等の見積りの変更を依頼した発注者に対しては、国土交通省大臣等から勧告・公表措置がされることとなります(同条7項、8項、19条の6第3項)。
(4)軽トラック事業者に対する規制的措置
改正前建設業法においては、注文者が取引上の地位を不当に利用して、建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金額とすることのみを禁止していました(改正前建設業法19条の3)。
本改正では、建設業者が建設工事を請け負う場合(受注者)にも、原価割れの契約をすることは労務費の圧迫につながり得ること等から、正当な理由がある場合を除き、原価割れ契約を禁止することとしました(建設業法19条の3第2項)。
4.改正の概要② 資材高騰による労務費へのしわ寄せ防止(施行済)
これまで、資材価格の高騰等のリスクの負担が受注者に偏ってきたために、価格転嫁が適正に行われず労務費が削減されるという問題がありました。本改正では、このような問題を解決するために、①受注者から注文者に対する事前のリスク(おそれ)情報の通知義務化、②契約書における請負代金の変更方法の明示の義務化、③資材高騰時の契約変更協議に誠実に応じる努力義務の創設の3点につき改正がなされました。
なお、本各改正部分は、2024年12月に施行済みです。
(1)受注者から注文者に対するリスク(おそれ)情報の通知義務化
資材高騰や供給不足等、工期や請負代金の額に影響を及ぼす一定の事象が発生するおそれがあると認められるときは、契約締結までに、受注予定者が発注者に対して、その旨を必要な情報と併せて通知することが義務化されました(建設業法20条の2第2項、建設業法施行規則13条の14第2項)。
例えば、ハリケーンにより、特定原料の世界シェアの大半を持つ工場が被災したため、当該原料が出荷不能となって工期延長を求めるおそれがあるということは、このリスク情報に当たると考えられます。ただし、契約時に未発生の天災等に起因する事象については予測するのが通常難しいと考えられることから、通知が義務付けられる情報とは想定しがたいと考えられます。
また、情報の通知に当たっては、受注者が通常の事業活動において把握できる一定の客観性を有する統計資料等(例:国や業界団体の統計資料、報道記事等)に裏付けられた情報を根拠とし、書面又はメール等により、見積書交付等のタイミングで通知することが想定されています(通知の対象となる事象や通知方法等の詳細は「発注者・受注者間における建設業法令遵守ガイドライン(第7版)」(国土交通省ウェブサイト)1(2)イも参考になります。)。
注文者と受注者の双方で事前にリスク情報を共有することにより、契約の締結前には資材高騰等の際の適切な対応等に関する検討がなされ、契約締結後、実際にリスクが実現した場合には、変更協議が円滑に行われることが期待されています。
(2)契約書における請負代金の変更方法の明示の義務化
建設業法では、建築工事の請負契約の締結に際して、工事内容等、法定記載事項が記載された契約書を当事者相互に交付することが求められています(建設業法19条)。
本改正により、新たに、資材高騰に伴う請負代金等の「変更方法」が契約書の法定記載事項となりました(同条1項8号)。
そこで、建設請負契約書には、例えば、以下のような条項を最低限、記載することが必須となります。
第〇条 請負代金の変更方法
1項 材料価格に著しい変動が生じたときは、受注者は、請負代金額の変更を請求できる。
2項 変更額は協議して定める。協議に当たっては、工事に係る価格等の変動の内容その他の事情等を考慮する。
上記の例より進んで、例えば、変更額の計算式等を契約書に盛り込むことも可能です。一方、請負代金等の変更方法は法定記載事項のため、契約につき「契約変更を認めない」という契約を締結することはできません。
(3)資材高騰時の変更協議へ誠実に応じる努力義務等の創設
上記(1)で説明したリスク情報を注文者に通知した建設業者は、実際に当該事象が発生した場合、注文者に対して工期・工事内容・請負代金の額の変更についての協議を申し出ることができるようになりました(建設業法20条の2第3項)。
協議の申出を受けた注文者は当該協議に誠実に応じるよう努めなければなりません(努力義務、同条4項)。(なお、公共工事においては、注文者は当該協議に誠実に応じる義務を負い(公共工事適正化促進法13条2項)、例えば、協議の開始自体を正当な理由なく拒絶した場合等は、この義務に違反すると考えられます。)
5.改正の概要③ 働き方改革と生産性の向上
(1)働き方改革:工期ダンピング対策の強化
工期ダンピングとは、著しく短い工期で請負契約を締結することです。
かねてより、注文者による工期ダンピングが禁止されてきました(建設業法19条の5)が、本改正により、受注者の発意による工期ダンピングも禁止されます(同法19条の5第2項)。注文者側だけでなく、受注者の側からの工期ダンピングも禁止することにより、建設業の労働者の働き方が改善されることが期待されます。
本改正の施行日は、2025年12月13日までの政令で定められる日です。
(2)生産性の向上
工事現場におけるデジタル技術の活用により、施工管理業務の効率化が進められていることから、①現場技術者の専任義務の合理化(建設業法26条3項、26条の5)、②施工体制台帳(同法24条の8第1項)の提出義務の合理化(公共工事のみ。(公共工事適正化促進法15条2項))、③特定建設業者等に対してICT活用による効率的な現場管理の努力義務化等(建設業法25条の28)が行われました。この改正に伴い、「情報通信技術を活用した建設工事の適正な施工を確保するための基本的な指針(ICT指針)」(国土交通省ウェブサイト)も作成されており、同指針においては、発注者も、ICT活用の重要性を理解し、取組を進めることが重要であるとの記載があります。
本改正部分は、2024年12月に施行済みです。
6.企業への影響
建設業法等の改正は、建設業界のみならず、特に、建築請負契約等の発注者として関与する一般企業には、以下のような影響があると考えられるため、対応を検討することが重要です。
①受注者から注文者に対するリスク(おそれ)情報の通知義務化
発注者が受け取った見積りにつき、著しく低い価格の材料費等への変更を依頼することは禁止されるようになります。違反した場合には、勧告・公表の対象となるため、現場担当者等が無理な価格交渉をすることがないよう、この点を十分に周知することが重要でしょう。
②請負代金等の増額や工期変更等のリスク管理
本改正では、受注者が契約締結前に資材価格高騰等のリスク情報を通知する義務を負う一方、実際に通知されたリスクが現実化した場合には、発注者も、努力義務ではあるものの、代金増額や工期変更の協議の申出につき、誠実に応じるべき旨が規定されました(なお、「発注者・受注者間における建設業法令遵守ガイドライン(第7版)」(国土交通省ウェブサイト)上、事前に受注者から発注者に通知していないものが契約締結後に生じた場合であっても、通知されていなかったことのみをもって発注者が受注者から申し出られた契約変更協議を拒む理由にはならず、事前通知を受けた際の対応に準じて誠実に協議に応じることが求められることが明記されています。)。これにより、場合によっては、実際に、代金が増額されたり、工期が延長されたりする可能性があります。
このうち、特に代金については、変更方法を契約書に記載しなければなりません。契約に際しては、建設工事標準請負契約約款等を利用することも多いとは思われますが、実際の契約締結後の代金増額に係る協議は、契約書の記載に基づき行われると考えられるため、通知されたリスク等を基に、変更方法が許容範囲内のものであるかなどにつき、事前に慎重に検討することが重要でしょう。
また、社会情勢の変化に加え、本改正により著しく低価格の見積りや著しく短い工期等による請負契約は禁止されることになることからしても、従来よりも、請負契約の代金が高額となり、工期も長期になり得ることが予想されます。事前通知されたリスク情報等も踏まえ、代金・工期とも、事前に無理のない計画を立てておくことで、円滑なプロジェクトの進行を確保することができるでしょう。
Ⅱ 建設業法等改正対応チェックリスト(一般企業(注文者)向け)
1.契約(価格等)交渉時
2.内部調整時
工期等の変更に関わる一定のリスクに関しては受注予定者に通知義務があります(建設業法20条の2第2項)。この情報等を基に、請負契約のリスク評価を適切に行いましょう。
事前に通知されたリスクのほか、著しく低価格な見積り等(建設業法20条)や原価割れ契約(同法19条の3)、著しく短期の工期による契約(同法19条の5)が禁止されることを踏まえ、現実的な代金や工期等の計画を立てるとともに、リスクが顕在化した際に備えたバッファー等についても検討しておくと、良いでしょう。
3.契約締結時
4.契約締結後
*なお、事前に受注者から発注者に通知していないものが契約締結後に生じた場合であっても、通知されていなかったことのみをもって発注者が受注者から申し出られた契約変更協議を拒む理由にはならず、事前通知を受けた際の対応に準じて誠実に協議に応じることが求められると考えられます。
5.最新情報に着目
建設業法等改正のように、企業が対応しなければならない法改正等は、数多くなされており、対応するためには、まず、最新情報に触れることが重要です。最新ニュースや法令の情報等を把握し、折よく対応していくためには、Westlaw Japanがおすすめです。
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(掲載日:2025年5月30日)
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