新型コロナウイルス時代の貿易コンプライアンス ― 水晶玉に頼らず、根拠を持って見通すために

2020年4月13日

分厚い印刷版の関税率表2冊と知識さえあれば国際貿易コンプライアンスに太刀打ちできた時代はそれほど昔のことではありません。しかし数年の間に状況は変わり、輸出入業者、中でも膨大な量の情報管理を必要とする業者は、印刷物から、より正確で効率の良い自動化システムへの転換が必須となりました。ところが、国際貿易の世界はこの2年間で何もかもが変化し、国際貿易コンプライアンスにはもはや水晶玉さえあればいいのではないかとすら感じられます。

 

そもそも、輸出入業者にとって変化は特別なことではありません。アメリカだけでも、コンプライアンスチームはこの10年あまりで、10 + 2、ACE、レイシー法、輸出管理改革法、TFTEA(貿易円滑化及び貿易取締法)、通商法第301条/第232条による様々な追加関税、USMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)など、多数の貿易問題に取り組んできました。そのような中、サプライチェーンが現在直面しているのは地球規模の新型コロナウイルスのパンデミックです。その計り知れない影響のため、企業には混乱を乗り切るのに今までと全く違うツールや手法が求められています。

 

航空貨物業界への影響

今後発生する影響を理解するには、ウイルスの拡散速度を明確に反映した結果であるこれまでに運輸業界に起こった急速な変化を把握することが大事です。最初の症例が報告された2019年の年末でしたが、1月29日にはすでに航空貨物業界にも、旅客便の大量欠航による容量の制約やそれに伴う価格圧迫など、新型コロナウイルスの影響が表れ始めていると報告されていました。2月には、不要不急の移動を制限する方針を導入する企業が増加、それに伴うフライトのキャンセルも増加したため、航空市場の状況は急速に悪化しました。3月上旬、国際航空運送協会(IATA)は、2020年の航空旅客部門の収益予測を、630億ドル~1,130億ドルの損失見込みへと修正しました。

 

海上輸送への影響

海上輸送業界の反応は、やや遅めとなりました。新型コロナウイルスの影響が出始めたのが中国の旧正月の時期で、業界的に例年停滞する時期であったためとも考えられます。世界中の貿易業者がその影響を感じ始めたのは旧正月後、中国人労働者に新型コロナウイルスの感染が拡大し、多数の工場が再開不能となった時期でした。感染拡大初期のコメントには楽観的な内容が多く、ウイルスによる運賃の低下が、燃料費の高騰によるプレッシャーを相殺する可能性があると好感するものもありました。2月末には、全米小売業協会(NRF)が今年の見通しを発表、「長引く貿易戦争、新型コロナウイルス、大統領選挙などの不確実な要素はあるものの」、3.5~4.1%の成長が見込まれるとする、前向きな内容でした。

 

しかし、世界の輸出入業者や運送業者は、その時点ですでに、中国の工場閉鎖が韓国にも拡大する様子を目の当たりにしていました。出航スケジュールをキャンセルする海運会社が増え、業界への影響は波及的に浸透し始めていたのです。空荷となった船便の帰路運送のキャンセルがその例です。具体的には、輸出業者がアメリカから中国への商品発送を予定している場合、利用できる便が少なくなったり、キャパシティ不足により料金が高騰したりすることになります。シー・インテリジェンス社CEO、アラン・マーフィー氏は、4月に向けて運送業者は「帰路運送運賃の高騰に備える」必要があると述べています。全米港湾当局協会の予測では、2020年の第1四半期の貨物量は前年比20%減となる見込みです。本年度の今後の展開は、水晶玉に頼るしかないほど予測が困難です。

 

貿易コンプライアンス部門への影響

国際貿易コンプライアンス部門は、国内担当の輸送・物流部門と緊密に連携し、状況の変化にも同期しながら動くことが通例です。積荷のルート変更など、物流の変化にコンプライアンスを持たせるためには、正式な手続きによる運用が最善策であるとされています。同様に、貿易コンプライアンス部門は、輸出入手続き上の何らかの理由により出荷の遅延があった場合、状況を物流部門に知らせる必要があります。これが通常の運用です。

 

しかし、新型コロナウイルスの感染が拡大している現在の状況は異例です。貿易の専門家が準拠し、新しい規制に対応するために従うべき手順に変更が加えられています。さまざまな理由で各規制に変更がなされている現在、各貿易コンプライアンス部門が異なる情報源から規制情報を得ている場合が考えられます。たとえば、3月12日、トランプ大統領がほとんどの欧州諸国から外国人の入国を禁止することを発表した際、禁止措置に貨物も含まれるかどうかでしばらく混乱が生じましたが、これは明らかに貿易部門にとっては重要な問題です。

 

禁止措置は渡航者限定でしたが、新型コロナウイルスの影響を受け政府が新たな国際貿易規制を制定している国もあり、貿易コンプライアンス部門は、遵守に向けて気が抜けない状況です。最も大きな変化は、各国が自国民を保護するために行っている輸出管理・規制です。主に管理対象となっているのは、特定の薬品やマスクのような商品など、輸出量が多すぎると国内在庫が不足する可能性のある品目です。WorldECRの報告によると、特に3月前半から、フランス、イタリア、ドイツ、ロシア、インド、トルコ、タイなどの国々が、これらの品目の輸出制限または完全禁止措置をとっています。貿易コンプライアンスの専門家は当然、この種の不測の新規制に目を向ける必要があります。

 

ただし、このニュースは、企業の貿易コンプライアンス機能の管理を担当する部門にとって必ずしも悪いことではありません。アメリカでは、特に現在需要の高い「繊維素材の使い捨て医療用マスク(コード6307.90.9889)」を含む多くの医療用製品の供給を目的に、第301条新除外リストが新たに公開されました。 また、一部の国では備蓄を目的として医薬品の輸出を制限していますが、米国FDAは、1月下旬の早い段階から、中国政府および中国国内の医療用製品製造業者と協力し、アメリカに出荷される必要物資の供給量への影響確認に積極的に取り組んでいます。このトピックに関するFDAの2月27日の声明の時点では、当局はそのような製品の不足を意識していませんでした。

 

撹乱因子への対処

はっきりしていることは、新型コロナウイルスによる規制変更のタイプすらつかめないこと、そしてそれによるサプライチェーンへの影響の予測がつかないことです。貿易の専門家のとってはまた、専門知識やベストプラクティスなどの今まで用いられていた情報源ですらも「ソーシャルディスタンシング(社会的距離)」を継続するこの世界の状況においては指針とするのは困難です。この数週間のうちに、CBP貿易シンポジウム、トランス・パシフィック海事会議、国際貿易コンプライアンス専門家協会会議、IATAワールドカーゴシンポジウムなど、多くの業界団体の会議がキャンセルされました。このような状況においては、貿易の専門家がネットワークを構築し、学び、ベストプラクティスを共有することが重要です。というのも、ただひとつはっきりしていることがあるとすれば、それは世界中のほぼすべての運送業者が新型コロナウイルスの影響を受けている、または今後影響を受けるということだからです。

 

新型コロナウイルスの影響は、最近多くの企業が第4四半期の収益報告や第1四半期の予測を発表して初めて明らかになってきました。たとえばカミンズは、2月の公開ウェブキャストで第4四半期の売上と利益が予想を下回る理由として新型コロナウイルスを挙げました。同様に2月中旬、Appleは予測を修正し、新型コロナウイルスを原因として具体的に挙げて、わずか数週間前に発表したもういくらか楽観的だった予測を変更しました。経済をより俯瞰すると、ゴールドマンサックスが発表したところでは、アメリカはパンデミックによる景気後退に向かっており、第2四半期にはGDPが5%減少すると現時点で予測しています。

 

貿易コンプライアンスの観点からは、最近の別の調査結果がさらに衝撃的かもしれません。全米供給管理協会は、国際貿易の分野の628の製造業者とサービスプロバイダーに調査を実施しました。事業についての質問に対して、回答者の44%は中国からの供給の混乱に対し今のところ有効な計画はないと答えました。

 

こうなったらもう水晶玉の出番でしょうか?新型コロナウイルスとサプライチェーンについて最近語ったエルマリー・ヒューゴ氏は、そうとでも言いたげです。ヒューゴ氏は、ブルーヨンダー(旧JDA)の産業戦略シニアディレクターです。ヒューゴ氏は次のように述べています。「サプライチェーンには柔軟性が必要で、需要と供給の変動に対処できなくてはなりません。 [・・・]しかし、企業が他の場所から調達できる代替のサプライチェーンを、3ヶ月以内という短期間で作り上げられないのなら、その企業には柔軟性がないということです。」

 

今後進むべき道は?

さて、朗報です。あなたやあなたの上司が水晶玉を2020年の予算に組み込んでいなかったとしても大丈夫です。水晶玉は必要ないのです。このような移動禁止の時代では、ネットワークを作ることは確かにより困難でしょう。しかし推奨される「ソーシャルディスタンス」を維持しながらでも私たち輸入業者、輸出業者、サービスプロバイダーは、目の前の不安定な時代について話し合い、ベストプラクティスを共有する方法を見つけることができるはずです。

 

大規模な会議通話でも個人同士の通話でも、私はここ数週間、貿易の専門家との数多くの対話を重ねてきましたが、もちろんこのトピックは常にテーマとなっています。私が話をした多くの運送業者は、報告能力の差を特定することに取り組んでおり、そのため、現在何が起こっているか、ここ3ヶ月程度で代替サプライチェーンを作り上げられる可能性はあるか、その場合の費用はいかほどかについて大まかなビジョンを描き準備を進めつつあります。

 

言うまでもないことですが、再調達には手数料コスト以上のものがかかります。サプライヤーを見つけ、条件を交渉し、サプライチェーンパートナーにも規制要件とビジネス要件を確実に満たしてもらうことも重要であるため、今すぐ取り組みを始めなければなりません。事前の準備が整い、プランBとプランC、さらにはプランDの輪郭が見えてきたら、選択肢をより明確に再評価できます。それは手元のデータで、関税率などの現在の規制データと合わせてシミュレーションを行い、将来の任意の時点での影響を確認するのと同じくらい単純な作業なのです。

 

そうすれば、データは水晶玉よりもはるかに信頼できるものになるでしょう。水晶玉は棚にほうっておかれてホコリをかぶるだけになります。

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