Thomson Reutersスペシャルレポートシリーズ 

アジア企業の
国際貿易に関する
10の発見 

アジアを拠点とし、貿易に従事する企業は平時でも様々に変化する情勢の中での対応を求められます。しかし2020年の世界的なコロナウイルスの危機は、アジアの複雑な貿易環境にさらなる混乱と悪化をもたらしました。パンデミックによりビジネスが中断を余儀なくされ、様々な不確実要素が高まり、アジア地域における貿易環境は緊迫を増す結果となりました。 

トムソン・ロイターは経営者がアジアにおける貿易実務の現状をどのように捉えているのかを調査し、レポートに纏めました。レポートシリーズの初回は、世界最大の貿易拠点であり、輸出上位五か国に含まれる中国と日本、および主要な拠点であるシンガポールに焦点を当ててお伝えします。 

多くの方がアジア地域の貿易動向に関心を持ち、注視している今こそ、このスペシャルレポートシリーズを是非ご活用頂ければと考えております。地域貿易を活発化し、アジア太平洋地域全体のより自由な交易を目的とした東アジア地域包括的経済連携(RCEP)がまもなく施行されます。4月の日本の国会のRCEP承認を皮切りにシンガポールと中国の承認が続きました。オーストラリアは数ヶ月以内に批准すると予想されています。 

RCEPは、アジアで注目を集めている唯一の主要な貿易協定ではありません。CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)は、今年イギリスが注目し、協定に参加すべく動き出しています。このような大規模な貿易協定は、アジアの新時代への始まりといえるでしょう。企業がターゲット市場にアクセスし、関税の削減により利益を得て、多様なサプライチェーンネットワークの利用が可能になる時代がすぐそこまで来ています。   

この国際貿易レポートシリーズは他に類をみないものと言えるでしょう。現在のアジアの貿易環境を取り巻く事象について、企業経営者や各分野の専門家の意見を収集しました。アジアの国際貿易の現状を十分に知り尽くした彼らの豊富な知見が企業にとって国際貿易管理を将来的に更なる成功に導くためのヒントとなりますようご活用いただけましたら幸いです。

はじめに

新型コロナウイルスの流行は世界経済に今なお多大なる影響を及ぼしています。その影響は商品の供給不足に始まり、空前の需要の急増にまで及び、貿易に貿易に従事する多くの企業の悩みの種になっているのではないでしょうか。

世界の国々をウイルスから守るという状況が続く中、企業はグローバルな取引条件に影響を与える様々な課題に直面しています。

保護貿易主義の台頭により貿易均衡の変化が生じました。米中の緊張関係は経済活動を脅かし、両国と取引のあったアジア地域に存在する多国籍企業のクロスボーダー取引に影響を与えています。 

またイギリスのEU離脱によりイギリスとの取引に関連する貿易協定の再調整が行われました。イギリスと日本およびシンガポール間の新しい貿易協定の導入により、遵守すべき新たなルールが決定しました。一方、サプライチェーン復活への取り組みとして、2021年4月に日本、オーストラリア、インド政府の経済産業部門により取り決めが行われました。貿易の緊張を緩和する継続的な取り組みが求められていることがうかがえます。

混乱する国際貿易環境ではありますが、中国がドイツに代わりイギリス最大の輸入市場となったように、今日の情勢にはたくさんのビジネスチャンスがあります。国家統計局によると、イギリスは2021年第一四半期に中国から169億ポンド相当の商品を輸入し、以前の最大市場であるドイツからの125億ポンドを大幅に上回る結果となりました。

予測不可能かつ、時には混沌としたクロスボーダー規制をめぐる混乱は企業にとって課題となることがあります。企業はこれらの重要な問題に対して迅速かつ適切に行動することが求められます。

この企業トップを対象に実施された大規模調査から作成されたトムソン・ロイター・スペシャルレポートシリーズを通じて、アジアにおける国際貿易の混乱の正体を探ります。 このシリーズで、様々な考察が得られるでしょう。国際貿易管理を見直し、課題を解決するまたとない機会が訪れています。

調査方法

2021年のトムソン・ロイター・スペシャルレポートシリーズ「アジアにおける国際貿易の混乱の正体」には、中国、日本、シンガポールの200人の企業貿易マネージャーからのアンケート結果により作成されました。

調査はトムソン・ロイターに代わり、iResearch Services(アイリサーチサービス)が実施しました。また2021年3月と4月に中国、日本、シンガポールの合計5人の国際貿易関連上級幹部に一連の詳細なインタビューも実施しました。

アジア企業の
国際貿易に関する10の発見

アジアという広大なエリアでは市場、産業、企業など、各地域で大きな違いと独特のニュアンスがあります。一方で、国際貿易に関しては、国境や業界を超えて多くの共通する課題が存在しています。今回の調査ではアジアで国際貿易に従事している企業に影響を与える10の主要な動向が明らかになりました。

サプライチェーンの断絶が国際貿易最大の障壁

昨年1年間の世界的な貿易摩擦の影響は、アジアに拠点を置く企業にも明らかに及んでいます。特に供給サイドでは、供給の混乱が国際貿易の最大の障壁となっていることがわかります。

調査結果概要


多様性がサプライチェーンの回復を後押し

コロナ禍により、サプライチェーンの根本的な脆弱性が広く露呈し、アジアを拠点を置く企業は自社のアプローチを見直し、改善に努めました。企業の66%はサプライチェーンの回復力を考慮し2020年にサプライチェーンを多様化しました。

一方でコロナ禍において既存のサプライチェーンが既に多様性を持っていた企業はわずか20%で、5社に2社(40%)が、2020年はサプライチェーンの多様性の欠如が障壁であったと回答しています。企業の輸出入専門家は、更なる混乱を回避するために、分散型サプライネットワークを今後取り入れていくことが重要であるとしています。

調査結果概要


バラバラな国際貿易管理が悪影響

アジア企業で国際貿易に従事する幹部は、組織の機敏さの欠如が最大の弱点であり、これが変化する市場の状況に迅速に対応できていない原因だと考えています。主に、分断された輸出入システムに起因する、国際貿易とサプライチェーンデータの可視性の欠如は、企業の経営幹部にとって最大の課題となっています。

調査結果概要


アジア企業の3分の1以上がコンプライアンスに苦戦

現地政府の貿易規則や規制を遵守することは、罰金や企業ブランドの毀損を回避するために不可欠ですが、経営幹部の3分の1以上(36%)はこの点で苦労していると考えています。

調査結果概要


ハイテク産業において技術投資が前年比成長最大

大半の企業は2020年に国際貿易の目標を達成し、また2021年も目標達成に自信を持っています。目標を達成するため、新しいテクノロジーを導入することは、中国、日本、シンガポールのほぼ全域の企業にとって優先事項となっています。

調査結果概要

新しいテクノロジーの導入は、アジア地域だけの傾向ではないかもしれません。2021年6月、アメリカ東海岸最大の石油プロバイダーであるコロニアルパイプライン会社は、ランサムウェアの侵入を受けました。その結果、同社は一時的に事業を停止し、ビットコインで440万ドル相当の身代金を支払わされることになりました。FBIの調査により、「DarkSide」と呼ばれる組織が侵入の原因であることが確認されました。深刻な供給の混乱を引き起こしたこの事件は、国際貿易業務を行う多くの企業に、既存のセキュリティ対策を再評価し、サイバー脅威からどの程度防御できているかを確認するきっかけとなりました。


自動化は最も重要な業務効率向上手段

アジア企業では国際貿易の成長と成功を促進するため、業務効率の中でも最も重要なものとして、マニュアル作業から脱却し、より付加価値の高い業務に取り組める時間を確保することが重要です。国際貿易のプロフェッショナルな役割の戦略的側面を高めるだけでなく、国際貿易業務に対する管理職からの期待に応える必要があります。手動で繰り返し行う作業を自動化するソフトウェアが、アジアの貿易専門家のやることリストの上位に入っているのは当然のことと言えるでしょう。

調査結果概要


信頼できる単一情報源は可視性と成長の鍵   

単一の信頼できる情報源を持つことで、ビジネスの成長を支える国際貿易データの可視性が向上することが、当社の調査で明らかになりました。またサプライチェーンの可視性の向上がビジネスの成功につながることも示唆しています。プロセスの改善、自動化された効率性、スマートテクノロジーは、アジア企業の成長を支えるために国際貿易管理に適用している手法です。 

調査結果概要


国際貿易管理ソリューションの価値認識が上昇

アジア企業では、業務プロセスの自動化や効率化、グローバルな取引データの一元管理を目的として、全社的なテクノロジーの導入が進んでいます。これまでのところ、導入率が最も高いのは大企業(売上高が50億ドル以上)です。小規模な企業では投資が遅れており、貿易管理テクノロジーに投資することで、貿易管理を改善できるチャンスがあると言えるでしょう。

調査結果概要


高まるテクノロジー投資

国際貿易管理テクノロジーへの投資はコロナ禍により2020年に新たな高みに達しました。企業が取り扱う膨大なデータ量とその複雑さに対応するために、テクノロジーの重要性が認識されています。

調査結果概要


貿易とサプライチェーン機能に変化をもたらす力

アジア全体では、貿易・サプライチェーン担当役員が、標準化、自動化、貿易管理の効率化を目的としたグローバルな貿易関連投資に重要な影響力を持っています。 

調査結果概要

結び

 日本、中国、シンガポールで事業を展開する企業は規制要件の遵守から国際貿易によるビジネス目標達成まで、かつてないほどのプレッシャーに直面しています。またビジネスの回復力を高めるためにサプライチェーンの多様化に注目が集まり、貿易コンプライアンスを遵守できない場合の影響に対する意識も高まっています。アジア企業を悩ませている多くの国際貿易関連の問題は今後も少なくなることはなく、効率化とビジネスの成功を推進するためのツール、システム、ソリューションを常に把握することが重要だと国際貿易の専門家も述べています。

アジアの国際貿易環境に影響を与える外的要因は何でしょうか?
シリーズ第2回ではこのテーマに焦点を当て、コンプライアンスの問題、貿易摩擦など差し迫った課題について掘り下げていきます。