Thomson Reutersスペシャルレポートシリーズ 

アジア貿易管理の
外的要因と障害

この度、トムソン・ロイターは最新の国際貿易レポート『アジア貿易管理 の外的要因と障害』を刊行し、皆様にアジア地域の貿易に関する現状を解説し、その洞察をお届けいたします。

世界の貿易態勢の先行きが不透明な中、サプライチェーンにおける複雑な懸念事項が、ビジネスリーダー、政府、規制当局にとって不安の種とな っています。

サプライチェーンの破壊的変化は、アジア諸国および世界中の製品・サ ービスの流通にも変化を与え、エネルギー資源から食料品、電子機器に至るまで、多くの消費者が供給不足による影響を受けています。

この混乱の中、貿易規制の改革が進められており、自由貿易協定(FTA) によるさらなるビジネスチャンスが開かれることになるでしょう。大規模なサプライチェーンの速度向上やアジア地域の経済活性化が期待されており、このFTAを適切に活用することで国際貿易従事者は、より柔軟に新たな市場や顧客を対象にすることができます。

アジア企業の経営者は、幅広い課題やビジネスチャンスに対して戦略的に対応しています。サプライチェーンの脆弱性への対処として多様化が 進められており、また大多数の企業はデジタル化を優先的に進めていま す。

今回の特別レポートは、国際貿易を形成している外的要因を観察するだけでなく、透明性を妨げる主要な「障害」を明らかにします。これらの障害の影響を減らすことにより、ビジネスリーダーが今後どのような外的要因に直面したとしても、より効果的に対処できるようになるでしょう。

アジア貿易管理

の外的要因と障害

この1年間、アジア企業は貿易環境の変化に直面しており、各事業部門における急速な変革を迫られています。

度重なる混乱の中で国際貿易の現場では、多くの課題が表面化してい ます。アジアに拠点を置く企業の経営者は、前回のレポート『アジア企業の国際貿易に関する10の発見』で述べたように、国際貿易における 障壁のトップ3として、「供給の混乱(54%)」、「透明性の欠如(48%)」、 「変化が多く複雑な規制(48%)」を国際貿易における障壁のトップ3 に挙げています。 

今回のレポートでは、アジアの国際貿易に影響を与える地政学的な外的要因とともに、サプライチェーンマネジメントの透明性を妨げる多数の障害を特定していきます。アジア地域の200名の経営者を対象とし た調査から得られたデータ元に、変化を遂げた世界で注目すべき事象を明らかにします。  

調査方法

2021年のトムソン・ロイター・スペシャルレポートシリーズ「アジアにおける国 際貿易混乱の正体」には、中国、日本、シンガポールの200人の企業貿易マネ ージャーからのアンケート結果により作成されました。

調査はトムソン・ロイターに代わり、iResearch Services(アイリサーチサービス)が実施しました。また2021年3月と4 月に中国、日本、シンガポールの合計5人の国際貿易関連上級幹部に一連の詳細なインタビューも実施しました。

地政学的な要因による影響

今日の国際貿易で特筆すべきこととしてまず挙げられるのは、サプライチェーンに対して予測困難な多数の障壁があることです。

サプライチェーンに影響を与える外的要因は、様々な領域におよび、新たなアジア貿易の潮流となっています。ビジネスリーダーは、出荷の遅延から、急速なコスト増加、そして前例のな い新たな需要に至るまで、国際貿易における多くの障害に直面しています。

このチップ不足という事態により、自動車をはじめとする製造業のサプライチェーンが大きな 打撃を受けており、乗用車、スマートフォン、工作機械に至るまで、多くの製品の生産計画に 影響を及ぼしています。

輸送費の高騰も課題です。コロナ禍における港湾労働者の安全確保のため、アジアの複数の港湾が一時的な操業停止を余儀なくされており、出発地と目的地の双方で港湾施設の混雑が生じています。積出しペースは緩慢にな り、アジア各国では輸送コンテナの返却の際に遅延料金を課す国も出始めています。コロナ禍で航空貨物施設数が減 少したことも要因となり、引き続きビジネスを混乱させ ています。 

 

リードタイムの 長時間化とコスト高騰

当然ながら、現在の地政学的状況は、 当社の国際貿易およびサプライチェーン 管理に大きな影響を与えています。例えば、今回のパンデミックに起因したリードタイムの長期化と輸送コストの増加が挙 げられます

混沌としたグローバルサプライチェーンの状況から地域経済を守るための貿易政策が策定された結果、国境を越えて製品を輸出入する企業は、複雑な関税、輸出管理ルール、各国の制裁を想定してビジネスを展開しなければなりません。 アジアに拠点を持つ企業の経営者は、国内市場を戦略の軸に組み込むことで、業務の回 復力とコンプライアンスを維持しています。

RCEP、CPTPP、FTAの経済連携

多国間貿易交渉と新たな自由貿易協定(FTA)が開始されたことで、円滑なサプライチェー ン安定化への道が開かれ、多くのビジネスチャンスを生んでいます。 

税関管理への対処

現地の税関管理は厳しくなり、外国への輸出許可の取得がますます困難になっています。その上、現地税関からの貨物検査件数が増えてきています

現地化への移行

国際貿易は、コストよりもリスク管理を優先し、現地化を進めています。 また、重要な原材料を確保するために地理的および地政学的リスクを評価するリスク管理を始めました

RCEP

地域的な包括的経済連携協定(RCEP)は世界最大の自由貿易協定(FTA)です。これは、同協定に署名した参加国の15カ国が新しい貿易協定の支持を表明、保証するものです。

RCEPの署名国の日本、中国、韓国の3カ国にとっては共同で着手した初の多国間貿易協定となり、これにオーストラリア、ニュージーランド、およびASEAN10カ国が批准します。 

2021年11月2日、RCEPは、ブルネイ、カンボジア、中国、ラオス、シンガポール、日本、タイ、ベ トナムに続いて、オーストラリアとニュージーランドが批准を達成するという大きな節目を迎えました。RCEPは、ASEAN加盟国6カ国と非ASEAN加盟国3カ国で構成される批准基準 に達し、2022年1月1日に発効します。

RCEPの創設に携わったシンガポールの貿易産業省・主任貿易スペシャリスト、エリザベス・ シェリアは、RCEPをビジネス上の意思決定を導く「共通のルールブック」であると表現して います。

「RCEPにより、貿易コンプライアンスの専門家がどこで、どのような情報が得られるか、国 境や国内で直面する問題への対処法を簡単に知ることが可能になります。 」 とトムソン・ロ イターによるインタビューで述べています。

CPTPP 

アジア地域の国際貿易情勢を形成するもう一つのFTAは、環太平洋パートナーシップのための包括的かつ進歩的な協定(CPTPP)です。経済大国の日本とシンガポールをはじめ、マ レーシア、ベトナム、ブルネイ、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、チリ、メキシコ、ペ ルーが同協定に参加します。英国は2021年2月にCPTPPへの加盟を正式に要請し、日本を含む加盟国と協議を続けています。

KPMG社の貿易税関部門パートナーのレオニー・フェレッター氏は、FTAを適切に活用することで大きな価値を得られる一方、リスクも伴うと警告しています。

「アジア地域には世界的に見ても数多くの自由貿易協定があるため、これらの協定を無視してサプライチェーンの変更を加えると、市場進出した先での設定価格に悪影響を及ぼす可能性があります」 

国際貿易の
成功を妨げる障害

今日の国際貿易を形作る外的要因を制御することはできませ ん。しかしながら、このような外的要因によってもたらされる 環境下で、今回の調査で見えてきた国際貿易の障害に対処することによって、効率的にビジネスの方向性を決めることがで きるのではないでしょうか。

サプライチェーンの不透明性 

アジア企業の多くは、サプライチェーンが不透明であるという問題に直面しています。経営者の5人に3人以上(66%)が、透明性の欠如に大きく悩まされています。自動車業界のビジネスリーダーたちは、 可視性を最も大きな障害として挙げ、5人に4人(80%)がサプライチ ェーンの不透明さに大きく悩まされていると答えています。

テクノロジーの導入

サプライチェーンシステムをより見やすくスマート化するシステムの構築に取り組んでいます。しかし、このシステム構築の準備のために多くの時間と労力を割かなくてはならず、苦戦しています

サプライチェーンにおけるコンプライアンス 

複雑かつ急速に変化する規制環境の中、企業は専門知識と技術を駆使して変化のペースに追随し、特定の取引分野で規則等へのコンプライアンスを維持できると確信しています。エグゼクティブの5人に4人近くは、監査の準備と記録保持(79%)、FTA(79%)、税関管理(76%)でコンプライアンスを維持できると回答しています。 

逆に、グローバルおよび地域の規制問題に関しては、コンプライアンスを維持できると回答したのはエグゼクティブの半数強(56%)に留まっています。調査結果には、サイバーセキュリティのリスクに対する認識と懸念の高まりも反映さ れており、エグゼクティブの5人に3人以上がサプライチェーンのセキュリティを処理する企業の能力に自信を持っ ています。

複雑な規制への対処

輸出制裁ならびにグローバル規制と現地規制が主な課題です。これらの課題に対処するには特別なタスクフォースを設け、変化する貿易環境に目を配り、機敏に対応していく必要があります

私たちはサプライチェーンを可能な限り最善の方法で管理していますが、目下のコロナ禍で状況の把握が難しいという問題があります。たとえば、コールドチェーンではどこに需要があるかの見極めが非常に重要となりますが現在の需要がどこにあるかが不明なのです。非常に複雑な状況に陥っています。 関税の影響は業務には直接影響しないものの、サプライチェーンの問題が生産に影響を与えるため、さらなる混乱が生じています。このところ常に、不測の事態による余計な混乱に悩まされています。状況が改善される気配はなく、今後12カ月の見通しも不透明です

信頼できる唯一の情報源であるデータの欠如

信頼できる唯一の情報源(SSOT)を提供するテクノロジーインフラの進歩により、多くの企業は時間効率とリスク削減を実現できる統合機能型の国際貿易管理ソフトに注目しています。

エグゼクティブの5人に3人以上(61%)は、複数の異なるシステムの運用により、信頼できる唯一の情報源としての貿易データが欠如しており、それが「ビジネスの妨げになっている」または「大きな妨げになっている」と回答しています。さらに、その半数以上が迅速な意思決定のために必要なデータを入手できていないと答えています。

デジタル化の メリットを特定 

今日では、テクノロジーの単一プラットフォームはまったくの絵空事です。早急に新たなテクノロジーを探し出し、導入するのが最善の方法です。また、ニーズが変化したときは、それに応じて柔軟に方向転換し、プラットフォームを変更していく能力が必要です。これは従来のアプローチとは大きく異なりますが、新しい技術を評価し、システムの生産性を向上させることは、私たちの『やるべきこと』なのです

今のところ、テクノロジーの潜在的な性能が最も重要だと考えています。また、サプライヤーも非常に重要であるため、サプライチェーンの管理とともに、サプライヤーデータベースの構築についても考える必要があります。その他にも、社会的・倫理的なビジネス基準など、さまざまな要素を考慮する必要があります

競合他社との比較

企業の経営者に、自社と競合他社を比較した際の優位性について質問したところ、最も多 かった回答は「流動的な国際貿易とサプライチェーンに対する意思決定をサポートできる組織の能力」でした。

収益高100億~200億ドルの企業では、経営者の半数以上(55%)が、迅速な意思決定をサポートする自社リソースが「平均よりも多い」と考えています。しかし収益の低い企業ではこの傾向が弱まり、収益高5億~9億9900万ドルの企業では、リソースが「平均よりも多い」と回答した経営者はわずか5人に1人(20%)に留まっています。

多様性と標準化の優位性

私たちは、多様なサプライヤーと、標準化プロセスにおいて優位性があると考えています。近い将来、自動化をさらに進めていきます。私たちは英国、米国、オーストラリア、日本、中国、シンガポール、オランダなどさまざまな生産拠点・販売拠点を持つグローバル企業です。いわゆる多様なチームなのです。問題を効率的に処理する方法はさまざまですが、全員が満足できるよう同じ基準に準拠しています

障害の克服が成功への鍵

国際貿易の複雑性は今に始まったことではありませんが、新型コロナウイルス感染症の拡大による、需要の急増や供給不足といった大きな変化への迅速な対応が求められています。地政学的な緊張を背景に、サプライチェーンの不透明さ、規制とコンプライア ンスの変化、信頼できる唯一の情報源であるデータの欠如が、国際貿易を管理する上での大きな障害となっています。 

こうした障害の是正に努めるビジネスリーダーは、サプライチェーンを加速し、リスクの低減、業務効率化を進めることにより、ビジネスを成功に導くことができるでしょう。