- トムソン・ロイター
- 牛島総合法律事務所
法令改正の適切な把握と対応は企業にとって必須事項ですが、地方自治体が制定する条例については後手にまわりがちです。今回は、環境分野の法令および条例への対応に取り組む牛島総合法律事務所の猿倉健司弁護士にお話しをうかがいました。
──環境・ESGに関するお仕事を手掛けるようになった経緯は。
最初に携わったのは土壌汚染が紛争化した約3 億円を超える賠償案件で、今から16年ほど前のことです。企業法務として環境分野を手掛ける弁護士がほとんどいなかったこともあり、依頼が集まるにつれ環境法の専門家と認識されるようになりましたが、すぐに同分野の大学の教授や土壌調査の専門家と仕事をすることも多くなり、数十億円規模の紛争を取り扱うことも増えていったという経緯です。土壌汚染その他の環境汚染に対する規制は、海外では相当進んでいますが、日本ではまだ十分でなく、途上です。豊洲の問題以降、世間的に注目はされてきていますが、ドメスティックな認識と、世界的なスタンダードにかなりギャップがあるのが特徴という気がします。
──近年の注目すべき法令は何でしょうか。
SDGsやESGで議論される温室効果ガス排出基準や、省エネ、化学物質管理規制関連が今のトピックです。事業所ごとのエネルギー使用量や排出ガス量を調べて毎年レポートせよ、という規制がどんどんと新しくできています。さらにリサイクル・再利用分野での廃掃法(廃棄物処理法)やプラスチック資源循環法など、ビジネス全体に影響を及ぼすものもあります。ロス・コストを少なくすためのビジネススキームの見直しだけでなく、新しい事業へ参入することにもつながります。
──環境分野には、法令や条例が多くあります。
国が法律で規制するものと、行政ごとに条例で管轄するものがあり、たとえば排水の基準や対象となる有害物質などは行政ごとに大きく異なります。その他、消防法でも建物が満たしていなければならない基準は、自治体ごとの火災予防条例で変わります。
「条例アラート」web画面
そうなると、法令だけ押さえればよいことにはなりません。企業が守るべき方針、理念は法律に書いてあってもその詳細や従うべき基準は条例によることもあるので、各事業拠点の条例を押さえることが必須になります。ところが、条例を見逃しているケースは実際には多いです。都道府県の条例を把握しても、市区町村の条例の方が厳しければそちらにも従わなければならないので、行政から指導を受けた際に、間違いを指摘される例はものすごく多いですね。
──条例は把握しづらいですが、どのように対応されていますか。
環境分野は規制がめまぐるしく変わるので、「条例アラート」を活用しています。これがないと、その時点の都道府県・市区町村の条例を全て自ら把握し、かつ変更がないか、今後変わる可能性がないかなどの情報を、能動的に取りに行かなければならないことになります。そうすると必ず漏れが出てしまいます。
また、新しく条例ができる、改正されるという情報は自治体のWebサイトなどで発信されますが、そのタイミングは不定期です。具体的にどのように対応するべきかの詳細についてはガイドライン等を待つことになりますが、条例改正とのタイムラグも結構あります。そうなると、条例改正後の一時期は条例違反の状態となる可能性も出てきてしまうので、改正情報をより早く入手できるシステムで継続的にウォッチした方が安心できると感じています。
条例アラートでは、都道府県に市区町村や広域的な事務組合等を加えた数多くの自治体について、条例を網羅できるところが魅力です。企業の場合は、本社と工場などがある地域で、都道府県と市区町村について見ればよいということになります。弁護士の場合は、どのような依頼が来るかわからないので、案件ベースで管理することになります。また、新旧対照表はすごく便利で、新しい条例と古い条例で何が変わったのかを、丁寧にわかりやすい対照表で見せてくれるのが、実務的には助かりますね。
「条例アラート」の新旧対照表
──「法令アラートセンター」も使われているそうですね。
「法令アラートセンター」は国の法令について、改正を通知するだけでなく、Web上でその法令について管理できるのが利点です。管理というのは、その法改正について、企業の対応の要否、いつまでに対応しなければならないかを設定し、対応状況の管理ができる仕組みです。環境法の流れで言うと、直近の大気汚染防止法改正では調査対象となる建物が20倍以上になったり、土壌汚染対策法でも、直近の改正では事前届け出の対象地が今までの倍になったりするなど、規制対象がどんどん増えている状態にあります。法令・条例違反を避け、ビジネスに直結するリスクを管理する意味でも、漏らしてはならない情報だと考えます。
「法令アラートセンター」のアラートメール
──環境分野の違反や対応漏れは、どのようなリスクとなるでしょうか。
法令や条例違反を犯した場合のリスクは、他の企業や近隣住民に大気汚染・土壌汚染・地下水汚染を拡散させた場合の賠償責任や刑事責任、行政処分、さらに信用を低下させ失うリスクの大きく4つがあります。最初の賠償リスクでいうと、土壌汚染の対策費用は何十億円とかかり、企業だけでなく、役員個人が負担すべきと株主から訴えられるリスクもあります。 行政処分についても、自治体として積極的に動く傾向が強まっており、指導を含め数多くなされている状態です。環境分野もそれ以外の分野でも、法の不知は罰せられることになりますので、致命的なリスクになり得ます。細かい条例も含めて、企業の責任として管理していくうえで、トムソン・ロイター〈Westlaw Japan〉の「法令アラートセンター」、「条例アラート」は役立つツールだと思います。