再交渉後のNAFTAとは:自動車業界への影響(1)

著者:Eric Miller

NAFTA:効果と不満

発効から20年を過ぎた北米自由貿易協定(NAFTA)が、再び米国貿易政策の中心議題に戻ってきました、ドナルド・トランプ候補は、カナダ・メキシコ・米国間で結ばれているこの協定を「大失敗」と攻撃し続け、再交渉を明言しました。そして、大統領の座を射止めた今、公約を果たすべく動き始めています。

NAFTAは、当初の交渉中にも大きな議論を巻き起こし、批判者らが、雇用がメキシコに流出する「巨大な吸引音」がするに違いないと主張する一方で、クリントン政権やビジネス界を含む賛成派は、協定は全員の取り分を広げるものだと反論しました。議会が説き伏せられた結果、NAFTAは1994年1月1日に発効しました。

NAFTAによって、締結3カ国の財・サービス・投資統合市場が構築され、その結果、多くの企業が4億ドル規模を超える米・墨・加市場内で販売活動を始めただけでなく、生産網が北米大陸全域に拡大しました。

こうした市場統合の先頭にいたのが自動車業界です。1965年自動車協定が米国とカナダ二国の自動車産業統合を目的としていた一方、NAFTAは、北米自動車生産システムにメキシコを完全に引き入れるものでした。1990年には6%であったメキシコでの軽量自動車生産の割合は、現在は20%に拡大しています。

NAFTAによって生み出された競争力をばねに、各自動車メーカーがコストとサプライチェーン体制の合理化をかつてなく慎重に推し進めた結果、主要部品・半組立品は、自動車完成車に組み込まれるまでに最大6回、米国・カナダ間、米国・メキシコ間の国境をまたぐことも少なくありません。

NAFTAは物品が大陸内を滞りなく移動するように細かく調整されたシステムを作りましたが、アメリカの中心地では協定に反対する声が止むことはなく、多くの国内地域では、NAFTAはグローバル化の弊害、貿易のマイナス面の代名詞のように受けとめられるようになりました。貿易によって不利益を被った人々に対する有効な貿易調整支援や、協定支持に対する持続的反対論がないまま、トランプ流批判用のテーブルが用意されるに至りました。

 

NAFTA再交渉

では、NAFTA再交渉について、これまでに何がわかっているでしょうか。

就任初日、トランプ大統領は、「アメリカの労働者が公正な扱いを受ける」ための協定を求めていくと述べました。仮にカナダとメキシコが拒んだ場合、米国は、NAFTA脱退の意志を通告することになるでしょう。商務長官に就任予定のウィルバー・ロス氏が米国を代表して交渉を指揮しますが、ロス氏は、上院で「NAFTAのすべての側面が協議の対象となる」と言明しています。

カナダやメキシコ側でも、交渉策の準備に乗り出し、両政府ともに担当組織を立ち上げました。メキシコは、協定において何を追求すべきか、国内での公式協議を開始しています。

可能性が濃厚であるのは、米国がNAFTAの代わりにメキシコとカナダそれぞれとの二国間協定に分割する道を選ぶことです。このシナリオの場合、現在の三国間協定がどの程度残されるのか明らかではありません。二国間主義は、カナダとメキシコが米国との特定の問題について特定の解決策を求めることができるという意味においてはメリットがあります。ですが、米・加・墨協定の完全分断は、サプライチェーンに対して甚大な影響が予想されます。

トランプ政権は、貿易を、自国と他国との相対的貿易収支を唯一重要なスコアカードとするゼロサムゲーム(ゲーム理論)と考える傾向があります。大統領上級顧問、ピーター・ナヴァロ氏は、「国際サプライチェーンを本国に戻すこと」が最優先課題の一つだと述べています。

米国とカナダの比較的均衡のとれた貿易収支を踏まえ、トランプ政権は、カナダを「問題の種」とは考えていないとの見解を示しています。

対照的に、メキシコは大幅な対米貿易黒字国です。トランプ政権は、(国境税を課すとプレッシャーを与えるなどの手段で)投資をメキシコから国内に戻すことでこの格差を解消したいと考えています。サプライヤーは、小規模であるほど特に北米サプライチェーン内の混乱の影響を受けやすくなります。平均するとメキシコから米国への輸入品の40%が米国原産品です。

米国貿易促進権限の規定に従い、トランプ大統領は、NAFTA再交渉の意向を交渉開始90日前までに議会に通告する必要があります。その際、大統領には、議会の同意なく関税を課すことができる非常に大きな権限はありますが、協定のそれら以外の領域に関する改定は、立法府を明確に関与させる必要があります。

交渉が実際に動き出すまでには数カ月かかるとみられ、主要当局者も、重要な戦略判断も確定していません。

 

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