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6 01, 2018

最先端テクノロジーと国際貿易の未来

著者:Saurabh Pandey

今日、あらゆる組織が、品目分類、ライセンス管理、配送追跡や、サプライチェーン内全体のコンプライアンス管理などの国際貿易に関連した多くの課題に絶えず対処することを強いられています。こうした分野は最新のテクノロジーおよび自動化技術を用いることで効率的な管理を行うことができます。

人工知能(AI)、ブロックチェーンおよびインターネット・オブ・シングス(IoT)は、テクノロジーの将来を語る際によく知られた用語となりました。そして今日ではこうした最先端テクノロジーはより良い将来に向けたイノベーションを加速させるため、これらなしに自動化を語ることはできないと言えるでしょう。私たちの日々の生活はこうしたテクノロジーに何らかの形で影響を受けており、国際貿易もその例外ではありません。こうした最先端テクノロジーは国際貿易プロセス全体をシンプルにし、機械学習といった解決策を持って国際貿易を後押しすることで、プロセス全体の改善に向けた重要な役割を果たしています。

人工知能(AI)

決められた役割だけを果たす従来型のERPやソフトウェアと異なり、人工知能(AI)、つまり機械学習は、システム、あるいは一連のシステムが様々な処理において経験したことから常時学習し、結果をより良いものとするようその変化に対応します。AIは、品目分類[注] 、顧客需要の予測、受注管理などといった様々な煩わしい作業を取り扱う際に大いに役に立ちます。AIは、国際貿易プロセス全体を効率化し、非効率なプロセスに関連したコスト削減をもたらす可能性がある新しい技術として極めて有能なものです。AIはまた、安全ではない、または不正確な取引を特定し、相手先と事業を行うことで企業のサプライチェーンに対するリスクをもたらすとして監視リストに掲載されている可能性のある取引の関係先を特定することを学習することもできます。この場合、AIは取引の評価を行い、適切な行動がとれるよう適時にそれぞれの利害関係者や政府当局に通知を行います。適切なタイミングで適切な情報を得ることができることで、利害関係者や政府当局は悪意のある性質の取引や、または誤った結論を回避するようすぐにアクションをとることができるようになります。

以下は、今日においてAIが国際貿易を促進している事例です:

  • モントリオールを拠点とした国際貿易管理(GTM)ソフトウェア企業である3CEは、HS分類およびHS番号検証プロセスのAIを用いた自動化に特化したシステムを開発しました1。
  • 世界税関機構(World Customs Organization)の、品目分類競技会(classification competition)において、3CEはAIテクノロジーを用いて93パーセントのスコアを獲得しました。一方、政府専門家の正確性の平均は77パーセント、民間セクターの専門家の平均は68パーセントでした1。

ブロックチェーン

ブロックチェーンは、分散型台帳システムを通じてデータや取引の安全を確保する画期的な機能をもたらしたため、注目されています。ブロックチェーンは元来ビットコインの開発のサポートを目的としていましたが、ビットコインがブロックチェーンに依存していることからこのテクノロジーに対する認識が高まりました。ブロックチェーンは、永続的かつ改竄防止の機能を備えたデータの記録を行い、ブロック(台帳)に束ね、それらのブロックは一連のチェーンとしてP2P(ピアトゥピア)ネットワークを通じて分散管理されます。各ブロックにはタイムスタンプ(時刻の記録)が割り当てられ以前のブロックに紐付けされるため、全ての取引が時系列で記録されます。情報に変更がある度ごとにブロックチェーン全体で記録がなされるため、プロセスの透明性を図り不正行為の影響を受けません。これはつまりあらゆる判断に対する可視性が向上し、完全に監査可能で優秀な記録管理を備えたデータであることにつながる、ということを意味します。

今日において、ほとんどの業界や政府がブロックチェーン技術の潜在的な活用方法を模索しており、場合によっては国際貿易における大きな課題に対する解決策ともなりえるのではないでしょうか。例えば、米国において税関・国境警備局(CBP)がブロックチェーン技術を用いて北米自由貿易協定(NAFTA)や米国・中米・ドミニカ共和国自由貿易協定(CAFTA-DR)の原産地証明書のパイロット運用を開始しています。

国際貿易は、輸入業者、輸出業者、通関業者、海運代理店、銀行、港湾当局、税関や様々な政府系協力機関といった数多くの利害関係者で構成されています。こうした利害関係者は、輸入または輸出取引のプロセスにおいてもそれぞれ重要な役割を果たしており、重要情報の紛失や改竄のリスクと常に隣り合わせです。万が一のことがあった場合は、企業が倒産に陥る可能性もあることから、発送品の移送におけるリスクや港湾における通関時の問題を取り除くため厳格なコンプライアンス・チェックを実施せざるをえなくなります。しかし、こうしてチェック項目を増やしていくことはプロセス全体の遅延につながり得ます。ブロックチェーンを用いれば、高いデータセキュリティにより、中央で一元管理しながらも情報は暗号化技術を通じて複数のコンピューターによって安全に管理され、情報や文書は同期化されあらゆる種類のデータ偽装や改竄を防ぐことが可能になります。

不正のない情報がしっかりと保証されれば、文書作成やデータの流れはよりスムーズになり、コンプライアンス違反のリスクを軽減することが可能になります。現在ブロックチェーンが様々な組織でどのように用いられているか、以下のような事例があります:

  • 昨年IBMと海運会社大手マースク(Maersk)は、何百万ものコンテナを世界各地へ移送する文書の管理および追跡のためのブロックチェーン・ソリューションの開発の協業を発表しました2。
  • バークレイズ銀行は初のブロックチェーンベースの貿易金融取引(10万米ドル)を2016年9月に公表しました3。
  • インフォシス・フィナクルは、7行の主要銀行との共同企業体としてインドにおけるブロックチェーンベースの貿易ネットワークを開拓しました4。

以上の事例は、様々な組織がすでにこの革命的テクノロジーの採用を始めており将来においてはさらに多くの事例が見られるようになることを端的に表しています。

インターネット・オブ・シングス(IoT)

もうひとつの最先端テクノロジーはIoTであり、これは基本的に接続されるとお互いに情報を共有する電子装置、ソフトウェアやセンサーが組み込まれた物理的な端末(すなわち自動車や家電など)のネットワークのことを指しています。GPS技術を用いて場所の追跡を行う自動車やセンサーを用いて温度やセキュリティの維持を行う端末などがその例です。

企業のサプライチェーン内でIoTを用いることで、配送における可視性は格段に向上し、結果として配送計画に関わる利害関係者を全員を手助けすることになります。IoTは船舶管理や港湾における渋滞緩和の試みにおいても港湾当局の役に立ちます。IoTの活用事例には以下のようなものがあります:

  • スイスのスタートアップ企業であるmodum社は、医薬品の輸送の際の温度を適正維持するために、IoTをブロックチェーンを用いています5。
  • マースクは、遠隔コンテナ温度管理システムを通じたIoTを用いて、ユーザーがコンテナの追跡をできるようにしています6。

国際貿易のエコシステムにおける最近の進展は、様々な政府や組織がこうした最先端テクノロジーが、明らかに利益をもたらすことがかってきため、積極的に導入していきたいという関心の高まりを示しています。国際取引のコンプライアンスにおいてこうした最先端のテクノロジーを取り入れる際には、サプライチェーンが地政学的出来事やリスクから大きな影響を受けやすいエリアであることから、多くの課題があります。国際取引のコンプライアンスには、様々な政府の制度、国をまたぐ様々な組織、またサービス提供業者をうまく取りまとめていくことが必要不可欠であり、そうすることで自動化や国際貿易を支える新しいテクノロジーを更に進めていくことができるようになります。

異なる国の政府や組織が、国際貿易をより簡便で安全なものにするため、近代的なテクノロジーやイノベーションを用いて共通のプラットフォームを作り上げ、力を合わせていくには土台は整ったのではないでしょうか。

Source

  1. Global Trade Is Powered by Artificial Intelligence
  2. Maersk and IBM to form joint venture applying blockchain to improve global trade and digitise supply chains
  3. Barclays says conducts first blockchain-based trade-finance deal
  4. Infosys Finacle Launches Blockchain Based Trade Finance Solution
  5. modum.io
  6. RCM - Responding to customer needs

[注] 同分類(統計品目:HS)は、品目名称・分類システムであり、全ての商品が税関で認識される基礎をなし、世界中の税関当局で用いられています。