USMCAにおける自動車原産地規則 (2)

(3) 労働価値割合

箱田:続いて、労働価値割合についてのご説明をお願いできますでしょうか。

平家: 乗用車の生産者は、40%の労働価値割合を満たす必要があります。これも、従前のNAFTAにはなかった要件で、一定レベル以上の労働条件(本件では賃金水準)で作成された自動車部品等の利用を求める要件です。

箱田: この労働価値割合は、どのようにして算出されるのでしょうか。

平家: 労働価値割合は、乗用車の生産者の、①高賃金材料・製造費用(high-wage material and manufacturing expenditures)、②高賃金技術関連費用(high-wage technology expenditures)、③高賃金組立費用(high-wage assembly expenditures)に基づき算定されます。

箱田: それぞれについて、簡単にご説明をお願いできますでしょうか。

平家: まず、①高賃金材料・製造費用とは、平均賃金が時給16ドル以上の北米工場で生産された部品の年間購入額や、時給16ドルの時給条件を満たす組立工場の労務費などに基づき算定されます。そして、乗用車の純原価などに占める、この費用の割合が、25%を超えている必要があります。 

次に、②高賃金技術関連費用ですが、これは、北米で、R&DやIT(ソフトウェア開発や車両通信など)に携わる労働者の労務費などに基づき算定されます。北米における乗用車生産に係る労務費合計に占める、この費用の割合が、最大10%まで考慮されます。 

最後に、③高賃金組立費用ですが、これは、乗用車の生産者が、北米に、平均賃金が時給16ドル以上のエンジン、トランスミッション又は先進電池の組立工場を有することなどを示した場合、最大5%まで考慮されます。

箱田: 時給16ドルの要件というのが、特に新聞等を賑わせておりますが、これについてはいかがでしょうか。

平家: 時給16ドルの要件は、米国やカナダの工場は満たすことが可能ですが、メキシコの工場は困難と報道されています。その意味で、特に①高賃金材料・製造費用と③高賃金組立費用の要件は、事実上、米国産又はカナダ産の自動車部品の使用を義務付ける効果があるとの指摘もなされてるところです。また、この要件は、企業が、生産工程を、労働賃金の高い先進国(米国、カナダ)から、労働賃金の低い途上国(メキシコ)に移転するのを防ぐ役割もあります。昔見たアメリカの映画で、米国の労働者が待遇改善を求めたところ、使用者が、「米国工場を閉鎖し、メキシコに工場を移転するぞ」と脅していた場面がありましたが、まさに、そのような状況を念頭にした規定ではないかと思います。

3. 経過規定

箱田: これらの規則は、協定の発効日から即日有効となるのでしょうか。

平家: 域内原産割合と労働価値割合の基準は、2023年1月1日又は協定発効日から3年の遅い方の日に当該基準が満たされるよう、2020年1月1日又は協定発効日の遅い方の日から、毎年基準が引き上げられることとなっています。ただし、域内原産割合が62.5%以上あり、北米産鉄鋼・アルミニウムの購入義務を満たしているなど一定の条件を満たす場合、2025年1月1日又は協定発効日から5年の遅い方の日まで、代替的な基準(alternative staging regime)の適用が認められています。

箱田: 利益を享受できる台数などの制限はありますか。

平家: これらの利益を享受できるのは、原則、協定発効日前の北米年間生産台数(直近12ヶ月又は直近36ヶ月間の平均のうち多い方)の10%に限定されています。ただし、乗用車の生産者は、協定発効日から5年以内に、新自動車原産地規則に関する全要件を満たすことができる「詳細で信頼できる」計画を示した場合、上記台数上限を増やすことができます。

箱田: この経過規定は、どのような意味を有しますか。

平家: 今回の新規定により、自動車会社は既存のサプライチェーンを組み替える必要が出てくると考えられます。本経過規定は、事実上、新規定の順守を2年間遅らせることを認めていますが、米国通商代表部に、将来的に要件を満たすことができる「詳細で信頼できる」計画を示す必要があり、自動車会社により、置かれる状況が異なってくる可能性があります。

4. サイドレター

箱田: 関連して、米国の通商拡大法232条に関するサイドレターについておうかがいしたいと思います。

平家: そうですね。米国通商代表部は、米国の通商拡大法232条に関するサイドレターも公表しています。 

米国は、2018年5月18日、通商拡大法232条に基づく自動車・同部品への追加関税の要否について調査を開始していますが、サイドレターは、仮に同措置を発動する場合も、メキシコ及びカナダから輸入される乗用車は各年間260万台(年間)まで、自動車部品は年間1,080億ドル(メキシコ)又は324億ドル(カナダ)まで、追加関税の対象外とすることを明らかにしています。米国の乗用車に対するMFN税率は2.5%に過ぎないため、域内原産品と認められなくても影響は大きくない可能性がありますが、仮に232条に基づく追加関税が賦課されると、域内原産品と認められるか否かにより大きな影響が生じます。 

(なお、米国が、別のサイドレターにて、通商拡大法232条に基づく追加関税等を発動する場合、同措置の発動後最低60日間は両国への措置発動は行わず、両国間で協議することに合意しています。また、カナダ政府及びメキシコ政府は、通商拡大法232条に基づく米国の措置が、現行NAFTA、USMCA、WTO協定に整合的でない場合、対抗措置を取るとともに、WTOに提訴する権限を有することを確認しています。)

箱田: 最後に、企業としてどのような姿勢で臨んだらよいか、一言コメントを頂戴できますでしょうか。

平家: 現在は、今までの通商制度の枠組みが大きく変動する時期にあると感じます。このような状況に対応するには、問題となっている措置に個別に対応するのでなく、その政策的な目的や、他の措置との関係なども踏まえて、総合的に対応していくことが重要と考えます。西村あさひ法律事務所では、WTO協定や経済連携協定といった国際通商法に関連する分野における民間企業や官公庁の代理人としての豊富な経験に加え、日本政府、世界貿易機関など関係官庁・国際機関において通商法実務の経験ある弁護士を多数擁しており、このような観点から、内外の依頼者のために積極的な活動を行っています。

お話をうかがったのは:
弁護士 平家正博氏(プロファイルはこちら

※ 本稿のうち、意見にわたる部分は話者の個人的見解であり、話者の所属する事務所の見解を示すものではありません。