NAFTA再交渉

著者:Kellie Gryga

2016年の米国大統領選における焦点の一つは、NAFTAを中心とする自由貿易でした。二人の有力候補者は、一つの重要ポイントについては意見が一致したと見られ、それがNAFTA見直しの必要性です。選挙戦は決着がつき、新大統領は現在100日間のハネムーン期間にあります。大統領はこれまで、米国に雇用を取り戻し、国内労働者を救うためにNAFTAを見直すと明言してきましたが、当事者国トップとの会談ややり取りが数回行われているものの、再交渉の具体的内容についてはいまだ示されていません。

米国は過去に自由貿易協定の再交渉を行った経験がなく、これらは未知の領域です。大統領権限としてNAFTAなどの協定の再交渉を認めるルールはいくつかありますが、大統領が実際にどのような方向性を目指すのかは、現時点では明らかではありません。

米国では、小学5年生になると大統領が行政機関の長であることを学びます。つまり、実質上、大統領は議会が制定した法を実施することになります。すべての大統領権限は、憲法の明示または憲法からの推論に基づき、憲法または議会が付与するものです。[1] 大統領はこの範囲内で執務を行わなければなりません。一方的に見える大統領命令についても、もちろん現行法における根拠が必要です。[2] 

大統領権限として自由貿易協定の再交渉が認められる余地はいくつかあります。大統領には、自由貿易協定そのものの施行法、または先頃、2015年に見直された貿易促進権限法(TPA)に基づき一定の権限が認められています。[3] 

TPA規定は、議会権限を大統領に一任し、関税・輸入税を課す国際協定の締結を可能にするものです。TPAでは、協定の承認を議会が修正権を持たない 「ファストトラック権限」 手続きに置くことで、こうした類の自由貿易協定を妥結する大統領権限が認められています。議会ができるのは賛成・反対の投票のみであり、その協定に対する議会の影響力行使が制限されることになります。驚くべきことに、1つを除き、米国が関与するすべての自由貿易協定がTPAに基づき成立しています。[4] 

再交渉に関する限り、TPAは、所定要件を満たすことを条件に、大統領に協定再交渉の権限を与えることができます。

・ 大統領は、再交渉開始90日前までに議会に通告する必要があります。これは、交渉に関する目的の明確化と、下院歳入委員会および上院財政委員会との協議を大統領に求めるものです。

・ 開始30日前までに、米国通商代表部(USTR)ウェブサイトで目的を告示し、この中で再交渉の目的がどのように国益に寄与するかを説明する必要があります。

このほかNAFTA施行法でも、大統領権限として協定の改定を認めています。この施行法は、要するに「わかりました。米国はNAFTAのルールに従いますので、これがそのための法令です」と表明する議会が可決した国内法です。施行法は、NAFTAの合意事項に従うために大統領またはその他機関が為すべき行為を示し、この中で、大統領による一方的な輸入税・関税または原産地規則の改定が明確に認められています。そのための手段として用いられるのが大統領命令または大統領告示です。

この一方的な原産地規則改定措置は、議会承認を必要とせず、実際に過去のNAFTA改定にも用いられた事例があります。これまでにも、当事者3カ国が原産地規則に関する取り決めを変更してきました。こうした改定は、施行法によって大統領に認められた権限の範囲内で行われたものであり、議会承認を必要としませんが、ただし、原産地規則または輸入税の範疇を超える改定については、大統領は再交渉を開始する前に議会への通告と然るべき告示を行うことが義務付けられています。

手短にまとめると、大統領には、原産地規則の改定のみならず、NAFTAを再交渉する権限があり、議会承認なく原産地規則および輸入税の改定を行うことができますが、ただし、それ以外の変更については所定の手続きを経る必要があります。また、再交渉の論点について議会に通告し、その目的を通商代表部ウェブサイトで告示しなければなりません。新大統領がNAFTAの再交渉について何らかの動きを見せるであろうことは周知の通りですが、その時期は定かではありません。NAFTAに関係する各企業にとっては、何が再交渉のポイントになるのか、少なくとも90日前通告は確保されていることになります。

 

典拠

[1] 大統領には3種類の権限に(憲法に基づく憲法上の権限、議会が付与した委任権限、憲法に明文ないものの推察される固有の権限)が認められています。協定を締結する権限は、憲法第2条に行政協定の締結権は固有の権限であると定められているため、憲法上の権限となります。

[2] 大統領命令とは、現行法を特定の方法で実施するための命令または法の執行方法に関する指示です。

[3] 1974年に成立した最初のTPAは失効し、その後何度も再承認されています。直近のTPAは、「Bipartisan Congressional Trade Priorities and Accountability Act of 2015(2015年超党派議会貿易優先権説明責任法) (TPA-2015)」と呼ばれ、2015年6月29日にオバマ大統領が署名し、成立しました(P.L 114-26)。

[4] TPAに基づかず成立した唯一のFTAは、米国・ヨルダン協定です。